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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(29)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(29)

 その年のクリスマスを、ラケルはLと一緒にウィンチェスターにある城館で過ごしていた。ヴィクトリア朝時代に建てられたという石造りのその建物には、百以上もの部屋があったが、実際に使用しているのは極一部分だけである。庭もとても広くて、軽く二百エーカーはあっただろうか……ここには、季節ごとにスミレやサクラソウ、水仙、マグノリア、忘れな草やレンギョウ、シャクヤク、薔薇にアイリス、ラヴェンダーにダリアやクレマチス、アスターなど……それこそ数えきれないほどの花が咲き乱れる。
 もっとも、Lとラケルは一年に一度来れるかどうかという場所なので、普段は造園業者たちがその世話と管理に当たっている。そして城館の中も一部を除いては、同じく清掃管理会社が委託を受けて掃除などを定期的に行っているのだった。
 イギリスでは、自分の家を持つことを城を持つと言うけれど、これは一国一城の主と同じ意味だろう。そういう意味で、ここはラケルにとって文字通り自分の城であり、自分の庭だった。普段使う部屋にはどこも、ウィリアム・モリスのふっくらした絨毯を敷き詰め、またウィリアム・モリスの壁紙を張り、カーテンは彼女の好きなローラ・アシュレイのものを使用している……キッチンは使い勝手のいいように改造し、大理石の暖炉のマントルピースには、お気に入りの小物類や雑貨を並べ、家具は特に選りすぐりのものをアンティーク・ショップで厳選した。椅子についてはLも拘りがあるために、家具屋や骨董品店で何度も座ったり立ったりして彼が選んだものを使用しているが――それ以外は大体、ラケルの趣味の反映された結果となっている。
 Lにしてみれば、浴室のタイルまで自分好みに自力で張り替えようとするラケルの努力には、多少首を傾げるものがあるのだが、汗水流しながら鼻歌を歌い、嬉しそうに作業している彼女に対しては、微笑ましいものを感じていた。そうして完成した浴室で、彼女が猫脚つきのバスタブに浸かっているのを見ると、自分まで幸福になれたりするのだから不思議なものだと思う。もっとも、ラケルにはその度に「えっち!のぞかないで!!」とシャワーカーテンを閉められていたけれど――Lにしてみれば(何をいまさら)と思うのみなのだった。
 例の事件以来、Lとラケルの間にはそう大きな変化はなかった。いや、あることにはあったものの、それはいい意味の変化であって、悪い意味での変化はあまりなかったということだった。当初Lが心配していたような、誘拐されたそのことに対する後遺症というのはラケルには残っていない。ただ、犯人がその後にとった行動に対しては――確かに彼女は傷を負ったという、Lとしてはそういう認識だった。
 ラケル自身は、サミュエル・ビュターンという男についてあまり多くを話したがらないし、Lもまたそう質問をしなかった。「本当に、何もなかったの」という彼女の言葉をLは信じたし、体で確かめて安心もした。Lにとって重要なのは何より、ラケルの持つある種の純粋さが汚されなかったということだったけれど、それでも苦い嫉妬の情のようなものが彼の中に残っていないといえば嘘になる。
 たとえば、ラケルに一度プロポーズしたというワイミーズハウスの政治・哲学・経済学担当のアンダーウッドという教師――Lは彼について仔細に調べてあった。単に気になるという以上に、どう考えても通常の場合、彼とLを天秤にかけたとすると、彼のほうが重いだろうというのが、Lの認識だった。ケンブリッジ卒の秀才で、白い歯が陽光に輝くようなハンサム、子供たちにも慕われるような人格も備えている上スポーツ万能……彼女が断る理由がどこにあるのか、Lには理解できなかった。
 それで、ついきのうの夜、天蓋つきのベッドの中で、こう聞いてしまっていた。もしかしたら、サミュエル・ビュターンのことをあまり強く聞けないかわりに――彼女が自分から色々話すようになるまで、Lは待とうと思っていた――前から聞きたいと思っていたことを言葉にしてしまったのかもしれない。
「あの、以前小耳に挟んだことなんですが」と、Lは彼に白い背中を向けている彼女に向かって言った。「アンダーウッドさんというワイミーズハウスの教師の方に、ラケルはプロポーズされたことがあるそうですね?」
「……誰から聞いたの?」
 ラケルは、Lに背中を向けたままで言った。よく映画などでは、情事のあと、胸毛の生えた俳優に綺麗な女性が抱かれていたりするけれど――ラケルは終わってしまうと必ず彼に背中を向けてしまうのだった。
「いえ、誰からと明言するのもどうかと思うので、ある筋からとでも言っておきましょう。それで、とても不思議に思ったんです……わたしと彼では容姿とか性格とか、色々なことを含めて正反対であるように思いました。にも関わらず、ラケルは彼のプロポーズは断り、わたしのプロポーズは受けてくれた……これはすごい謎だと思うのですが、どうでしょう?」
「説明がとてもむつかしいんだけど」と、ラケルは溜息を着くように答える。「アンダーウッドさんはとてもいい人なの。だから、そういう人には他にもっといい人がいるって、そう思って……だからお断りしたの」
「では、わたしはとても良くない人ということになりますね?そういう良くない人間には、もっと他にいい人がいないので、それならわたしが犠牲になろう……そういうことですか?」
「そうじゃなくて」ラケルはここで振り返る。でも、Lは足を折り曲げたまま寝ているので、彼と彼女の間には少し距離がある。「その前にひとつ、わたしも聞いていい?」
「ええ、わたしに答えられることならなんでも」
 Lは何かの推理をするように、枕の上でも指をしゃぶっている。
「どうして、何があってもLは、上の長Tシャツを脱がないの?」
「これですか……だって、一度脱いだらまた着なくちゃいけないじゃないですか。ジーンズとトランクスは仕方ないので脱ぎますが、上まで脱ぐ必要はないと思います。それがわたしのポリシーです」
「じゃあ、わたしも今度から上だけ着ていたいって言ったら?」
「それは次元の違う問題です」と、Lは拗ねるように言う。「男性と女性を混同してはいけません。第一、全部裸になるなど言語道断、そんな恥かしいことはわたしには出来ません。ついでにわたしも言わせてもらいますが、あなたは終わるとすぐに背中を向けますね?これはわたしには不思議な現象です。映画とかだとよく、恋人同士が腕枕をしたりしてますが……ラケルはその路線は求めてないのでしょうか?」
「その路線って……」と、ラケルはとうとう堪えきれなくなって声にだして笑った。「だって、そんなことLがしたいと思ってるとも思えないし。それに、わたしが背中を向けるのは単なる照れ隠しみたいなものだもの。まさかそんなこと、気にされてるなんて思ってもみなかったっていうか……」
「非常に気になります」Lは断言した。「わたしには、膝を真っ直ぐにして眠ってもいい覚悟がありますが、あなたが歩みよってくれないと、その意味がありませんから」
「……………」
 Lが珍しく、膝を伸ばしたことがわかったので、ラケルはその分体をLに近づけることにした。その後彼女はすぐ、彼の甘い匂いのする長Tシャツの上で眠ってしまったけれど――Lにしてみれば、自分が払った妥協と代償について考えずにはいられない。
 サミュエル・ビュターンという男とラケルが過ごした一か月間について、Lとしては彼女が仮に細かく説明してくれたにしても、それは闇の中で影を探すような出来事だった。つまり、精神的な意味で知る術がないということだ。そこにLは激しい嫉妬を覚える。本来なら、自分の手元にいるはずの彼女が、遠く離れた場所にいて、その上自分の知らない男と一か月も同じ屋根の下で暮らしたということは――以前から彼が考えていた「もし……だったら」という考えに一致するだけに、思わず指をがりがり噛みたいような気持ちになってしまう。
 つまり、「もしラケルが自分以外の他の男と結婚していたら」……と想定した場合、当然今、彼女はLの腕の中にはいないということになる。Lはそのことについて、随分前から<架空の人間>、架空の男に対して奇妙な嫉妬のようなものを覚えていた。ロジャーとワタリが結託して、『明るい家族計画』などというおかしな見合い作戦を実行に移していなかったら――Lがラケルのことを知る機会はまずなかっただろう。また違う出会い方をしていた場合にも、今こうして彼女がLの腕の中にいる可能性は極めて低いということになる。
(言ってみれば、これはわたしにとっては天文学的な数字上の奇蹟ともいえる確率です……)
 ラケルがアンダーウッドのプロポーズを受けていたら、今彼女の愛情を一身に受けていたのは彼であり、そうなると今回の誘拐事件にラケルが巻き込まれるということもなかっただろう……いや、そうではないのだろうか?ラケルがLより先にアンダーウッドを選んでいたとしても、結局彼女はサミュエル・ビュターンという男に拉致されていたということになるのだろうか?
 わからない、とLは思う。それでも今回の事件に関してはやはり、ラケルが自分の元にいたから起きたのだと、彼としてはそう感じずにはいられない。Lはこれまで何百件もの行方不明者の捜査を行ったことがあるけれど、そのうちの数件についてはあまりにも手がかりがなく、捜索を断念したということがある……今回のラケルの誘拐も、言ってみればそれに似た案件だった。ロンドン中の監視カメラの映像をすべてチェックしたにも関わらず、その後何も出てこないなどということは、Lの中では極めて不可能に近い。いつもなら、その中で必ず何か<ひとつ>、他の人間であればまったく気づかないような新事実にLが気づくことにより――そこを足がかりに事件の推理が進んでいくのだが……むしろ、こういう場合、ある種の運命の力、神と呼ばれるものの強い力が働いていて、自分の推理を邪魔したと思ったほうが、奇妙に納得がいく。なんといってもビュターンは、ラケルの前にふたりも女を誘拐した上、殺害しているのだ。にも関わらず、彼女には指一本触れもしなかっただなんて……そんなことが果たしてありえるものだろうか?
 これはラケルの貞操をLが疑っているというわけではなく――もし仮に<神>と呼ばれるものが存在していると仮定した場合、その存在が彼女を守った上で、ビュターンに魂の救いを与えるように動いた、そう言えはしないかと、Lが想像することだった。だが、ラケルが流産したのはおそらく、監禁生活で受けた多くのストレスが原因であることを思えば……その神という存在は、あまりに残酷だと、Lは思う。そしてその神は、自分に対してもまた、あまりに残酷な十字架を背負わせてもいるのだ。
(まあ、今のわたしにとってもっとも重要なのは、いるかいないかわからない神などより――ラケルがこうしてそばにいてくれるという、そのことですけどね)
 そう思い、Lはラケルの密色の髪に口接ける。一度彼女と離れてみてわかったのは、もう二度と絶対に離したくないということだった。ラケルの中に誘拐犯との秘密の一か月間が存在するというだけでも、彼は胸苦しいような気持ちに襲われる。もちろん顔には出しもしないが、そのかわりに誘拐犯の手垢を彼女から落とそうと思い、しょっちゅうベタベタと体に触ってばかりいた。全部そうして自分の手と舌で清めておかないと、またラケルがどこかへ行ってしまいそうな、そんな気がして――不安でたまらなくなるからだった。
<K>のことについては、Lはまだ彼女にすべてを話してはいない。だが、これからは出かける時には自分が必ず一緒にいくか、あるいは絶対に発信機をつけることを約束させた。
「なんだか、鈴のついた猫みたいね」と、ラケルは笑っていたけれど、
(いいえ、あなたは犬です)
そうLは言いかけてやめた。彼女がキッチンでスイーツを作っている時に漂ってくる甘い香り――それはLの中ではとても幸福な、天国の匂いと同じ香りのするものだった。そして毎日のようにそんな天国をこの地上で味わわせてくれる彼女は……Lにとっては本当にかけがえのない、大切この上ない存在だった。

 十二月二十六日――この日はイギリスで、ボクシング・デイと呼ばれる休日であり、この日の由来は恵まれない人々に箱に入れた贈り物をすることから始まったという。このボクシングというのは当然、スポーツのボクシングのことではなく、箱のBOX+ingで、贈り物をするという意味である。ラケルはこの日、まず朝に新聞配達の少年に色々な種類のマフィンが詰まった贈り物をし、また教会にこれまで自分が作ったパッチワークのベッドカバーやソファカバー、刺繍入りのハンカチや敷物、コースターなどを寄付した――「せっかく時間をかけて作ったものなのに、なんだか勿体ないですね」と、Lがいつもの手つきでラケルの作品をつまみあげても、彼女は気にするふうもない。
「だって、こんなことくらいしか出来ないんだもの」
 Lはラケルが<世界の子供たちに衣服を送ろうボランティア>とかいうのを、随分前からやっているらしいのを知っている。L自身は靴下をはかないのに、彼女がせっせと何足も靴下を編んでいるを見て――そのことを不思議に思って聞いた時のことだった。
(それより、買ったほうが早いような気がしますけどね……)とは、流石に彼にも言えない。悪人はますます悪に励み、善人はますます善に進むという聖書の言葉を、彼としては思いだすだけだった。
 ただし、善であれ悪であれ、その頂点に存在するのはいずれにせよ、<神>なのである。そしてこの神という存在は、時に善人に厳しいハードルを設けて、それを越えさせようとすることがあるのだ。ラケルは、うまく言葉としてLに説明することは出来なかったけれど――サミュエル・ビュターンという男と出会ったことを、少なくとも後悔はしていなかった。きのう、ワイミーズハウスでクリスマスを子供たちと祝った時にも、彼女は強くそう感じていた。この子たちの中から彼のように不幸な生い立ちを持つ子供をひとりも出してはいけないと思ったし、何より……自分の義理の両親からクリスマス・カードと手紙が届いているのを見て、目頭が熱くなった。
 ラケルの義理の両親は、今も彼女がワイミーズハウスで教師として働いていると思っているために、そこへ手紙などを送ってくるのだけれど――いつもはそれほどの強い思いを、そこに書かれた文章から読みとったことはない。けれど、今年のクリスマスは違った。ラケルの義理の母親は、一度流産して以来、子供が出来なくなったという話を、ラケルは彼女から聞いたことがある。それ以来、義母の中ではいつまでも(ああ、あの子がもし生きていたらどんなにか)という思いが離れたことがないのだろうと思っていた。そのつらい気持ちがどんなものか、ラケルは自分が流産した今だからこそ――理解することができる。
(お義母さん、ごめんなさい……どうかわたしを赦してください……)
 ラケルの義理の両親が送ってきたクリスマス・カードには、この時季によくある文言と、彼女の健康を気遣うようなことが書いてあるだけだったが、ラケルはこの時、義母に対して心から<赦したい>、<赦して欲しい>という気持ちを初めて持った。また彼女から、「そういうふうにしか育てられなくて申し訳ない」という感情をそれとなく感じながらも、その相手の気持ちを無視しようとしたことも……あらためて心の中で思いだされた。
 ギリシャ語では、<愛>という時、アガペーとフィリアーとエロスの三種類があると言われている。ひとつ目のアガペーは理性の愛、フィリアーは友愛、エロスは男女間における愛のことで、フィリアーとエロスについては説明が不要であるように感じる。何故なら、自分の目から見て好ましいと思える相手を愛することは、それほど難しいことではないからだ。だが理性の愛を意味するアガペーは、自分が愛せないと感じる人間のことを理性によって愛そうとする、そういう種類の愛情をさす……ラケルは、自分の義母が、なんとか理性で愛そうとして、どうしても感情や本能によってそれが出来なかった彼女のことを、もう赦そうと思った。いや、心の中では赦した振りをしながら、本当はもっと底のほうでは赦していなかったと気づいて――ラケルは自分の中で何かが解け去っていくのを感じていた。
 いつも、義理の両親に対しては、それこそ義理の気持ちから手紙を書くことが彼女は多かったけれど、次に手紙を書く時にはもっと心をこめて、本当の自分の気持ちについて書き記すことができるだろうと、ラケルは涙を拭いながらそんなふうに感じた。
 うまく言葉で説明することは出来なくても、すべてのことには意味があると、ラケルは出来ることならそう思いたかった。自分がワイミーズハウスで教師になったことも、Lに出会ったことも、サミュエル・ビュターンに誘拐されたことも、お腹の赤ちゃんが流れてしまったことも……哀しいことやつらいことにも、きちんと意味はあるのだと、そう思いたかった。ラケルはビュターンと過ごした一か月間のことをこれからも忘れることはないし、一度はお腹に宿った命のことも、忘れることは当然出来なかった。
「どうしてかわからないんだけど、お腹の中の子供は男の子だったような気がするの」
 ラケルがLにそう言った時、Lはどことなく不思議そうな顔をした。
「では、その子はわたしのライバルですね。もし生まれてきた子が女の子なら――わたしは目に入れても痛くないくらい可愛がるでしょうが、男の子のことは、自分のライバルとしてわたしは育てようと思っています」
「え?それってどういうこと?」と、ラケルは思わず顔色を曇らせてしまう。
「だって、あなたは赤ん坊が産まれたら、その子に夢中になってわたしのことなど大して構いつけなくなるでしょうから――やっぱりその子はわたしにとってはライバルですよ。もし女の子だったら、仕方ないと思ってわたしも面倒を見ますけどね。何より自分にも責任のあることですし」
「ええ?仕方ないって何!?仕方ないって!!」
 その時、ラケルはLのことを自分の膝の上に乗せて、耳掃除をしているところだった。彼は「耳掃除なんてしなくても、人は死にません」と本気で信じている人だったので、時々お風呂上がりに彼女は耳掃除をしていたのだ。
「………!!ラケル、もしかしてわたしの鼓膜を破る気ですか!?」
 がばりとLが起き上がると、彼女はソファの腕木のところに何故か、のの字を何度も書いている。
「ふうーん。そうなの……Lがそういう人だなんて、知らなかった……子供の面倒は忙しいとか言って見そうにないなーとは思ってたけど、ふうーん。仕方なく育てるのね、仕方なく……」
「何か誤解があるようでしたらあやまりますが」と、Lはいつもどおり足を立ててソファに座っている。「わたしは、特別子供好きってわけでもないですし、赤ちゃんが生まれてもどう扱っていいかよくわかりません。もし<子育て完璧マニュアル>なんていうものがあったら、全文暗記するのは簡単でしょうが――そういうわけにもいかないでしょうし。何より、あなたがわたしを放っぽっておいて赤ん坊に夢中になっていたら、むしろ嫉妬するかもしれません。もしかしたらこれは、わたしが幼稚で子供っぽいことに原因があるのかもしれませんが」
「……………」
 ラケルが自分の頭の中で、都合のいいようにLの言葉を処理するのに、二分はかかっただろうか。それはつまりこういうことだった。Lが今言った言葉以上に、実際には子供の面倒を見そうな気が彼女の中ではすること、さらには男の子→自分と対等な人間として扱う、女の子→目に入れても痛くないほど可愛がる……そして、自分も子供と同じくらい構って欲しいとLが感じていること、そうしたことはすべて、ラケルの中ではプラスの要素を持っていたといっていい。
「そうよね、母親は子供が生まれた時から母親だけど、男の人はだんだん父親になっていくものだってよくいうし」
 Lはラケルがけろりと機嫌を直したのを見て、ほっとした。それでもう一度、ほとんど耳掃除は終わっているのに、彼女の膝の上に寝転がる。
「まあ、子作りについては、出来得る限り協力は惜しみません」
 Lはラケルの太腿の上に頭を乗せ、彼女の腰に抱きつきながら、くぐもったような声でそう言った。
「今、何か言った?」と、ラケルが聞き返す。
「ええ、愛しているって言ったんですよ」
 Lは目を閉じ、ラケルが梵天と呼ばれる鳥の羽毛で耳の穴を綺麗にしてくれるのを感じながら――そう愛の告白をした。


 終わり



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【2008/08/21 14:30 】
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