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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(13)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(13)

 殺風景な部屋にひとりとり残されて、ラケルは深い絶望の底にいた。手をネックレスの後ろ――うなじのあたりにまわすと、小さな錠のようなものがついていることがわかる……鍵のほうはおそらく、あの男が持っているのだろう。
 ラケルは、自分のバッグが部屋の隅にあることに気づいていたので、なんとかそこまで手を伸ばせないかと思ったけれど――それは無理だった。鎖は約1メートルあるとはいえ、距離的にはほとんど不可能に近い。
「さ、ワンちゃん、こっちへいらっしゃい」
 ラケルは誘拐犯が出かけてから、ふて寝するように寝ていた犬が、目を覚ました時にそう言った。ベティはまるでラケルの言葉がわかったように駆けてきたが、「あのバッグをね、持ってきてほしいの」と何度指差しても、尻尾を振るばかりで、なんの理解も示さなかった。
 それでもラケルは根気よく、何度も挑戦したのだけれど、やはり無理なものは無理なようだった。「お手」と言っても尻尾を振り、「待て」と言っても尻尾を振り、「お座り」と言ってもベティはひたすら尻尾を振り続けるだけなのだ。
「やっぱり、駄目なのかしら……」
 でも、急がないと携帯の充電が切れてしまう。それまでになんとかベティに芸を教えこみ、自分のバッグを手元に持ってこさせることさえ出来れば……。
 そう思うのと同時に、ラケルはネックレスに手をやって、ぞっとした。ベティに部屋の隅にある自分のバッグを持ってきてもらおうとして、それが途中でぼとりと落ちた場合――あの男は、どんなに言い訳したとしても、それを逃げようとしたと解釈するかしもれない。いや、そうではなく、結局どちらにしても最後には殺されるのだと考えて、今出来ることを最大限に行うべきなのだろうか?
(Lと連絡をとることさえ出来れば……あとのことはきっと彼がなんとかしてくれる……)
 だが、もしタイミングが悪ければ、電話している最中にあの男が帰ってくるという可能性もある。それに、この小型爆弾が入っているらしいネックレス――これが作動した場合、自分は一体どうなってしまうのか……。
 ベティは何も知らぬげに、ベッドの上に上がってくると、ラケルに体をすり寄せじゃれついてくる。
「ワンちゃんはいいわねえ、気楽で……」と、ラケルは彼女の頭や胴体を撫でながら、呟く。
 そもそも、何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか、ラケルには理解できなかった。偶然乗ったタクシーの運転手が誘拐犯だったからといって、それをただ「運が悪かった」で片付けるつもりもない。これまでドラマや映画でなら、似たような設定のものをいくつも見たことがあったけれど――そんなこと、現実に自分の身の上に起きるはずがないと、心のどこか片隅で思っていたことに気づく。
(ドラマの殺人犯と、現実の殺人犯を混同しちゃいけないわ……ドラマや映画では大抵、極少数を除いて、主人公以外の女性は死んでしまうことが多いもの。もしあの男の人が言ったことが本当なら、わたしの前に何人か、女の人が攫われてきて殺されたということ……)
『もしあんたが、俺の望むような答えをくれるなら、生きたまま釈放してやってもいい』
 そうビュターンが言っていたことを思いだし、ラケルは彼の望む<答え>とはなんなのかと考える。もちろん、そのような彼にとって正解となりうる<答え>など最初からなく、自分が何を言おうがどんな態度をとろうが、殺される確率は極めて高い……けれど、縋れる可能性があるとすればそこだけだとラケルは思った。どんな悪人にも少なからず残された良心があるはず、と。もし、そこに働きかけることができれば、あるいは……。
 ラケルは確かにお人好しで、善意の人間ではあったが、この場合相手に多くを期待できないことは、流石にわかっていた。ただ、Lがネゴシエイターとして、アメリカで起きた連続殺人事件の犯人と交渉していた時――48時間かけて彼が相手を落としたことがあったのを、彼女は思いだす。もちろん、事件の詳細について、ラケルは何も知らない。それでも、Lが電話で話す声や、パソコン越しにワタリと話す内容などによって、時々彼がどんな仕事を手がけているのかが、彼女にもわかることがある。
(えーと、あの時は確か……捜査当局の人たちの反対を押し切って、Lが「自分には落とす自信がある」って言ったんだわ。まず最初に引き伸ばせるだけ話を引き伸ばしたり、後は事件に全然関係のないことでも、犯人にとって関心のありそうなことをたんさん話すことが大切だって……)
 そして最終的に、Lは犯人の心を開くことに成功したのだ。もちろん、ラケルはLと同じような心理的技術を持っているわけではない。だが、それでも――あの男に自分をすぐ殺す意志がない以上、可能性は低くてもまずは相手に<心を開いてもらう>ことが大切なのではないだろうか。
(それに、Lがしているのはいつも……情報収集……)
 ラケルはそう思い、なんとかTVの電源を入れることは出来ないかと、手錠の鎖が伸びるギリギリのところまで手を伸ばした。バッグのある場所とは違い、今度は手が届く。そしてリモコンを手にしてニュース番組を見ようとした。すると……。
『きのうの午後五時頃、ラケル・ラベット(24歳)さんが行方不明になりました。彼女は最後にタクシーに乗ったことがわかっており、その様子が監視カメラに映像として残っています。さらに、このタクシー・ドライバーのブラックキャブはPCO(公共車輌管理局)に登録されていないことがわかっており、警察では目下この男の行方を捜索するとともに、ラケル・ラベットさんについて市民のみなさんからの目撃情報を求めています……』
 その後、美人キャスターが原稿を読み上げる画面が、ラケルの顔写真、そして彼女がタクシーに乗った時の映像に切り換わる。ただし、監視カメラはタクシーの後方しか捉えておらず、犯人の顔は正面からも側面からもわからない形となっていた。
 その映像の中でラケルは、助手席の窓から顔をだす犬に話しかけ、そしてこれから何が自分の身に起きるかも知らずに、後部座席へ乗りこんでいる……この時もし、違法営業のタクシーであることを、自分がLみたいに見破ることができていたら!と、ラケルは再び絶望的な気持ちになった。
「あなたは少し注意力に欠陥があるというか、どこかぼんやりしてますよね、いつも」
 そうLに言われた時には、「そんなことありません。Lが異常なくらい鋭いっていうだけで、わたしはあくまでも普通なんです」とラケルはムッとしたように答えていたけれど……本当は彼の言うとおりだったと、彼女は今、心からそう思う。いくら本物によく似たブラックキャブでも、きっとよく見ればどこか不審な点があったはずだ。
『可愛いワンちゃんですね』
『いえ、顔はみっともないですが、確かに可愛い奴です』
 そう言って、男が帽子をとって挨拶した時――気づくべきだったのだ。彼はこれまでに何人もの女性を誘拐・殺害したことのある犯人なのだ、と。
 とはいえ、その時点で気づくのはおそらく、ラケルではなくても不可能に近かっただろう。けれど、自分が今置かれている絶望的な状況のことを思うと、ラケルはそう思わずにはいられない。とりあえず、TVのニュースでLが彼女のことを<行方不明>と見なしたことを、ラケルは理解した。そして彼もまた確かに自分のことを八方手を尽くして探そうとしてくれていると思うと――とても心強かった。
(なんとか、ここから逃げることを考えなくちゃ……)
 TVの電源を一度切り、ラケルはそう考える。自分の不注意のせいで、Lに余計な負担を……と、そう思いもするけれど、そのことを堂々巡りにいつまでも考えても仕方がない。それよりも、今の絶望的な状況を前向きに捉えて、今自分に何が出来るか、その最善の策を考えなくては。
 ラケルはLが、「わたしはこの座り方でないと駄目なんです。他の座り方では推理力が40%減です」と言っていたのを思いだし、何か名案が思い浮かびはしないかと、彼の真似をし、両足を立てて座ってみる。さらに、口許に親指を持っていき、赤ん坊のようにしゃぶりつつ、考えごとを巡らす。
「……………」
 だが、ラケルの頭の中に思い浮かぶのは、Lとの過去にあった思い出のことばかりで――彼女は次第に泣きたくなってきた。
『最近少し、痩せたんじゃありませんか?』
『え?そうお?』
『わたしが甘いものばかり食べてるせいで、食生活のバランスが狂ってたりしたら、申し訳ないです。それに、しょっちゅう飛行機であちこち移動するので……そのことがあなたの中でストレスになってないといいのですが』
『うーん、そうねえ。確かに甘いものを作ってると、それだけでお腹がいっぱいになっちゃうところはあるけど……でも、大丈夫よ。一応自分でも気をつけてるつもりだし。あと、飛行機であちこち行けるのも楽しいと思うの。Lは仕事で大変かもしれないけど、わたしはそんこと何も考えなくていいわけだし……』
『そうですか。なら、よかったです』
 飛行機のファーストクラスで、Lがほっとしたような顔をするのを見て、ラケルも嬉しくなって笑った。あれはまだ、一緒に暮らしはじめて間もない頃のことだ。モスクワ、チューリッヒ、ワルシャワ、プラハ、ヘルシンキ、上海、香港……あまりにたくさんの国へ行きすぎたせいで、全部の都市の名前を上げきれないほどだと、自分でもそう思う。それと同時に、まるで走馬灯のように思い出ばかりが甦ってくるので――ラケルはLの物真似をするのをやめた。じんわりと涙がこみ上げてきて、彼のことが恋しくてたまらなくなる。
(駄目よ、こんなことじゃ。しっかりしなきゃ……)
 けれど、Lのことから考えを逸らそうとすればするほど、ラケルはつらくてたまらなかった。今ごろ彼がどうしているか、自分の捜査のせいで、他の事件の進捗状況に遅れが出ているのではないかと思っただけで……苦しくてたまらなくなる。
(わたしさえしっかりしていたら、こんなことにならなかったのに……)
 そしてラケルは、このことは一体なんの罰なのだろうと、悲しく思った。自分が過去にどんな罪を犯したから、神さまは罰として自分を今こんな目に遭わせているのだろうと、自問自答する。
 その答えとしてラケルは――ひとりの着物を着た初老の女性の姿が心に思い浮かぶのを感じた。自分の育ての母親。一生懸命愛してもらおうとして、決して一番欲しいものをくれなかった人……けれど、彼女の中でそれは恨みというほど陰湿な感情ではなかった。それでラケルは首を振る。
 ラケル自身は現在、イギリス国籍を取得しているので、日本の大使館に行方不明の報がまわったりすることはないはずだった。TVでの目撃情報を求めるニュースも、おそらくLはイギリス国内だけに流すようにしただろうと彼女は思う。ゆえに、今は外交官を引退した義理の父も専業主婦の義母も、このことは知らないはずだった。
 ラケルの義理の両親は今も、彼女がワイミーズハウスで気の毒な孤児たちの世話をしていると、そう信じている。おそらくヘレン・ケラーに言葉の意味を教えたサリヴァン先生と同等くらいの気持ちでそう思っているだろう……けれど、彼女が最終的にワイミーズハウスで教師になることを選んだのは、自分の両親――特に義母から逃げたかったからに他ならない。
 ラケルが三歳の時、顔も覚えていない実の両親は、家に忍びこんできた強盗に殺されてしまった。その後、一時的にワイミーズハウスに附属している乳児院へ送られ、子供のいない日本人夫婦に拾われたと、そういったわけなのだった。
 その時、ラケルの義父となった人物は英国大使館に外交官として勤めていたけれど、義母は祖父の病気のために日本へ帰国することになった。当然、赤ん坊のラケルもまた、日本で育つことになり、高校を卒業するまで、インターナショナル・スクールに通った。普通の日本の私立校に通ったのでは、髪の毛や瞳の色の違いからいじめられるかもしれないと義母が心配してのことだった。
「本当はわたし、黒い髪に黒い瞳の、可愛い日本の女の子が欲しかったのよ」
 いつも着物を着て、身だしなみのきっちりしている義母は、夏になってラケルが浴衣を着ると、いつも必ずそう言った。食べ物や着る物、生きるのに必要な教育といったことは、確かにすべて彼女は惜しみなく与えてもらったけれど――そのかわりに、精神的には虐待されて育ったといってよかっただろう。ラケル自身も暴力を振るわれたりしたことは一度もなかったので、義母がいつも心にチクリとくるような一言を言っても、それを<虐待である>とはまったく認識しなかった。ただいつも、どうしたら義母に気に入ってもらえるのか、愛してもらえるのかと、そう考えては小さな頭を悩ませるばかりだった。
 ラケルの両親となった人たちは、結婚して十年が過ぎても子供が授からなかったので、養子をもらうことにしたわけだが、義父は<フランス人形みたいに可愛い女の子>、義母は<日本人形のように可愛い女の子>が欲しいということで、意見が別れていたらしい。けれど、義母は最後には義父に意見を譲ったらしく、<強盗に両親を殺された可哀想な女の子>をもらいうけることを了承したというわけだ。
 もちろんラケル自身、自分の義理の両親と髪の毛や瞳の色が違うので、物心がつく頃には自分と彼らの間に血の繋がりがないということは十分理解していた。幼稚園へあがる頃には、将来は義父と義母が誇りを持ってくれるような人間にならなくてはと心に決めた。七夕のたんざくに「はやくおとなになりたい」と書いて、保育士の先生がわざわざ家にまで電話をかけてきたこともある……ラケルが先生に何故早く大人になりたいのかと聞かれて、「十年たって親孝行するまで待てないの」と答えたからだった。むしろそんな早熟さに何か危険なものを感じたせいらしい。
 とにかく、ラケルは小さな頃からそんな感じの子供だったので、勉強のほうは算数と数学をのぞいては、とてもよくできた。けれど、義母はむしろ点数の高い教科は仮に百点でもそう褒めず、悪い教科について叱ることのほうが多かった。何故彼女の態度がいつもそんなふうなのか、ラケルにはわからなかったので、とにかく努力を続けたわけだけれど――最後には結局「この人は自分が仮に全教科百点とったとしても、満足する人ではない」と悟るに至った。
 そうわかるのに約十年以上もの時を費やしてしまっただろうか。そしてラケルは今度は、義母や義父に褒めてもらうためではなく、<自分>のため、自分の将来のために本当の努力をはじめようと思い、イギリスのオックスフォードを受験することに決めた。義母は日本にもいい大学はたくさんあると言ったけれど、ラケルは日本という国を――何より、義母自身の元を去りたくてたまらなかった。幸い、ロンドンの大使館で勤めたあと、日本へ戻ってきていた義父は、彼女の味方だったので助かった。彼は何より、このブロンドの髪の美しい娘が自慢で、人前でも恥かしげもなく彼女のことを褒めちぎったものだった。ラケルも、義母はともかくして、彼のことは本当に大好きだった。けれど、義母はむしろ、義父が自分のことを褒めるたびに、何か面白くないような顔をするのだ。そのことをおそらく、はっきり言葉にしなくても、彼自身よく気づいていたことだろう。
「窮屈な家にもらわれてきて、おまえもつらかったろうね」
 イギリスのオックスフォードの寮まで送ってきてくれた時、義父は最後にそう言った。
「これからは自由に、思ったとおりに生きていいんだよ」と……。
 けれど、<自由>というのは、自己責任の伴うとても重いものだ。ラケルはオックスフォード大学でフランス文学を専攻していたが、将来自分が何になりたいか、何をしたいかと問われれば、なんて答えていいかわからなかった。とにかく、こなさなければならないカリキュラムが多すぎるので、毎日レポートの提出に追われるばかりで日は過ぎていく。
 そして秋の入学式、クリスマス休暇、春、進級試験、初めての夏休み……が来る頃、ラケルは思いきって<自分探し>の旅にでることにした。まず、実の父と母が亡くなった時の記事を大学の附属図書館で探し、そのあと自分の両親が雑貨屋を経営していたという、今は小さなレストランになっている家を訪れた――その店を切り盛りしている女性は、レストランの隅で泣きじゃくるラケルのことを不審に思い、彼女から事情を聞くと、なんだったら店の奥の部屋も全部見てもいいと言った。
 当然、当時まだ三歳だったのだから、何も覚えているはずなんてないのに……ラケルはその場所にいるだけで涙がでて止まらなくなった。そして、実の両親がもし強盗に殺されさえしなかったら、自分の人生は今とは百八十度違っていただろうと思うと、何か不思議な気がした。
「あの時の事件のことはよく覚えてるよ」赤い髪の、初老の女店主はラケルに紅茶をご馳走しながら言った。「あの犯人はふたりも人を殺しておきながら、たったの二十二年しか懲役を食らわなかったのさ。イギリスじゃあ50%が実刑で50%が仮釈放期間になるからね……言ってみればまあそいつは真面目に刑期を勤めあげれば、たったの十一年で刑務所から出てこれるってことさ。こんな馬鹿なことってあるかい?」
 ラケルは、とても親身になって話を聞いてくれた女性にお礼を言うと、ワイミーズハウスという孤児院のある場所を聞いた。その裏手に両親が眠る墓地があるためだったが、自分が赤ん坊の頃、ほんの一時期いたことがあるというその場所を通りかかった時――なんだかとても懐かしいような気がして、その庭の中へ迷いこんだ。そしてその時偶然、院長室の窓からロジャーに呼びとめられ、彼女はオックスフォード大学を卒業後は、この孤児院で是非働かせてほしいと頼みこんだのだった。
 ロジャーはこの孤児院で教師として働くには、いくつか厳しい試験があると言ったあと、心理テストも含めたすべての試験にあなたがもし合格したら、雇ってもいいですよと言った。あと二年して、無事あなたが大学を卒業し、その時にも今の意志が変わっていなかったら、と。
 こうして、ラケルはその一生を子供たちの教育に捧げる覚悟でワイミーズハウスへやってきた。担当するのは主に小学生くらいの子供のクラスで、そこで彼女は教師という職業に一生を捧げてもいいとさえ思うようになる……結婚をしたいとは、まるで思わなかった。そして結婚はしたくないけれど、子供は欲しいと望む彼女にとっては――孤児院というのはうってつけの職場だったといえる。
 ワイミーズハウスへ来て半年にもならないうちに、ケンブリッジ卒、経済学担当のアンダーウッドという教師がラケルにプロポーズして断られたことがあったが、それは次のような理由によってだったといえるだろう。その時もっとも教師魂というものを燃え立たせていた彼女にとっては、相手が高学歴の好青年であれ、論外だったといえる。それなのに、何故Lなら良かったのかといえば――彼が自分のことを確かに内面まで「見た」上で、プロポーズしてくれたからだと、彼女はそう思う。
(でも、わたしたちの結婚は最終的に失敗だったのかもしれない……)
 今自分が置かれている状況のことをかえりみて、ラケルは切ない溜息を着く。今までずっと、彼の足手まといや邪魔にだけはなりたくないと思ってきたのに、まさかこんな事態が自分の身に起こってしまうだなんて……。
 もちろん、毎日TVのニュースを見ていれば、誘拐や殺人、強姦といった事件はほぼ毎日のように起きている。その被害者に自分だけは決してなることはありえない、などとラケルは思ったことはない。第一、Lはそうした犯人を捕まえるためにこそ、日々忙しく寝る間も惜しんで懸命に働いているのだ。
(でもきっと、心のどこか奥底のほうでは、そんな目にあわなければいけないような、悪いことは自分は何もしていない……そんなふうに思う気持ちがあったのかしら)
 犯罪の被害者の中には、なんの罪もない人が数多いというのに――自分の心の底にそんなふうに傲慢に思う気持ちがあったら、今罰としてこんな目に遭っているのだろうか……そんなふうにさえラケルが考えていると、不意にフラットの鍵が開く音がした。
 男が、帰ってきたのだ。



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【2008/07/02 12:07 】
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