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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(22)
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(22)

(一体、何がどうなってる……)
 確か自分は、深さ60メートルはあろうかという、滝壷の中へ飛びこんだはずなのに――今Lがいる場所は、<エデン>へ来た時に感じたのとまったく同じ、原始の闇のようなところだった。しかも、おそらくは短い時間であろうとは思われるものの、自分は気を失っていたらしい。青緑色の大瀑布の中へ飛びこんだ瞬間までの記憶は確かにLにもある……だが、その大量の水の感触を感じようかという瞬間から、ブツリと記憶が途切れているのだ。
(このことのうちにも、必ず何かトリックがあるはずだ。もしや、あの花畑の花の匂い、あれは幻覚剤の一種で……)
 四方をまったく何も見えない闇に囲まれた状態――まさしく、一寸先は闇というのは、こうした状態のことを言うのであろう――でありながら、Lはパニックを起こすでもなく、冷静に思考し続けた。何故といって、これまで自分が<K>という男に味わわせられた、心の暗闇に比べれば、現実に視認できる闇というものは、Lにとってそう大したことではなかった。それに、探偵という職業柄、人間という生き物の心の闇というものに、これまで深く触れる機会が多かっただけに……Lは、現実の暗闇という空間を怖れたことは、これまでに一度もないのだ。むしろ、そこから生まれる人間の想像力といったものが、あらゆる恐怖や不安の源であるということも、よくわかっている。
「L、お気づきになられたのですね?」
 それでも流石に、暗視能力(インフラビジョン)を有する、ラファエルの両の瞳が赤く輝いているのが見えた時には――Lも一瞬動悸が早まったことを認めないわけにはいかない。そして次の瞬間、あたりが明るい光に包まれ、Lは眩しさのあまり、手をかざして白い光に目が慣れるのを数秒待った。
「ここは……!!」
 何度か瞬きを繰り返し、チカチカする目が周囲に慣れると、そこは大きな運動場のような場所だった。天井が円形のドーム型をした、まるで野球の球場にも似たような、だだっ広い空間である。そして、こんな場所にラファエルが自分を案内した目的を聞こうして、Lは思わず息を飲んだ。
「……………!!」
 目の前に、これまで自分が不倶戴天の敵として戦ってきた男――<K>ことカイン・ローライトが現れたからである。彼は何かエレベーターのような乗り物にのり、Lが花畑のある地下60階へ下り立った時と同じく、それは周囲の景色に溶けこむと、瞬時にして見えなくなった。
「初めまして、L。わたしが君の兄――カインだよ。血の繋がりはないと君は思っているかもしれないが、父は君の遺伝子の中に自分のものも混ぜているからね、そういう意味ではまあ、わたしの中にも君の中にも、同じ遺伝子が一部、存在しているというわけだよ」
「……………」
 Lは言葉もなく、目の前にいる男を見つめ返した。文字通り、穴が開くほど凝視していたといってもいい。もし彼があのまま普通通りに年齢を重ねていたとすれば――自分よりも十三歳年上の四十歳くらいであろうと想定し、その似顔絵をLはコンピューターで作製していたわけだが、目の前にいるやや長髪のブロンドに、アイスブルーの瞳をした男は、どう見てもLと同じ二十歳代後半くらいであろうと思われた。
「どうしたんだい?こうして、ある意味君の生きる目標であり目的であった<わたし>という存在が現れて、驚いているのかな?それとも、どうやって殺してやろうかと考え中とか?まあ、それも悪くはないかもしれないね……わたしが君をここへ招待したのも、言ってみればそのためだから」
 カインは傍らに控えるラファエル♯001に顎をしゃくりながら、「例のものを」と<彼>に対して命じた。
(ここまでのことは、彼にとっても計算通り……)
 Lは、たった今カインが自分に対して殺意を表明したのを聞いて、何故だか嬉しくなった。まるで、難解なパズルを解く時のようなぞくぞくする気持ちが、背筋を駆け抜けていくのを感じる。
(だがわたしも、ただでは決して殺られはしない)
Lはどこか不敵な笑みを浮かべると、これからこの場で何が行われるのかを知って、ますます嬉しくなった。そして<K>に対しても、彼が自分が敵とするに相応しいだけの技量を持つ人間であることを、認めざるをえない。
「受けとりたまえ、L!」
 そう言ってカインがLの足許に投げつけて寄こしたもの――それはエストックと呼ばれる真剣だった。日本のサムライにとっては、刀で<斬る>という攻撃手法が主流であったろうが、中世の騎士たちは剣によって相手を斬りつけるというよりも、このエストックのように先端の尖った武器類で鎧の隙間を貫き、突き刺すといった攻撃手法がより重要だったのである。何故なら、防具類の発達にともない、甲冑やチェインメイルといったもので身を固める敵に対しては、サムライの持つ刀での斬りつけ攻撃はあまり効果がないからである。
「フェンシングのルールについては知っているね?」
 白一色のフェンシング用の稽古着を着用しているカインが、まるで貴族の血でも引いたような、どこか居丈高な態度で、いつの間にか現れたフェンシング専用の演台に立っている。そうだ。彼をもし正統的な血筋を引く、エデンの生き残りにして後継者と目するならば、自分はせいぜいいって雑種といったところだと、Lはそう自覚せざるをえない。
「ええ、知っていますよ……」あたりの光景が瞬時にして魔法のように変わる装置にも、Lはもう慣れた。今自分はエレガントなフェンシング・ホールにいるように見えるが、これは表面をはいでしまえば、ただの何もない空間なのだ。おそらく、先ほどのナイアガラの滝に似た大瀑布も、似たようなトリックなのだろう。「フェンシングは、イギリス紳士にとってはたしなみのスポーツですからね。わたしも、小さな頃からワタリに随分鍛えられました。その他空手に柔道、テコンドーなど……あなたの手の者がある日、わたしを誘拐するのではないかと危惧して、ワタリは自分で自分の身を守れるようわたしを鍛錬しようとしたのだと思います。今では厳しい修行も、いい思い出ですよ」
「そうかな?ワタリはわたしやエデンやリヴァイアサンといった組織に対抗するために、ほんの十年ほどで多国籍企業をいくつも買収するようになっていたからねえ……どこかで人の恨みを買って、その者が愛しい息子に危害を加えはしまいかと、どちらかというとそちらを心配していたようにわたしは思うがね。何故といって、君も知ってのとおり、わたしが<その気>になりさえすれば――L、君を殺すこともワタリを亡き者にすることも、あまりに容易いことだから」
 自分の優位性を誇示するように、アイスブルーの冷たい瞳で、どこか軽蔑するような、見下した視線をカインはLに対して送る。ラファエルは、カインが着ているのと同じ胴着をLに手渡したが、「いりません」と言ってLは首を振った。
「何しろ、この剣はこのフェンシング・ホールと違って本物の真剣ですからね……そんなものを着たところで、負傷は免れません。むしろ、普段着なれないものを着たほうが、機動性が削がれます。ゆえに、わたしはこのままの格好で結構です」
「余裕だね、L」と、エストックを構え、どこか残忍な笑みをカインはその整った顔に浮かべた。「後悔しても、知らないよ……もっとも、後悔する以前に、君はその時死んでるかもしれないけどね」
 細長い演台の上にLが立つと、カインとLは“構え”(アン・ガルド)の姿勢をとり、ラファエルが試合開始の合図をするのを待ち、戦いはじめた。ふたりはゆっくりと動きはじめ、用心深く互いの力量を測る――そして、攻撃がはじまった。突き、受け流し、フェイント。カインの矢継ぎ早の攻撃により、Lは押され気味となり、とうとう相手の剣の切っ先が、Lの左腕を掠めてしまう。
「……………!!」
 一本とったことにより、カインはまた後ろへ下がったが、彼がその気になれば自分を殺せたことを思うと、Lの負けず嫌いな気持ちに火が点いた。
(今度こそ、必ず……!)
 だが、二本目がはじまるとすぐ、カインは素早くフロワスマンをやってのけた。これは力で敵の剣をねじふせ、跳ね跳ばす攻撃である。これでカインはまたしても一本とった。
「どうした、L?あんまりわたしを失望させないでほしいな……それとも本当に、君の力量はこの程度のものなのか?」
「……………」
 Lは黙りこみ、そしてもう一度“構え”(アン・ガルド)の形をとった。それに合わせて、カインもまたLと同じように構えの姿勢をとる。再び試合がはじまるなり、カインは即座にLと剣を合わせ、アンヴロップマンを仕掛けてきた。これは完全な円を描いて、相手の剣を払う技だ。しかしLはそれを受け流し、この動きで生まれた攻撃のチャンスを逃さず、カインの剣を払って素早く突きを入れ、一本とった。
「これで、二対一です。もしわたしが勝った時には――褒賞として、何がいただけるんですか?」
「……………!!」
 カインは誰かに<負ける>ということを知らなかったのかどうか、次に試合がはじまるなり、Lに向かってむちゃくちゃに突いてきた。カインはLに対して叩きつけるように剣をぶつけ、荒々しく切りつけてくる。Lは受けの一手にまわり、演台の端へと追い詰められた。そこでひらりとそこから跳び下りるが、カインの猛攻は一向にやまず、Lは防戦を強いられた。Lがもし素早く体をまわしていなければ、串刺しにされていたであろう一場面もあった。
 カインはさらに攻撃の手を緩めず、Lに向かって鋭く切りつけてくる。だが、Lは巧みに受け流し、相手に接近して圧迫をかける“プレス”で、カインの刃を横にはらおうとした。そしてわずかな隙を見逃さず、攻撃に転じたが、これはかえってカインを刺激しただけだった。
 一分近くも激しい攻撃を続けたあと、カインは“バレストラ”――前に跳躍して突く――をやってのけた。しかし、この攻撃を予測したLが受け流して飛びのいたため、カインは中世の刀剣が展示されたケースにぶちあたることになる。だが、それは結局のところ幻であり、彼の体は何もない空間にぶつかったにすぎない。
「ラファエル!例のものを持ってこい!!」
「ですが、マスター……」
 カインが物凄い形相で睨みつけると、ラファエルは彼の言うとおり、鋭いサーベルをカインに手渡している。どうやら別の展示ケースの中には、偽物だけでなく、本物の剣も混ざっているらしい。すべてのものが幻ではないと気づいたLは、不可思議な思いに包まれるが、今はそれどころではなかった。
「!?」
 ラファエルは、何故かLに対しても抜き身のサーベルを放ってよこしたため、それでLは、エストックを投げ捨て、かわってサーベルを手にしてカインと戦った。本当に本物の真剣勝負――気が狂ったような目つきでカインが自分を睨みつける、その瞳の奥底に憎悪があるのを見てとったLは、手加減する余裕がなかった。それで、幻でない本当の壁際に追い詰められた時……L自身も必死で、その一撃を放った。すなわち、カインの心臓をサーベルの剣によって、刺し貫いたのである。

「あ……ああ……わたしは、なんていうことを……」
 Lは自分の体の上に崩れ落ちる、カイン・ローライトの体を抱きとめた。いくら必死であったとはいえ、殺られなければ殺られるという状態であったとはいえ――これは間違いなく<殺人>と呼ばれる行為だった。
 だが、Lが呆然と目を見開いていたのも束の間、彼はある異変に気づいた。カインの体から、一切血というものが流れでていないのである。いや、何か奇妙な白い体液のようなものが、自分の長Tシャツやジーンズを濡らしているだけだ。
(これはまさか……人工血液?)
「そこまで!!」
 パンパン、と手を打ち鳴らし、ラファエルが満面の笑顔を浮かべてLに近づいてくる。それはいかにも奇妙なことだった。<彼>にとっての創造主とも呼ぶべき存在が討たれて死んだのに――ラファエルはむしろそのことを喜んでいるかのようだった。
「L、あなたはマスターに会うための、第二の試験にも合格しました。これで本当に、マスターに会うことが出来ますよ」
(嘘つき……)
 Lはまだ腰が抜けたような状態のまま、だらりと壁に寄りかかったままでいた。この<エデン>という場所へ来て以来、すべてが虚飾に塗り固められているという気がした。だが、カイン・ローライトの心臓を貫いた時のあの生々しいリアルな感触……あれは間違いなく本物だった。今絶命して自分の腕の中にいる青年が、コピーの人造人間であるにせよなんにせよ、自分が彼を<殺した>ということに変わりはない。Lはそう思った。
 この場所がどういうカラクリによって作動しているのか、Lにはまだよくわからなかったが、それでも、いかにも伝統を重んじるといった雰囲気の、優雅なフェンシング・ホールがまたも別の景色に変わるのを見て――流石に彼もうんざりとした。
 何故なら、Lが目を上げたその先には、まるで高見の見物でも決めこむように、大きなガラス窓を通して見下ろすひとりの男がいたからである。そして彼を取り囲むように、まったく同じ顔をした絶世の美女が数人、Lに対して拍手を送っているのが見える。
(カイン……!!)
 自分のコピーが虚しく命を無駄にするのを見守っていたであろう男に対して、Lは厳しい憎悪の眼差しを向けた。それは先ほどまで、彼がカイン本人と信じて疑わなかった青年が、今際の際にLに対して向けた視線とまったく同じ種類のものだった。そしてLは思う。彼は本当に自分に対して憎しみをぶつけようとしていたのか、と。むしろその眼差しは、今自分を数メートル上の高みから見下ろしている、彼の本体に対するものだったのではないかと、何故だかそんな気がして仕方なかったのだ。


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 カインとLのフェンシングシーンは、『007 ダイ・アナザー・デイ』(レイモンド・ベンソン著、富永和子さん訳/竹書房文庫)よりいただきました。
 ジェイムズ・ボンド=L、グスタフ・グレイヴス=カインといった形になってます。
 詳しくは本の中の「第十章セント・ジェイムズの決闘」をお読みください。



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【2008/09/27 01:30 】
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