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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(19)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(19)

 その年の三月も末のある日のこと、アイスランド南西部にあるケプラヴィーク米軍基地に、ニアとセス、それにジェバンニとリドナーはいた。アイスランドは自国の軍隊を持っていない国ではあるが、1951年にNATOに加盟したことにより、ケプラヴィーク空港は、NATO加盟国であるアメリカの軍事基地となっている。その軍事施設のある一室で――ニアはヴァトナヨークトル氷河を捉えた衛生画像を見ていた。彼らが極秘にケプラヴィーク米軍基地で作戦室とした部屋には、アメリカのCIA諜報員、軍事分析家、さらにディキンスンと彼の協力者である星四つの将官、アンソニー・レスター将軍の四人がいた。これらの人々は<L>がリヴァイアサン側の人間でないと判断した協力者のリストに名前があり、かつディキンスンが個人的にも親交のある人々であった。言ってみれば、このうちの誰かがもし仮にクローン人間であるなどして、最終的に裏切り行為を働いたとすれば――それはもはや最後に<そうなる>運命であったとして、ディキンスン自身にも諦めのつく人選であるとも言えた。
「しかし、もし我々の独断で衛星ミサイルを発射したことがわかったとすれば……ただでは済みませんし、第一、いくら近隣の住民を避難させる措置を取っているとはいえ、氷河の一部を攻撃すれば、そこからおそろしい勢いで洪水が起きることは避けられません。それじゃなくてもヴァトナ氷河は温暖化の影響もあって、年々氷は後退し続けているんです。いってみれば、我々の手で世界遺産を破壊するにも等しい暴挙とも言えやしないでしょうか?」
 電光地図を前にしたワークステーションに腰かけたまま、優秀なアナリストであるアンディ・ウォーカーがそう口にする。この場合<L>の代理者ともいえるニアが、彼のその質問に答えるべきだっただろうが――ニアは何かに取り憑かれでもしたように、まさに絶景と呼ぶに相応しい雄大な景色に見入っている。もちろん彼の場合、その氷と雪の美しさに魅入られ、ただ単純に「景色」としてその衛星画像をあらゆる位置・角度からチェックしていたわけではない。<L>から指示されたポイントをずっと探っていたのだ。
「その質問には、わたしが答えるとしようか」公式としては、この場でもっとも位の高いレスター指揮官が、親友のディキンスンが何も言わないのを見て、溜息ながらに答える。ディキンスンは今、星ふたつの少将であったが、本来であるならば、とっくの昔に彼が自分と同等の地位にいたであろうことをレスターは知っている。ただ彼は今以上に星が増えると仕事として逆に動きにくくなる部分があるため、その地位に留まり続けているに過ぎないのだ。「アンディ、我々にとってすでに賽は投げられたのだよ。ようするに我々は今、ジュリアス・シーザー言うところのルビコン川を渡ろうとしているわけだ。<L>から今回の依頼がディキンスンにあってからというもの――我々は同志として、あらゆる方面に根回しを行ってきた。いくら極秘の作戦とはいえ、CIAやNSAの上層部には例のクローン人間をはじめとした、リヴァイアサン側に与する人間が多く存在する。ゆえに、この場にいるのは我々だけでも、実際のところいつなん時どんな形で邪魔が入ってもおかしくないわけだ……そういう可能性をすべて検討したとすれば、結局のところ<N>――ニアが衛星ミサイルの発射装置を押す可能性は低いということになる。何より、<L>たちが作戦を成功させて無事帰還を果たした場合にも、我々にはそのボタンを押す必要がないわけだから、可能性としては、そうだな……」
 顎に手をやり、チラッとレスターがディキンスンのほうを見ると、彼もまたそれが何%くらいの確率になるかを、頭の中で算出しようとする。
「まあ、大体10%くらいの確率ですね」と、目標地点を補足したニアが、その衛星画像を眺めながら言う。「そして、Lが<K>に勝つ確率が45%、そして逆に<K>の返り討ちあう可能性が45%、まあそういったようなところです」
「……………!!」
 キャスター付きの椅子に座ったまま、あくまでも淡々とした口調でそう語るニアのことを、その場にいた全員が注視する。セスとジェバンニとリドナーは別にしても、他の全員は、こんな年端もゆかぬ十代半ばといった少年が<L>の後継者候補として実地に数えきれないほどの事件を解決しているのだとは――いまだに信じ難かったのである。
「ですが、いくら極秘とはいえ、ある意味我々のこの作戦はあまりにスムーズに行きすぎた感があるのも事実です」今度は、ディキンスンと親交があると同時に、リドナーとも友人関係にあるCIA諜報員、エマニュエル・ハーレイが言った。「みなさんもご存じのとおり、機密レベルの分類は、極秘(トップ・シークレット)の上が機密、さらにその上が最高機密ということになり、我々のこの作戦もまた扱いが最上級の最高機密事項として進められてきました。CIAのどの人間も、作戦に関わる当事者以外は、このイカロス・プロジェクトのプログラム・ファイルには一切アクセスできません。ですが、向こうにその気があるなら、我々のこの作戦を邪魔したり、また誰かがコンピューターに侵入してアクセスするといったことが必ずあるはずだとわたしは思っていたのに――拍子抜けするくらい、一度もそうしたことがありませんでした。わたしは長年この仕事に携わっていますが、むしろこのほうがなんだか不気味な気がするんです。まるで、嵐の前の静けさとでも言ったような……」
 エマニュエル・ハーレイは、リドナーとCIAに入局した年が同じで、さらに年齢も一緒だった。彼女は二十数ヶ国語を操るという特技を生かして、これまで世界各国の情報操作を行ってきたのである。
「まあ、<L>にとって今回のことが私怨であるように――<K>にとっても同じようにそうだということなのだと、わたしはそう認識しています。つまり、彼にとってICPOのトップと言われるLの存在を消すことも、彼のクローンを作って入れ替えを行うといったようなことも、やろうと思えばこれまでにいつでも出来たことでした……ですが、<K>はあえてそれをせず、Lが自分に盾突くためにどこまで出来るのかをずっと観察し続けていた。そしてとうとう、彼にとってもその時が今満ちたということなんでしょうね。いってみればこのことは、<L>と<K>との一対一のプライドを賭けた勝負なんだと思います。確かに、衛星ミサイルをあるポイントへ撃ちこみ、さらにそこから火山活動を誘導させることが出来れば、ヴァトナ氷河の下にある秘密基地は壊滅するかもしれない……ですが、これは<L>が<K>に負けた場合の最悪のシナリオに過ぎません。今我々にできるのは、そうですね……まあ、神にでもLの勝利を祈ることくらいですか?」
 全員がまた重く沈黙するのを見て、セスはニアの横で軽く溜息を着いた。
「これは、あなたがわたしの後を継ぐための、最後の宿題だと思ってください」――そうLがニアに言ったことを、セスは知っている。そしてメロには、Lの後を継ぐための、ニアとは別の宿題をだしたというわけだ。
「あなたたちの宿題の出来いかんによって、どちらをLの後継者にするかを決めたいと思っています」
 Lがそう言っても、ふたりとも異議を唱えるとことはしなかった。そもそも彼のその言葉自体に矛盾があるにも関わらず……つまり、Lが<K>との対決を終えて無事帰還したとすれば――ニアは衛星ミサイルの発射装置など押さずに済むわけであり、逆に彼がそれを押さざるにえない立場に置かれたような場合……すでにLもメロもエデンと呼ばれる地下コロニーで死亡している可能性が高いのだ。
「わたしは、もし今回の件を無事終えることが出来たとすれば、引退して少し休もうと思ってますからね。そうしたら後のことは、メロとニア、あなたたちに仲良く協力して探偵稼業をやってもらいたいと思っています」
 いつもなら、当然ここでメロが何か文句を言って噛みつくところだが、彼もまた黙ったままでいた。いつものように、パキリ、と板チョコレートに齧りつきながら……。
「なんだか、僕はここへ来る必要はなかったような気がするな。まあ、こんなことを言うのは今更だけどね」と、セスは他の大人たちが作戦会議を開きがてら、食事をしにいく後ろ姿を見送りながら言った。
「そもそも、セスは何故ここまで来たんですか?ラケルたちと一緒に、レイキャビクのホテルに居残ってたらよかったのに」
「いや、僕は君がさ……まるで核ミサイルのボタンでも押すような気持ちで、衛星ミサイルの装置を作動させるんじゃないかと思ったもんでね。今は君もケロリとしたような顔をしてるけど、いざその時になったら隣で応援してくれる人間がいて欲しいんじゃないかと思ったんだ。でもどうやらそれは、僕の勘違いだったのかもしれないな」
「……………」
 セスは電光地図をちらと見上げ、それから自分とニアの分の食事をここまで持ってくるために、椅子から立ち上がった。隣のお子さまが自分とは違って少食であることは知っているが、それでも必要最低限の栄養を摂取するために、何か彼の口に合いそうなものを選んでこようと思っていた。
 そんな彼に、ニアは「セス」と、思わず声をかける。
「あなたの指摘は……確かに当たっています。わたしは、もし最悪のその瞬間がやってきたとしたら――ミサイルを発射するための装置を押す指が震えるだろうと思っています。だから、あなたが一緒に来てくれて本当によかった」
 いつもは偏屈なお子さまが、いつになく素直に本音を洩らすのを聞いて、セスは軽く肩を竦める。振り返っても、ニアは片肘を立てたいつもの姿勢で、背中を丸めるように衛星画像に見入るのみだったが――先日、自分も彼に対して見られたくないところを見られていたため、ある意味これで「おあいこ」だったとも言えるかもしれない。
 今から数週間前、セスはいつものように夢を見ていた。夢の中ではカイが生きていて、自分の死んだ後にみんながどんな様子かを事細かく知りたがるのだ。それでセスは、エヴァがエリザベート・コンクールで優勝したこと、ルーに好きな相手が出来て、ティグランが臍を曲げていること、<L>と協力関係に入り、どうやら新薬の開発はギリギリ間に合いそうだといったようなことを、順に説明していった。
 その時、カイとセスがいたのは、ホームの庭にあるブランコで――お互いに隣り合ってそこに座ったまま、澄みきった空の下で話をしていたのだった。
「ふうん、そうか。それじゃあ僕の死が無駄にならなかったようで良かった」
<死>という、この場合あまりに生々しい言葉を、なんでもないことのように彼が口にするのを聞いて、セスはドキリとする。そうなのだ。彼は間違いなく死んだのだ。それなのに、この夢の中で生きる、彼のリアルなまでの存在感はどうだろう?そしてそうしたことすべてをわかっていながら、自分の意志で目を覚ますことができないこの<夢>の不思議さについて、セスはなんともいえない気持ちになる。
「ところで、セスはまだラスのことを怒っているのかい?」
 キィ、と軋むような音をさせながら、カイがブランコを軽く漕いでいる。ああ、またこの<既視感>だ――と、セスは両目を覆って泣きだしたいほどの切なさを胸に覚える。だが、不思議と涙はでない。
「べつに、怒ってるってわけじゃないさ。女ってのは節操のない生きものだと思ってるっていう、ただそれだけでね」
「僕は、ラスの夢の中で、彼女に許しのサインを与えたよ。だから、君も僕にかわって怒るような真似はもうよすんだね。いいかい?君は<僕のためを想って怒ってる>っていう、ただそれだけなんだ。でも当の本人の僕がもうそれでいいって言ってるんだから、ラスに対してもエヴァと同じように接してあげることだよ」
「君はそんなふうにしていつも心が広かったけど、僕は顔は似ててもやっぱりカイとは別人なんだ。それに、君はまだ生きてる時に、ラスに対して自分を忘れるための暗示をかけた……そしてそのことを聞いた時に、僕は思ったよ。結局君は、ラスのことなんて愛してなかったんだってね。僕が君なら――好きな相手のことはがんじがらめに縛りあげて、絶対に手放したりなんかしない。もしそういう泥臭い感情をカイがラスに一度も感じたことがなかったとすれば、やっぱりそれは愛なんかじゃないんだよ。ラスは体に負った火傷のことで、もともとコンプレックスが強かったから、君は彼女の傷ついた心を癒すために唯一残された手段をとったにすぎない。そしてその役目をかわって引き受けてくれる男が現れたから、今度は自分を忘れるように仕向けたんだ。<本当は愛していない>ことの罪悪感から逃れるためにね……違うかい?」
 またキィ、と軋むような音をさせて、カイが漕いでいたブランコを一度止める。そして彼はとても悲しそうな瞳をして、隣の双子といってもいいほど顔立ちの似た親友のことを見つめる。
「死んだ人間にもまだ、守秘義務といったものはあるよ。それより、ニアはどうしてる?」
 ああ、夕暮れがはじまった……と、そうセスは思う。自分はまた間違った質問をしてしまったのだ、とも。何故なら、カイがセスの夢に現れる時、彼がした質問に自分が適切な答えを返している時には、その時間は長いものになるが、逆に彼が答えたくない質問を自分がしてしまった場合は、水色の空がいつも、だんだんに夕暮れ色に染まっていくのだ。
「カイが選んだあのお子さまか。Lとメロとニア――この三人のうちで個人的に僕が一番マシだと思ってるのはニアだね。能力的なことをどうこう言ってるんじゃなく、Lともメロとも僕は全然反りが合わない。ただ、ニアのことはかろうじて我慢できるという意味合いにおいて、確かにカイの人選は正しかったって、そう思うよ」
「そうか。なら、よかった。僕は彼の夢の中にも化けてでてやろうかと思ってたけど――どうやらニアは普段だけでなく、夢の中でまでガードが堅いんだな。彼のあの心の内側は、僕が生きてた頃に感じていた絶望にも近い形をしているから……表面上は平気そうな顔をしてるみたいでも、彼がもしつらい決断をしなくてはいけない時には、セス、君が彼についていってやれよ。僕の最後の時に、そうしてくれたみたいに」
「やめてくれよ。あんなのは、一度だけでもうたくさんだ」
 セスが、思いだしたくない記憶を振り切るように、目をぎゅっと瞑って何度も首を振ると、次に目を開けた時、隣のブランコの上に彼の姿はなかった。そこにはただ、風に揺れるブランコが存在しているだけだ。
「カイ?どこにいったんだ?」
 夢の中ではおそろしく早く陽が暮れ、あたりにはすでに宵闇が漂いはじめている。そして空に輝く一番星を見上げ、そのあまりに美しい輝きに、セスは胸が詰まったように苦しくなった。
「カイ……!!僕を置いていくなよ!どうして僕ひとりを置いていくんだ……!!おまえはどうしていつもそうやって……!!」
 ――それ以上のことは、セスの中で言葉にならなかった。何故なら現実の世界で彼ははっきりと目が覚めてしまったからだ。セスは自分が泣いていることに気づくと、灰色のシャツの袖で目頭をぬぐった。そしてベッドの傍らに白い幽霊のようなものが存在していることに気づき、ガバリと身を起こす。まだ少し寝ぼけていたせいもあって、カイがそこにいるのかと思ったのだ。
「……カイ?」
 窓から差す月光に照らされたその人物は、カイではなく、ニアだった。何故自分の寝室に彼がこんな夜更けにいるのかと苛立つが、それ以上に泣いているところや寝言を聞かれてしまったかもしれないことに、セスは恥かしさを感じた。
「お休みのところ、申し訳ありません。ただ、ギルドの資料でどうしても欲しいディスクがあったものですから……少し、お邪魔させていただきました。ちなみにあなたの寝言はまったく聞いていません」
「……………!!」
 セスはさらにごしごしと目のまわりをこすると、なんとか泣いていたことをごまかそうとした。だが、寝言を聞かれていたのなら、やはり同じことかもしれないとも思った。
「僕は、なんて言ってた?寝言でなんて……」
「『カイ、僕を置いていくな』、と。ただそれだけです。もしかして彼の夢を見ていたんですか?」
 キィ、とキャスターの付いた椅子を回転させて、一枚のディスクを手に持ったままニアがいつもの淡々とした声で答える。ベッドサイドに足を下ろした形のセスは、モニター上に世界四大マフィアと呼ばれる組織のボスの顔が映っているのに気づき、軽く溜息を着いた。仮に彼ら全員を殺害したところで、この世界から<悪>と呼ばれるものがなくなることはない。それなら、そこから流れる情報をうまく操って一般社会に及ぼされる影響をある程度コントロールするというのがおそらくもっとも賢いやり方だろう……だが、エリス博士の見解によると、超能力者たち個々人の遺伝子に合わせて創った薬をそれぞれが服用した場合、超能力が弱まるか、あるいは消えてなくなる可能性があるという。
「その可能性については、最初からエッカート博士もヴェルディーユ博士も気づいていたはずよ。でもわたしが思うに――彼らはあくまでも超能力の発症と存続という方向性においてしか研究しようとしなかった。まあ、ギルドを裏で操ろうと思ったら、超能力を持つ子供たちの存在は不可欠ともいえる……彼らの行っていたことが正しいことなのかどうか、そしてわたしがオーダーメイド創薬によってあなたたちを<治療>しようとしていることがいいことなのかどうか、わたしにも判断は出来ない。突き放すような言い方をするようだけど、すべてはあなたたち自身が決めることだと、わたしはそう思ってるわ」
 超能力者全員の代表として、エリスからその話を聞かされたのは、セスひとりだけだった。傍らにはニアとメロもいたが、とりあえず、このことは新薬が具体的に完成するまで、黙っていて欲しいとセスは彼らに口止めしておいた。この時にもセスが思ったのは、(カイに相談してからすべてのことを決めたい)ということだった。そして彼に何故ラスのつまらないことを話すかわりに、そのことを聞かなかったのかと、セスは内心舌打ちしたいような気持ちになる。
「超能力者たちが延命と引き換えにその能力を失くした場合――これまでのようにギルドを裏で統治していくのは困難かもしれません。ですが、わたしたちもあなたひとりに重いものをいつまでも背負わせようとは思っていませんから……お互い、協力し合ってこれからのことは考えていきましょう」
 では、と言ってパソコンから一枚のディスクを抜きとり、ニアはセスの部屋から出ていった。みっともないところを見られたと、セスはこの時思ったものの――今はそれで良かったような気もしていた。何故なら、あの日以来、セスの気のせいかもしれないが、ニアはぴったりと閉じた心の扉を彼に対しては開いて見せるような瞬間が時々あったからだ。
 ニアがメロに対して「協力しましょう」と口に出して言ったとすれば、メロは烈火の如く怒って差しだされた手を拒んだに違いないが、メロが蛇蠍の如くニアを嫌う気持ちが、セスにはわからないでもない。自分のことを棚に上げるつもりはないとはいえ、それでもニアが同世代の子供が通う学校にでも放りこまれた場合、彼は「いやなやつ」という印象を、多くの男の同級生に与えるに違いなかった。セスに言わせれば、メロのニアに対する嫌い方はそのような種類に分類されていたといっていい。成績の悪いスポーツマンタイプは、体育以外はすべてオールAといった優等生とは、もともと水と油のように反りが合わないものだ。その点、自分とカイは似たもの同士として、たとえ短い間でも本当の友情を築けたという意味では幸福だったのかもしれないと、セスは彼らの関係を見ていて時に感じることがある。そして、カイなき今、自分は彼と似た半身を無意識のうちにも探そうとして――カイが自分の遺志を託そうとしたニアのことを見ているのかもしれないと、セスはそうも思う。
 もちろん、セスの心の中でカイの代わりになれるような存在はいない。そしてラスもエヴァも、他のみんなも……彼と同じような思いを心のどこかで感じているだろう。それは埋めようのない喪失感だった。それでも、夢の中で「君がニアを助けてやれ」とカイが言ったことで、セスはある意味救われたのだ。そして、以前に「誰の顔にも死相は見えない」と言ったモーヴの言葉をセスは信じていた。今ごろ、ラファ、ティグラン、ルー、ラス、エヴァ、それにメロは、アスキャ山から通じるエデンの入口へと乗りこんでいることだろう。エデンの内部へ入ったが最後、そこは完全に内から外へ電波の通じない特殊な空間となるため、メロからの通信があったのは、ヴァトナヨークトル氷河近郊のヘープンという町からのものが最後だった。そして彼らよりも先に――<K>ことカイン・ローライトの招待に応じる形で、Lはすでにアイスランド西部にあるスナイフェルスネス半島から、タイタロンなる迎えのUFOに乗って、地獄よりも深いと思われる場所に位置する、地下コロニーへと向かっていたのである。



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【2008/09/25 07:30 】
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