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L家の人々、第六話
 第Ⅵ話 エディプス・コンプレックス?

「お父さん、近日中にこちらへ本拠を移すんですって」
 次の日、食事の席にメロとニアが揃った時に、ラケルはどこか気の乗らない口調でそう言った。彼らは互いに顔を見合わせて、「嘘だろ?」というような表情をしている。それが何故なのかはラケルにもなんとなくわかるような気はした――最初の頃はともかくとしても、今はもうLの不在にふたりとも慣れきってしまっている。だから、今度は逆にLが一日の大半をこの家で過ごすとなると、何かと面倒なことになりそうだと想像しているのだろう。
 実をいうとそれはラケルにしても同じことで、『捜査の本拠を移す』というのが具体的にどういうことなのか、彼女は知らなかったけれど――それでも時にピリピリした空気が居間のほうにまで漂ってきたりするのだろうと予想していた。それに食事のことにせよその他のことにせよ、これからはLの意見を第一に重視しなくてはならないだろうと思うと……今の二倍くらい気疲れしてしまいそうなのは火を見るより明らかだった。
(まあ、Lが家長で実際には何もかも取り仕切っている以上、当然といえば当然のことではあるんだけど……定年退職した旦那が毎日家にいるのを鬱陶しがる主婦の気持ちがわかるような気がするのは何故?)
 Lは最初『近日中』と言っていたが、それは正確には二日後のことだった。しかも彼はたったの一日で家のセキュリティを万全なものとし、一体いつ寝ているのかわからないような生活をしはじめたのである。
 正直いってこれにはラケルも参った。彼女が朝起きる時にはすでに彼は何か仕事らしきものをしており――防音装置のついた部屋に閉じこもりきりとはいえ、起きているか寝ているかくらいは気配でわかる――その後二十日間、Lがラケルより先に就寝するのを見たことが、彼女は一度としてなかった。その上、食生活のほうも極めて不規則で、いくら彼が自分のことは気にしないでいいと何度も言ったとはいえ、自分だけが三食規則正しく好きなものを食べていることに、ラケルは徐々に罪悪感に近いものさえ覚えつつあった。
「べつに気にすることはないですよ。何故といってあれが『L』ということなんですから」と、ニアは言った。「そして彼の仕事を継ぐことが、僕たちの目標でもある」
「まあ、女にはわからないかもしれねえけどな」
 ニアだけでなくメロまでが、Lに気を遣ってか、最近は食事以外では滅多に下へおりてこないようになっていた。しかも彼はLが家にいるようになってからというもの、無断で外泊するのを控え、どんなに遅くとも夜の十二時前には帰宅するようにさえなっていたのである。
(あーあ、なんかつまんないの。Lがここにきてからというもの、ニアちゃんもキッチンでお遊びしなくなっちゃったし……まあ、なんでも協定を結んだとかで、Lの前では見苦しい兄弟喧嘩はしないなんて言ってたけど……こうなってみるとあのふたりが喧嘩してくれてた頃のほうがまだよかったというようにさえ思うわ)
 ところが――二十日間、何ごともなく平和が続いていたにも関わらず、それはなんの前触れもなく突然打ち破られた。Lが家にいるということの重圧感がだんだんにラケルの神経を参らせ、とうとう彼女は倒れてしまったのである。
 何せLは不規則な時間に部屋からでてきては冷蔵庫から甘いものを何かとって食べ――ラケルが話しかけても、「いやいいです」とか「今忙しいんで、放っておいてください」というような趣旨のことしか言わないのだ。最初から部屋には入らないようにと言われていたけれど、それでもドアが開くたびにいちいちドキッとしたり、どうせ食べないとわかっているのに「食事は……」と毎度話しかけたりするのは、彼女にとってはつらいことだった。ようするに、過度の神経疲れが祟った結果ということなのだろう。
 メロはラケルが居間で倒れているのを見た時、咄嗟に隣の通信制御室にいるLのことを呼びそうになったが、大声をだしかけたところでやめた。
(……どうせ、貧血か何かだろうしな。少し寝て、うまいものでも食えば治るだろ)
 メロはラケルのことを抱きあげると、(女ってやつは軽いな)と思った。そして彼女の寝室にラケルのことを運び、しばらくの間その寝顔をじっと見続けた――時々、板チョコレートをパキッと食べながら。
(まったく、Lの奴も何を考えているんだかな。少しはこいつの身になって考えてやれっての。もともと細いのに、これ以上こいつが痩せていったら、絶対にLのせいだぞ)
 メロはノースリーブの袖口から伸びる、ラケルの腕と自分のとを思わず見比べた。指で青く浮きでている血管をいくつかなぞってみるけれど、彼女に起きる気配は一向見られない。
(……キレイだな)
 ラケルの額にかかる髪を、メロはよけながらそう思った。そして次の瞬間には彼女の唇に自分のそれを重ねていた――もしかしたら起きるかとも思ったが、彼の設定上の義理の母親は少し身じろぎしただけだった。それでメロはほっとして、板チョコをかじり続けていたのだが、
「……メロ。今のはどういうことですか」
 寝室のドアの横に、いつの間にかパジャマ姿のニアが立っていた。内心ぎくりとしなかったといえば、もちろん嘘になる。だがメロは悪びれる様子もなく、開き直った態度のままでいた。
「べつに。ババアにチョコレート食わせてやっただけ。糖が脳のほうにでもまわれば、そのうち目を覚ますだろ……こいつ、俺たちと違ってLのことを知らなすぎるからな。放っておけばいいのに、毎日色々気を遣って疲れたんだろ。居間でぶっ倒れてたから、こっちまで運んでやったんだ。まあ、今のは運送料ってとこだな。こいつこう見えて、意外に結構重いし」
「僕が聞いてるのは……そういうことではありません」ニアは急に厳しい顔つきになると、義理の兄に挑むような目つきをした。「ラケルさんはメロが面白半分にどうにかしていいような人間じゃないって言ってるんです。もし今のようなことをもう一度したとしたら……」
「したらどうするんだよ?」メロはニアのことを挑発するようにチョコレートをぺろりとなめている。「どうせおまえだって同じことだろ?せいぜいいって、こいつはたくさんある玩具のひとつってとこだ。ただし、等身大の、な」
 久しぶりにふたりが睨みあっていると、居間のほうから何かがさごそと物を探すような音が聞こえてきた。メロとニアはハッとしたが、Lはゴミ箱の中に捨ててあった紙屑を拾いあげ、「あったあった、これこれ」などと呟いて、また自分の部屋に戻っていった。
「……今の、聞かれていたと思うか?」
 メロはラケルの寝室をでると、隣のニアにそう聞いた。
「さあ……もともとLは地獄耳だからなんとも……大体この家が狭すぎるんですよ。下にはキッチンと食堂の他に、居間を挟んでラケルの寝室とLが仕事部屋に使っている部屋しかない。二階は僕とメロの子供部屋だけだし……」
「まあいいさ。仮に聞かれていたとしてもな。俺はLに賭けのことがバレるより、ババアの耳にそれが入ることを阻止したい」
「当然です。僕たちに悪気はなかったとしても、彼女は傷つくかもしれませんから……この家で彼女のことを母親だなんて思っているのは、実際には自分ひとりだけだったなんて、寂しい思いをさせるのは可哀想です」
 ふたりはベッドの上で安らかな寝息をたてているラケルのことを振り返ると、とりあえず彼女の耳には今の自分たちの会話が間違いなく聞こえていなかったことを確認して、ほっとした。
「ここではなんですから、二階で話の続きをしましょう。賭けの条約の中には、今後一切ラケルには触れてはならないという項目を入れますよ。いいですね?」
「へいへい」
 メロは食べ終わった板チョコの紙屑を居間のゴミ箱へぽいっと捨てた。彼らはもちろんLが自分たちの話を聞いていたかもしれないと考慮してはいたけれど――あれだけ捜査で忙しいらしいLが、そんなつまらないことにいちいち気を留めるとは思わなかった。だがLにしてみれば、ふたりの設定上の息子の態度の変化、それを探るためにこそ本拠を一時的にこちらへ移したともいえるのだ。Lは居間のゴミ箱に重要な紙切れを間違って捨てたというような振りをしていたけれど、(なるほど。そういうことか)と、ようやく確証を得るに至った。そしてそうとわかったからには、さっさと家庭内の問題を片付けて、この家を畳み、メロとニア、そしてラケルには早々にイギリスのワイミーズハウスへ戻ってもらおうと考えていた。


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【2007/10/08 18:57 】
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