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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(7)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(7)

 ラケルは、オックスフォード・ストリートをそぞろ歩きしながら、ウィンドウ・ショッピングを楽しんでいた……というよりも、一生懸命それを楽しもうとした、もっと言うならショッピングを楽しむべく、力いっぱい賢明な努力をしている最中だった。
 時計を見ると、午後二時半。そしてエリスがやってきたのが午後の一時半くらいである。Lは二時間くらい外に出ていてくださいと言った……けれど、本当に彼女との話が二時間ですむかどうかはわからない。もし三時間、四時間とかかる話し合いだったとしたら?そう考えると、ラケルは少し遅めに帰宅したほうがいいような気がした。何より、エリスと顔を合わせて、気まずい思いをしたくない。
 ラケルはマークス&スペンサーの向かいにある、スターバックスに入ると、窓際の座席に座って、エスプレッソを飲むことにした。ウォーターストーンズという大型書店で買ったばかりの、お菓子の本や手芸の雑誌、それに好きな作家の本を開く。おそらくこれで、一時間は時間を潰せるだろう。そしたらその後は、マークス&スペンサーで食料品を買って、タクシーでホテルまで戻ればいいだけのことだ。
(それでももし、エリスさんがいたら……)と、ラケルはエスプレッソに口をつけながら考える。なるべく愛想を良くして、Lにこんなに綺麗な義理のお姉さんがいるだなんてというように、社交辞令で挨拶を交わさなければならない。
 ラケルは一応ポーズとしては、本を読んでいるふりをしていたのだが、実際のところ頭の中は全然別のことでいっぱいだった。第一にまず、Lは何故ラケルをホテルから追いだしたのか?自分に聞かれたくない、何かまずい話でもあるのだろうか……それとも、姑と嫁の間に挟まれた、夫のような気持ちになるとか?
(まさか)と、ラケルは心の中で笑おうとして、やはりその笑みが苦いものになる。(もしかして、本当にそうだったりして……)
 あんなに派手な喧嘩を見せられた後にも関わらず――いや、むしろそれであればこそ――ラケルはエリスとLの間に、自分の入りこめない<絆>に近い何かがあると感じていた。よく考えてみると、あんなふうに心からの本音や素顔を晒しているLを見るのは、ワタリ以外では彼女が初めてのような気がする。何より、相手が男性ではなく女性であるということが、ラケルの中では何か、引っ掛かるものがあるのだった。
(これって、嫉妬なのかしら……)と、彼女は不思議な気持ちになる。
正直いって、エリスかLの一方に、かつて恋愛感情のようなものがあったとはラケルも今は思わない。けれど、自分が衝撃を受けたのはもっと別のことだった。ラケルはLの隣に誰か若くて美しい女性がいて、彼と対等に話をするというところを、これまで一度も見たことがない。つまりそれは、一般的な新婚家庭でよくあるメロドラマ――妻が夫の美人秘書に嫉妬し、「馬鹿だな。彼女とはただ仕事だけの関係だ」と額を小突くような――を彼女が経験したことがないということだった。
(Lは仕事が忙しくて、いつも部屋に閉じこもりきりで……だから、浮気するとか、こっそりどこかで他の女の人と会うなんて、これから先一生ありえないって、わたしは思いこんでいたのかも。でもそうじゃないんだわ……)
 たとえば、以前ロシアで、短い間ではあるけれど、レオニード・クリフツォフという男性ジャーナリストを匿っていたことがある。もし彼が男性ではなく、女性だとしても――Lは人道的な見地から、まったく同じことをしただろう。その時はまるで考えてもみないことだったけれど、もしこれから似たような事態が起きて、若くて美人の女性を匿うようなことになったとしたら……果たして自分は、冷静でなんていられるのだろうか?
(もちろん、それは相手にもよるわよね)
 ラケルは、溜息を着きながら人通りの多いオックスフォード・ストリートを眺めやる。正直いって、ラケルはエリスという女性が苦手だった。しかも彼女は、ほんの短い間我慢してつきあえばいいという相手ではなく――Lの義理の姉である以上、これからほぼ一生の間、つきあっていかなくてはならない相手なのだ。Lが婿云々と言っていたように、彼女がこれから先結婚する時には、祝福のプレゼントを贈ったりというような、そんな関係を築いていかなければならない。
(そっか。わたし、もしかしたらそのことが一番ショックだったのかも……)と、ラケルはそう思う。Lにはワタリ以外、身内のような存在はいないと思いこんでいたせいで――普通の一般女性とは違い、自分には親類縁者や姑とつきあったりする必要はまるでないとそう思ってきた。確かにLのために彼女は毎日甘いものを大量に作らなければならないし、ある朝突然叩き起こされ、飛行機でどこかよその国へ飛ぶということもよくある……でもそうしたことはすべて、その代わりにしなければいけない<普通の苦労>の代償行為なのだとラケルは思ってきた。
(わたしも、これは今までしてこなかった、『人並の苦労』のひとつと思って、我慢すべきなのよね)
 ラケルは最終的にそう結論づけて、某作家のペーパーバックを閉じた。時計を見ると、午前三時半過ぎ――買物をすませて、そろそろ帰ろうとラケルは思った。エリスがLの少し遅めの昼食を邪魔したことで、彼がきっととてもお腹を空かせているだろうと思ったせいでもある。
 ラケルがホテルに戻った時、エリスがまだいたら、自分は感じ良く挨拶したあと、「夕食の仕度があるので……」などと言って、キッチンでスイーツ作りに取りかかればいい。そして暫くして彼女が帰ったら――「もっとゆっくりしていったらいいのに」などと作り笑いを浮かべて、義理の姉のことを見送ればいいのだ。
(うん、完璧……)
 だが、客観的に考えて何よりも一番不思議なのは――ラケルが「義理のお姉さんがいるなんて、どうして今まで黙ってたの!?」とLを責めなかったことだろうか。彼女はそういう意味で、Lが騙しやすいと思うとおり――とても鈍くてお人好しだった。

 ラケルがホテルのスイートへ戻ってみると、到底修復不可能と思われた部屋は、ほぼ元に戻っていた。マントルピースの上の小物は別のものが飾られ、カーテンはまた同じ種類のドレープがついたもので、そしてソファやテーブルなどもヴィクトリア朝式のアンティークなものが完璧に揃っている。
 だが、その部屋には誰もおらず、リビングの隣のLがいる部屋にラケルが耳を澄ませると――カチャカチャというパソコンのキィボードを叩く音が微かにしている。
「ラケル、戻ったんですか?」と、言われ、ラケルは一瞬どきっとした。カードキィを使う音と扉の開く音でわかったのだろうと、そう思いつつ。
「申し訳ありませんが、甘いものを大至急お願いします。エリスがあなたの芸術作品を破壊してくれたお陰で――わたしは現在、捜査をするための糖分が不足しています。今、とても大事なところなので、スイーツがないと、このままでは本当に行き詰まりそうです」
「わかったわ」と、ラケルはすぐエプロンを着ると、こんな時のためにと予備にとっておいたケーキを隠し戸棚の中から取りだす。Lの甘いものを探す嗅覚は異常に鋭いので、隠しておいたスイーツが翌朝見ると消えていることはしょっちゅうだったが――今回はまだ奇跡的に無事だった。
「早いですね」
 ラケルが手早く紅茶を入れて彼の仕事場へ持っていくと、Lはキャスターのついた椅子をゴロゴロ回転させながら、彼女の手からスイーツの乗ったトレイを受けとる。
「いつも、ケーキはひとつ多めに焼いておくの。大抵、誰かさんが夜中に発見して、次の朝にはないんだけど」
「とんでもない不届き者がいたものですね。今度見つけたら、とっちめてやりましょう」
 この場にもしエリスがいたとしたら――「おまえのことだ、おまえのっ!!」と言って、Lの頬をつねっていたことはほぼ間違いない。けれどラケルは、諦めたように笑って、すぐ部屋を出ていく。ロールケーキだけでは物足りないだろうから、早く追加で新しいスイーツを焼かなくてはならない。
「ラケル、もしかしてエリスに変なことを言われたりしませんでしたか?」
 最後にそう言われて、ラケルは思わずドキッとする。
「……変なことって、どんなこと?」
「いえ、その……たとえば、きちんと避妊してるかどうかとか、その他あらゆる意味における変なことです」
「……………」
 沈黙したままラケルは静かにパタンとドアを閉め、Lが七つものモニターを同時に見ている部屋を出る。(避妊?)と彼女は少し不思議に思う。確かに、最初に手渡されたやたら長い問診表には、一部分にその手のことが書いてはあった。性感染症にかかったことはありますか?とか、不特定多数の異性と性交渉を持ったことがありますか?とか……昔、エイズの検査でも似たようなことを質問されると聞いたので、彼女は特別不審に思いもしなかったけれど。
(なんで、あんなこと聞くわけ?それに、あの人にいちいちそんなことまで答えなきゃいけない義務なんてないじゃないのっ!!)
 その日、ラケルは珍しくケーキをひとつ焦がした。相手はお医者さんなんだからと自分に言い聞かせようとしても駄目だった。それより何より、Lが何故そんなことを聞いたのか、また彼とエリスが自分の不在の間にどんな話をしていたのかも、こうなるととても気になってくる。
 ラケルはスイーツの飾りつけがすべて終わると、ワゴンに乗せてそれを運んでいったけれど――ただ無言で、彼の隣にそれを置いて部屋を出ていこうとする。
「どうしたんですか?怖い顔をして……」
 確かに、パソコンのスクリーンの光を受けたラケルの顔は、珍しく怒っていた。Lの質問に対しても、「べつに、なんでもありません」と、冷たくしか答えない。
 この時、Lはラケルに余計なことを言ったようだと思いはしたが、それでも特に気にはしなかった。そんなことよりも、彼はたった今、ロンドン同時爆破事件の重要な手がかりを掴めそうなところだったのだ。
 Lは捜査に必要な糖分を補給するため、むしゃむしゃとラケルが作ってくれたバナナブレッドを食べ、アプリコットタルトに手を伸ばし、さらにミルクティに砂糖をざらざら入れて、それをガブ飲みする。
(エリスさえ今日の午後にこなければ、わたしもこんなに飢えることはなかったのに……)
 Lはキングスクロス駅の監視カメラの映像を何度も見ながら、夢中になってパブロワを三つも四つも口に入れている。当然、口許にも長Tシャツの襟にもメレンゲがべっとりついていたが、彼はそんなことには頓着しない。
「見つけましたよ……」
 そう言って、パソコンの光を顔に受けながら、不気味に笑う。この人物がもし、類稀なる頭脳を有しておらず、その上なんの職にも就かずに一日中部屋に篭もっていたとしたら――大抵の人間はこの青年の行く末を案じたことだろう。だが、彼は世界の切り札、世界一の探偵と呼ばれる<L>だった。
 Lはすぐにワタリと連絡を取り、別回線でMI6のロバート・カニンガム長官と繋ぐよう依頼する。そしてカニンガム長官に、事件が起きた日のキングスクロス駅構内の様子を撮影した映像を見るよう、その番号と時間帯を指定する。
 その監視カメラには、二十五~三十歳くらいの白人男性の姿が映っていた。おそらく監視カメラのある位置を彼自身は意識していないだろうが、映像的に非常に見えにくいところに彼はいた。けれど、爆発が起こった瞬間、二秒前に彼は携帯をポケットから取りだし、五秒後、すぐにまたそれをしまっている。何気ない日常的動作――普通なら、それで見過ごされてしまったことだろう。だが彼は爆発が起こった瞬間、後ろをまったく振り返らなかった。その後の行動を追ってみても、他の人間と同じく我先にと走って逃げるでもない。Lがこれまでずっと監視カメラの映像をチェックしていたのは、まさにこのためだった。殺人犯はよく現場に戻るというが、爆弾魔というのは――その場にいて、現場の混乱やパニックに陥る人間の様子をつぶさに観察したいものなのだ。
とはいえ、彼を探しだすのは本当に大変なことだった。まず、携帯電話で画面をチェックしている人間など、数えきらないほどたくさんいる。その中で、信管のかわりに携帯のスイッチを代用している人間を見つけださねばならなかったのだ。
 Lとロバート・カニンガム長官の間で、すぐに話はついた。彼はロンドン・テロ対策本部の部下全員に監視カメラに映っている男を探しだすよう命じ、TVをはじめとするメディアにもその映像を流すことを許可した。もっとも、彼が犯人ではないという可能性は確かに残ってはいる――だが、それは彼が聾唖者である場合に限られると、Lもカニンガム長官も判断したのである。
 Lはその夜、MI6から犯人逮捕の報が入るかもしれないと思い、他の仕事をしながらそちらの連絡を待っていた。すると、ワタリからアメリカ大統領から直通で電話が入っているとの連絡を受け、いつもの非人間的音声で彼からの相談に答えることにする。
 ジョージ・サイラス大統領は決して無能ではなかったが、それでも以前日記に書いていたような愚痴をこぼせる相手が必要だったらしい。Lは彼から政治に関する相談を受け、適切な指示をだすと、大統領の無駄に思える長話につきあってから、電話を切った。もちろん、こうした会話はすべて、NSAに傍受されてはいるだろう。だがこのLとサイラス大統領の<秘密の関係>が外に洩れるのは――彼が来年大統領に再選し、さらに四年の任期を勤めあげ、十数年以上も時が経ってからのこととなる。そしてマスコミは大統領の影のインスペクターが誰だったのかと一時期騒ぐのだったが――結局、電話の相手は謎の人物としてしか歴史にその名を留めず終わることとなる。

 明け方近く、犯人が無事逮捕され、またその人物が自白したとの連絡を受けたLは、興奮するあまり、角砂糖を十個ほど口の中で頬張っていた。Lはこうした捜査が大詰めを迎える局面に立つと、糖分がどんどん自分の中で消費されていくのを感じる……そしてその間に食べるスイーツは、彼の舌にはことのほか、甘く美味しく感じられるのだ。
 Lはダッシュでキッチンまで走っていき、ラケルがいつもひとつ多く作っているスイーツがどこかにないかと探した。言ってみれば勝利の祝杯の代わりとなるケーキか何かが欲しかったのだ。カニンガム長官から、犯人を取り調べた調書が送られてきていたが、そこには最後に、世界一の探偵<L>を称え感謝するという一文が添えられている。
 ガシャーンと調理器具のいくつかを床に落としてしまい、Lはキッチンに尻餅をついた。泡立て器やハンドミキサーは手で受けとめられたものの――ケーキ型とケーキナイフまでは受けとめられなかった。それでスツールから足を踏み外してしまったのである。
「大丈夫、L?」
 寝ぼけ眼をこすっているラケルに見下ろされる格好となり、Lはやや慌てた。これまでは、甘いものを探しているところを、現行犯で見つかったことは一度もなかったからだ。
「その、これは……」
 Lはとってつけたような言い訳をしようと考えたが、今日に限ってラケルは珍しくそのことを聞かなかった。この時パッと目が覚めた瞬間に彼女が思ったこと――それは全然別のことだった。
「そうだわ。わたし、あなたに聞きたいことがあるんだった」
ラケルは自分が眠りにつくまで悶々と考えていたことを思いだし、そう切りだす。
「えーと、わたし実は今忙しいんですよ。申し訳ありませんが、それはまた明日、時間のある時にお願いできませんか?」
「ダメよ!!」と、ラケルにしては珍しく、強硬に譲らない。「今日という今日こそは、はっきりさせておきたいの」
 彼女がワゴンに乗せてスイーツを運んできた時も、少し様子がおかしかったことを思いだし、Lは三十分くらいならラケルの話を聞いてもいいだろうと思い、「ちょっと待っててください」と言って、一度仕事部屋のほうへ戻る。急いで調書に目を通し、犯人の自白内容を大体のところ把握する……一部、Lには腑に落ちないところもあったが、犯人が捕まった以上、後のことはスコットランドヤードの優秀な警察官たちが処理してくれるはずだと確信する。なんにせよ、ロンドン中に現在敷かれている、最高厳戒態勢はこれで解除されることになるだろう。
「はいはい、いいですよ。聞きたいことがあるなら、なんでもどうぞ」
 とりあえず一旦は犯人が捕まり、ほっとしていたこともあって、Lは少しばかり上機嫌だった。だが、対してベッドの上に正座しているラケルは、相も変わらず仏頂面をしている。
「……あなたが夕方に言ってたこと、どういう意味?」
「?」と、Lは疑問符を浮かべる。そこで、とりあえず自分もベッドの上に膝を抱えて座った。そのまま、ラケルと向きあう形になる。
「夕方というのは、どの夕方のことでしょう?」
「はぐらかさないで!!……その、避妊がどうとか言ったじゃないの。義理のお姉さんとはいえ、なんでそんなことまで聞かれなくちゃいけないの!?」
(ああ、そのことですか)と思ったLは、一度部屋の隅に目を泳がせてから、またラケルに視線を戻している。
「わたしの言い方が悪かったのかもしれませんね。ただエリスは、わたしたちの家族計画がどうなっているのかと知りたかったようです。何しろ娘か息子が生まれたら、一応彼女にとっては姪か甥ということになるわけですし」
(今の、絶対に嘘)直感的に、ラケルはそう思った。彼は時々、今のような調子で、飄々と嘘をつく。いつもなら、相手が嘘をついているような気がしても、ラケルはわざと見逃すことにしている。でも、今日だけは絶対に許せないと思った。
「彼女、そんなに子供好きなように見えないけど……」
「あなたにしては、そんな棘のある言い方をするのは珍しいですね。そんなにエリスが嫌いですか?まあ、無理もありません。彼女のことはわたしもいまだに苦手です。義理の姉などと言っても、きのうのように突然訪ねてくるようなことは、これからも多くて一年に一回くらいのものでしょう……結局、滅多に会うことのない人間なんですから、エリスのことはそんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「でも、逆に考えたらそんなのおかしいでしょう?義理とはいえ、一応はLのお姉さんなんだから、そうなると彼女はわたしにとっても姉っていうことだもの。年に一度会うか会わないかの関係だとしても――親戚である以上、これから一生つきあっていかなくちゃいけない、彼女とはそういう関係だっていうことでしょう?」
 Lには、ラケルの言わんとすることがやはりよく理解できなかった。彼にとってエリスというのは、義理の姉というよりはただの天敵……一年に一度どころか、これから先一生死ぬまで顔を合わせなくてもいい人間だった。
「わたしには、あなたの言うことがよく理解できません。もう少しわかるように説明してくれませんか?さもなければ、わたしは仕事に戻らせてもらいます」
「いつもいつも、仕事仕事ってはぐらかして……!!わたし、いつも気づかない振りしてるけど、本当はわかってるんだから!!Lはわたしに何かとても大事なことを隠してる、そうなんでしょ!?」
「やはり、エリスに何か聞いたんですね?」ギシリ、とベッドを軋らせながら、一度下りようとしたベッドの元の位置に、彼は戻る。「彼女は、あなたにどんな思わせぶりなことを言ったんですか?」
「……彼女は、特に何も言わなかったわ。でも、あなたの今の言い方でわかった。それに、エリスさんも『自分は色々知ってるけど、あなたは何も知らなくて可哀想』っていう態度だったし」
 ぎゅっ、と羽根枕を握りしめるラケルのことを、Lはこの時何故かとても可愛いと思った。くいっと顎を持ちあげて、キスしようとする。
「やだ……っ!!やめて!!今日という今日こそは、そんなことじゃごまかされないんだから……!!」
「……………!!」
 ばふっ、ばふっと枕で何度もはたかれ、Lはベッドの上から退却した。そして、これ以上は話しあいの場を持っても無駄らしいと悟る。
「すみませんが、本当にわたしは仕事があります。あなたもおそらく、明日の朝のニュースで知るでしょうが、例の爆弾魔が捕まったんです。現在犯人は引き続き警察で厳しい取り調べを受けているんですが――今の段階で送られてきた調書には、いくつか腑に落ちない点があるんですよ。その部分について明確な答えの得られる質問をするよう、わたしは当局に求めるつもりでいますので」
 それでは、と事務的に言って出ていこうとするLに背中に、ラケルは枕を投げつける。
「Lの馬鹿っ!!Lなんて大っ嫌いっ!!」
「わたしは愛してますけどね」と、平板な声で言って、Lはラケルに枕を返してよこす。
 そして彼は、静かに寝室のドアを閉めて出ていったのだった。
(こんなのずるい……)
 ラケルはふて寝しながら、二重の意味でそう思う。ひとつ目は、仕事を盾にまた逃げたこと、そしてふたつ目は――キスしようとしたことだった。彼はいつも、そうしようとする時、必ず彼女の顎を軽く持ち上げるけれど、彼女はその仕種にとても弱かった。
(駄目よ、ダメだめ……!!)とラケルは必死に自分に言い聞かせる。(いっつもわたしは、今みたいに情に流されるんだから……でも、今回という今回こそは心を鬼にして色々なことを追求しなくちゃ!!)
 そう思いながらも彼女は、Lの取り扱っている仕事の重大さのこともわかっているために――煩悶しながら、朝まで眠れない時間を過ごすことになる。



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【2008/05/24 08:45 】
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