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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(15)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(15)

 ラケルが誘拐されて以来、Lの顔つきには鬼気迫るものがあると、そうワタリは感じていた。「そんなに根を詰めては、お体に毒ですよ」と何度も言ってはみるが、当然効果はない。何より、攫われて二週間も犯人からなんの音沙汰もないということは、それはすでに殺されてしまっているという可能性が高いということだ。もし誘拐されたのが、Lのまったく見も知らぬ人間であったとしたら――Lはおそらく依頼主に、淡々とこう説明していただろう。
「お気の毒ですが、お嬢さんは死亡されている可能性が高いと思います。わたしはこれまで人探しをする過程で、行方不明となった人間にはいくつかのパターンがあると知っています。そして身代金目的の場合はほぼ数日以内に犯人から接触があり、その場合にはまだ対処の仕様があるのですが……残念ながらお嬢さんの場合はタクシーで誘拐された後の足取りが掴めません。存命されている可能性はゼロではありませんが、正直いってこれはもう、いつかどこかから遺体が発見されるのを待つ以外にない案件です。お悔やみの気持ちから、捜索のためにかかった費用等は、一切いただきません。それがわたしにできる、せめてものことですから……」
 だが当然、Lはこの時ラケルが生きていることを毛ほども諦めてはいなかった。それと同時に、生きている可能性が1%でもあるなら、どうか捜索し続けて欲しいと願う、親族たちの気持ちが今、痛いほど身にしみてわかってもいた。Lに<人探し>の依頼をするのは大抵、資産家の両親で、多くの場合は身代金が目的で攫われるケースが多い。そしてLはその手の事件をこれまで、数多く解決してもいるのだが――資産家の息子や娘の中には時々、親に反抗する気持ちからわざと<悪い世界>のほうへ飛びこんでいく場合がある。そうした時には、オーバードーズで死亡した遺体が発見されたりということは、そう珍しいことではなかった。
(わたしはこれまで、随分多くの事件を解決してきたと、そう自負している……だがもし、この世界に神が存在して、その返礼として今わたしの手からラケルを取り上げたというのなら、そんな存在をわたしは絶対許しはしない)
 Lは普段は無神論者である。だが、どん底に追い詰められた時に人間というものは、どうしても<神>という存在を意識するものらしいと考えて、微かに苦笑した。ラケルが攫われてから、ここ二週間というもの、食べ物にまるで味がしない。ただ、自動的に推理能力を維持するため、糖分を補給するアンドロイドか何かにでもなったような気持ちだった。
 もちろんワタリには、「平気だ。気にしないでくれ」と何度も言った。だが、本当は全然平気でないことは、彼自身にも隠しようのないことだった。<運命>ということを考える時に、人は二種類の思考法を持つと一般的に考えられているが――つまり、それはどの道筋を通ったにせよ避けられない出来ごとであるという運命予定法、もうひとつは誰かが何かの選択をしたからそれが起きたという運命選択法である。L自身は通常、後者のほうを信じている。だが時々、不幸にも理不尽な犯罪の被害にあった遺族が、「避けられない運命だった」と悲しくその状況を諦める場合があるのを、Lは知っている……何故なら、無理にでもそう思いこんで、発狂する寸前に精神が追いこまれるのを、守る必要があるからだ。
 そして、今このような事態になっても、彼にとっては『最悪のシナリオ』ではないということに、Lは深い悲しみと絶望に近い何かを覚える。ラケルを拉致したのが<K>である可能性が低い以上――まだLにとっては望みがあった。そしてそれが仮に残り1%の可能性であれ、彼は絶対に諦めるつもりはなかったのだ。と、同時に、なるべく他の仕事を出来るだけ減らし、今はロンドン同時爆破事件に一番の重きを置いている。そしてこの事件さえ無事解決出来れば――ラケルを捜索することだけに没頭できる環境を、自分自身に許すつもりでいた。
「レイ、引き続きジェイムズ・クロンカイトにのみ的を絞って事件の捜査を続けてください。通常の捜査の枠で想像されうることは、あなたの優秀な同僚たちが行っていることですから……奴のいるベルマーシュ刑務所では、面会時に麻薬のやりとりがほぼ日常的に行われています。それと同じように、爆弾の設計図や地下鉄の設置箇所等、細かい指示を出す書類のやりとりが必ず行われているはずなんです。手紙は外の人間から刑務所の中の人間に渡る場合――中身は確認されて違法なものが混入していないか調べられますが、手紙の内容までは確認されません。また、受刑者が手紙を出す場合には、必ず中身を閲覧されます……ゆえに、クロンカイトが外の人間になんらかの指示を出す場合には、必ずその中継役となっている者が存在するはずなんです」
『わかった、L』最初は半信半疑だったクロンカイトの容疑だが、今ではレイもある種の確信を持って捜査していた。『クロンカイトの面会に来るのは大抵、奥さんかふたりいる子供のどちらかなんだが――中に何人か、前に刑務所の中で世話になったという前科のある者が面会人のリストにはある。まず、ここから当たってみよう。それと思うんだが、クロンカイトのみに限って持ち物検査を厳しくするよう刑務所の職員に通達を出してはどうだろうか?』
「いえ、それは駄目です」と、Lは即座に答える。「それでは我々にとって、むしろ都合が悪い……今のうちは泳がせておいて、クロンカイトが外の面会人に会った時、彼が立てた計画書を手に入れられれば、それが動かぬ証拠となるんです。その線を狙ってください。つまり、クロンカイトに前科のある面会人が会いにきた場合――その人間が刑務所の外に出た時点で、警察に連行してきて取り調べを行うんです。何しろ相手には犯罪歴があるわけですから、任意にせよなんにせよ、警察まで連行する理由が何かひとつくらいあるはずです」
『さすがはL。了解した』
 レイは最後にそう明るく答えて、通信を切る。彼は現在、南空ナオミという元FBI捜査官の女性と、結婚を控えている身だった。おそらく、今回のロンドン同時爆破事件を無事解決できたとすれば――ロンドン警視庁における彼の地位は、今の警部補から警部に格上げとなるだろう。そして最愛の女性と結婚してゴールイン……Lにしては滅多にないことだが、彼はこの時、レイのことを羨ましく感じた。何故なら、自分にとっての最愛の人間は、Lの手から取り去られて、今どこで何をしているのかも、皆目つかめない状況が続いていたからである。



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【2008/07/14 00:32 】
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