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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(25)
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(25)

<マスター>ことカインと自分を会わせるために、ここまでLのことを導いてくれたのは、ラファエル♯001だったわけだが、例のブラックホール発生装置のある場所までLを案内したのは、ガブリエル♯1017と♯1018だった。双子のようにそっくりな彼女たちに左右の脇を固められる形で、Lは死刑を執行される罪人が歩く道――いわゆる刑務所でいうデッドマン・ウォーキング――をゆっくりと進んでいった。
 そこはまたしても真っ暗な闇の道が続いていたが、途中で、水族館のように人工的な光の中を泳ぐ、熱帯魚のいる空間を通った。他にヒラメやエイやサメ、アザラシなど、その他おそらくは世界中の海にいるであろう、ありとあらゆる種類の海洋生物をLはそこで見かけた。先ほどカインの言っていた、地球の海底から噴出するメタンガスを抑えるための、珊瑚に似た新種の生物……それも存在しているのを見て、Lはカインがしていることを、正しいとも間違っているともいえないとあらためて思う。
 むしろ、今となっては彼を<神>に近い存在として認めてもいいとすら思ってさえいた。何故なら、人間というものはどこかで無作為に抽出されては生まれでるような、そうした存在であるし、その法則性のようなものは、神にしか理解できないレベルの問題だからだ。少なくとも、カインはそうした<神>と自分を同列に並べるような、マッドサイエンティストタイプではないようだった。何よりも、神というものは――人間がその存在を理解できないという意味あいにおいて、そもそもグロテスクな存在だともいえるのだ。以前にジェバンニがLの盾となって壊滅へ追いこんだ宗教団体も、神は宇宙人であると考えるのはいかにも馬鹿げて聞こえるだろうが、あながちその信仰対象は的外れともいえない部分がある。何故なら……たとえば、厚い緞子の向こう側に<神>と呼ばれる存在がいたとして、人間がその神の御姿を垣間見たとしたらばどうするか。その存在が、自分たちが考えるような見目麗しい光あふれる高貴な佇まいなど有しておらず、SF映画に出てくるグロテスクなエイリアンのような姿をしていたとしたら……?その姿を見た人間は、おそらく<神>を殺そうとするだろう。もとより、神がそのようなグロテスクな存在であるはずがないと否定したくなるだろう。逆に、他のいかなる神々しい物質的な存在が<神>としてあがめられたとしても、やはり人間はそれが自分と同じ『物質的な存在』であったとしたら、やはり何かの折に神を殺す機会を狙うはずである――ゆえに、神というものはあくまでも人間の目に見えない、また人間よりも高次の、霊的存在である必要性があるのだ。
 世界中の海洋生物の住む、広い水族館の中を抜けると、またトンネルのような暗闇の中へと突入し、そしてLは最後に、薄暗い部屋の片隅に、SL機関車の先頭車両にも似た、黒い鋼鉄製の装置が置かれた場所へ案内された。
 見ると、その前には手術台のようなものの上に横たわる、先ほどLが殺したカイン・ローライトのコピー人間がいた。Lは、絶命している彼の姿を見て、体に震えが走るものを感じる……(命には、命をもって償わなければならない)、たとえ彼がオリジナルのカインと同じ赤い血液を有していなかったとしても、やはりあれは殺人の罪にあたる行為だと、Lはそう自覚していた。
 今、Lの前にいて、ブラックホール発生装置を操作するための準備をしているのは、ガブリエル・ナンバー2体である。そう考えれば、より生身の人間の体に近い<彼女>たちを素手で倒すのは、難しいことではないかもしれなかった。だが……自分が逃げれば、メロたちは一体どうなるだろう?そして何より、Lはもう、これでいいと思っていた。カインは自分が想像していたよりも、人間としてある意味では器が大きく、Lがこれまで頭の中で考え抜いてきた事柄についても、よく理解しているのだ。短い時間ではあるが、少しの間彼と話してみて、Lにはそのことがよくわかっていた。ただ、自分が死んだところで、カインの最愛の母であるイヴは生き返るわけではなく、彼にしてみたところで、こんなこと程度で復讐心の炎がおさまるとも思えない……だがLは、そのこととは別に、今目の前で、天使のように美しい女性がふたり、自分が死ぬための装置の調整をしているにも関わらず――驚くほど冷静に落ち着いていた。何故なのかは彼自身にもわからなかったが、Lは心の内側に幸せと呼べるほどの平安を感じていたのである。
「では、これからわたしはヴァトナ氷河へ向かいますが……その前に、勝利のキスをしてくれませんか?」
 レイキャビクにあるホテルのスイートをでる時、Lはラケルにそう言った。彼女は泣きそうな顔をしてはいたが、実際には泣いておらず、それだけにどこか凛とした、儚げな表情をしていたと、Lはそう思い返す。
 そして、ラケルは猫背なLが突きだしている顔の額にキスし、目尻のあたりにも同じようにすると、Lの期待に反して、唇にだけはそれをしてくれなかったのだった。
「あの、口には……」と、Lが指をくわえながら不満げな顔をすると、彼女はこう言った。
「続きは帰ってきたら、ね。じゃないとL、このまま戻ってこないかもしれないでしょう?」
「そうですか。では……」
 Lはなんでもないようにドアを開けるふりをし、そして振り返ると、やや強引にラケルの唇を奪った。
「………!!L、これって反則じゃないの!?ずるいわよ、もうっ!!」
 ラケルがそのあと、ぽろぽろと透明な涙を流しながら自分を見送った時のことを思いだし、Lは胸が熱くなるものを感じた。(やはり、あの時ああしておいてよかった)と、自嘲気味に思うのと同時に、その時にラケルとキスをした感触が、まるでたった今彼女とそうしたとでもいうように、甦ってくる……そしてLは(不思議だな)と思った。もうほんの数分もしたとすれば、自分はブラックホール発生装置などという無常な機械にかけられて、死ななければならないというのに――Lが今思いだしているのは、ラケルの手のひらの温かさであるとか、彼女の胸とか太腿の、肌を合わせた時の柔らかさだった。何故今そんなことがリアルに思い浮かび、想像されるのか、自分でもまったくわからなくて、Lは思わず笑いそうにさえなる。
「わたし、お祈りしてるから……」
 エプロンの裾で涙をぬぐいながら、最後にそう言ったラケルのことを、Lは思いだす。流石にその時には、(神に祈っても祈らなくても、結果は同じですから、無駄なことはしないでください)とは、Lにも言えなかったのだ。そして、何か光のヴェールに似た、神々しいまでのそうした不可視の力が自分にたった今働いているのではないかと感じた。おそらく、キリスト教の殉教者たちも、今の自分と同じような気持ちで、死んでいったのではないかとLは想像する……そう。十字架上の主イエスが「あなたは今日、わたしとともにパラダイスにいます」と言った言葉は、決して嘘などではないのだ。
(ラケル……わたしはあなたに会えて、本当によかった)
 Lは今、もし彼女という人を知らなくて、自分がカインと対決していたらどうだったかと想像して、何故だかぞっとした。そうなのだ――ラケルと会う前までは、カインと直接顔をあわせる機会を持ち、結果として殺されるだろうことは、Lにとってただひたすらにおそろしいことでしかなかった。だが、それは何も失うものを持てない自分に対する、深い絶望でもあったのだ。<L>という探偵も、人並外れて優れた推理能力と情報収集能力というものを除いたとすれば、警察機関の人間などにとってはただの都合のいい捜査能力コンピューターだという部分がある。おそらく彼らは、自分と<L>を継いだ次の者とが入れ替わっても、まったく気づくことはないだろう……だが、Lという個人と全人格的に関わった数少ない存在のうち、とりわけラケルという女性は、その存在自体が彼にとって救いだった。
 そして、Lにも3500件以上もの事件を通して、多少なりともその心を救ったといえる人々がいる。うまく言葉にして説明できないにしても、今自分はそうした純然たる<救い>の力にとり囲まれていると、Lはそんなふうに神聖な気持ちにさえなっていた。
「お待たせしました、L。先にこの者の遺体を見本として処理するよう、マスターに言われておりますので……少し離れたところで、ご見学ください」
 ブラックホール発生装置の計器類などを調節していたらしいガブリエル♯1018が、底が見えないほど暗いように思えるその機械のドアを開き、♯1017と協力して、彼の遺体をそこへ放りこむ。そしてドアを閉め、鍵をかけると、スイッチを入れるなり、自分たちもまたそこから遠く離れた。
(これは……!!)
 ヴン……!!と、一瞬おそろしいような唸りをその装置は上げた。そして強い重力の波動のようなものが、数回にわけてLの体を駆け抜けていく。それはまるで、死者の呪いの声、その断末魔の叫びをLに連想させたが、たった数秒のうちに、カインのコピーの遺体が本当にブラックホールの中へ消え去ったのだとしたら……これはまるで悪魔のような機械だと、Lはそう思わずにいられなかった。
「さて、次はあなたの番です」
 ラファエル♯1017と♯1018が声をあわせて、まるで楽しいテーマパークを案内するような笑顔でそう言った。彼女たちにはおそらく、<死>の概念というものが存在しないのだろう。ゆえに、もしかしたら自分たちがマスターの命令でブラックホール発生装置の中へ入れと言われたとしても――彼女たちは「わかりました、ご主人さま」と答え、にっこりと微笑みながら死んでいくのかもしれなかった。
 Lは、ゆっくりと歩きながらブラックホール発生装置に近づいていったが、その時に考えていたのは、自分の死の恐怖のことなどではなく……自分が殺してしまったカインのコピーについてだった。Lはそこに、かつての自分の姿、ラケルのことを知らずに、より深い形での愛情を伴う人間関係というものを知らなかった頃の自分を重ねあわせていた。彼には果たして、カインのコピーとして生きるにしても、何か生き甲斐や真に誰かに愛情を感じる瞬間があっただろうかと思ったのだ。こんな、エデンという閉鎖された空間で、同じ顔をしたなんでも言うことを聞くアンドロイドに囲まれて暮らし――そして最後にはオリジナルである本体の余興を演じさせられて死んだのだ。
(カイン、やはりおまえのしていることは間違っている……!!)
 どうぞ、と両開きのドアをそれぞれが片手で開き、そして彼女たちはそこへLが入るようにと促す。そこを見てみると、確かにカインのコピーであった若い青年の姿は跡形もなく消え去っており、中には黒々とした闇のような暗い空間が存在しているのみだった。
(どうする……彼女たちをこの手で殺すか?カインのコピーを殺した時のように……)
 Lがブラックホール発生装置の中をずっと覗きこんだままでいると、「L、どうかお早く」と、♯1017がさらに促した。今、この場にラファエルとカインはいない……いや、おそらくはこの薄暗い部屋のどこかに設置された監視カメラを通して、今の自分の言動を見張っているに違いないが、彼の計算のうちには、Lが死を目の前にして往生際悪く抵抗するというシナリオも、必ず含まれているはずだった。
(ならば、それに乗ってみるのも、ひとつの手だ……!!)
 Lはそう思い、ブラックホール発生装置から顔を上げるなり、ガブリエル♯1018の顔にカポエラ蹴りを食らわせた。さらに返す足で、♯1017の鳩尾のあたりにも蹴りを入れてやる。
「動くな!!」
 まともに蹴りを食らいつつも、なお起き上がろうとするガブリエル♯1017と♯1018ではあったが、その声の主は彼女たちではなく、ラファエル♯001だった。<彼>はLに対して銃を構えており、おそらくはこんなこともあろうかと、マスターから彼のことを最後まで見張る役目を仰せつかったに違いなかった。
「撃ちたければ、撃ってくださって構いませんよ……先に頭蓋を貫かれて死ぬのも、このブラックホール発生装置とやらに入って死ぬのも、そう大差ありませんからね」
 どこか皮肉げにそう言うLのことを、ラファエルは数瞬の間黙って見つめていた。そして、「ラファエル様……」と言って、<彼>の庇護を求めるように側へやってくるガブリエル♯1017と♯1018に向かい、ラファエルは容赦なく発砲する。
 先に死んだのは♯1018だったが、的確に眉間を銃弾で貫かれている仲間を見て、♯1017は極度の恐怖を感じたのだろう。「ひっ!」と叫び声を上げて部屋のドアへ駆け寄ろうとする……だが、その彼女に向かっても、ラファエルは後ろから容赦なくその心臓を撃ち抜いた。
「これは、どういうことですか?あなたは一体……」
 Lは驚きのあまり、それ以上言葉が続かなかった。自分の声がどこか干からびたような響きを持っており、うまく舌がまわらないようにさえ感じる。
「L、わたしはあなたを死なせるわけにはいかないんです。何よりも、それが<マスター>の命令でしたから」
 一瞬、Lは珍しくも、呆気にとられそうになった。アンドロイドたちは全員、まったく同じ顔をしている――ということは、<彼>は先ほどまでエデンを案内していた、ラファエル♯001ではないのだろうか?あるいは♯002とか♯003とか……。
「わたしは、先ほどまであなたと一緒にいた、ラファエル♯001ですよ」と、婉然と微笑みながらラファエルは言う。Lの考えていることはすべて、<彼>にはお見通しなようだった。
「では、あなたの言うマスターとは?まさか、先ほどまでわたしと話していたカイン・ローライトは……」
「ええ、あのあとわたしがこの手で殺害しました。もちろん、彼にも選択肢はあったのです……もし彼があなたを赦し、さらにはあなたを生かし続けるという道を選んだとしたら、わたしも彼を殺すことはなかったでしょう。ですが、これも<マスター>の命令ですから、わたしにとっては仕方のないことです」
「……………」
 Lは黙りこみ、複雑な気持ちにならざるをえなかった。カイン・ローライトがラファエルにとってのマスターでないとするなら、彼にとってのマスターというのが何者なのか、今のLには見当もつかない。だが、まさかもしかしたらとの思いが、彼の心の内を掠める。
「では、これからわたしはどうしたらいいんでしょうか?さしあたって、わたしはあなたの言うとおりにする以外、道はないようですが……」
 自分が手にしている拳銃に、Lが視線を注いでいるのに気づいて、ラファエルはそれをポイと床の上へ投げ捨てた。危害を加える気もなければ、強制して言うことを聞かせようというわけでもないことのしるしとして。
「わたしについてきてください。これから、エデンの最深部――わたしが本当に<マスター>と呼ぶ人物に、会ってほしいと思います。何よりも、そのことが彼の唯一の願いでしたから……」
 Lはわけがわからないなりに、ラファエルの後について、また歩きだすことにした。先ほど、ラファエルの手によってガブリエル・ナンバーの者ふたりに身柄を任された時――Lは、確実にこれで自分は死ぬだろうと思った。うまく説明できないが、エデンへ来て以来、Lは彼から何か特別に庇護されているような、守りの力を不思議と感じていたのだが、その彼が<マスター>であるカインの言うなりとなり、冷酷に死刑執行人に自分の身柄を渡すのを見て、「これでもう自分は本当に終わりなのだ」とLは漠然と感じていたのだ。
 だが、その彼が再び、自分の味方となってくれたことに対して、Lは何故か嬉しいような気持ちになっていた。相手はただのアンドロイドであり、その行動の規範は、プログラムされたものに過ぎないとわかっているにも関わらず――それでも、Lはこのほんの短い間に、彼に対して<信頼>とも呼べる強い繋がりのようなものを感じていた。それが何故なのか、L自身にも最後までわかることは出来なかったけれど……。



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【2008/10/01 16:24 】
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