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探偵L・アメリカ編『マンハッタンの枢機卿』~第19章~
探偵L・アメリカ編『マンハッタンの枢機卿』

          第19章

「おかえりなさい、メロちゃん!」
 ジョン・F・ケネディ国際空港からLの滞在しているホテルまで直行したメロは、ドアストッパーが掛けられているスイートルームの前までくるなり、ラケルに抱きしめられた。彼女はLからメロが帰ってくることを告げられてからというもの、いてもたってもいられなくなり、ずっとそわそわとドアの前をいったりきたりしていたのである。
「……あのなあ。危ないだろう、わざわざドアストッパーまでかけて俺がくるのを待ってたりしたら。第一ラケルはともかくとしても、Lがここにいるっていうことの重要性がどれほど大きいかわかってんのか?」
「Lがそうしてもいいって言ったんだもん。だからいいの。まったくもう、メロちゃんはパパっ子なんだから……」
「パパっ子って……」
 なんだそりゃ、と思いつつメロは、ドアの脇にあったコンソールテーブルの上に荷物を下ろすと、扉をぴったり閉めた。白と金とパステルカラーを基調とした、ロココ調の室内にあるソファに、Lがいつもの座り方で腰かけているのに気づく。
「おかえり、メロ。大変な任務、ご苦労さまでした」Lは金彩の施されたロイヤルブルーのソファから立ち上がり、メロに向かって深々と頭を下げている。「イラクはどうでしたか?」
「うーん。なんとも言えないな」と、メロは我が家へ帰ってきた時のような安堵の吐息を軽く洩らし、Lの向かい側の肘掛椅子にどっかと腰掛ける。「なんかこう一言じゃあさ、うまく説明できないって感じかな。とりあえず証拠のビデオや写真、兵士たちが家族や友人に送ったメール、その他捕虜と囚人の聞きとり調査と一揃いセットで持ってきたけど、俺には結局よくわかんないな。『おまえらのやってることは間違っている』って言って粛正するのは簡単なのかもしれないけど……むしろどっちにも同情したくなったっていうかさ。両方の敵はワシントンにあり、みたいな何かそんな感じかもしれない」
「そうですか。でも悪いことは悪いこととして、正されなくてはなりません。メロが摂氏四十度の世界でチョコレートに飢えている間、エアコン完備の部屋で甘いものをムシャムシャ食べていたわたしが言っても説得力ないかもしれませんが……」
「べつにそんなことはいいけどさ」と、メロはテーブルの上にのっていた、チョコレートケーキのひとつに手をのばす。「例の刑務所の報告書は明日にでもまとめて形を整えるにしても、それをLはどうするんだ?国連にでも提出しようってのか?」
「ええ、実は……わたしにアブグレイブ刑務所で組織的に行われていたであろう虐待の証拠写真を送ってきたのが誰か、身元が判明したんです。相手はイラク開戦直後にCIAを首になったライアン・ロックハートという男で、今はジャーナリストに転職しているんですが、何故この一大スクープといえる記事を書かなかったのかと聞いてみたところ、どうも上層部から圧力がかかることを怖れたらしいんです。その記事を彼が書いてしまえば、今後ライアンはCIAにマークされた揚句、はっきりそれとはわからぬあらゆる方法で記者生命を断たれることになったでしょう。以前諜報員として所属していただけあって、CIAがどれだけ裾野の広いおそろしい組織かというのは、ライアン自身が一番身を持って知っていることです。そこでまあ、以前一緒に仕事をしたことのある<L>という存在を思いだしたと、そういうことだったようですね」
「じゃあ、あのオトボケ大統領の日記帳は誰がLに送ってきたんだ?」
「それも大体、見当がついています……といっても、最終的な確認はまだなのですが。まあ、今日はせっかくメロがこうして無事帰ってきたことを祝う、慰労の会でも開くことにしましょう。ラケルが腕によりをかけて、随分美味しい御馳走を肉中心に作ったみたいですよ。今日は一日肉々肉々……最後には自分の作詞作曲による『肉の歌』まで作って料理をしていたようです」
「ああ、それがあれなのか……」
 メロは呆れたように、♪今日は一日肉々肉々、とってもじゅーしー、アイラブお肉……といった内容の歌を歌いながらラケルがキッチンに立つ姿を眺めやる。エレベーターを最上階で降りた時から、ストッパーのかかったドアの隙間からはそこはかとなく料理の良い香りが漂ってきていた。それにケーキを焼く時の甘い匂いも。今はまだ九月で、クリスマス商戦すらもはじまってはいなかったけれど――その七面鳥の焼ける匂いとケーキの甘い香りは、間違いなくクリスマスのものだった。
「まあ、ラケルには彼女独自の妄想の世界があるようですから、たまにはそれにつきあってあげるのも、継母孝行というものです」
「継母孝行ねえ」と、メロは大理石のマントルピースに目をやり、その上に自分の写真が一枚、フレームに入れられて飾られているのに気づいた。
(これか。Lの言ってたチョコレートのお供えってのは)
 縁起でもないな、そう思ったメロは写真立てを伏せ、その前に置かれていたチョコレートを早速とばかり貪り食べた。そして、ラケルが以前に言っていた、里親にプールで殺されかけたことがあるという話を何故か思いだす。
(そうか……なんだ、ようするにそういうことか。単にラケルは自分がその親にしてほしかったことを今自分がやってるっていう、それだけなんだ。でももし彼女が俺のようにどこか歪んだところのある人間だったら、無償でなど他人に何か与えようとはしなかったに違いない……俺もLもニアも、大体においてギブアンドテイクの思考法しかしないが、ラケルは違う。人間っていうのは余計に搾取されすぎると、そのあとふたつの態度しかとらないものだ。相手に対して余計に与えるようになるか、あるいは自分も非常な取立人のようになるか……)
「メロちゃん、ごはんの前にはチョコレート食べちゃ駄目だって、いつも言ってるのに!」
「へいへい」と、メロは銀紙をくしゃくしゃに丸めて屑籠に捨てると、ダイニングキッチンのテーブルに座り、ササミのサラダなどを適当につまみ食いしはじめた。
 Lも珍しくラケルの『家族ごっこ』につきあってあげようと思ったらしく、<家長>席に着いている。なすとニョッキのクリームミートグラタンに、六種類のチーズにコーンとソーセージを入れて焼いたピザ、ハンバーグドリア、海老と若鶏のペンネグラタン、ベーコンポテトパスタ、コーンクリームスープにポテトフライなどなど……ラケルは珍しく「お肉だけじゃなく、野菜も!」などと口うるさく言うこともなく、メロが一皿一皿片付けていくのを、幸せそうに眺めていた。
 一方、Lはといえばアップルパイにメープルシロップをかけて食べたり、いちごのガトーフレーズを貪ったり、抹茶のプリンに舌鼓を打ったりと、ラケルが料理熱の余熱で作ったようなお菓子の数々を食べ終わると、げっぷをしながら席を立っていた。
「わたしはちょっと、メロが持ってきてくれた資料の分析をしたいので、あとは親子水いらずで仲良くやってください」
「やだもー、Lってば親子だなんて。メロちゃんは十七歳でわたしは二十四歳なのに……年が近すぎだってば!」
 ラケルは嬉しそうに両手で自分の顔を挟むと、くねくねと体を揺らしている。
(何かが違うような……)とメロは思いつつも、彼もまた食事を終えると席を立つ。
「それじゃあ、俺も色々説明したいことあるから、Lと一緒に仕事するよ。ラケル、サンキューな。メシ、本当にうまかった」
 ラケルは大量に空になった器とともにダイニングキッチンへひとりとり残されたにも関わらず、今度はるんるんと後片付けの歌まで作詞作曲しはじめている……Lとメロには彼女の脳の構造のようなものがまったく理解できなかったが、とりあえず文句を言われないうちはこれでいいのだろうと思う。もしそのうちにいつか、こんなに美味しいものを作り続けた代償を、自分は少しも返してもらったことがないと彼女が言いだしたとしたら――少なくともメロもLも「そんなことをしてくれと頼んだ覚えはない」と言うことはできないと、そう感じてはいるのだけれど。
 もっともラケルにしてみれば、メロがイラクから無事戻ってきてくれたというそれだけで爆発しそうなほど嬉しかったのであり、その<幸せの価値>に比べたら、山のような食器の後片付けなどはどうでもよいことであった。もはや彼がイラクへいくべきだったのか否かというLとの言い争いのことなども忘却の彼方であり、もし仮にLが「ほら、無事に帰ってきたでしょう」と意地悪くあてこすりのようなことを言ってきたとしても、ラケルは全然気にしなかったに違いない。
(……なんだかちょっと、前より大人っぽくなったように感じるのは気のせいかしら?)
 可愛い子には旅をさせろっていうのは本当なのかもしれない、などとこの場合にはあまり適当でない諺まで思いつく、平和なラケルなのだった。



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【2008/02/28 15:19 】
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