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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(11)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(11)

(もしわたしがあの時、ラケルに地下鉄やバスを使うなと言わなかったとしたら……)
 Lはもはや考えても仕方ないことと思いながらも、ラケルが行方不明になってから、何度もそのことを考えていた。そしてその度に首を振って、とにかく彼女が無事であることを祈ると同時に、これからの対策について考えを巡らせることにする。
(携帯の電源が入っていた最後の地点から、彼女は今離れたところにいると考えられる。その付近はすでに、捜索隊に調べてもらったが、警察犬はどこからもラケルの匂いのようなものを探知しなかった。わたしにとって、唯一救いがあるとすれば、そこだ……時刻はすでに、あたりが暗くなってからのこと。もし<K>の手の者がラケルを誘拐したとすれば、そのあたりで彼女を下ろし、例の飛行物体でラケルのことを運んだはず……)
 ビュターンは、道の両サイドに平原が広がる郊外から引き返す時――ラケルのバッグの中から携帯を取りだして、その電源を切っていた。ハムステッドのフラットに戻った時も、彼がラケルの携帯を見たのはほんの数秒で、それは記録としては残らなかったのである。
(もし、<K>の手の者でないなら、一体誰が……それとも、これは本当に偶発的な事故なのか?)
 ロンドンで同時爆破事件があり、ちょうど市内は最高厳戒態勢にあった(一度は犯人が逮捕されたことで解除されたが、その後また、元に戻ることになったのである)。その中で動くとすれば、殺人や強姦への衝動を抑えきれない犯罪者以外いないということに、Lの中ではどうしてもなってしまう……。
 もちろん、<K>がそうした異常犯罪者に影で命じて、Lへの嫌がらせのためだけに、ラケルを殺してテムズ川にでも放置させるということは、可能性としてゼロではない。だがそれでも、今回のこのやり口は少なくともKではないと、Lはそう考えていた。
(もちろん、その線は最後まで捨てきれませんが……まわりにUFOが離着陸するのに好都合な平原があるにも関わらず、その痕跡がまるで見られなかった。何より、今回のやり口は<K>らしくない……)
 L自身には<K>との直接の面識は一度もない。もっとも、向こうは赤ん坊の頃の自分を知っているらしいが。彼は十四歳の時に発狂し、<エデン>にいた科学者たちを皆殺しにしたと、Lはワタリから十三歳の時に聞かされた。その中で唯一、ワタリとロジャーだけが生きて研究所施設を出されたのだ。その時彼は、「ワイミー、ひとつ私とゲームをしようじゃないか」と言ったという。そしてそのゲームのルールとはこうだった。
ルールその1、もし彼の父親、ローライト博士の最高傑作である<L>が成長し、自分に匹敵するような力を持ちえたとしたら、再びエデンで会うことも可能だろう。
ルールその2、その間、自分はワイミーにもロジャーにも、L自身にも基本的に手出しは一切しない。ただし、<L>が自分にとって興味も何も抱けない人間として成長した場合、なんらかの形で死んでもらうことになる。
「解釈として難しいのは」と、まだ少年のLにワタリは厳しい顔をして言った。「わたしとロジャーとアベル……いいえ、L。あなたの基本的な命の保証はされているものの、その近親者の命までが守られているわけではないということです。エデンを出る時、わたしとロジャーは目の前で仲間が次々殺されていくのを見て、自分たちの命が助かるならなんでもするという心境でした……そのせいもあって、自分たちのほうから細かいルールの設定を要求することまでは無理だったのです。<K>はあなたのことをとても憎んでいる――それも、あなたのあずかり知らぬ理由によって。彼は仲間たちを殺すよりもまず真っ先に、自分の母親、そして父親を殺しました。<K>も確かにある意味で本当に気の毒な子供だった……それが彼が発狂した理由でしょう。狂った、などと言っても、天才というものにはもともとどこか、そうした狂気に近いところがありますからね。<K>はその狂気をもコントロールする天才とでも言えばいいのでしょうか。ただし、そのかわり時々、気分にむら気があって、気まぐれに事を起こすことがあるのです。その気まぐれの発散として、わたしやL、そしてロジャーの近親者が何かの危険に晒されるという可能性は、ゼロではありません」
 それにも関わらず、ワタリがスーザンと結婚したのは、<L>のために母親の代わりとなる人間が必要だったし、年の近い子供がそばにいるのも、彼の情操教育に必要なことではないかと判断してのことらしい。
 Lがラケルと一緒に暮らしはじめた時も、まだ迷いはあった。彼女を一度抱いてしまえば、自分は手放せなくなるだろう……だが結局Lは、ワタリが言った「あなたにもひとりの人間として幸福になる権利と義務がある」という言葉に縋ってしまったのだ。「特に、義務のほうがあなたの場合は大切ですよ」と言ったその言葉に。
(それがまさか、こんなことになるなんて……)
 ワタリが言ったのはようするに、<K>の気まぐれを怖れるというのは、ある意味相手の思うつぼでもある、ということだった。Kが見たいのは何より、自分の憎む対象であるLが、なんの手出しをしなくても苦しむ姿であるらしいからだ。
 Lは、ロジャーがその昔作成した、<K>についてのプロファイリング、心理学的性格分析を行ったそのファイルを持っている。それにはロジャー自身の手で描かれたカインの、十四歳の頃の似顔絵も添付されていた。Lはそれを元にさらに、現在(四十歳)の彼の顔をモンタージュ写真として作成し、さらに彼が二十歳代、あるいは三十歳代の頃の容貌を保っていることも想定して、年代別に構成し直してもいた。
 向こうに完成されたクローン人間の技術があるために、ラケルが戻ってきた場合、Lとはすぐに暮らすことは出来ないと、彼自身にもよくわかっている。だが、それでもいい、早く戻ってきてほしいと、Lはそう願わずにはいられない。
今のところ<K>が、クローン人間を多く送りこんでいるのは、おもに国防関係の人間であるということまでは、Lにも掴めている。つまり、<エデン>と呼ばれるアイスランドの基地――そこをアメリカやロシア、その他ヨーロッパなどの諸外国に情報として掴まれては困るということだ。そこで国防関係の重要人物は大抵、<K>の配下の者によってクローン人間とすりかえられ、操られている。つまり、逆にいうとすれば、これとまったく同じことを<K>がLに行うということも可能だということだ。たとえば、ラケルをクローン人間とすりかえて、Lの元に戻ってこさせ、L自身のことを殺させるというのも、可能性としてまったくゼロではない。
 そうした事情から、ラケルは無事戻った場合にも、Lとの面会は不可能になる。ちょうど先日、『健康診断』と称して取ったデータがあるので、脳波や心電図にはじまり、また色々と複雑な検査をさせられた後で――間違いなく<本人>であると確認されるまでは、会えないことになるだろう。もしかしたらその過程でラケルがLに不信感を持ち、それ以降にまた一緒に暮らしたとても、もう前のようには戻れないかもしれない……。
「<K>は確かにわたしやロジャーの命の保証はしてくれましたが」と、ワタリはLに<真実>を話してくれた時、最後にこう言った。「それも決して絶対というわけではないのです。たとえば、わたしやロジャーと連絡が取れなくなったり、わたしたちのうちどちらか一方が突然姿を消した場合――戻ってきた時には必ず疑ってください。基本的に、ロジャーのことはわたしが疑い、わたしのことはロジャーが疑うでしょうが……L、あなたにもその覚悟をしておいてほしいのです」
 そして、最悪の場合はわたしを殺すように、そうワタリに告げられた時、Lの心は文字通り凍りついた。そんなこと、できるわけがないと思うのと同時に、この残酷な真実を告げるために、これまで彼は自分を育ててきたのだと思うと――悲しみと苦しみで胸が押しつぶされそうだった。
 もちろん、それ以上の愛と慈しみ、そしてLに許しを求める心が、ワタリにあったことは重々承知している。それでも、そう告げられた時はまだ少年だったこともあり、Lには大きなショックだった。
 それから十年以上もの間、雲の上の存在ともいえる、<K>のことをLはずっと追ってきた。その過程で彼がLのためにわざと足跡を残すことがあるということを、彼は知っている。ワタリが将来的にLをサポートするために、企業経営に乗りだした時も――<K>は一度だけ、揺さぶりをかけてきたことがあると、ワタリは言っていた。それはLが十歳になるかならないかの時のことで、ワタリが順調に企業の業績を伸ばすそのただ中で、一度だけ経営危機に陥り、倒産寸前まで追いこまれたことがあったという。そして最後にギリギリのところでなんとか息を吹き返したが、それはすべて<K>の仕業だとワタリは確信していた。そうして、自分が<その気>にさえなればどんなことも出来るということを見せつけたのだろう、と。
(やはり、わたしは結婚なんてすべきではなかった……これまで、<K>を追う過程で、何人もの人間が死んだ。血で汚れた手で、本当は彼女に触れたりすべきじゃなかったのに……)
 これは、分不相応な幸福を求めたことに対する罰なのかもしれないと、Lはそう思い、両膝を抱えたまま、そこに顔をうずめた。だが、それもほんの数分のことだった。落ちこんでいる暇があったら、ラケルを捜索・救助するために、自分に今できること、手を打てることすべてを行わなくてはならない。
 そして、ロンドン同時爆破事件の真犯人については――レイの地道で懸命な捜査活動から、ある人物の名前が、Lの脳裏には浮かんでいた。ジェイムズ・クロンカイト。わかっているだけで55人もの人間を殺したとして、現在終身刑でベルマーシュ刑務所にいる男だ。何故彼の名前が捜査線上に浮かんだかといえば――ロンドン・テロに加わった人間は全員、それぞれがいた刑務所で、一度は必ずクロンカイトに世話になっていることがわかったからだ。
 もちろん、たったこれだけのことでは、クロンカイトと今回の事件を結びつけることは出来ない。だがそれでも――Lの探偵としての本能が、こう告げるのだ。この男こそが犯人だ、と。
 レイにもそう考えるのは少し無理があると言われたが、Lはあくまでもその路線に拘るつもりだった。現段階では証拠は何もないにしても、絶対に奴の悪巧みを暴き、クロンカイトが現在刑務所で受けている特典のすべてを奪ってやると、そう思う。
イギリスの司法制度に死刑はない。ゆえに、クロンカイトに終身刑以上の刑の執行は行えないにしても――Lはその点については、不思議と宗教的倫理のようなものを信じていた。この世で正当に裁かれなかった者は、地獄で永遠の劫火に焼かれたまま、死ぬことさえ許されないだろう、と。



 
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【2008/06/30 08:48 】
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