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探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(7)
   探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(7)

          side:N

「え?ええ??でもどうして、7号車の15番、24番、33番、42番、51番の座席に座る人間だってわかるんです?もし何かトリックがあるなら、先にそれを教えてもらえないでしょうか?」
「すみませんがジェバンニ、時間がないんです。説明はまたのちほど……」
 くるくると銀色の髪を巻きとっているニアは、どこか不気味に嬉しそうな顔をしている。
「そうよ。第一、これまでニアの推理が外れたことなんて、一度もなかったでしょ」
 リドナーはジェバンニの背中を押すようにしてコンパーメントを出ると、7号車の、ニアが言った座席にいる乗客を探した。15番、アナスタシア・フィオレンティーノ(22歳)、24番、ミネルヴァ・ムーティ(37歳)、33番、パトリッツィア・ペルゴリーニ(45歳)、42番、マウリッツィオ・レッジャーニ(28歳)、そして51番の座席に座る、マウロ・デルフィーノ(55歳)という乗客である。アナスタシアとミネルヴァ、パトリッツィアの女性三人は、リドナーがユーロ警察の身分証を見せるなり、怯えたような、ほっと安堵するような相反する態度をそれぞれ示していた。リドナーはそのことを若干不思議に思いはしたが、なんにせよ自分の今の任務は彼女たちに職務質問等をし、所持品の中身を確かめさせてもらうことだった。果たして、彼女たちが催眠術にかかっていて、ある時間になるとタイマーが鳴るように毒物をふくむのかどうか、またその行為を邪魔した場合どうなるのか、一抹の不安を覚えつつ……。
 そしてジェバンニが42番の座席に座るマウリツィオ・レッジャーニを捕えると、彼は「今、死のうと思っていました」と、震え声で言った。「でも、あなたがわたしに質問したことで――生きることが運命なのだと気づいたんです」……ありがとう、ありがとう、と何度も礼を言われ、ジェバンニはやや面食らった。様子から察するに、精神病の病歴がありそうな雰囲気の男性で、情緒不安定なのが見てとれる。とりあえず、今すぐに死ぬ気がなくなったというのなら、少しの間目を離しても大丈夫だろう――そう判断したジェバンニは、彼のこともまたリドナーに任せることにした。自分は51番の座席にいるはずの、マウロ・デルフィーノという男を探す。
「そういや、トイレへ行くって言ってたが……もう十分ばかりも戻ってこねえな」
 コリエーレ・デラ・セラ紙(イタリアの新聞)を読んでいた52番の乗客がそう言った。そこでまずジェバンニは男子トイレを探したのだが――ノックをしても返事がないため、強制的に鍵を外して開けた――なんとこの男は、天井からロープを吊るして死のうとしているところだったのである!
「や、やめてくれ!助けようとしないでくれ!お願いだ、死なせてくれ……じゃないと金が家族の元に届かねえ!」
 白髭をたくわえた、中肉中背の男をなんとかジェバンニが助けようとしていると、デッキを通りかかった乗務員や乗客が彼に加勢した。やがて騒ぎを聞きつけて人が集まって来、「死ぬなんて馬鹿なことを考えるんじゃないよ!」だの「もう観念しろ!」だの「生きて
ればいいことだってあるさ!」だのという野次のような励ましの言葉が飛びかう。結局男はほとんど力づくといったような形で、天井のロープから引きずり下ろされた……デッキでは拍手がわき起こり、ジェバンニや他の彼を助けようとした男たちは尻餅をつきながら、苦笑いしつつ互いの肩を叩きあっている。そしてマウロ・デルフィーノといえば――薄汚れた色のジャンパーに顔をうずめて、泣くばかりだったのである。

『俺には借金が1億リラもあって……もう首でも括って死ぬしかねえと思った時に、インターネットのサイトで偶然、<死者求ム>っていう広告を目にしたんだ。向こうの指定した時間に指定したとおりのやり方で死んでくれるなら、一億リラ支払うって。最初は半信半疑だったけど、何しろ家族に迷惑をかけるわけにもいえねえ……俺が死ぬことで借金がチャラになって家族に迷惑かけずに済むならってそう思ったんだ。ところが、送られてきた肝心の薬のほうを、飲む直前にトイレの中に落としちまった……だが、とにかく俺には死ぬしか道はねえ。だから、だから……』

「実につまらないトリックでしたね」
 リドナーとジェバンニが事情聴取をしたICレコーダーを聞いてニアは、面白くなさそうにそう言った。さっきまでの不気味な顔の輝きはどこへやら、彼はふてくされたような不機嫌顔になっている。
「でも、何故次は7号車の15番、24番、33番、42番、51番に座る人間だってわかったんですか?他の人はみんな、インターネットのサイトでそれぞれ自殺者を集うような裏サイトを通じ、薬を送ってもらったそうですが……そのサイトは現在どこも閉じられていて追跡が不能になっています。ですが、調べようによってはあるいは……」
「まあ、もしかしたら<小物>は捕まるかもしれませんね。『殺し屋ギルド』の下っ端とも呼べないような雑魚が網にかかって終わりといったところでしょう……トリックの種明かしですが、実に簡単なことです。このユーロスターには1号車と2号車と4号車に13番という座席がありません。そして3号車の55番に座る女性が最初に亡くなり、次が6号車の16番と43番に座る男性……ここまで言ってもまだわかりませんか?」
「……わかりません」と、ジェバンニはしゅんとしたように答えている。これでも彼はFBIでかつては若手のホープとして期待された人物だったのだけれど。
「5+5+3=13、1+6+6=13、4+3+6=13……つまり、そういうことです」
「あ、なーるほど」ジェバンニはその時になってようやく、合点がいったようにぽん、と手の平を叩いている。「でも、それでいくとおかしくないですか?その計算方法だと3号車でもうひとり、46番に座る人間、また6号車では他に25番と34番、52番、61番の座席に座る人間が死ななければならない……これは一体どういうことなんでしょうか?」
「つまり、薬を送ってもらって死亡時刻まで指定されたものの――いざとなったら怖くなったということなんでしょうね。特に通路で苦しみ悶える人間を見てしまったら、突然死ぬのが恐ろしくなってもおかしくはない……そういうことだったんじゃないですか?その座席に座っていた人間のことはよく調べるよう、ヴェネチア警察の人間に言っておいてください」
 二アは自分の部下の無能ぶりに少し呆れたようだったが、とりあえずそれ以上のことは何も言わなかった。自分が表に出て直接行動を起こすことができない以上、彼のように優秀な手足となる人物はどうしても必要だった。そういう意味でジェバンニのことを評価していたせいかもしれない。
「ところで、遺体のほうはどうにか保管しましたし、今回の件に絡んでいる人間は全員、ヴェネチア警察に身柄を委ねるにしても……列車がヴェネチアに到着するまであと約30分あります。これ以上は何も事件は起こらないと見ていいものでしょうか?」
「いえ、もしわたしがカイ・ハザードなら――まさに今この瞬間こそを狙います」と、ニアがどこか不安げな顔のリドナーに答える。「事件が解決したように思え、ほっと安堵したこの時をこそ狙うでしょうね。ジェバンニもリドナーもくれぐれも用心してください。この列車の中にカイ・ハザードがいる可能性は限りなくゼロに近いですが、彼に列車内の情報を知らせている人間が必ずひとりはいます。それはもう、限りなく100%に近い数字といっていいでしょうね」
「ということは、じゃあ……」
 ジェバンニがそう言いかけた時、列車のどこかで火災警報装置が鳴り響いた。ジリリリリリリリリン……!!とどこか身内を震わすような音が何度も繰り返されるうち、乗客は全員、パニック状態に陥っていた。「キャー!!」とか「ワー!!」という叫び声とともに、乗務員が一生懸命乗客を落ち着かせようと、声を張り上げ誘導しているのがわかる。
「お客さま、どうか落ち着いてください!そして後部車輌のほうへゆっくり移動してください……そこがこの列車の中でもっとも安全な場所ですから……!!」
 やがて車掌によるアナウンスが流れ、ユーロスターは一時停止するということになった。
「停まりましたね」と、ニアは落ち着き払ったように言い、車窓の外の闇と遠くに見えるヴェネチアの街の明かりを見つめた。すると、ドアが開き、車掌が帽子をとって挨拶する姿が窓に映る。
「あなたがたはここから、動かないでいただきたい」
 髭の剃り後が青く残る、見るからにいかつい感じのする車掌が、後ろに銃を持った乗務員をふたり、従えていた。
「やはり、あなただったんですね。先ほどヴェネチア警察へ問い合わせたところ、こちらからはなんの連絡も受けていないという返答がありました。そして、わたしがそのことを知って彼らをヴェネチア駅で手配することも計算のうちに入っているはずです。ですが、わたしもそんなに馬鹿じゃありませんので、この列車がこのあたりで停まるだろうことを予測して、警察に張りこませました。彼らは今、こちらへ向かっているはずです……わたしたちを殺したところであなたも捕まるのでは、割に合わないのではありませんか?」
「娘が……誘拐されている。わたしに選択の余地はない。ただ、わたしは娘をさらった連中の言うなりになるだけだ……他に方法はない以上、今はそれしか……」
 ニアは、車掌の苦渋の面持ちと、後ろに従っている乗務員の顔色から、彼らは<白>なのだと見てとった。車掌や運転士、乗務員の全員についてはすべて、身元を洗ってある……つまり、脅されてやむなくといったことなのだろう。
 ジェバンニとリドナーもまた、相手が素人と見てとって、なんとか出来ないものかと間合いを計るが、ほんの少し体を動かしただけで、「動くな!」と銃口を突きつけられる。
「動くんじゃない……何もしなければ殺しはしない」
 そう言って車掌はガスマスクを被った。後ろの乗務員ふたりもまた、同じタイプのガスマスクを被って銃を突きつけたままでいる。誰も微動だに出来ないその姿勢まま、五分が経過しただろうか……ニアは警官隊がやってきて列車をとり囲むのを期待して待ったが、ここはまさに時間との勝負だった。ヴェネチア警察がここへ来るのが早いか、それともカイ・ハザードの部下が動くのが早いのか……。
 だが結局、その勝敗を二アがこの時、列車の中で知ることはなかった。何故なら、3号車の中には催眠ガスが立ちこめてきており、リドナーもジェバンニもすぐ、眠気をこらえきれなくなってその場に倒れたからだ。
(くそっ!!催眠術ではなく、催眠ガスとは……!!)
 二アがドサリ、と座席にくず折れた時、車掌と乗務員ふたりの後ろから、ガスマスクを被った数人のビジネスマン風の男たちがあらわれた。
『おい、このガキとふたりの手下を運べ』
 そうくぐもった声がするのを、ニアは聞いたような気がしたが、それはすでに意識が遠くなり、体の自由が利かなくなってからのことだった。



『探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~』終わり、『探偵N・ヴェネチア編(後編)~殺人チェス~』に続く





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【2008/04/12 16:53 】
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