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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(8)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(8)

(さて、どうしたものか)
 Lは、ラケルが重要な真実に行き着きそうなことを思い、冷めた紅茶にポチャリと角砂糖を落としながら思う。このまま自分が黙ったままでいた場合――彼女はエリスに本当のことを聞こうとするかもしれない。そうなっても、エリスは「わたしの口からは何も言えない」としか、おそらく言わないだろうが……そうなったら、自分の口からすべてのことを説明する以外はないだろう。
 引き続き、捜査の進展状況や犯人の供述に目を通しながら、Lは同時に考え続ける。もし自分が彼女にプロポーズしていなかったら――おそらく今ごろは捜査にだけ没頭していただろう。だが、ラケルのことを自分の推理を邪魔する、余計な存在とは彼は思っていない。確かに厄介なことにはある意味厄介ではあったけれど……。
(ようするに、犬と一緒ですよね。犬を飼うと、散歩とかエサやりとか、色々手間がかかります。わたしも昔、犬を飼っていたことがあるのでわかりますが、その代わりに彼らは何にも替えがたい愛情と癒しを与えてくれるんです)
 そして、ただ……と、Lはカップの中に詰めこまれた角砂糖を見て思う。そのかけがえのない存在を失った時の打撃もまた大きい、と。Lが十歳の頃から約二年の間飼っていた犬は、交通事故が元で死んでいた。そのせいかどうか時々、Lはラケルもまた何か不慮の事故で死ぬのではないかと、不安になることがある。
(もちろん、考えすぎとは思いますが……現在彼女についてわたしが感じている脅威は次のふたつ。ひとつ目はエリスが言っていたとおり、ラケルが<K>の配下の者に連れ去られること、もうひとつ目は今回のロンドン・テロのような、不運としか言いようがない事故に巻きこまれた上、命を奪われる、あるいはそうならないまでも自分と離れたほうが彼女の身の安全が守られそうな場合には……)
 離れて暮らすしかない、とLは考えて、溜息を着く。そうしたくないからこそ、ラケルには何も言わずにおいているのに。
(まあ、今はそんなことよりも、この爆弾魔には色々説明してほしいことがある)と、Lは一旦思考からラケルのことを追いだすことにした。犯人の名前の欄にグレアム・グリーンと書かれているのを見て、Lは思わず笑ってしまう。おそらくMI6のロバート・カニンガム長官や、その他の諜報員たちも今の彼と同じ気持ちになったことだろう。グレアム・グリーンといえば、その昔MI6のメンバーだったことのある有名作家と同姓同名だったのだから……ちなみに、彼の執筆した『ヒューマン・ファクター』はスパイ小説の傑作として名高い。
(まあ、そのことは一旦置いておくにしても、供述にいささか曖昧な点がある上、矛盾したことを言ってもいるな)
 取り調べの初期の段階では、こうしたことはよくあることだ。犯人が言い逃れをしようとしたり、出来るだけ刑を軽くするために真実を述べなかったり……そこでLは、まず彼にイアン・カーライルの犯行を模倣したのかどうか、聞くようにさせた。すると犯人は途端に、自分の他にも仲間がいると口を割ったのである。
『へへ……残念だったな。これ以上、あんたたちは俺に何を聞いても無駄だぜ。だって、仮にどんな拷問にかけられたとしても――俺は本当に何も知らねえからだ。俺は十代の頃からマリファナやヘロインの所持で刑務所を出たり入ったりしてる……ここまで言えば、頭のいいあんたたちのことだ、もう全部わかるだろう。俺は一キロ三万五千ポンドのヘロインと引き換えに、今回の事件を起こした。ただ、キングスクロス駅へ行って、決まった時間に携帯のボタンをポチッと押せって、そう言われただけさ』
 取り調べの様子を映した監視カメラの映像を見て、Lは(なるほど、なかなかよく練りこまれた犯行だ)と、不謹慎かもしれないが、感心する。
(これはようするに、トップに司令塔となる頭の切れる人間がいて、後のことは分担作業で行ったということだ……これはわたしやカーライルの考える爆弾魔の犯人像により近い)
 Lが最初に、この爆弾魔はおそらく単独犯だろうと考えたのは、そういう理由からだった。物理的にはどう考えても複数犯を想定せざるを得ないが、精神的な意味合いにおいてはおそらく単独犯であると彼は踏んでいた。パソコンの画面には、引き続きグリーンを訊問する様子が流れているが、正直、この男からはそう大したことは何も出てこないだろうとLは思う。ヘロイン欲しさに言われたとおりのことをする人間は、このロンドン、いやイギリス中に数えきれないほど大勢いるからだ。一方に爆弾を作る人間がおり、それを素早くセットするよう仕込まれた人間、また仕掛けられた爆弾を時間通りに起爆させる人間……Lの推理が正しければ、おそらく――それぞれがバラバラで、顔見知りでもなんでもない連中のはずだった。それはちょうど、今Lがやっているのと同じ手法だ。MI6のカニンガム長官もスコットランドヤードの上層部も、Lについては何も知らない。だが、無償で捜査に協力してくれるLに対して、彼らは特別な敬意を払ってくれている……。
 そこまで考えて、Lはにやりと笑った。まるでこれは、自分に対する挑戦状のようだと、そう感じたからだ。
 グレアム・グリーンのことを、雑巾を絞って一滴の水も出ないまでに絞り上げることは確かに重要だが――(それ以上に)と、Lは思う。このバラバラのピースを拾い集めることは、優秀なテロ対策課の人間に任せるとして、自分はもっと別の方面から責めなければならない、と。そこでまず、グリーンの前科やいた刑務所の場所、それぞれの服役年数などを調べはじめる……ちなみに、最後にいた刑務所はロンドンにあるベルマーシュ刑務所だった。
(ここだな)と、見当をつけたLは、スコットランドヤードからひとりの捜査官の力を借りることに決める。レイ・ペンバー警部補――彼とは以前にも一度、仕事をしたことがある。それは大量殺人犯、ジェイムズ・クロンカイトの一件だった。だがまさか、その時の犯人と同じ人間に行き着くために、自分がレイと再び組むことになったのだとは……流石のLも、今の段階ではわからぬことだったのである。

 続く数週間、Lは文字通り捜査に没頭した。こうなると彼は、ラケルのことなど眼中にもないという様子になる。ただ機械的に決まった時間に甘いものを運んでくれる家政婦並みの扱い――そのことを仮にラケルが詰ったとしても、当然すぎるほど当然なことではあった。だが彼女は、一緒に暮らしはじめてからすぐに、そのことについては諦めていた。第一に、Lが人の命の懸かった事件を取り扱っていることが上げられただろうが、二番目の理由としては、彼がそのあと必ず<埋め合わせ>をしてくれる人間だったからだろうか。ただ、ラケルはその時が訪れるのを――御主人様が帰ってくるのを待つ犬のように、時々ふて寝して待つ以外にはないのだった。
(あーあ、なんかつまんないの)と、ラケルは編み物をしながら思う。これはLが構ってくれないことに対する愚痴ではない。今、TVでは何も面白い番組をやっていないということに対する愚痴である。
 ラケルはいつも大抵、午後の時間はつまらないドラマをつけっぱなしにしていることが多い。保険金目当ての殺人やら、許されぬ不倫愛やら、夫の愛人殺しだの、何かその手合いのよくあるメロドラマである。Lと一緒に暮らすようになってから、彼女は世界各地の色々な場所でTVを見てきたけれど――驚くことには、メロドラマのテーマは大抵、万国共通らしいということだった。
 Lは午後になるとラケルが何故この種のドラマを必ず見ようとするのか、不思議に思ってそう聞いたことがある。そして返ってきた彼女の答えは「見てると安心するから」というものだった。「だって、ニュースなんて見てると、ろくな事件が世間で起きてないって悲しくなっちゃうんだもの。でも、この手のドラマはみんなあまりにも見え透いてることが多くて――結局<作りもの>なんだと思うから、安心して見ていられるの」
 多情な妻の浮気現場を押さえた夫が、怒り狂ってドアをどんどん叩いている画面から、ラケルはいくつかチャンネルを変える。パンツ一丁でベランダから飛び下りた男が、その後どうなるのかなんて、全然気にもならない。
(わたしも浮気しちゃおうかしら)と、一瞬だけ思ってラケルはハッ!とする。もちろん、本気でそんなことは考えないのだけれど、Lが嫉妬するところを空想するのは楽しかった。
(っていうか、これじゃあなんだかまるで欲求不満の妻みたいじゃないの)
 そう思って彼女は、またちくちくとパッチワークの熊のぬいぐるみを縫い続ける。
「あいたっ!!」
「大丈夫ですか?」
 突然、背後で声がして、ラケルは後ろを振り返る。彼には時々、こんなふうに人をドキッとさせる癖があった。ラケルがキッチンでスイーツを作っている時に、黙って背後に立ち、指をしゃぶっているということもよくある。
「見せてください」
「べつに、大丈夫よ。このくらい……」
 平気、と彼女に言わせず、Lはラケルの左手を取ると、その人差し指を自分の指のように舐める。まるで赤ん坊が気に入ったおしゃぶりを離さないように、執拗なくらい繰り返し。
「……………!!」
 こういう時、ラケルは何故か「やめて」とか「もういい」とは何故か言えなかった。ただ、Lの伏せ目がちな目をじっと見つめて、黙っていることしか出来ない。
「あなたの指は、チュッパチャップスと同じ味がするのは何故なんでしょうか?わたしのその日の気分にもよるのですが、今日はストロベリークリームとラムネの味がします」
「もう、何言って……!!」
 ラケルは自分の頭がぼうっとした恍惚状態から解けるのを感じて、慌てて立ち上がった。その拍子に、熊の頭がころころと、シルクの絨毯の上を転がっていく。
「♪The other day I met a bear……」と、Lが英語版『森のくまさん』を歌いながら、熊さんの頭部を拾う。もちろんいつもの手つきで耳を軽くつまみながら。「ラケル、あなたは日本育ちですから、日本語版の歌詞のほうがしっくりくるかもしれませんね。わたしは思うんですが、あの歌詞に出てくる熊の行動は不自然です。何故あの熊はお嬢さんに「お逃げなさい」なんて言ったんでしょう?彼はとてもいい熊で、自分が襲わないことは明らかなのに……ここでひとつの仮説が成り立ちます。熊はおそらく、ちょっと前に食事をしてお腹がいっぱいだったんですよ。でも、またお腹がすいたら可愛らしいお嬢さんを襲ってしまうかもしれない……それで逃げなさいと言ったんじゃないでしょうか?」
「面白いわね」ラケルはくすりと笑う。「でも、こうも考えられない?あの歌詞に出てくる女の子は、森の中の熊が出没する危険な地域に間違ってきてしまっていたの。だから、ここから先は人間が入ってきていい領域じゃないって、教えてあげたんじゃないかしら?」
「ふーむ、なるほど。日本語訳の一番の歌詞には、『花咲く森の道』とありますからね……女の子は綺麗な花につられて、森の奥深くに迷いこんでしまっていたのかもしれません」
 いちいちそこまで深く掘り下げるような話題でないにも関わらず、Lはあくまで真顔である。と、その時、彼のジーンズのポケットの携帯が鳴った。Lが現在<盾>としているレイ・ペンバー専用の携帯だった。
「ちょっと失礼」
 そう言って、Lはまた仕事部屋のほうへ戻る。ラケルはといえば、時計をちらっと見て、そろそろ三時のおやつの時間だと気づく。いつも思うことではあるけれど、Lの体内時計は甘いものに関して、少し早めに設定されているらしい。

「わかりました。では、引き続きその方向で、調査のほうをお願いします」
 Lは今、グレアム・グリーンが最後に服役していた刑務所の収監者リストを見ながら、レイと話をしていた。Lがまずレイ・ペンバーに依頼したのは次のようなことだ。彼が服役期間中に監房で特に仲良くしていた人間を調べ、名前をリスト・アップすること――そして麻薬のディーラー仲間のことも詳しく調べ上げてもらう。
『このグリーンという男は、ケチな下っ端だが、ベルマーシュ刑務所を出て以来、急に羽振りがよくなっている。どうやら、刑務所でロンドンの麻薬王と呼ばれる男とコネクションが出来たためらしい。その男のファイルも言われたとおりの方法で送信しておいたが……そいつがグリーンに爆弾事件に関わるよう指示する動機が見当たらない。L、あなたも知っていると思うが、その手の裏のボスは最高待遇といっていいような暮らしを刑務所でもしていることが多い。その彼がわざわざ今度のような騒ぎを起こしたところで――彼の得になるようなことは何ひとつない』
 ペンバーの言った言葉を思い起こしながら、Lは彼から送られてきたファイルを眺め、またロンドンの麻薬王と呼ばれる男の犯罪歴やプロファイリングといったものも同時に見ていった。確かにレイの言うとおりだった。彼は刑務所生活が退屈だからといって、部下の下っ端に爆弾事件を起こさせるようなタイプの犯罪者ではない。
(第一、ここまでのことを考えるのは、この麻薬王とやらには到底無理といっていいだろう。この男は目先の欲と金と女にしか興味のないような人間だ……ということは、他に考えられる黒幕は……)
 Lは、レイから届いたベルマーシュ刑務所の収監者リスト――グリーンがいた間のもの――の中に、終身刑の受刑者としてジェイムズ・クロンカイトの名前があるのを発見し、おやと思う。確かに奴ならばここまでのことを計算して人を殺そうとするかもしれないが、刑務所内では大人しくしているらしいと、レイからの報告書にもある。もし仮にイアン・カーライルがほんの短い間でもグリーンと同じ刑務所で接触を持っていたとしたら……Lは真っ先に彼を疑うに違いないのだが。
(何分、刑務所には収容されている人間の数が多すぎる)
 そう思い、Lは軽く溜息を着いた。ペンバーにグリーンがベルマーシュ刑務所にいた間の人間関係を洗ってくれと頼んだ時も、「無茶だ」と言われたのを思いだす。その刑務所には常時数千人以上もの犯罪者がひしめきあっているのだから、彼がそう言ったのも無理はないが――「やってください。あなたになら出来ます」と、Lはレイに対して強引に押し切っていた。
 あれから、Lの助言により、爆弾をバスや地下鉄車輌に持ちこんだ人間もすぐに捕まった。まず、監視カメラ用の囮となった人間六人(彼らはいかにも不審な動作をして、あたかもバックパックの中に爆弾か何かが入っているように演技していた)の逮捕。それから、実際に爆弾を仕掛けた人間も、Lのプロファイリングの修正により三人とも逮捕された。
 警察では当初、まずはアラブ系の人間を徹底的に洗っていたわけだが――この捜査の過程で、不審な行動をとったひとりの男が警官に射殺されるという事件も起きている――Lは監視カメラの映像に映っていた人間、また警察の捜査リストに名前の上がっている人間の中から、白人で二十代か三十代、麻薬所持による逮捕歴がある男のみに絞って捜査してほしいと助言していた。面白いことには(不謹慎かもしれないが、やはりLにとってはある意味面白いことだった)、そのうちの全員が全員、取り調べの過程で、グレアム・グリーンとまったく同じ態度を示した。つまり、最初は辻褄の合わないことや支離滅裂なことを口走っていたにも関わらず、イアン・カーライルの模倣犯かどうかと聞かれた途端に、自分の知っていることを話しだしたのである。
 この過程でいくと、イアン・カーライルに真っ先に嫌疑の目が向けられそうだが、生憎彼は二十四時間監視カメラ付きの生活を送っている。その上、犯人の誰ともカーライルとの接点は何ひとつ見出せない。ちなみに、Lがレイにマンチェスター刑務所を訪ねてもらい、彼にこのことをどう思うかと聞いてもらったところ、カーライルは「くそ面白くもねえ!」と悪態をついていたという。彼は爆弾を仕掛けることによって、その場を支配しコントロール出来る万能感を楽しむのが好きだったが、その逆の立場に立たされるのは普通
の人間以上に苦手だったのだろう。
 Lはその時の、「早く俺のケチな模倣犯とやらの顔が見たいぜ」と嫌悪もあらわに顔をしかめるカーライルを見て、(やはりこれは演技ではないな)と感じる。(ということはやはり、カーライルは白……いや、わたしの中ではまだ灰色といったところだが、今は先に他を当たるしかないようだ)
 ラシュアル・ビッド、グレン・ハンフリーズ、ザック・イリウス……また、監視カメラの前で偽装工作を行った六人の名前や犯罪歴といったファイルを再び眺め、どこかに接点はないかとLは考える。元ムショ仲間でもディーラー仲間でもなんでもいい。だが、全員が身元のよくわからない人間にボイスチェンジャーを通した電話で指示を出されているだけだった。
(今の段階で唯一捕まっていないのは、爆弾を製造した人間だけだ。つまりこいつがおそらく主犯なのだろうが、これだけの金と麻薬を合計十人にもバラまける人間が犯人だとすれば、かなりのところ絞られてきてもいいはずなのに……)
 もちろんLは、裏の世界にも情報網を持っている。だが、その中にはこれだけ精巧な爆弾を作れるだけの人間が浮かび上がってこない。いや、中には確かにその手の裏の業界のエキスパートはいるのだが――彼らは全員“白”だった。とりあえず、今の段階ではLはそのように見なしている。
(となると、あとは……)
 そうLが考えた時、彼のお腹がぐうっと鳴った。と同時に、ドアがノックされて、ラケルが部屋に入ってくる。いつもどおり、三段のワゴンの上には、彼の大好きなスイーツが煌めくばかりに乗せられている。
 反射的によだれが長Tシャツの襟にまで垂れそうになり、Lはずずっとそれをすすった。もし仮にエリスがこの場にいたとしたら――「キモーいっ!!キモすぎっ!!」とでも叫んで、彼の横面を張り倒していただろう。だが、ラケルは恋の魔力によって視力が低下していたので、そんなふうには全然思わない。よだれが垂れるくらい喜んでもらえて嬉しいと思うだけだった。
「綺麗な薔薇ですね。とてもいい香りがします」
 Lは片手でストロベリータルトを食べ、またもう片方の手で花瓶の中の薔薇を一輪、つまみあげる。
「匂いが気になるかしら?Lは鼻がいいから……邪魔だったら下げるけど。いつもいく花屋さんが、必ず一本何かおまけしてくれるの」
「いえ、お心遣いいたみいります」と、まるで他人に対するようにLは言う。「それにこの、苺のタルトの口の中でほろほろととける食感もたまりません……最初はさっくりした感じなんですけどね、あとでほろほろっと口の中でとけるんです。まるであなたみたいです」
 ラケルは一瞬、どう言葉を返していいかわからなくなり、紅茶を一杯注いでLに差しだすと、顔を赤くして、部屋を出ていこうとした。
その彼女のことを、Lが呼びとめる。
「ところで、いつも花をおまけしてくれるとかいう花屋の店員は、当然女性ではありませんよね?」
「えっと、そうだけど……」と、ラケルは首を傾げる。「それがどうかしたの?」
「いえ、なんでもありません。一応聞いてみただけのことです」
 ラケルがいなくなったあとで、Lは彼女が紅茶を注いでくれた時のほっそりとした指を思いだし――犬には首輪……いや、指輪が必要なのかもしれないと考える。
(女性の店員が花を毎回おまけなんてしてくれるはずがない。そんなことをするのは男だけに決まってるのに……そんな見え透いたこともわからないなんて、まったく彼女は……)
 Lはムシャムシャとスイーツを頬張りながら、薔薇の強い香りがつんと鼻孔をかすめて――ー瞬苛立った。それで、花にはなんの罪もないと知りながらも、ぐしゃりと花びらを握りつぶして屑篭に捨てる。あとでラケルには、虫がついていたとでも言えばいいと、彼はそう思っていた。



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【2008/05/26 00:56 】
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