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探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(4)
   探偵L・イギリス編~ロンドンの爆殺魔~(4)

(犯人の年齢は、二十代か三十代で、おそらく複数犯、か……)
 ロンドン警視庁から送られてきた、プロファイリングのファイルを見て、Lはあえて特に修正はしないことにした。<無能な警察諸君へ>ではじまる、犯行声明文を読むかぎり、年齢的にそんなこところだろうと推測したこと、また爆弾が爆発した時刻から見て、単独では犯行が難しいことなどから、複数犯である可能性が確かに高かった。
 だが、今の段階ではあえてプロファイリングの細かなところを修正しないまでも、Lは直感的にこの犯人がひとりであると感じていた。同じ思想を持つグループによる犯行というよりは――ある程度信頼できる・あるいはまったく何も知らない人間に金をつかませ、爆発物を所定の位置にセットさせたと考えられなくもない……。それから犯行声明文の中に、貧富の格差がどうとかグローバリゼーションがどうとか、このままでは地球は本当に駄目になるだのという記述があるが、Lはそうしたことにほとんど注目しなかった。自分の犯行を狂信的に正当化しているというよりは、あえて自覚的に捜査を撹乱するための文言だろうと想像する。
(IQは普通の90~110、あるいはそれ以上で、爆弾を作った犯人は生化学を学んだことがある人物、か……確かにそのとおりだとわたしも思いはするが、それ以上に――この手口はどこか、やはり奴のものに酷似している。だが、イアン・カーライルが現在も刑務所で24時間監視カメラつきの生活を送っていることを考えれば、模倣犯と考えるのが妥当だろう……とすれば、次に犯人が起こしそうな行動は……)
 イアン・カーライルは18件もの爆弾事件を起こし、そのことで<変えられない世界を変え>ようとしたと豪語した。まあ、貧富の格差・グローバリゼーション云々というのは、本人の現実的問題の隠れ蓑として使われている可能性がもっとも高いが……とはいえ、爆弾魔のことは爆弾魔に聞くのがもっともてっとり早いだろうと、Lはそう考えていた。
 そこで、ワタリと連絡を取り、イアン・カーライルが捕まっている刑務所へ、彼に面会しにいくことを決める。何しろ、相手は895年もの量刑を食らっており、どうあがいても一生刑務所から出ることのない身の上なのだ。その相手に顔を見られることになったとしても、特に問題はないだろう――そうLは判断はした。本来ならば、<盾>として使える人間に接触し、その人間に動いてもらうのがLのやり方だが、何分イアン・カーライルにはL自身にも個人的に興味があった。そして何より、次の犯行まで悠長に構えていられる時間もないことから――Lは、またも<L>の部下を装って、自分で動くことにしたというわけである。

(あのあと、何も食べずに眠ってしまったんですかねえ……)
 Lは、ラケルが着替えもせずに寝ている姿を見て、軽く溜息を着く。健康診断というのはこの場合、ようするに――彼女が精神的・肉体的に<Lの子供>を産むに相応しいかどうかを最終的に検査するためのものだったといえる。けれど、そんなことをいちいち説明するより、何も知らせず「ただの健康診断」と言っておいたほうがいいと、Lはそう判断していた。
(ワタリは、そろそろ彼女にも本当のことを知らせるべきだと言っていたが、わたしはそうは思わない……)
 Lは両足を抱えて座りながら、ラケルの寝顔を覗きこむ。正直いって、彼女には申し訳ないことをしたと、今も本当にそう思っている。初めて会った時、Lはラケルに対して「白人女性・標準よりも美人」という感情以上のものを、何も持たなかった。その後、この奇妙な家族ごっこがなんのためかをロジャーから聞いて知った時――彼は内心こう思った。ロジャー・ラヴィー精神医学博士発案の『性格適合テスト』、それが外れることもあるということを証明してやろうと……彼の発案した心理テストのいくつかは、Lが<盾>を選ぶ際にも使用しているもので、確かにその数字は信じられるものではあったが、ラケル・ラベットという女性と自分の心理テスト(それも17歳の時の記録)が90%を越える相性の良さを記録したからといって――自分が彼女と結婚する義務はないし、第一そんなことは相手にも失礼だろうとLは考えていた。
 だから、「結婚してくれませんか?」というようなことを口にした時も、Lは正直いって90%以上の確率で断られるものと思ったし、まさか本当に今のような状況になるなんてことは……想像してもみなかった。むしろ、自分がもし一目惚れするなりなんなりして、彼女のことを好きだったとしたら――恥かしいと思う気持ちやプライドが傷つくといった感情が優先されて、「結婚してほしい」などとは、とても口にだして言えなかっただろう。だが、それでいながら、彼女が結婚に同意してくれた時、Lは自分の予想に反する事態が起きたことを、心から嬉しく感じていた。そんな感情を自分が知る機会があるとは、思ってもみなかったし、ラケルがこの先もし本当に自分を愛してくれたとしたら――そんなことは「奇蹟」以外の何ものでもなかった。
 L自身は十代の半ばにもならないうちに、(一生自分は結婚しないし、自分と結婚してもいいというような女性に巡りあうこともないだろう)と諦めていた。それは彼にとって悲しいことでもつらいことでもなんでもなく、ただ「運命」というものが彼にその選択をさせるのだと思っていた。何より、自分と一緒にいるような人間はいつどこでどんな目に遭うかわからないというリスクが高い。それこそ、死ぬより悪い事態が自分の愛する者に降りかかるという可能性がある。それでLは、ラケルと結婚すると決めた時、ワタリにこう相談していた。「これは結婚詐欺だと思うが、もし彼女に何かあった場合、自分はどう償ったらいいかわからない」と。すると、ワタリは慈しむように目を細めてこう言った……「溺れる者はワラをも掴むと申しますよ、L」
(『溺れる者はワラをも掴む』か。今も、その状況にこれといって大きな変化はない。今回のロンドン同時爆破事件はKとはまったく無関係である可能性が高いが――わたしは自分に出来ることをひたすら地道に行っていくしかない……)
「それにしても、なんて可愛いワラですか。『溺れる者は藁をも掴む』の同義語に、『苦しい時の神頼み』というのがありますが、それでいくとすれば、さしずめあなたはわたしの神なのかもしれません……」
 Lはラケルが左の頬の端に、コットンをくっつけているのを見て、くすりと笑った。親指と人差し指でそれをつまみあげて、これは一体何に使ったのだろうと推測する。
(彼女は普段化粧をしないので、メイクを落としたとは考えにくいですね……まあ、なんでもいいですが)
 そう思って屑篭にポトリとそれを落下させていると、ラケルが身じろぎをして、目を覚ますのがわかった。彼女は寝ぼけ眼をこすりながら、ゆっくりと体を起こしている。
「L、どうしたの?……」
と言いかけたところで、彼女はハッ!として両目を見開く。そうだった、彼には聞きたいことが山ほどあるのだ。今日という今日こそは、疑問や質問のすべてに答えてもらわなくては。
「どうしたんですか?顔が怖いですよ、ラケル」
「どうせ、わたしは……!!」いつもならまったく反応しないはずの単語に、ラケルは何故か敏感だった。「エリスさんみたいに頭もよくないし、Lの役にも立たないし、ただ毎日甘いものを作ってるだけの、いてもいなくてもどうでもいい存在よね、あなたにとって。最近顔にしみもできたし、胸も小さいし、油断してるとすぐ贅肉がつくし、これでそのうち若くなくなったら、あなたにも捨てられちゃうんだわ、きっと……」
「何言ってるんですか。あんまり急にまくしたてられたので、わたしもどう反応していいかわかりませんが……もしかして、エリスに何か言われたんですか?」
 エリス、と彼が誰か特定の女性を呼び捨てにしただけで、ラケルの胸はずきりと痛む。
「やだ、もう……こんなの嫌……」
 突然、情緒不安定になっているラケルを見て、Lはどうしたらいいのかさっぱりわからなかった。ただ、いつも仕事でそうしているとおり、論理的思考によって解決を導くしかない。
「ラケルは、甘いものを作ることによって十分わたしの役に立ってくれていますし、いてもいなくてもどうでもいいだなんて、わたしは一度も思ったことはありません。わたしの見たところ、顔にしみは見られませんし、胸はCカップもあれば十分です。贅肉はまあ、あなたがどう思っているにせよ、わたしは少し太目の女性が好みですから……ラケルはもう少し太ってもいいくらいだと思いますよ?それに、あなたがわたしを捨てることはあったにしても――わたしがあなたを捨てるということは、絶対にありえません」
「…………………」
 ラケルはナイトテーブルからティッシュをとると、それで目の涙を拭き、鼻をかんだ。いつもなら、ここで自分は引き下がってしまうだろうと、ラケルは思う。彼の言葉の中にもし仮に嘘が混じっていたとしても――それも愛情と思って素直に受けとめただろう。でも、今日だけは絶対に駄目だった。
「……L、エリスさんとあなたって、どういう関係なの?それに、アベル・ワイミーって誰?」
 いたいけな眼差しで見つめられると、流石にLも答えにくい。いや、エリスのことははっきり言ってどうでもいいにしても……アベル・ワイミーというのは、自分のことだけに少し話しにくいのだ。
「その、わたしは戸籍上はワタリの息子ということになっていて……そのワタリが今から二十年以上前に結婚したのがスーザン・サザーランドという女性でした。彼女はワタリの屋敷に家政婦として住みこみで働いていたんです。そしてその連れ子がエリスだったんですよ。だから一応わたしにとって彼女は血の繋がりのない義理の姉なんです」
「それで、エリスさんはLにとって、どういう存在なの?」
 ずい、と身を寄せられて、Lは足を抱えた姿勢のまま、ベッドの背もたれのほうへ移動する。
「どういう存在って言われても……まあ、16歳でハーバードに入学したくらいですから、頭はまあまあいいんでしょうね。少なくとも普通の基準から見て、馬鹿でないことだけは確かです。でも、口と性格が悪い上、手まで早いのでは正直いって最悪でしょう。彼女は小さな頃からわたしにとって天敵でした」
「天敵?」と、ラケルが理解できないふうに、鸚鵡返しに聞く。
「ええ。アブラ虫にとってのテントウ虫みたいな存在ですよ……わたしは彼女の習っている空手と合気道の実験台でした。なので、わたしも自分の身を守るために、独特の技を編みだす必要があって……それでカポエイラを我流で習得したんです」
「そうなの……」
 まるで憑き物が落ちたように、きょとんとした顔つきのラケルを見て、Lはほっとする。どうやら、いつもの彼女に戻ったようだと、そう感じる。
「ところで、ラケル。とてもお腹が空きました。あなたが買ってきたケーキは美味しかったですが、味のランク付けとしては星2つといったところです……いつもの星5つのを作ってください」
「わかったわ」と、ラケルは突然上機嫌になりながら言った。嫉妬という薄暗い感情から解放されて、心が軽くなるのを感じる。
 そして、彼女が軽く髪をまとめてベッドを下りようとしていると――Lが最後にラケルの手を掴んだ。
「なんだったら、代わりにあなたでもいいです。ケーキは美味しいですが、あなたはもっと美味しいですから」
「……………!!」
 時々、Lは殺し文句の天才だと、ラケルはそう思う。彼女は茶化すように彼の手を振りほどくと、寝室をすぐ出ていった。手を振り払われた拍子に、こてりとLは倒れていたが、足を抱えるような姿勢のまま、変態的にくんくんと枕の匂いをかぐ……いつも思うけれど、同じシャンプーや石けんを使っているはずなのに、彼女の匂いは自分と全然違うのが何故なのかがわからない。
(いつも甘いものばかり作っているから、その匂いが染みこんでるんでしょうか。焼きたてのクッキーかケーキみたいな優しい香りが、彼女はするんです……)
 その後Lは、開けっ放しのドアからもっと濃くて強いお菓子を焼く匂いが漂ってくると――生肉を求めるゾンビのように、両腕をだらりと前に垂らして、キッチンへ向かっていった。ただし、目当てのスイーツが完成するまで、あと十五分ほどかかるという。Lはその間、リビングのソファで足を抱えて座り、落ち着かなげに体を揺すったり、足の指をもぞもぞさせたり、ちらちらと物欲しげな視線を何度もラケルに送っている……これをやられると、ラケルも少しだけ余ったボウルの中のクリームや、飾りつけのフルーツをLに上げざるを得ない。何故って、自分の子供がミルクを求めているのに、わざと意地悪をして哺乳瓶を遠ざけているような、奇妙な気持ちに必ずなってしまうからだった。



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【2008/05/21 10:38 】
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