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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(20)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(20)

「まるで、地獄にでも真っ直ぐ通じているように、真っ暗ですね」
 アイスランド西部にある、スナイフェルスネス半島にLを迎えにきたアンドロイドは、ラファエル・ナンバーだった。そして<彼>はその機内の中で、「わたしはラファエル♯001です」と名乗ったあと、巨大カルデラ、アスキャにある巧妙に隠された入口から<エデン>へ通じる地下へとLのことを案内しはじめたのだった。
 まずは、タイタロンが数十機待機した状態の格納庫で降り、それからまるで表面が磨き上げられたジュラルミンのように銀色をしたエレベーターに案内されたLは、そのエレベーターの中が意外にもさして普段自分が使っているものと変化がないのに驚いた。そして、ラファエル♯001が、最深部を示す地下60のボタンを押すのを見て――頭の中でエデンの見取り図を開く。言ってみれば、地上六十階建ての横に広い建物が、地下に存在しているといえばもっともわかりやすかったかもしれない。そして昔と今ではその各階がどう変わったかというのはLにもワタリにもロジャーにも想像できないことではあったが、<K>がクーデターを企てる前までは、そこで数百人にのぼる科学者たちが共同生活を行い、おのおのの研究分野に意欲を燃やしていたのである。
「イタリアの詩人、ダンテ・アリギエーリをご存じですか?」
 Lが冬のアイスランドで、いつもの長Tシャツにジーンズといった薄着で自分のことを待っていたのを見て――ラファエルは多少驚いていた。一応彼のことはデータとして様々なことを知っているラファエルではあったが、それでもLが「凍え死ぬところでした」と言ってタイタロンの機内へ上がってきた時も、またタイタロンの格納庫からエレベーターまで歩く時に彼が極端な猫背・ガニ股であるのを見た時も……(こんな人間は見たことがない)と思っていた。ラファエルの頭の中のデータでは、<L>は世界一の探偵として、これまで3500以上もの事件を解決に導いた、ICPOの影のトップということになっている。そのような人間が、氷点下の中で鼻水を垂らしながら自分を待っていたり、不意にこちらが予測もしない質問をしたりするのは、彼にとって実に奇妙なことだったといえる。
「わたしの頭脳のアカシック・ライブラリーには、古今東西、あらゆる国の物語が収納されています」と、ラファエルはLの質問に答える。「もしよろしければ、ダンテの『神曲』に関するあらすじなどもお話できますが……L、あなたがわたしに聞きたいのはそのようなことなのでしょうか?」
「いえ、まあご存じだったらそれでいいです。ただ、これ強化ガラスってわけでもないんでしょうが、エレベーターの外の景色が真っ暗だなどというのは、なんとも居心地の悪い感じのするものですね。タイタロンが地中に下りる時にも感じたことですが、まるで原始の闇そのものに触れているかのようです。それでわたしは、詩人のダンテがウェリギリウスに案内されて、地獄へ下りていく時のことを思いだしたというわけですよ」
「なるほど……わたしたちアンドロイドには、インフラビジョン(暗視能力)が内蔵されていますから、赤外線を感知して見ることが出来るんですよ。ゆえに、我々が本当に本物の闇を感じるとすれば、それは全機能を停止した時ということになるかもしれません。もしかしたらそれがあなたの言う原始の闇に近い状態ですか?」
 黒いボディスーツに包まれた、長身の若い金髪の男を見上げながら、Lはなんともいえない不思議な気持ちになる。ワタリがプロトタイプ(試作品)として、エデンにいるのと同じアンドロイドを造ったのを見た以外では、<彼>――ラファエル♯001が、Lにとって初めて出会った本物のアンドロイドだった。そして、これまでLがリヴァイアサンに関する事件を追う中で、確認できたアンドロイドのナンバーは、ガブリエル・ナンバーとルシフェル・ナンバーのみである。となれば、他にミカエル・ナンバーなるものも存在するのだろうかと思い、Lはラファエルにそう聞いてみた。
「そうですね……これからご案内しますよ」
 顎に手をやり、一瞬目を閉じたあとでそう答えるラファエルを、Lは奇妙なものでも見たように、訝しげに眺めやる。ラファエルは今、確かに<笑った>のだ。そのどこからどう見ても人間としか思えない仕種や、計算されつくした「人間らしさ」といったものに、Lは心の中で警鐘にも似た違和感を覚える。だがこうしたことは結局、自分が最初から<彼>をアンドロイドとして見ているから生じることであって、そうと知らなければどうとも思わないことだったに違いない……そう考えると、Lはますます彼らアンドロイドと呼ばれる知的生命体について、不可思議な物思いに捕われた。それは今、実際に<彼>を目の前にして言葉を交わしてみたからこそ、生じる思いでもあった。たとえばそう――人間は一般に死ねば天国へ行くとか地獄へ行くとか生まれ変わるとか、あるいは無の世界へ行くなどと言われているが、彼らアンドロイドにも人間の心に似た何かがあるのなら、その思惟といったものは最終的にどこへ行き着くのか、といったようなことだ。
 もっとも、ラファエルはLがそのようなことを考えているなどとはまったく思わず、赤ん坊のように指をくわえてじっと自分のことを見上げるLのことを、彼は彼で逆に不思議に思っていたのだが……そして、ラファエルはLの出生について思いだし、その指をくわえる癖について、こう結論を導きだしていた。生後、強制的に母親から離されたそのせいで、彼にはある種の後遺症が残ったのではあるまいかと。いってみれば母親の乳房のかわりに自分の指を齧っているのだ。ラファエルはそのように考えて一度納得すると、Lの猫背についてもガニ股歩きについても、そう気にしなくなった。彼の指をくわえる仕種と同じく、それらのことについても何か理由があるものとして想像することができたからである。

 地下六十階――ポーン、と奇妙に明るい音とともにドアが開くと、Lはそこで信じられないような光景を目にした。まるでここは天国かと思われるほどの、一面の花畑……そして、自分が今出てきたばかりのエレベーターを振り返ると、そこには何もなかった。いや、何もないのではなく、そこもまた薔薇や見たこともないような花々で埋めつくされており、単なるホログラムかと思いきや、そこにあるはずであろう壁にぶつかるでもない。
「?」
 Lは、狐につままれたような思いに駆られて、先をゆくラファエルのことを振り返った。見ると彼は、民族衣装を着た何人もの子供たちに囲まれている。
「彼女たちが、あなたのお訊ねになったミカエル・ナンバーですよ。わたしたちは、ここアイスランドの土地の地熱を利用して、豊かな農作物や花などの植物を育てているんです。もっともわたしたちはアンドロイドですが、ミカエル・ナンバーの子供たちはより人間に近く、食物を摂取することも可能なんです……そして彼女たちは永久に歳をとることもなく、子供のままで成長が止まっています。言うなればここは天国の象徴のような場所なんですよ」
「……………」
 ルシフェル・ナンバーは男性タイプ、そしてガブリエル・ナンバーは女性タイプであるとLにもわかっている。そして今目の前にいるラファエルも男性タイプであるのを見て――果たしてミカエル・ナンバーとはどのような存在なのだろうと思っていたが、まさか永久に歳をとらない子供であるとは、Lも想像していなかった。
 このことから、カイン・ローライトについてある種の精神分析が出来そうな気もしたが、Lはそのことについてまで思考がまわらなかった。名前のとおり天使としか思えない可愛い子供たちが自分を取り囲み、「一緒に遊ぼう」だの「お花あげる」だのと言われてしまっては、彼女たちにどう対応したらいいのか、まったくわからない。それでただ、彼女たちが自分の頭や首に花冠や花の首飾りをのせるのに身を任せていたが、もしかしたらこれもKの心理作戦なのではあるまいかとの疑いが頭をもたげ、Lはやりきれない気持ちになる。
 そうなのだ……自分が三日以内に戻らなかった場合、またその間に明らかに異常な変化がヴァトナ氷河近郊で見られた場合、ニアに衛星ミサイルでこの基地の頭上を攻撃するよう、Lは命令してきてある。もちろん、その衛星ミサイルによっては、地下深くに位置するエデンにまでダメージが及ぶことはない。それでも、火山の爆発を誘導することにより、溶岩流がここまで及ぶ可能性は高いのだ。いや、マグマ溜まりの直撃を受けるといったほうがより正しいかもしれない。
(もしそうなった場合、この子たちは……)
 原爆の悲劇にも似た惨状が頭の片隅をよぎり、Lはこれから自分がしようと思っていることに、確信が持てなくなってくる。何より、美しく可愛い子供たちの顔が――彼女たちは全員、おかっぱ髪でまったく同じ容姿をしていた――ラケルのそれと重なってしまう。彼女に面差しが似ているというのではなく、そのブロンドの髪や澄みきったような青い瞳が、ラケルのことを連想させずにはいられないのだ。
「Lお兄さんはこれからマスターにお会いしなくてはいけないから、君たちは別のところで遊びなさい」
 ラファエルが、花まみれになっているLに手を差し伸べると、Lは彼の手をとって体を起こした。薔薇の芳香と、白詰草に似た強い香りがいつまでも鼻に残って消えないが、ここの野原や花畑は明らかに奇妙だった。何故といって、虫の気配がまったくせず、薔薇の花はひとつ残らず、棘というものがなかったからだ。
「どうかしましたか?」
 相変わらず、狐につままれたようにぼんやりしているLに向かって、ラファエルはそう聞いた。
「いえ、ここにあるものはすべて、おそらく遺伝子が組み換えてられているんだろうなと思っただけです。虫がつかないよう、棘が生えないように……そして、薔薇以外の花は、地上では見たことのないものばかりだとも思いました」
「ええ、あなたのおっしゃるとおりです。ミカエル・ナンバーは我々の中でもっとも人間に近いアンドロイドですから、薔薇の棘によって手が傷ついたりしては大変ですからね。薔薇はマスターがとても好きな花なので残しましたが、他の花は地上にあるものに色々手を加えて作りだした新種ばかりです。マスターがエデンの主になる前まで、ここにいた植物学者がこれらの花や植物を管理していたそうですが……彼らも今は土地の肥やしになることが出来て、本望でしょう」
「……………」
 Lは溜息とともに、まったく同じ顔つき・体つきをした子供たちが、隊列のようなものを組んで虹のある方角へ向かう後ろ姿を眺めやった。ここには太陽らしきものはどこにも見当たらないのに、地上と変わらぬ輝く青い空があり、そして光があった。あの虹もおそらくは一種の視覚エフェクトのようなものに違いないと思うのに――Lは自分で覚悟していた以上に混乱していることに気づいて、軽く眩暈に似たものすら覚えた。
「大丈夫ですか?ここへ初めてきた人は大抵、あなたと似たような反応を示します。ですがまあ、次期に慣れると思いますよ……もっとも、マスターがこれからあなたをどうなさるおつもりなのか、わたしにもわからないことなので、なんとも言えなくはありますけどね」
「ここへは、わたしのようにK――まあ、あなたの言うマスターですか。カイン・ローライトに<招待>されて来た人間が他にも何人かいるんですね?」
 Lはハワイのレイレイにも似た、花の首飾りを外し、そして白い花の冠も頭から外して野原に投げ捨てた。そこには澄みきった美しい小川が流れていて、手ですくって飲んでみたいと思うほどの清らかさだったが、Lはよくある民間伝承――精霊の国の食物や飲み物を食べたり飲んだりしたが最後、生きてそこから戻れないとの――を思いだし、軽く頭を振る。そういえば、夢で虹の向こう側へ行ったものはそのまま死者の国へいくという話も聞いたことがあると、Lは思った。ラファエルの後についていきながら、彼から聞いた話によれば、ミカエル・ナンバーのアンドロイドたちは、定まった時間花びらを摘むなどの仕事をしたのち、空に虹が見えると自分たちの居住区へ戻って食事や休憩をとったりするのだという。そして一年365日、飽きもせずにまったく同じことを繰り返すのだと……。
「そのことに、何か意味があるんですか?」
 聞いても仕方のないことと思いながらも、やはりLはそう質問せずにはいられなかった。
「さあ。わたしにはマスターのお考えになられることは、そもそもわからないのです。ただわたしたちは彼の言うとおりに事を行うという、それだけの存在ですから。マスターは時々、あなたのように自分が気に入った人間や特別と思われた者をエデンへ招待しますが、その選択基準などについても、わたしにはまったくわかりません。ただ、相手が優秀な学者であったり、美しい女性であったりした場合には――ある程度目的が想像できなくもないという、それだけです。L、あなたについてわたしは、マスターから色々な話を聞いていますが、実際にお会いしてみると印象がまるで違っていました。やはり人間という生き物は、奥が深くて面白いものですね」
「そうですか。わたしも本当に本物のアンドロイドに会うのはあなたが初めてですが、正直いって今、とても戸惑っています。先ほどあなたがわたしに手を差し伸べてくれた時……その手はとても温かかった。もし最初からそうと知っていなければ、わたしはあなたのことを人間と信じて疑いもしなかったでしょう。それとも、こんな言葉はラファエル、あなたたちアンドロイドにとっては失礼に当たる言葉なのでしょうか?」
「いえ、最高の褒め言葉ですよ。ありがとうございます」
 それが<彼>にとっての癖なのかどうか、ラファエルはまた顎にちょっと手をやり、そして目を閉じたあとで笑った。エレベーター内での時とは違い、今度は花がこぼれそうなほど、という形容がいかにも相応しい、満面の笑顔だった。
 その後、川にかかる橋を越え、さらに山奥というよりも秘境といったほうが相応しい渓谷に差し掛かった時――流石にLも、それがホログラムである、ということに気づいた。果たして、一体どこまでが現実の地下世界で、どこからがホログラムの景色に切り換わったのか、その境目について、Lにもこの時まったくわからなかった。だが今、ナイアガラ並みの大瀑布にかかる天然の細い岩石の上をラファエルが歩いていくのを見て――彼にはおそらくその素材が実は鋼鉄製の橋か何かであるとわかっているのだろうという気がした。それでLも臆することなく、ポケットに手を突っこんだまま、無表情にラファエルの後へついていく。清涼な水しぶきの冷たさに似た感覚を体が訴えても、実際にはLの着ている長Tシャツもジーパンも少しも濡れてはいない……ようするに、そういうことなのだとLは納得する。
「さて、こちらがマスターのいる部屋に通じるドアになりますが、見た目はまあ、滝壷の奥といったような感じに、あなたの目には見えているでしょうね。ここへ落ちたが最後、死ぬとしか思えないかもしれませんが、もしあなたに勇気があるなら、わたしの後についてきてください」
「………!!」
 Lに質問する隙さえ与えぬ素早さで、ラファエルはオリンピックのダイビング選手よろしく、美しいフォームでおそろしい水量の流れる瀑布の中へ消えていった。これが一体どういうトリックなのか、Lにもまったくわからない。だがまさか、自分を自殺させるための罠でもあるまいと思い、Lもまたラファエルに続いて、深さ六十メートルはあろうかという、滝壷の中へ飛びこんでいった――彼の場合はダイビング選手のような華麗なフォームというわけではなく、ただ池に飛びこむカエルのような姿勢で、そこへ飛びこんでいったのである。



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【2008/09/27 00:59 】
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