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探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(1)
   探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(1)

 「ジェバンニ、リドナー、どう思いますか?」
 ロジェ・ドヌーヴこと、ニアはそう呟き、パリ十六区にある本拠地のアパート――実際には彼ら三人以外、誰も住んでいない――の一室で、モーターカーを走らせた。これは彼の手作りで、当然複雑なレールの部分も彼のお手製だった。
「例の招待状のことですか?」と、リドナー。彼女はCIAの優秀なケース・オフィサーで、ある事件がきっかけで<L>と知り合った。その後、任務の失敗が原因で組織内にいずらくなっていたところをLに拾われたと、そういうわけだった。
「ロジェ・ドヌーヴ=N、ということを知っている人間は、ほとんどいないことを考えると……情報が洩れたとすれば、ユーロポールの上層部じゃないでしょうか?<殺し屋ギルド>は、ヨーロッパ中のあらゆる警察機関と癒着関係にあるという噂は、あながち嘘ではないということなのでは……」
「そうですね……」と、ニアは片手でモーターカーを走らせつつ、もう片方の手では、くるくると髪の毛を巻きとっている。「ジェバンニはどう思いますか?これは明らかに敵方の罠と考え、万端の準備をして我々はユーロスターに乗りこまなければなりませんが……差し当たり、何か策のようなものはあると思いますか?」
「策、と言っても……」ジェバンニは言葉を濁らせた。自分の直属の上司であるニアにもし策がないとすれば、自分にあろうはずもない、彼はそう思った。「招待状には、ユーロスターイタリアの、19:18分発のものに乗れと書かれているだけです。そうすれば面白
いものが見れると……そしてヴェネチアに無事辿り着ければ、さらに面白いものを見せてやろうと言っています。これが一体何を意味するのか……」
「そうですね」
 ニアはもう一度、カイ・ハザードという男から送られてきた、例の<招待状>をスクリーン上で読み返した。パリ十六区にある高級住宅街の片隅に、探偵ロジェ・ドヌーヴが本拠地としているアパルトマンがあるわけだが、そこは本当にまわりの住宅地や風景に溶けこんだ、なんということもない白塗りの建物だった。一見してみると、大きな庭つきの一軒家のように見えるが、アールヌーボー調の銅製の門をくぐると、いくつものドアがその家についていることがわかる。そこで初めて人は、ここが個人の住まいではなく、アパートであることを認識するのだった。
 三階建ての建物は、フランス式にいえば三階がジェバンニとリドナーの私室兼仕事部屋、一階のすべてが、ニアの私室兼おもちゃ部屋、そして今三人がいる二階中央にある部屋が――モニタールームとなっていた。そして今ニアは、その部屋――百以上も液晶画面の並んだモニタールームで、カイ・ハザードが送ってきた招待状を読んでいたのだった。

『探偵ロジェ・ドヌーヴ殿
 貴殿におかれましては、ご機嫌麗しくあらせられることでしょう……この度は、我々の開催するパーティへ出席していただきたく、この招待状を送付させていただきました。
 もし貴殿に我々主催のパーティへご出席願えるなら、19:18発のESスターでヴェネチアまでお越しください。さすれば面白いものが見られますゆえ……また、ヴェネチアへお越しの際には、もっと面白いものを拝見できるものと、期待しておいていただきたい……その我々が<見せたいもの>にきっとあなた様が興味を抱かれることを、心から期待しております。

                                                χ・ハザード』

 ESスターというのはもちろん、ユーロスターイタリアのことである。時刻表を調べてみたところ、確かに19:18発のものがある。しかしながら、その時間の便はすでに満席であることもわかっていた……ニアは(何かある)と直感しつつ、プラチナブロンドの髪をくるくると巻きとった。
(カイという自分の名前を、あえてχと表示していることに、何か意味はあるのか……χというのは、キリストの頭文字だが、救世主を気どって自分たちの超能力で世界を救おうとでも考えているのだろうか……?)
「この<我々主催のパーティ>というところが、なんとなく気になります」と、リドナーがスクリーン上のその箇所に、赤い線を引きながら指摘した。「少なくとも、敵はひとりではないということ……<L>から聞いたとおり、仮にもし敵の頭目が十二名いた場合、この青年はそのうちのひとりということですよね。さらに他に、最低でも十一人何か特殊な力を持つ人間がいた場合……ESスターという密室空間にこのままのこのこ乗りこむのは危険だといえます。わたしが考えるに、おそらく発車時刻より少し前に座席がいくつかあくものと思われますが……その<密室>という空間を利用して、彼らは邪魔な探偵のロジェ・ドヌーヴを消そうとしている、そう考えるのが妥当ではないでしょうか」
「まったくそのとおりですが、この場合はまあ、危険を承知であえて乗りこむ必要があると、わたしはそう考えています。ただ、その危険にあなたたちまで巻きこむのはどうかとも思いますので、怖ければここに残ってくれて結構ですよ」
「いや、でも……しかし……」と、ジェバンニが言葉を濁らせていると、リドナーが先にきっぱりと言った。
「わたしはニアについていきます。<L>には、CIAという組織で、居心地が悪くなっていたところを救ってもらったという恩がありますから。そしてその<L>がわたしにニアの護衛と助手という役を任せてくれた以上――いただいている給料並みの働きはしたいと思っています」
「そうですか。でも、相手は超能力者ですよ?なんでも、イラクで特殊任務についていた女性は、発火能力を持っていて、自在に炎を操れるという話でした……アメリカ陸軍が彼女に五百万ドルもの大金を支払った以上、その能力は本物と考えて間違いないでしょう。このユーロスターのヴェネチア行きは、言うなれば死の列車――下手をすれば我々を待ち受けるのは<死>以外の何ものでもありません。その覚悟があるなら、ジェバンニもついてきてください」
「はい、もちろん……あの、でもちょっとドキドキしますよね。超能力者なんて……僕、実は結構そういう話好きなんですよ。スティーブン・キングの『キャリー』とか『ファイア・スターター』とか。確か『X-ファイル』にも自然発火現象の話がありましたよね?そういう力を持つ人のことを、パイロキネシスって言うんでしたっけ?」
 なおもオカルト現象について、うんちくを語ろうとするジェバンニのことは無視して、リドナーは早速部屋を出ると、旅仕度をはじめた。この奇妙な職場で働きはじめて、一年近くになる――ニアは十六歳の少年とは思えないくらい優秀であり、自分の上司として申し分ないと彼女は考えていたが、一緒に働いている同僚――ステファン・ジェバンニには、正直いって辟易していた。彼は超のつくオカルトマニアで、口を開けば『ナスカの地上絵』の謎がどうの、『イギリスのストーンヘンジ』がどうの、果てには妖精は本当にいると思うかと、真顔で自分に訊ねてくる始末だったからだ。
「妖精はね、この世に妖精なんかいない!って誰かが叫ぶと、死んでしまうんだそうよ」
 と、その時リドナーは答えていたが、それが失敗だった。以来、ジェバンニはリドナーのことをオカルトのロマンがわかる人間として認識し、色々一方的に話をするようになっていたからだ。
(まあ、ドヌーヴがオカルト探偵なんだから、仕方ないといえば、仕方ないのかもしれないけど)
 リドナーは2フロアある広い室内で、スーツケースに必要なものをすべて詰めこむと、エレベーターで二階へ上がっていった。偶然そこで、同じように旅仕度のすんだ同僚と一緒になり、片手にコート、片手にスーツケースを持った格好で、同時に乗りこむ形となる。
(あーあ、ジェバンニも顔だけは結構いいのにねえ)と、リドナーは溜息を着きたくなった。最初にニアから彼のことを紹介された時、「ちょっといいな」と思ったけれど、それはのちに彼女の中で「口さえ開かなければいい男」というように評価が変わっていた。
「あの、謎の超能力者集団なんて、なんだか冗談みたいな話ですけど……でも、安心してください。リドナーとニアのことは、僕が命に代えてもお守りしますから!!」
「…………………」
 あらそう、と軽蔑したように言いかけて、リドナーはやめた。彼の際限のないオカルト話にはうんざりさせられるけれど、こういう時、年下の男っていうのも悪くないかなと、ちょっとだけ思うリドナーなのだった。

「……どちらが先に、<殺し屋ギルド>とやらの十二番目の首領に辿り着くことになるのか――競争ですね」
 百以上ものモニターが並ぶ、無機質な部屋で、ニアは誰かと話をしていたようだった。おそらくLかワタリ……というようにリドナーは見当をつけていたが、ニアが話をしていたのはメロだった。
「では、行くとしますか」と、キャスターのついた椅子からニアは無造作に立ち上がっている。その片手にあるのは、お気に入りのロボットだった。なんでもその昔、<L>がプレゼントしてくれたものらしい。
「あの、外は寒いですよ」ジェバンニがまるで、保父さんのように心配顔をして言う。「それに、いつも着てるその服はパジャマっぽいですから……何か他の服に着替えたほうが」
「すみませんが、ジェバンニ。わたしはこの服以外のデザインのものを着ると、推理力が40%減です。そういうわけで、このまま行くことにします」
 そうですか、とジェバンニが聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。リドナーは思わず笑いそうになったが、なんとかこらえた。
「大丈夫ですよ。どうせタクシーに乗っていくんですから……ドゴール空港から、ローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ空港へ移動し、そして例のESスターに空席が出るのを待つ……ホテルはどこか適当に良さそうなところを予約しておいてください。最上級のスイートで構いませんから」
「わかりました」と、リドナーは実務的に答え、ジェバンニはふたり分のスーツケースを持って先に下へおりた。タクシーがきたら、まずはそれをトランクに積みこまなければならない。
 ニアは探偵ロジェ・ドヌーヴの本拠地に、ぬかりなく何重もの電子ロックをかけ――そもそもこのアパルトマンはどの部屋も、指紋と声紋と網膜照合が一致しなければ入れないようになっている――リドナーとともにエレベーターへ乗りこんだ。一見してみると若いお母さんとその息子、というように見えないこともないが、リドナーはニアの精神年齢を百歳であると思っていたし、そういう意味では年配の人間に対するのと同じような尊敬の気持ちを彼に持っていたといえる。そして彼がこの時、エレベーターの中で意味深な発言をしたのを、彼女はその後もずっと忘れずに覚えていた。
「もしかしたらここへは、もう戻ってこれないかもしれませんね……」
(え?)とリドナーが思ったその時、エレベーターが開いた。エントランスホールのワンサイドミラーの向こう側には、一台のタクシーがワイパーを回転させながら待っている。
 秋の冷たい雨の中を、ニアは自分で歩いてタクシーに乗りこみ、ぎゅっと合金のロボットを胸に抱いた。
(L……もしかしたらわたしは、今回の戦いで死ぬかもしれません。それでも、あなたの役に立てるような情報を残せればいいのですが……)
 ニアにとって死ぬということは、少なくとも最悪のシナリオではない。自分の残したものの中から、おそらく<L>が何かを得、<殺し屋ギルド>のことを壊滅へ追いやってくれるだろうからだ。だが、有益な情報を何も残せないというだけでなく、催眠術師の罠に落ち、自分が<L>について知っている情報を洗いざらい話してしまう可能性がないとは言えない……。
(あの時、通信に出たのがメロでよかった。そうじゃなければおそらくLが――ロジェ・ドヌーヴとしてESスターへ乗りこもうとしていただろう。何故Lがロジェ・ドヌーヴをオカルト探偵として立てたのかには、諸説あるようだが……インターネット上のドヌーヴのサイトには、ある仕掛けがある。その仕掛けを解いた者だけが、ドヌーヴに正式に依頼ができるようになっていて、他のサイト上のデータはすべて上辺のものでしかない。そしてLがもっとも情報として欲しているのが未確認飛行物体――ー般にUFOと呼ばれている存在の情報だ。何故Lがそんな情報ばかりを欲しがるのか、最初は不思議だったけれど……あともう少しでLの真の目的を知ることができそうな今になって、死ぬかもしれないとは。最悪、このロボットの中に仕込んである爆弾を爆破させ、わたしの頭の中にあるデータの流出だけは何があっても防がなくてはならない……)
 シャルル・ド・ゴール空港へ到着すると、ニアは、搭乗手続き等をすべてジェバンニに任せ、空港のロビーでリドナーとともにローマ行きの飛行機の出発時刻を待った。パスポート等にはニアの本当の名前は記載されていない。それはリドナーやジェバンニも同様で、そのくらいのことをしても警察に捕まらない権威が<L>にあるということだった。
 シャルル・ド・ゴール空港からローマのフィウミチーノ国際空港まで、約二時間……ニアはエール・フランスの機上から、アルプス山脈を眺めながら、考えごとを続けた。スチュワーデスが持ってきた飲み物に少しだけ口をつけるが、それ以外は何も食べなかった。
「ニア、昼食がまだでしたよね。少しくらい何か胃に入れておいたほうが……」
「いえ、わたしはいいです。遠慮なく、ふたりだけで食べてください」
 ファーストクラスの座席から、隣のふたりにニアはそう声をかけた。もともと彼は偏食で、一日の食事の摂取量が極端に少ない。時々リドナーとジェバンニは、それなのにどこから彼の頭脳を回転させる力が湧いてくるのかと不思議になるくらいだった。だが、食べたくないというものを無理に食べさせるわけにもいかず……彼が本当に何かを<食べたい>という時には、それこそ最上級のものをと、ふたりは心掛けているのだった。
 ニアには、Lやメロのように甘いものやチョコレートといった、何か特定の食べ物に対する執着はない。ラケルが彼に食事を作っていた時も、彼はすべてのものをちょっとだけ食べては、残りをほとんど返して寄こした。好きな食べものや嫌いなものを聞かれても、「特にありません」としか答えないニアに、ラケルはなんとかバランスのとれた食事をさせようと考え――そして最終的に成功したのが<お子様ランチ>だった。
 チキンライスの上に小さなイギリス国旗が立っているのを見た時、ニアは(よくわかったな)と、正直そう感じた。残念ながら、ファミレスでついてくるようなおもちゃまではなかったけれど、その時初めてニアはラケルという女性に対して(思ったより、馬鹿ではないらしい)と考えをあらためることにしたのだった。
 お子様ランチというものは、実は結構手間のかかるメニューである。色々な種類のものをちょっとずつ、トレイの上に用意しなければならないからだ。だが、ニアは「本当に美味しいものをちょっとずつ」食べるのが好きだったので、ラケルの作るお子様ランチは珍しく完食した。その時彼女が泣いて喜んでいるのを見て、ニアが困惑したのは言うまでもない。
(Lと一年近くも一緒にいてなんともないということは……この先もおそらく彼女はLとうまくやっていけるということなんでしょうね)と、ニアは暇つぶしにつまらないクロスワードパズルを解きながら、軽く溜息を着いた。Lから、「わたしたちは結婚することにしました」と聞かされた時、ニアは一体なんの冗談だろうと思ったものだ。自分とメロの馬鹿げたゲームをやめさせるための口実としか思わなかったし、Lとラケルの間に男女間の恋愛感情がないことなどは、端で見ていても明らかだったからだ。
(Lは一体、どんな魔法を彼女に対して使ったんでしょうね)クロスワードの空欄を、フランス語で埋めていきながら、ニアは考える。ラケルが、政治・哲学・経済学担当のワイミーズハウスの教師のひとり――ケンブリッジ卒のアンダーウッドという男から、プロポーズされていたのをニアは知っていた。そのことについて軽く探りを入れると、ラケルは「彼はいい人すぎるから」というようなことを言った。その基準でいくと、Lは「あまりよくない人だから良かった」ということになるのではないだろうか?なんにせよ、たかだかケンブリッジ卒の二流の馬鹿にラケルをとられるくらいなら、少なくとも自分が<上>であると認める相手――Lと彼女がくっついていたほうがまだしもいい、そうニアは思っているのだけれど。
(最後に彼女に会ったのは、半年ほど前のことになりますが、その時彼女は幸せそうでした……まあ、ラケルのことはLに任せておけばいいとして、わたしは……)
 自分が死なないための最良の策を練らなければならない、そう考えながらニアは、イタリア・ローマのフィウミチーノ空港――別名レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港へと降り立ったのだった。



 
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【2008/04/05 16:51 】
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