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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(12)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(12)

 バーバラ・ウォルシュは、パーティの招待客のひとりひとりに愛想を振りまきながら、プールサイドを歩いていった。彼女自身はロデオドライブにあるグッチで買った白のドレスを着ている――まるでマリリン・モンローが着ていたような、胸の谷間と背中があらわなドレスで、彼女の髪型もモンロー風だった。もっとも、友達からよく言われるのは、「バーバラってドリュー・バリモアに似てるわよね」ということだったけれど……。
 実際バーバラは、父親のコネクションで、その昔『E.T.』で子役を演じていた女優と直接会ったことがある。他にもパーティでブラッド・ピットやアシュトン・カッチャー、レオナルド・ディカプリオやトム・クルーズなどなど、ハリウッドの俳優たちとは数えきれないほど会ったし、親密な話をしたこともある。バーバラの父親は某大手映画配給会社の重役なので、娘の彼女が「会いたい」と言えば、そう出来ない俳優はひとりもいないくらいだったと言ってもいい……けれど彼女は特に、そうした我が儘を父親におねだりしたことはなかった。
(だって、わたしが欲しいのは、パパの権力を通してじゃなく、本当のわたし自身を見てくれる人なんだもの)
「ハイ、バーバラ」
「あら、モニカ。楽しんでる?ケビンならさっき、ビュッフェ・テーブルのほうにいたわよ……『君のところのピザはいつも最高だね』って言ってたわ。彼ってほんとにキュートよね」
 ケビン・クロムウェルは、最近モニカの恋人に昇格したばかりの取り巻きのひとりだった。ちなみにモニカが初体験をすませたのは十四の時で、お相手は有名ロックバンドのヴォーカリストだったらしい。以来、彼女はまわりに男たちを犬のようにはべらせては、残酷な気まぐれさで彼らを上へあげたり下にさげたりしている。
「彼はあたしがいなくても、ピザとコーラさえあればいいのよ」
モニカは呆れたように肩を竦めている。ブロンドの髪を赤く染め、さらに爪もドレスも真っ赤だった……このままレッドカーペットの上を歩いて、アカデミー賞の授賞式にでも参加できそうな装いである。
「ケビン・クロムウェルなんて、今日のあたしにとってはおまけの保険ってとこ。それよりもねえ、ルーク・フォスターと例のメロって子、もう来てるの?」
 バーバラのフランスシャトー風の別荘では今、宴もたけなわだった。プールサイドでは恋人たちがそれぞれ抱きあったりキスしたりしてイチャつきまくってたし、二階にいくつもあるゲストルームでは、大麻やコカインでハイになってる子たちがたくさんいる……だが、意外に思われるかもしれないが、バーバラはパーティの主催者としてはめを外すということが出来なかった。彼女にとって今夜もっとも大切なのは、みんなに「あなたのパーティっていつもサイコー!」と言われながら帰ってもらうことなのだ。だが、そんな彼女にもやはり、パーティの花形としてのお目当てがいた。
「招待状のチェックリストには、メロは来てるってことになってるのよ。パーティのはじまりっていつも混雑した感じになるでしょ?それで一通り顔ぶれが揃ってるかどうかさっきチェックしてみたんだけど……」
「いないわけ?じゃあ、ルークはどうなの?」モニカはタバコに火を点けながら言った。彼女が喫煙するようになったのは、ケイト・モスがマルボロを吸っているのをじかに見て以来らしい。
「レイフとリンダに頼んで、絶対キャスとルークを一緒に連れてくるようにって言っておいたんだけど……レイフもリンダもまだ来てないのよ」
「やったじゃないの!!」と、モニカはピッ、と煙草を投げ捨て、バーバラに抱きつく。「それは脈アリってことよ!!レイフとリンダだけ来てるんなら、ほぼ来ないと見ていいでしょうけど、ふたりが遅れてるんなら、絶対キャスとルークもくるわ。なんてったってルークは未来のロサンゼルス・レイカーズのメンバーなんですもの。今のうちに親しくしておくに越したことはないわ」
 興奮した様子のモニカに合わせて、喜ぶような振りをしながらも、バーバラの心はまったく別のことを考えていた。チェックリストには名前の横に丸があるのに、メロの姿がどこにもない……受付係(レセプショニスト)が間違えたとも考えられるが、確かに何人かの人間がパーティのはじまった最初の頃、メロのことを見かけたと言っている。連れはなく、いつものとおりレザーの上下を着ていたという話だった。
 やがて、ロールスロイスに乗ってレイフとリンダ、そしてキャスとルークが到着すると、モニカは興奮したようにリンダやキャサリンと抱きあっている。だが、いかにも気が乗らないといった顔つきのルークのことは無視して、やはりバーバラはメロのことを探し続けた……ルークのことを呼んだのは、学校の中でも誰もが一番来たがる彼女のパーティに、プロのスカウトがすでに来ている彼の名前がないのが癪だったからだ。だが、バーバラにとってメロのことは違う。うまく説明できないけれど、とにかく彼は<何か>が違うのだ。
 メロが転校してきた初日に、バーバラはすぐにそのことを感じとっていたけれど、意外にもアリス・リードまでが彼女と同じ感情をメロに覚えたらしいのには驚きだった。メロはどう見ても、ちょっと不良っぽかったし、その彼に頭脳派の優等生が大胆に近づいていったのは、本当に意外だったとしか言いようがない……チアリーダーのキャスとは仲がいいため、あまり大きな声では言えないけれど、ルーク・フォスターにはアリス・リードとくっついて欲しいというのがバーバラの本音だった。
 そうなればメロは完全にフリーだし、誰に気兼ねするでもなく広いおつきあいというのをすることが出来るだろう……そんなふうにバーバラは思っていた。
 バーバラ・ウォルシュは小さな頃から孤独な少女で、今も本当の友達と呼べる人間はひとりもいなかった。もちろん、周囲の生徒たちは、バーバラとモニカにだけは何があっても絶対逆らえないというような、そういう態度をとってはくれる。だがバーバラは普段一等仲良くしているモニカ・パーカーのことを、本当の意味での友達だと思ったことは一度もない。
 モニカの家は資産家で、学校一の金持ちであり、さらには親戚にハリウッドの大物がうじゃうじゃいるという、そういう家柄の女の子だった。それで彼女は<自分の最高の地位に見合う>友達としてバーバラのことを選んだという、単にそれだけなのだ。バーバラは学校の成績は捗々しくなかったが、それでも人を見る目と本当の意味で大切なことを見分ける賢さだけは持っているつもりだった。彼女にとってはパーティを盛り上げるアルコールもドラッグも、本当には意味がない。それだって単に酒を飲めなければ友達に白けられるし、ドラッグを嗜むのも「あの子ってブッ飛んでていつもサイコー!」と言ってもらう、そのためだけにやるようなものなのだ。
(誰か、こんなカラッポの生活から、あたしを救って……)
 高校へ入学して以来、それがバーバラの一番の望みだった。モニカや他の友達には嘘をついているが、彼女はまだヴァージンだった。夜毎夢に見るのは、自分のことを本当に心から愛してくれる信頼できる男性が現れて、この嘘と虚飾が蔓延するLAという街から、自分を救いだしてくれるという、そのことだけだった。
(少なくともメロは、同学年によくいる女の子とやりたいだけの男子とは違う気がする……その手の奴は、あいつのヴァージンは俺がもらったとかなんとか、友達に言い触らしたりするけど、メロはきっと違うわよね。彼はそういうことは絶対、胸に秘めておいて言わないタイプだって、何故だかそんな気がするの)
 お楽しみの最中の物音が聞こえる寝室の前を通り、バーバラは擦れ違う客たちに愛想笑いをふりまきつつ、目では真剣にメロのことを探していた。何しろ、屋敷の中は広い上、今日は百人近い招待客が来ているのだ――どこかに適当な女の子としけこまれたら、それこそ探しだすのは困難だった。
(それとも、パーティが退屈で、早々に帰っちゃったのかしら?)
 もしそうなら、それならそれで、バーバラのメロへの思いは募る。自分だっては本当はこんな金にあかせたパーティ、開きたくなんかないのだ。ただ、みんなから「バーバラってつまんないわよね」と言われるのが怖くて、一生懸命見栄と虚栄を張っているという、ただそれだけなのだから……。
 そして、バーバラが階段の吹き抜けから、ダンスを踊るカップルたちのことを見下ろして、深い溜息を着いていた時――その悲劇は起こった。
 彼女は突然革の手袋をはめた男に背後から襲われ、目立たない一室へ瞬時にして引きずりこまれていた。男は、革の手袋で覆っていた彼女の口許から手を外すと、今度はそこにさるぐつわを噛ませる……バーバラはあまりのことに、悲鳴を上げることさえ出来なかった。
「へへ……いい格好だな、バーバラ」
 ケビン・クロムウェルはタキシードの胸元からロープを取りだすと、バーバラの手首をベッドの上に固定している。そして四柱式のベッドの柱に、それをくくりつけていた。
 もちろん、バーバラとて抵抗しなかったわけではない。だが彼は空手とテコンドーを習っているのを自慢にしているような、筋肉馬鹿だった。もし逆らったとしたら、何をされるか……。
「俺はさ、高慢ちきなモニカなんかより、あんたのほうが本当は好みなんだよ。髪だって混じりけのない、綺麗なブロンドだしさ……」
 うーうーとうなり声をあげても、足で蹴りつけようとしても、まるで無駄だった。ケビンは無力な彼女の抵抗を楽しむように、バーバラの足を開き、それから胸の谷間に顔をうずめる。
「すぐに気持ちよくしてやるからな……」
 バーバラの青い瞳の中から諦めと恐怖の涙がこぼれ落ちた時――突然、ゴツッ!と何か鈍い音がした。それでバーバラは、覚悟を決めるようにぎゅっと瞑っていた瞳を、ゆっくりと開く。
「おい、あんた大丈夫か?」
 ベッドの柱にくくりつけられたロープをほどきながら、メロが言った。風を感じた方角に目をやってみると、ベランダに通じる窓が開いている……ということは、彼はそこから入ってきたのだろうか?
 ベッドの上には何やら物騒なもの――組み立て式のライフル銃が置いてある。メロがバーバラのさるぐつわを外すと、彼女はここぞとばかり、彼に抱きついた。
「俺に泣きつかれたって困る……それよりも、俺は早くここから出たいんだ。あんた、このパーティの主催者なんだろ?今プールサイドじゃちょっとした騒ぎになってるはずだから、早く駆けつけたほうがいかもな」
 バーバラがそれでもなおメロに抱きついて離れないままでいると、彼は半ば強引に彼女のことを離してよこす。
「悪いが、助けてやった礼に、俺がここにいたってことは、黙っておいてくれないか?それとこのライフル銃は、この変態野郎の物だったってことにしてくれると、もっと助かる」
 バーバラは、まだ事情がよく飲みこめなかったが、それでもなんでもメロの言うとおりにしようと思っていた。メロが部屋の外の様子を窺っているのを見て、彼の後を即座に追いかけることにする。
「ねえ、どこいくのよ?」
「家に帰るさ。とりあえず、やるべきことはしたからな」
 あたしも一緒に行く、と言葉にはせず、バーバラはそのままメロの後ろをついていった。そして「キャー」とか「ワー」と客たちの叫ぶ騒ぎには一切構わず、裏口のほうにメロのことをそっと手引きする……(こういうのって、なんだかほんとに映画みたい)、そうバーバラは思い、背筋がぞくぞくっとするのを感じた。
 それからさらに、メロが駐車場に停めたハーレーのところまで行くのを送っていき、思いきってこう聞いてみる。
「ねえ、後ろに乗せてくれない?」
 断られるかと思ったが、意外にもメロは、いいだろうというように、頷いてくれた。彼にしてみれば、今夜のパーティを台無しにしたという後ろめたい気持ちによって、主催者のバーバラをバイクに乗せてもいいと思ったのだった。そのくらいのことで今夜のことを黙っていてもらえるなら、安いものだとも思った。
 メロは金曜日の午後、カフェテリアでバスケ部の副主将がルークのことをしつこくパーティに誘う会話を聞いていた――ルークのほうはまったく乗り気ではない様子だったが、それでも彼が最後に「考えておく」と渋々答えたのを聞いて、メロは今日の作戦を実行へ移したというわけだ。
 学校で白昼堂々、ペイント弾を撃つというのは、少し前に銃の乱射事件が起きたばかりだけに、流石にメロにもためらわれた。だが、パーティ会場となった家で深夜ということなら、誰がなんの目的でルークのことを狙撃したのか、誰にもバレることはないだろうと思ったのだ。
 つまり、メロがその夜実行したのは、次のようなことだった。
 まず、パーティ会場であるウォルシュ家に到着するなり、目立たない部屋の一角から屋根へ上り、そのあとルーク・フォスターがやってくるのを、その見晴らしのいい場所から待っていた……彼の登場があまりにも遅いので、やはりパーティへは欠席することにしたのかとメロが思った時、丘を上ってやってくる、ロールスロイスの姿が見えたというわけだ。
 そしてメロはプールサイドでチアリーダーのブロンド娘と話す、ルーク・フォスター目掛けて青色のカラーペイントが入った改造銃を撃ったというわけだ。射程距離は18メートルで、メロの計算によれば、この弾に撃たれても怪我はまったくしない。もちろん撃たれた瞬間に軽い痛みはあるだろうが、至近距離でBB弾を撃たれるほどではないはずだった。
 こうしてメロは、ルークが超能力を見せてくれるかどうか試したわけだったが、残念ながら彼のこの作戦は失敗に終わったといえる。ルークは撃たれた瞬間の衝撃で後ろのプールへ飛びこみはしたが、そこには青いペイントが何かの染みのように広がっているだけだった……もしかしたら最初からどの方角から撃たれるかわかっていないと、彼の力は発動しないのかもしれない。
(いや、それでも収穫はあったともいえるか?あいつは、確かにペイント弾の衝撃を緩めるように一瞬止めた――だが、とっさのこととはいえ、プールに飛びこんだのはいい判断だったといえるだろう。じゃなければ、<力>を使ったことで不自然な形にペイント弾がはじけ飛んでいただろうからな)
 メロはバーバラを後ろに乗せたまま、ロサンゼルスの夜景を見渡せる、丘陵の上のほうまで登りつめていった。バーバラはハーレーに乗る前に、寒いだろうからと言ってメロが貸してくれたジャケットを羽織っていたけれど……(彼って最高!これこそ本当の恋ってものだわ!)と、赤く火照った頬をメロの背中に押しつけていたのだった。
 ドライブコースによくある、景色を見渡せる待避場所にメロはバイクを停め、一度そこでエンジンを切った。そこから、バーバラはメロと並んでロスの不夜城のようなロマンチックな夜景を、惚れぼれと眺めやる――もちろん彼女は、この手のデートを何度もしたことはあった。だが、どんな高級な車に乗る男も、ボロい日本車を改造した青年も、考えていることはみんな一緒だった。バーバラのFカップある大きな胸のこととか、厚ぼったい唇のこと、それにむっちりとした白い太腿のことしか、頭にはない……そういうタイプの男としか、バーバラはこれまでつきあったことがなかった。
「あの……今日は、助けてくれてありがとう」
 せっかくの素敵な沈黙を破るのは、バーバラとしても不本意だったが、メロがバイクに戻る仕種を見せたので、慌ててそう言った。もう少しこのまま、彼と何か話をしていたかった。
「べつに」と、メロはポケットからチョコレートを一枚取りだしながら言う。「それよりもさっきのことは黙っててくれ。いや、話されても困りはしないが、色々噂されると面倒なんでな」
 バーバラは、家の裏口から駐車場までメロを案内する過程で、彼が何をしたのか、漠然とではあるが推測していた。まず第一に、ペイント弾で撃たれて、プールに落ちたのがルーク・フォスターであることから――メロが彼を撃ったことはまず間違いないと見ていいだろう。
(でも、なんのために?)と、そう思った時に、パッとバーバラの脳裏に思い浮かぶのは、次のようなことだった。①バスケの試合で負けたことに対する腹いせ、②アリス・リードを彼に取られたくないことによる、嫉妬が原因の犯行……けれど、そこまで考えてからバーバラは、ぷるぷると首を振る。他の女が同じ仕種をしたすれば、いかにも馬鹿っぽかっただろうが、彼女の場合は可愛かった。
「あ、あたし、黙ってるし、誰にもなんにも言わないわ。第一あなたは、わたしの命の恩人なんだもの」
 命の恩人、というよりは貞操の恩人かしら?と思いつつ、バーバラはまくしたてるように話し続ける。空気を読むのが得意な彼女には、メロがチョコレートを食べ終わったら、下の世界へ戻るつもりでいることがわかっていた。
「あのね、実はあたし……まだヴァージンなの。だから、あんな奴にヤラレてたら、マジで最低よ。でも友達みんなには嘘ついてるの。ニースの別荘に行った時、ちょっとイケてる子がいたから、思わずやっちゃったとか、そんな馬鹿な話……ほんと、見栄なんか張っちゃって、馬鹿みたいでしょ。でも、ロスってもともとそんな街じゃない?映画のチョイ役のオーディション受けて、ほんとはドラムなんか叩けないのに、特技はドラムを叩くことですとか思わず言っちゃって……うっかりその役が来てから、必死でドラムの練習したり。うちの親もね、ふたりともそんなような人なの。ママは有名な女優だけど、トップをキープするって、ほんとに大変なことよ。名声ってまるで麻薬みたいなものなんだって、ほんとにそう思う。それに彼女、娘のあたしから見ても、最近ちょっとおかしいの……変な占い師にハマっちゃってね、クリスタルのパワーが邪気や悪い運からあなたを救うって言われたらしくて、家中クリスタルだらけなのよ。そんで、ママの守護聖獣はイルカとかで、毎日大きなイルカのクリスタルの前で、ヨガビクスとかやってるんだ。あとは中国のうさんくさい導師に風水パワーがどうこう言われて、あなたから愛が逃げていくのは、寝室のある方角が悪いからとかなんとか……それで家の中も大改造したんだけど、パパはそれっきり家から出ていっちゃった。おまえの占い好きにはもうほとほとウンザリだって、最後にそう言ったの。ママから愛が逃げていくのは、本当は占いのせいなのに、今も彼女はパパのことを愛人から取り戻そうとして、その力に頼ってるのよね」
 話してるうちに何故か、バーバラは涙が頬をつたっていくのを感じた。自分の両親はたぶん、近いうちに離婚して、その報道が世界各地に流されるだろう。誰か他の有名人が離婚記者会見を行っている時は、(お気の毒さま)くらいにしか思わないのに、いざ自分の身に同じことが起きてみると……とてもつらかった。
「やだもー、なんだか湿っぽい話しちゃった」
 バーバラは本当は泣きたくなかった。だって、本泣きしたら、マスカラが溶けて黒く滲んでしまう……そんなところ、メロにだけは絶対に見られたくない。
 メロは、ロスの光り輝く宝石のような夜景を見ながらチョコを食べ終わると、ただ黙ってバイクに戻った。バーバラに対する慰めの言葉も、優しい抱擁もキスもない。けれどバーバラは、何故かそのことにとても満足していた。もちろん、メロにしたところで――大抵の女性はただ話を聞いてあげるだけで満足するものだとか、何かその種の奥義を掴んでいたわけではまったくない。ただ、彼は彼女に興味がなかった。今日のこのドライブは、単に自分が夜景を見たかったこと、それにバイクを少し走らせたかったという、メロの気まぐれによるものに過ぎないのだ。
 帰り道でバーバラは、メロの背中に自分の胸をわざと押しつけたが、それは彼女の頭の中ではセックスアピールというのとは、少し別のものだった。これまでバーバラは、ボーイフレンドが自分の胸の谷間を見たり、目を逸らしたりするたびに――(相手に何かさせてあげたほうがいいのかしら?)と、そんなふうに思うことが多かった。けれど今は、自分がそれをしたいのだと思った。今日の夜、ケビン・クロムウェルがバーバラの意志などまるで無視してしようとしたこと、それと同じことを彼女はメロとしてみたかった。
(でも今は)と、バーバラは夜気をきる風の心地好さを感じながら思う。(これだってある意味、ひとつになるっていうのと、同じことだもの。ふたりでバイクに乗って風と一体になること……もしかしたらセックスなんかより、こっちのほうがずっと気持ちいいかも!)
 バーバラがパーティの終わった自分の屋敷へ戻った時、そこには使用人以外誰もいなかった。こういうことがあった時のために、ウォルシュ邸には何人もの警備員がいる。彼女の母親は自分の留守中に娘がパーティを開き、不測の事態が起きた時には――行きすぎたティーンエイジャーたちを即刻解散させるよう、彼らにきつく命じていたのだ。
 バーバラがスカッ!とした気分で、フランスシャトー風の邸宅の前でバイクを降りた時、彼女はメロに今日借りたジャケットを返そうとしなかった。
「だって、この服の袖で涙を拭いたりしたから、汚れちゃったんだもの。クリーニングして返すから、ちょっと待ってて」
「そんなことはべつにいい」と、メロはいかにも素っ気なく言ったが、バーバラはいやいやをするように首を振る。
「ダメよ。第一それじゃ、わたしの気がすまないの」
 バーバラはメロが黙ったのを見ると、彼の頬に軽くキスした。そして恋する乙女の切ないハートを抱えて、一目散にバラの蔦が絡まるアーチの下を走っていく。
(キャーッ!!やっちゃった、やっちゃった!これでまた彼と学校で話をする口実ができたわ!!)
 もちろんメロのほうでは、彼女が自分にキスしたことなどどうとも思っていなかった。ただ、レザージャケットのほうは返してほしかったという、それだけだ。流石に夜は少し冷えこむ季節なので、コンドミニアムへ戻るまでに、肩が少し寒い……だが結局、(まあいいか)と思い、ビバリーヒルズの高級住宅街を走り抜けていったのだった。



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