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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(21)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(21)

『ジャック・ティンバーレインが接触していた男なんですが、Lが選別した犯罪者のデータベースの中に、同一人物と思しき人間がいました。名前はサミュエル・ビュターン。イーストエンドのゲイがよくたむろするバーにビュターンがいたのは、彼がもしかしたら同性愛者のためかもしれません。少なくともティンバーレインにはその種の趣味はないようですから……』
「それで、ふたりが話しているカウンターの片側にいたものの、わたしに連絡するために席を外したところ、ゲイの男性にしつこくナンパされ、戻ってきたらビュターンの姿は消えていたと、そういうことですね」
『はい』と、どことなく気詰まりな調子でレイは答える。『その、このことはどうか、ナオミには内密に……』
 レイの婚約者の南空ナオミは、以前にLと協力して、大きな事件を解決したことがある。また何かあった時にLが彼女とその話を冗談でしないとも限らないと、彼はそう心配したらしい。
「もちろん、当然です。わたしを誰だと思ってるんですか……探偵というのは、捜査の過程で多くの守秘義務を持つものです。あなたが本当はゲイだった、実はそちらの世界にも興味があるということは、南空ナオミさんには黙っておきましょう」
『……L、わたしは本当にゲイじゃありませんよ』
「何ムキになってるんですか。あんまりしつこく否定すると、むしろ疑いたくなりますよ?」と、Lはあくまで真面目な声で冗談を言う。「まあ、そのことはさておくとしても……あなたには出来れば、そのままビュターンの後を追って欲しかったんですが、それはとりあえずいいとしましょう。住居があるのはハムステッドのフィンチリーロードということさえわかっていれば十分です。まずはそこを張って、このビュターンという男に不審な動きがないかどうか見てください。そしてその後で場合によっては捜査令状を取ってもらうことになると思います」
『そうですね。刑務所での面会の時には、特に不審な物のやりとりというのはありませんでしたから……Lの言うとおり、二週に一度定期的に会っている弁護士がティンバーレインに計画書を渡し、ティンバーレインがさらにビュターンへそれを渡していると考えるのが自然です。消去法として、他のクロンカイトと面会している元服役者は、そのほとんどが囮といったところでしょう』
「では、引き続きビュターンのハムステッドの住居を張ってください。そして何か少しでも異変があれば連絡をお願いします」
『わかりました、L』
 レイとの通信を終えると、Lはロンドン同時爆破事件について、さらに考えを巡らす。ベルマーシュ刑務所にいた元受刑者から、クロンカイトとビュターンがどんな関係だったかということは、すでに調査済みだった。ふたりはよく量子力学の話をしたり、難しい数式について討論を戦わせたりといったことをしていたらしい……ところがビュターンの過去を洗ってみると、数学的な方面に関してはずば抜けた才能を示しているのに、言語学――ようするに国語的能力に関しては、学習障害が見られるということがわかった。それ以来、Lの中でビュターンがこの一連のテロ事件の主犯であるという線はほぼ固まったといっていい。それならば、あの幼稚ともいえる犯行声明文の理由がつくからだ。
(アスペルガー症候群か……)
 Lはレイが調べたくれた、サミュエル・ビュターンについてのファイルに目を通しながら、この29歳の青年の不幸な生い立ちについて、とても気の毒に感じていた。施設での虐待に加え、さらに孤児院で目を潰した男に対する贖罪の気持ちから、悪の道へ走らざるをえなかったこと、そして最後には、二十代のほとんどを刑務所で送るという結果になったことなど……。
(もし、彼が不幸にもこのマイケル・アンダーソンという男と再会しなかったとしたら)と、Lは思う。(彼にはまったく違う人生があったのかもしれない。いや、それともどの道を通ったとしても、結局同じだったのだろうか?もちろん、それはわたしにはわからないことだが、この計画を立てたのはクロンカイトで、ビュターンはいわば彼に対する恩義の気持ちから、今度の計画に乗らざるをえなかったというわけだ……)
 刑務所の用語に、“ダブル・バブル”という言葉があって、これは受けた恩は二倍にして返さなければならない、という意味らしい。つまり、煙草を一本もらったら、返す時にはそれを倍にする、ヘロインをアスピリン二錠分もらったら、返す時には4錠分にしなければならないといった掟のようなものだ。クロンカイトはベルマーシュ刑務所で、その法則を無視してかなり一方的に物品やヤクの流通についてなど、都合してやっていたらしい……もっとも本人はヘロイン中毒というわけではないらしいが。
 そしてティンバーレインもビュターンも、そんなふうに“一方的”に刑務所内で受けた恩を、刑務所の外へでた今、二倍にして返しているというわけだ。
 Lはもちろん、クロンカイトの暗い過去や生い立ちについてもよく知っていた。だが、それだからといって、五十五人もの女性の命を彼が奪ってもいいということには当然ならないし、今回のテロ事件についても、Lの中で正義の論理はまったく揺るがない。ビュターンという男については特に、自分に重なり合う部分があるだけに、気の毒だと同情はするけれど……。
 そうなのだ――Lが犯罪心理学といったものに興味を持ちはじめたのは、そのことが原因だったといってもいい。自分がもし、ワタリという慈愛の心のある人間に委ねられず、<K>がどこか適当な孤児院の前にでも、腹いせとしてまだ赤ん坊の自分を捨てていたとしたら?そしてそこでいじめられ虐待され成長していたら……おそらく、現在のサミュエル・ビュターンのようになっていた可能性は高い。ビュターンだけでなく、犯罪者の中には恵まれずに育ち、悪に手を染めるしか生きる術がなかったという人間が実に数多く存在する。だが、それでもやはり――この世界の今にも死に絶えそうな<正義>を守るためには、悪というものは正されなければならない、それが世界の切り札としてのLの立場だった。
 Lは、捜査も大詰めを迎え、ビュターンが捕まるのも時間の問題だろうと思いつつ、やはり重い気持ちを隠せない。もちろんラケルのこともある――そのせいかどうか、他の同時進行で追っている事件についても、パズルを解く時のようなスリルや快感というものが鈍くなっている……Lは、(自分もそろそろ引退か)と苦笑しながら思い、今朝ワタリが届けてくれた新聞に目を通した。
 特に重要なのは、時々<尋ね人>の広告が出ている欄だ。Lはそこにまさか<迷い犬>と同じ扱いで、『記憶喪失の女性を保護しています。髪はブロンドで、瞳は青。年齢は二十五歳前後……』などという文字が躍っているとは夢にも思わない。それでも、何か自分にだけわかるサインのようなものがありはしないかと、ラケルがいなくなって以来その欄を見るのが習慣のようになってしまった。かつて、自分が探偵になろうと思った時にも、思えばこの欄が出発点だったということを思いつつ……。
 そして、Lは十二月になってから度々目につく広告があることに気づいていた。ひとつは郵便物の転送を請け負っている会社の小さな広告、それからもうひとつは、クリスマス・プレゼントを運んでくれる人間の募集広告である。郵便物転送の請け負いについては、そんなに珍しいような広告ではないにしても……クリスマス・プレゼントという言葉とそのふたつが並んでみると、Lの中ではひとつの引っ掛かりができる。つまり、ロンドン同時爆破事件のテロ実行犯は、全員家に爆発物と連絡用のプリペイド式携帯がセットで届いているのである。そのうちの最後のひとり――エッジウェアロード-パディントン駅間の地下鉄車輌に爆発物を仕掛けた男は、箱に同封された取扱い説明書や送り状のついた箱そのものをすべて焼却処分するよう命じられているにも関わらず、そのことを怠っている……実際のところ、主謀の犯人は、完全犯罪というものはそうしたところから綻びを見せるものだと、そろそろ感じはじめていてもおかしくはない。
 Lの指示により、現在のところ警察には報道規制を敷くよう働きかけている。それもいつまで持つかはわからないが、最後の犯人の自宅から爆発物の入っていた郵便物の箱が発見されたということは、まだ伏せてもらっていた。何故なら、新聞やニュースでそうした情報が犯人の耳に入ると次からは手法を変えてくるだろうからだ。だが、地下鉄やバスを狙うというのは、こう言ってはなんだが、そろそろマンネリ気味と言わざるをえない。少なくとも、Lがクロンカイトの立場なら、次はもっと違う標的を狙うだろう……。
 ここでLは、あるひとつの仮説を立てることにし、レイと連絡を取ることにした。すると、彼からは「どうも、同じフラットに住む人間の話では、ビュターンはほとんどそこには帰ってきていないようです」との返事が返ってくる。
(取り返しのつかないことが起きる前に……)
そう思い、Lはサミュエル・ビュターンの自宅の捜査令状を取るよう、レイに命じた。何分相手は前科者であり、Lの推理によれば90%以上の確率ですでに彼は<黒>なのである。一連のテロ事件の容疑者ということであれば、彼が捜査令状を取るのは、Lがわざわざ上に圧力をかけなくても、そんなに難しいことではないはずだった。



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【2008/08/16 19:17 】
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