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探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(4)
   探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(4)

          Side:M

 メロはラクロス・ラスティスを追って、フランスはパリ――リュクサンブール公園の近くにある、アパルトマンに滞在していた。ニューヨークのケネディ国際空港からラスティスがパリのシャルル・ド・ゴール空港へ到着した時――そのロビーには、アンドレ・マジードと思われる男が迎えにきており、ラスティスは彼とドイツ語でずっと何かを話している様子だった。
 もちろんメロは、英語と同じくらい流暢にドイツ語もフランス語も話すことができたわけだが――いかんせん、距離的な問題により彼らが何を話しているかまでは、はっきりとはわからなかった。唇の動きを読むのはもちろん容易いが、あまりじっと見つめてばかりいると、向こうに尾行しているのがわかる怖れがある。
 アンドレ・マジードは、五十三歳の傭兵稼業を生業としている男だった――ー応、表向きは。裏の顔は紛争解決屋とでもいえばいいのか、とにかく世界中の戦争の現場へ顔をだし、テロリストとも色々な深いネットワークを持つ人物として知られている。
 当然、アメリカのCIAなどからも重要人物としてマークされており、彼がネゴシエイターとして間に入って解決した問題があまりに多いことから、今回のイラク戦争でも彼は随分活躍の場を与えられていた。まず、テロリストと底の深い太いパイプを持つことができているのは、彼がアラブ系の血を引いた、イスラム教徒だからだろうと言われている……他に、傭兵としてベトナム戦争やフォークランド紛争、ユーゴの内紛などに参戦した経歴も持ち合わせている。メロは空港で彼の浅黒い、皺の深く刻まれた精悍な顔を見るなり――(一筋縄ではいかない相手だ)と、すぐに直感した。
 おそらく、生身で戦ったとすれば良くて五分、悪ければマジードのほうが圧倒的な強さでもってメロのことをねじ伏せるだろう……その上、ラスティスは炎を操るという超能力を持っている。メロはラスティスとイラクで一度顔を合わせているということもあり、尾行していることを絶対に勘づかれるわけにはいかなかった。
 メロにとってこの時一番幸いだったのは、アンドレ・マジードがすぐにラスティスのそばを離れたことだろうか。彼はリュクサンブール公園にあるアパルトマンまでラスティスのことを案内すると、その後パリから姿を消してしまった。マギー・マクブライド大佐の話によれば、ディキンスン少将にラスティスのことを紹介したのもマジードらしい……となれば、考えられることはただひとつ。戦争の残酷さというものを知り尽くしている平和主義者のマジードは、<超能力>によって世界平和を実現したいと考えているのではないだろうか?
 メロがそうLへ報告すると、マジードの今後の動きについては、<F>に調査を続行するよう命じるつもりだと、すぐに返事がきた。Fというのはおもにワタリの下について、色々と辺鄙なところで仕事をしている<L>の部下のひとりである。メロやニアのようにコイルやドヌーヴといった探偵の称号は持たないまでも、とても優秀な捜査員だと聞いている(メロ自身に直接の面識はないのだが)。
(さてと、どうしたもんかな)と、メロはアパートの窓から、ラスティスのいる一階の窓を眺めた。フランス式にいえば一階というのは、この場合二階のことだったわけだが――メロは彼女の住むアパートA棟の向かい側にあるB棟の二階に居を定めることができていた。それは幸運な偶然とも呼ぶべきもので、メロのいる部屋からは、A棟の人の出入りなどが丸見えだった。ラスティスはまず、朝の五時にバイクに乗ってパン屋へいき――焼き立てのパンを買ってきたようだった。そのあと、十時にまたバイクに乗って今度はルーヴル美術館へ。ダ・ヴィンチの『モナリザ』やフェルメールの『レースを編む女』など、ゆっくり鑑賞したのち、マルシェ(市場)で買物をして帰宅……。
 ラスティスの部屋は、ずっとカーテンを閉めっぱなしにしてあるので、中の様子はもちろんわからない。メロにわかるのは、せいぜい彼女の住む部屋の間取りくらいだった。B棟の三階の部屋を契約した時、A棟の間取りについて、コンシェルジュ(管理人)にそれとなく聞いてみたのだ。家具付きの2部屋ある室内で、メロのいるB棟よりも広く快適だとの話だった……メロのいる部屋は同じく2フロアあるのだが、家具は付いていない。A棟より家賃は安いものの、本当にここにずっと住むつもりならば、家中の修繕がまずは必要な感じのする部屋だった。
 まあ、なんにしても今メロにとって一番有難いのは、ラスティスの乗っているバイクのある場所が丸見えなことだろうか。彼女は移動にバイクを使うことが多いので、ほんの短い間目を離さざるを得ないことがあっても――バイクがあれば、彼女は部屋にいると考えて良さそうだった。
 そしてその翌日のこと……メロはC棟に住むコンシェルジュとラスティスが、アパートの前で何かを話しこんでいることに気づいた。何分、メロはイラクで一度顔を見られているため、ここは慎重を期する必要がもちろんあったのだが――虎穴に入らずんば虎子を得ず、の精神で、彼はふたりに何気なく近づいていった。
 アパートの管理人は、年金暮らしの年寄りで、少し耳が遠かった。その上ラスティスはあまりフランス語が流暢に話せないらしい……メロはここぞとばかり、彼女に近づいて「エクスキューゼ・モワ」と思いきって声をかけた。イラクで会った時のメロと、今のメロでは髪型など雰囲気が少し違っていたし――他人の空似として、何も気づかれないことを、彼は心から願った。
 最初の印象で、メロはラスティスが何も気づいていないらしいと感じ、ほっとして話の間にどんどん割りこんでいった。ようするに、彼女の部屋の水道の蛇口が壊れたので、修理を頼むにはどうしたらいいかということらしかった。管理人のギエム老人は、それならいいプロンビエ(配管工)を紹介しようと言ったが、メロは自分がただで直してやろうとラスティスにアピールした。
 ギエム老人はふたりの男女の間に恋の兆しを見てとったらしく、その後すぐに姿を消してしまったけれど――なんにしても、こうしてメロはラスティスに一歩近づくことができたというわけだ。




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【2008/04/09 16:55 】
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