スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】
スポンサー広告
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(29)
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(29)

(さようなら、L。わたしの可愛い子……)
 ラファエルはLのことを見送ったあと、再びカインのいる部屋へと戻った。ミカエル・ナンバーのアンドロイドは神経ガスによって眠るようにその活動を停止させていたし、ガブリエル・ナンバーとルシフェル・ナンバーにしても、その全員が化学薬品の注入によって同じ運命を辿った。それは完全な<死>ではないにしても、大体のところ似たようなものであるといえる。
(最後は、わたしの番ね……)
 水槽に浮かぶ、グロテスクな灰色の脳味噌を指でなぞり、<彼女>は優しく我が子に向かって微笑んだ。そして彼が幼い時、まだローライト一家が幸せだった頃の思い出話をいくつかした――そう。<彼女>は今、普段表層意識にでている「ラファエル」とは別人だった。
「ねえ、カイン。あの頃は本当に楽しくて、良い時代だったわね。お父さまと三人で、時々は地上の国々を旅行することもあったし……とても幸せだったけど、きっとその時からすでに何かが間違っていたんだわ。でもあなたには罪はないの。それはね、お父さまとお母さまがあなたのために半分ずつ、受け持たなくてはいけないことだったのよ。でもあの人は、死んでしまった。他でもない<わたし>が殺してしまったのよね」
「ラファエル」は時々、極上の夢を見せるこの睡眠装置が、正常に作動しているかどうかをチェックするために、マスターであるカインの脳を水槽から取りだして入念にチェックしていた。そして脳に電極をさし、彼が見ている夢の内容を映像化したものを、覗き見るのである……カインが眠りについたのは、今から十二年ほど前のことだったが、そろそろ運命のあの瞬間が彼の人生に襲いかかるはずだった。いや、このドリーム・マシンはもしかしたら、彼に可愛い弟が生まれるという設定を用意するかもしれないが、結局のところカインはその時点から人生をやり直すというより、そこで死ぬということになるだろう。
 イヴはそのことを思うと、たまらない気持ちになり、涙を流したが、それは人間の涙に似せた成分が、両方の瞳から流れでただけだともいえた。そもそも、自分とは誰か、<わたし>とはなんなのかという問いに対して、イヴは答える術を持たない。ただ覚えているのは、「ラファエル」がマスターであるカインが眠りについた時――深く傷つきショックを受け、ひどい絶望状態、人間でいうところの鬱状態に陥った時に<自分>が生まれたということだけだった。
 気の狂った母親の脳を、もう一度他の人造人間などの脳と入れ替えてみたところで、その頭が精神病から回復する見込みは低い。それでもカインは母であるイヴの肉体に強い執着があったため、その脳を自分のもっとも愛するしもべであるラファエルの中へ埋めこみ、残りの遺体については引き続き冷凍保存しておいたのである。
 もちろん、ラファエルがカインの母親のイヴの人格を有することはなかったわけだが――それでもそうすることで、カインとラファエルの互いに対する信頼度や愛情といったものは増したし、ついにはイヴの意識が二重人格のような形で発症するまでになったのである。
 つまり、いつもはイヴは「ラファエル」の行動をただ見守っているだけであり、彼の見るものを見、触ったものの感触などを同じように共有しているだけにも関わらず、それでも時々、今のようにイヴの人格がラファエルを押しのけて、外へでてきてしまうということがあるのだ。
 イヴは先ほどLが、「自分が彼女のことでどれほどつらい負い目を負ったか」と言った時、思わず涙がでそうになった。その時はまだ彼女はラファエルの意識の深層に閉じこめられたままではあったが、彼らの話す言葉は聞こえていたし、ラファエルの目を通して、Lがどんな姿をしているのかもわかっていた。
 Lは彼女の夫にも、カインにも、また自分にも当然似ていなかったが――それでも、赤ん坊の彼を妊娠していた時のことを、イヴは今もはっきりと思いだせる。彼女はいまではすっかり正気に戻っていたが、自分の頭がおかしくなりはじめたのは、彼を妊娠して三か月目くらいの頃だったことを思いだす。
イヴの頭がおかしくなった直接の原因、それは<夢>だった。毎夜のように悪魔のようなおそろしい存在が現れては、この子は生まれてはいけない子供なのだといった。もし生めば、地上に災いをもたらし、赤ん坊を身ごもったおまえの腹をも引き裂くだろうと……悪夢は毎日のように続き、彼女はやがて眠れないようになり、朝と夜の区別がつかず、やがては現実と夢の境目がわからなくなった。
 でも結局――「自分はどうなってもいいから、この子のことを助けてください」と夢の中で彼女が祈った時に、光が生まれ、そして同時に闇が生まれた。どうもお腹の赤ん坊は助かったようだけれど、そのかわりにおそろしい悪魔のような存在が、彼女の肉や骨をかじり、再びその部分が再生するのを待ってから、そこをしゃぶるということが繰り返された。
「あんな子供さえ生まなければ、いなければ、わたしは今ごろこんな目に合わなくてよかったのに……っ!!」
 そう叫ぶと、悪魔のような存在たちはとても嬉しそうに喜んでいた。そして「自分はどうなってもいいんだろう?あの美しい高貴な心はどこへいった?」と勝ち誇ったように嘲笑うのだった。
 その夢は現実としか思えないほどリアルではあったが、ただひとつ、彼女にも救いのようなものはあった。視覚・聴覚・触覚といったものは生々しいほどはっきりしているのに、唯一痛覚のみは失われているので、悪魔どもに生贄として食われても、痛みのようなものはまったく感じないということだった。それでも、痛みもなく自分の手足が失われ、それをなす術もなく無力に見守るしか方法がないというのは、相当に気味の悪いことである。これはまったく同じことを経験した者でなければわからないことだろうと、今も彼女はそう思う。
 だが、自分の愛しい息子が彼女のことを殺した時、イヴはそうした悪夢のすべてから解放された。「お母さん、お母さん……っ!!」と言ってカインが彼女の首をぐいぐいと締めて寄こした時――その最後の一瞬に、イヴは優しく息子に向かって微笑みかけていた。坊や、これでいいのよ、と。
 そしてその次に彼女の意識が覚醒したのは、<ラファエル>の中でだったのだ。その間の記憶がまったくないということは、おそらく自分は悪魔どもの生贄とされることもなく、ただ<無>と呼ばれる空間にいたのだろうと、イヴはそう思う。最初のうち、自分はまた新しく、奇妙な夢を見ているのかと彼女は思っていたが、自分が生んだもうひとりの子が生きており、無事に成長していると知った時には嬉しかった。
(本当は、最後のあの瞬間、あの子を思いきり抱きしめてあげたかった……でもそんなことを今更してもなんにもならないわよね。本当はあなたを生んだ人は、あなたのことを守りたかったのよ、愛していたのよって伝えてあげたかったけれど……)
 そして、でも、とイヴは思う。Lのことよりも、今は自分と血の繋がったカインのほうが、ずっと不憫で哀れだと。
彼女はモニターでリリスの状態や全エデン内のアンドロイドがどうなったかを確認すると、最後に愛しい息子の生命維持装置のプラグを抜いた。
「大丈夫よ。きっと全然怖くないわ……お母さんが一緒に死んであげるからね、カイン。わたしの可愛い子……」
 ――カインはこの時、夢を見ていた。生命維持装置が作動しなくなってからも、彼は夢を見続けた。そしてそこで、死んだはずの母親と会った。彼女は腕の中に小さな赤ん坊を抱いていて、彼にとって初めての弟の顔を、少しかがんで見せてくれたのだ。
「この子の名前、なんにしようかしらね?お父さんも一生懸命考えてるみたいだけど、カインも一緒に考えてみる?」
「うん!!お母さんがイヴで、僕の名前がカインだから、この子のことはアベルって名づけるといいと思うんだ。でも僕、この子がおっきくなって僕より成績がよくっても、そのことを嫉んだりなんかしないよ。聖書のカインみたいにさ」
「まあ、カインったら……」
 ――彼の見続けているこの夢が、果たして天上での第二の生と繋がっているのかどうか、それは誰にもわからない。



スポンサーサイト
【2008/10/03 15:55 】
探偵L・アイスランド編 | コメント(0) | トラックバック(0)
<<探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(30) | ホーム | 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(28)>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://paralleldeathnote.blog119.fc2.com/tb.php/138-5335295d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。