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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(11)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(11)

 メロが自分を避けている、ということは、ルースは最初まるで気づかなかった。だが彼は、自分が話しかけるたびに気のない返事をし、目さえ合わせようとしない……(いくら切羽詰っていたからって、やっぱり告白なんてするんじゃなかった)、そう思ってルースは落胆した。
 けれど、自分にはあまり時間がない、という感覚が彼女にはいつもつきまとっており、それが早まった告白を導いてしまったのだとも、ルースには冷静に分析できるだけの頭の良さがあった。自分の年齢は今、十七だ。そして超能力者たちの平均寿命が19.23歳ということを思えば……生きてあと三年。あるいはもっと早くに死ぬ場合もある。そのことを思うと、ルースはたった今メロに自分の生い立ちや超能力のことなど、すべてを話してしまいたい衝動にさえ駆られた。
(わたしのこと、本当には好きじゃなくてもいいの。ただ、わたしはあまり長く生きられないから――その間だけでも、恋人の振りをメロがしてくれたら……)
 もう、死んでもいい、ルースは本気でそう思った。けれど、おそらくメロはきのうの自分の告白を、重いと感じたのだろう。朝も家まで迎えには来てくれなかった……おとついに彼が自分を送り迎えしてくれたのも、単なる気まぐれか、転校初日で学校を案内してくれる人間が欲しかったという、ただそれだけの理由だったのかもしれない。
(それなのにあたしったら、ひとりで舞い上がったりして……本当にもう、馬鹿みたい)
 ルースはその日一日の授業を、うわの空で落ち着かなげに過ごした。もちろん彼女にはメロ同様、どの教科の教師に突然当てられても、大抵のことには答えられるだけの知識の蓄積があった。けれど、国語の時間に突然――「ロミオとジュリエットが死なずに生きていたら、どうなっていたと思いますか?」とミズ・サマセットに質問された時、ルースは言葉に詰まって何も答えられなかった。
 そしてちょうどその時に終業の鐘が鳴り、ルースへのサマセット先生の質問はそのまま、宿題として持ちこされることになる。レポートの提出期限は来週の月曜日まで……折りよくチャイムが鳴ったことで、恥をかかずに済んだとはいえ、やはりルースの心は重いままだった。
 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をルースが初めて読んだのは、ほんの十歳頃のことだったと記憶している。だが、最初に読んだ時に彼女が持った感想は、「この人たち馬鹿じゃないかしら?」というものだった。名ゼリフとして知られる、例の「ロミオよ、ロミオ。どうしてあなたはロミオなの?」というジュリエットの熱に浮かされた告白も、当時のルースには理解不能だった。それこそ「ロミオはロミオだから、ロミオなのよ」としか思わなかった。それなのに、今は……。
(胸を締めつけられるくらい、ジュリエットの気持ちがわかるわ)
 ルースは放課後に図書館で『ロミオとジュリエット』を借りると、物思いに耽りにながら、ロミオとメロを心の中で重ねあわせた。彼女はその日、部活動は休み、サマセット先生がだしたレポートの宿題を一気に片付けることにしていた。これまで、どちらかというとルースは文系の教科は苦手だったのだが、この日の宿題は自分の今の心情とジュリエットの心を重ね合わせることが出来たお陰で――レポートの出来栄えはとても素晴らしいものになったと自分でも思う。これなら、いつもは採点に厳しいミズ・サマセットもAをつけてくれるに違いないと、ルースはそう確信したほどだった。
(ジュリエットはきっと、最後に死んだその瞬間、とても満足だったはずだわ……だって、本当の愛って、相手に「本物」を与えることが出来たというそれだけでも、かけがえのないことだもの。そしてロミオも彼女に本当の愛を捧げてくれた……こんなに完璧なことってないわ。そしてふたりの人間は完璧なままで滅ぶことが出来たのだから、こんなに幸せなことってなかったんじゃないかしら)
 そう思いながらルースがレポート用紙を閉じていると、そっと誰かが肩に手を置いた。親友のジェシー・スミスだった。おそらく弁論部の論議を早めに切り上げたのだろうと、ルースはそんなふうにぼんやり思う。
「何よ、部活動はサボっておいて、こんなところで勉強してたの?まあ、べつにいいけどね。メロのことなら話に聞いてるし」
 メロ、と恋する青年の名前を聞かされただけでも、ルースの心臓は激しく高鳴ってしまう。
「メロがどうかしたの?」
「どうもこうも……」と、驚いたようにジェシーは目を丸くする。「まさかルース、何も知らないとは言わせないわよ」
 ほらこれ、と言うようにジェシーは『ビバリーヒルズ・クロニクル』――校内新聞の号外を鞄の中から取りだし、とんとん、とその表紙を叩く。
「なに、これ……!?」
「ねえ、ルース。本当にあなた何も知らなかったわけ?」
 そこには、メロと彼女の幼馴染み、ティグランことルーク・フォスターがバスケットのゴール前でボールを取りあう写真が掲載されていた。見出しは<転校生同士の勝負の行方は!?>となっている。新聞部の鬼部長として知られるアニス・ベーカーにしては、随分抑えた文言だったといえるだろう。
(フォスターは、試合を見学していたミハエル・ケールに突然突っかかり、喧嘩口調で勝負を挑んだ……ワンオンワンで、20分以内にどちらがより多く得点するかを競うものだ。ケールも健闘はしたが、何分フォスターはみんなも知ってのとおり、バスケット部の主将である。彼には決してスリーポイントを外さないという武器まであるのだ……試合は結局15対48でケールの惨敗に終わるも、見守る周囲の人間誰もが息をのむほどの、素晴らしいプレイを彼は見せてくれたとわたしは思う。そして試合後、勝った時の条件はとケールに聞かれ、フォスターは「アリス・リードから手を引け」と答える。みんなも知ってのとおり、数学国際オリンピックの金メダリスト、あの天才のアリス・リードだ(※右下の欄に人物紹介あり)。フォスターは前にも本紙でお伝えしたとおり、彼女に首ったけであり……)
 ルースは、青ざめた顔をして、ぐしゃりと校内新聞を握りつぶす。その手が微かに震えているのを見て、ジェシーはなんとなく心配になった。
「……アリス?」
(わたしは、そんな名前じゃないわ)
 この時ルースは、超能力を使いたいという衝動を、どうしても抑えきれなくなった。ロスの研究所のシュナイダー博士からは、学校内での超能力使用はいかなる場合も禁止だと言われている……それでも、ティグランが銃乱射事件でPKを使った時には、例外として彼はそれを認めていた。第一自分の場合は、他の誰をも傷つける心配のない能力なのだ。いや、姿を見られる危険性は確かにあるにしても、テレポートの瞬間を目撃したところで、大抵の人間は目の錯覚だと思うに違いなかった。
「ごめんなさい、ジェシー。わたし、ちょっと用があるのを思いだしたわ」
 そう言うなり、鞄に文房具類のすべてを急いで詰めて、ルースは席を立つ。慌ただしげに図書館を出ていく彼女を、ある者は苛立たしげな目で眺め、ある者は好奇の目で見ていた……これもすべて、校内新聞の威力のせいだったといえるだろう。
 確かに、ランチの時にも、自分のまわりに誰も寄ってこないとは、彼女自身気づいていた。時折、意味ありげな視線で見られたような気もするけれど、気のせいだろうとしか思わなかったのだ。何より、その時ルースの頭の中はメロのことでいっぱいだったので――誰か他の人間の思考にまで想像を膨らませる余地はまったくなかったといっていい。
 ルースは人気のない校舎の一角までくると、そこから体育館の裏手まで、一気に<飛んだ>。目立たない裏庭の茂みに無事着地し、誰にも姿を見られなかったかどうかと確認する……超能力者がその能力を使用したくなるのは、感情的にストレスがかかった時だ。その時にはストレスそのものが能力発動の手助けをするので、体にはまったく負担はかからない。
 ルースは周囲に人が誰もいないのを見てほっとし、体育館裏にある屋外コートでバスケ部が基礎体力の訓練をしている風景をちらと眺めやる。今日はコーチの姿がなく、代わりにキャプテンであるルークが、自ら下級生の面倒を見ているようだった。もう一方のコートではレギュラーや準レギュラーの生徒たちが、練習試合を行っている。
(下級生の前で恥をかかせるみたいなこと、わたしも出来ればしたくないけど……)
 そう思いながらも、ルースはもう自分を抑えることが出来なかった。今日一日、自分がどれだけメロのことを思い、彼に嫌われたと思って気に病んでいたか……そのことを思うと、これはティグランに対する正当な制裁行為だと、ルースにはそうとしか思えなかった。
「ルーク!!」
 反復横跳びをしている一年生の傍らを通り抜け、ストップウォッチとボールを手にしたティグランの前まで、ルースは肩を怒らせながら、スタスタと大股に歩いていく。
 そして、彼女より二十センチ以上背の高い、浅黒い肌の青年の頬を、まるで母親がおしおきでも加えるみたいに、バシッ!!と思いきり打ちすえた。
「あたしが何故こんなことをしたのか、あなたにはわかるわよね!?」
 きのうに引き続き、恋愛ドラマのこじれが見れるだけあって、バスケ部の生徒たちは全員、浮き足だったようにアリスとルークに注目している。
「アリス、俺は……」
 いつもは男らしいキャプテンが、惚れた女にはてんで弱腰なのを見て、誰もがみな口笛を吹きたいような衝動をこらえる。何しろ今日はカミさんが産気づいたとかで、コーチが留守なのだ。ここでまずい態度をとったが最後、ルークがこの後どれだけの猛特訓をひとりひとりに課すかを思えば――野次を飛ばせる勇気のある人間は、誰もいなかったといえる。
「メロに、あなたの口から例の約束は無効だと言って!!じゃないとあんたとはこれから、一生口なんか聞いてやらないからっ!!」
(……そんなにあいつが好きなのか)
 一生口を聞いてもらえないことより、ティグランにはむしろ、そのことのほうがショックだった。ルースはこれから先、一生誰のものにもならない……そう思えば、両想いの関係になれないことなど、ティグランにとってはつらいことでも悲しいことでもなかったというのに。
(ロスになんて来るんじゃなかった。俺はあのシュナイダー博士の奴も大嫌いなんだ……あいつが力のコントロールや安定のためには、普通に学校生活を送って社交術を身につけることが大切だとか、わかったようなこと言いやがるから、俺は今こんなことに……)
 ルークは手に持っていたボールを片手で投げ、六メートル先のゴールへ軽々と入れた。今まで試合の時に<力>を使ったことは一度もなかったが、今は別だった。彼もまた感情的にストレスがかかり、PKの力を使いたくてうずうずしていた。出来ることなら、たった今すぐにでもあのメロとかいう野郎を念動力でコンクリートの壁に叩きつけてやりたい。
「ルース、待てよ……!!」
 早足でバスケットのコートから出ていくルースのことを、ティグランは急いで追いかけた。アリス、という偽名を使うことさえ彼はこの時忘れていた。残されたバスケットボール部の部員が全員、副キャプテンのレイフに強い視線を投げかけ、その指示を待つ。
「あ~、キャプテンのルークは惚れた女のケツを追っていっちまったから、ここから先は俺がおまえらの面倒を見てやるよ」
 そう言ってレイフは、レギュラーでセンターのディロンにあとのことを頼むと、自分が一年坊主の面倒を見ることにした。また明日から鬼コーチのロバート・“ブル”・レビンソン監督が普段通り戻ってくるのだ。そうすれば一年生たちはまた暫くボールに一切触らせてもらえない、基礎体力作りのつらい日々が続くことになる……そう思いレイフは、今日は一年坊主どもに思う存分ボールに触らせてやることにしようと考えていた。

「ルース……!!何もそんなに怒ることないだろ!」
 ティグランはいつものとおり、自分はこんなに想っているのに不当に扱われているといった、不満げな眼差しで彼女のことを見つめる――誰もいない、学校の裏庭でのことだった。
「べつに、怒ってなんかないわ。ただ、メロのことを思うと、あんたに対して腹が立つだけ!!」
「……そんなにあいつが好きか」
(小さい時からそばにいる俺よりもか)、と言いかけて、ティグランは口を噤む。その言葉を口にだして言う勇気のない自分がもどかしくて、思わず舌打ちしてしまう。
「あたしは……ティグラン、あんたのことはただの幼馴染みとしか思えないの。もちろん、あたしだってあんたのことは好きよ。でもそれは、同じ力を持つ者同士として、仲間として好きってことなの。あたしはラスがカイのことを好きだったみたいに、特別な感情を持ってあんたのことを見ることはできない」
「随分、残酷なことを言うんだな。それもあいつのせいか?」
 流石にこの時になって、ルースは言い過ぎたと思った。いや、もしかして自分はメロに対して冷たくされたことの仕返しを、ティグランに対してしているのではないかと思い、良心が痛む。
「……あたしたちは、どのみちあと二三年の命なのよ?ティグランだって、残された短い時間の間に、本当に自分のことを愛してくれる人を見つけたほうが、どんなにいいかわからないじゃないの」
「俺はべつに、誰かに愛されたいなんてこれっぽっちも思ってない。俺はルース、おまえがそばにいて、ただ笑っていてくれたら、それだけでいいんだ」
(――それがそんなに、高望みなことなのか?)
 言葉にされなくても、ティグランが言外にそう言いたいことが、ルースには痛いほどわかっていた。もとより、超能力者同士はテレパシーがあるわけではないが、それに近い力を互いに感じあっている。言うなれば、ティグランがルースに対して感じている一種の<磁力>も、その力が少し変化しただけの、強い結びつきを求める心だったといえるかもしれない。
「ルース、ひとつだけ言っておくが」と、ティグランはルースのことを無理やりにでも抱きしめたい衝動を抑えながら言った。「あいつは絶対におまえのことを幸せにしないし、むしろ心を傷つけるだろう……俺にはそれがわかる。それでもいいなら、あとのことは好きにしろ」
「なんでそんなこと、わかるの?」
 自分も同じように、大切な幼馴染みのことを傷つけているとわかっているだけに、ルースは目に涙を浮かべながら言った。
「<勘>だよ。あいつは他の連中と同じ、凡人の匂いがあまりしない……うまく言えないが、とても女を幸せに出来るタイプとは思えないんだ。そこらに転がってる、女とやりたいだけのティーンエイジャーっていうんでもなければ、こっそりヤクに手を出してるとか、そんなんでもないな。なんて言ったらいいか……ただ、とにかく危険なんだ。これでもし相手が他の男なら、俺はこめかみに青筋を立てながらも、我慢できたかもしれない。だが、あいつだけは絶対に駄目だ。俺のこの忠告は、心ある友達からのものと思って、頭の隅のほうにでも覚えておいたほうがいい」
「うん……」
 そうぼんやり返事をして、ルースはティグランと互いに腰や肩を抱きあって、校門のほうまで歩いていった。お互い、喧嘩のようなものをしたとしても、いつも最後には仲直りしたものだった。今も、互いの間にあるのは特別な仲間意識と信頼しあう感情だけだ。ルースにとってそれは<家族愛>に近いものだったけれど、ティグランにとってはそれ以上のもので……けれど、何があっても断ち切れない“絆”でふたりが結ばれていること、いや、超能力者の全員が結ばれていることが、彼らにとって何よりもかけがえのない、大切なことなのだった。



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【2008/09/18 04:38 】
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