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探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(6)
   探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(6)

          Side:M

「どう?すぐに直りそう?」
 メロはコンシェルジュ(管理人)のギエム老人から水道の蛇口を直すのに必要な道具を借りると、ラスティスの部屋へ通してもらっていた。
「そうだな。中のゴムパッキンを交換すれば水漏れは止まるだろうが――生憎そのゴムパッキンが今手許にないんだ。明日、水まわり専門店にいって買ってくるけど、それまで水漏れは我慢してもらうしかないな。まあ、急ぐんだったら今すぐ買いにいってもいいが……」
「いえ、べつに明日でいいわ。それより、お礼に何をしたらいいかしら?夕食でも食べていく?大したものは何もないけど」
 メロが浴室のシャワーや蛇口の修理をしている間――ラスティスはずっとキッチンで料理をしていた。チェックの安っぽい柄のテーブルクロスの上に、バゲットやクロワッサンなどのパンが並び、他にはアントルコート(肋骨の間の肉)のステーキ、ポム・フリット(フライド・ポテト)、タルトにサラダ、そしてワイン……といったメニューだった。
 チョコレートがないのは残念だけれど、そのかわり、とても美味しそうな肉がある。メロは一瞬ギラリとした視線でステーキを眺めたあと、「是非ごちそうになります」と答えていた。
 メロにとって何よりも不思議だったのは、ラクロス・ラスティスがイラクで五百万ドルもの金を稼いでいながら――任務終了後に、こんなちっぽけなアパートでひとり暮らしをしているということだった。まあ、稼いだ金のほとんどが組織の懐に入るにしても、もう少しましな住居に住んでいてよさそうなものだと思う。そこで、気のいい紳士的若者の振りを装いながら、メロは食事中、彼女にさり気なく探りを入れていった……自分は配管工その他のバイトをしながら独学で絵を学んでいるということにしておく。
「日曜日にはテアトル広場で絵を描いたり売ったりして小銭を稼いでるんだ。俺の住んでるB棟にはどうやら、そんなような芸術家崩れが多いらしいって、コンシェルジュのギエム老人が言っていたが……パリほど芸術家に優しい街はないからね」
「そうかしら?わたしはパリほど芸術家に残酷な街はないと思うけど……それはそれとして、あなたフランス語だけじゃなくドイツ語までうまいんだから、語学講師にでもなったらいいんじゃない?」
「生憎、人にものを教えるのは苦手でね」
 メロはそう軽くかわして、ラスティスの注いだワインを一口飲んだ。1989年産のブルゴーニュワイン。ラベルの名前を見るに、普通に買えば結構な値段のする代物だった。
 フランスでは、世間話をする時でも相手の職業を聞いたりすることはあまりないらしい。つまり、持っている金や職業が当人の人格を表すわけではないという文化的意識に基づくもので、むしろそうした話をすることは失礼にさえ当たるということだった……そのせいかどうか、メロはラスティスとこの夜、そう大した話は出来ずに終わった。ルーヴル美術館の絵の中ではフェルメールの『レースを編む女』が特に好きだとか、『モナ・リザ』は確かに名画なのだろうが何故か好きにはなれない……といったような、なんとも他愛のない会話だ。
 だがその中で、ただひとつだけ――確かにラスティスが<真実>を言ったと思った瞬間がメロにはあった。彼が恋人はいるのかと聞いた瞬間、ラスティスは確かにはっきりと目の色を変えた。そして、長い間を置いたあとで「いるわ」と答えたのだった。
「今、彼は仕事でヴェネチアにいるの。その仕事が無事終わりさえすれば――もう一度会える。お互いのホーム・スイートホームでね」
「へえ……」
 普通に考えたとすれば、メロの役どころは<アテが外れた男>というものだったろう。そこでメロは少しがっかりしたという風に演技をして、席を外すことにした。ほんの僅かではあるけれど、確かに収穫はあった。メロは色恋沙汰というものにまったく興味はなかったが、それでもこの時ひとつのことをはっきり確信したのだ――カイ・ハザードという男はおそらく、ラスティスの恋人なのだろうと。





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【2008/04/11 14:25 】
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