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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(18)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(18)

 アイスランド共和国は、北極圏に近い北大西洋上にある、独立国家である。総面積およそ10万3000k㎡の国土のうち、およそ5分の4には人が住んでおらず、さらに約三十万人いる人口のうちほとんどがレイキャヴィクなどの都市部に集中している。そしてLがカイン・ローライトから<招待>を受けた地下コロニーのエデンは、ヨーロッパ最大の氷河ヴァトナヨークトル氷河の下に眠っている……ヴァトナヨークトル氷河は、アイスランド東部に位置しており、その厚さは千メートルにも達し、全面積はヨーロッパに存在する氷河すべてを集めたものよりも広いという。
 当然、ここは観光名所としても有名であり、地質学を研究している学者にとっても興味深い人気スポットで、たくさんの観光客や研究者などが数多く訪れる場所でもある。まさかその近郊にこの地球を単独で滅ぼすことすら十分可能な、地下施設への入口があることも知らず、観光客たちはヴァトナ氷河でスノーモービルを楽しんだり、また暢気にも記念撮影をして一生の記念にしていたというわけだ……灯台もと暗しと言うべきなのか、<エデン>という地下組織の存在はこれまで、命知らずの冒険家などにも発見されることなく現在に至っている。
 もっとも、ここアイスランドではUFOの目撃例が多く、またセスナ機が飛行中に消えたり、登山者が途中で行方不明になったりといったことがよくあり、そのうちの事件のいくつかはタイタロンの目撃者を抹殺するため、その操縦者が相手の人間をエデンへ連れてくることと関係しているのだが……大抵の人間はその場で殺されて、遭難者のように見せかけられて死亡するか、あるいはエデンに連れてこられて必要な臓器などを奪われたのちにその存在を文字通り<抹消>されるのであった。
 こうした犠牲について、リヴァイアサンの支配下にあるといっていい国家の裏の指導者たちはどう捉えているのかといえば――彼らにとってリヴァイアサンはなくてはならない組織であり、どこかの気の狂った独裁者が核のボタンを押した場合に<救世主>、いってみれば生きたキリストが君臨するために、この組織がどうしても必要だという考えで一致していた。仮にどこかの国と国が争おうとも、それを瞬時にしてやめさせるだけの力がエデンには存在しており、普段は地上のことに不干渉でありながらも、「いざとなれば」必要に応じてコントロールを加えることが可能なこの科学研究所は、地球存続のために有用である以上、生かし続けなければならないと彼らは考えていたのである。ゆえに、この組織が人体実験などのためにだす『必要最小限』の犠牲は、まさしく神に捧げられた生贄としてやむをえないものであると、そう彼らは認識していたということだ。
 これまで、この秘密結社リヴァイアサンという組織に、盾突いた者で生き延びおおせた者はひとりもいないし、その秘密を洩らした者は必ず何がしかの方法により制裁を受けた。また倫理的に誤っているとしてリヴァイアサンに嫌悪感を抱き、この組織と距離を置こうとした国家元首もいることにはいたが、その場合にはクローン人間とすり替えられるなどして、その大統領や首相などは文字通り傀儡として操られる結果となった。
 だが、こうしたことをある意味<必要悪>として認め続けていいのかどうか、良識のある人間であれば、誰しもが思い悩むことであろう。事実上ICPOの影のトップといわれる探偵の<L>に、これまで自分が築き上げてきたネットワークのすべてを駆使して、協力してはもらえまいかと頼まれた時――チャールズ・ディキンスン少将も、一度その壁にぶち当たってひどく苦しい決断を迫られた。彼は(これでもうわたしのキャリアはおしまいだ……)などとは考えなかったし、また家族の誰かに危害が及ぶということもよくよく考え抜いてもいた。
<国家>というものが、無慈悲な権力を一個人に加えるのを、ディキンスンはこれまで嫌というほど見てきたし、自分だけはそのようになるまいとして、これまでうまく権力の波間を泳いできたつもりだった。だが、とうとう――彼にもある種の「賭け」に転じなければならない人生の瞬間が訪れたというわけだ。
『わたしは、あなたに自分のキャリアを棒に振ってまで、協力してほしいとは頼めません。ただ、少なくとも心情としてわかってほしかったんです。あの時点ではまだここまで詳しく話すことは出来ませんでしたが、リヴァイアサンという組織が存在し、その組織を最終的に壊滅に追いこむことが、わたしの探偵としてのルーツであり、たとえパソコンのスクリーン越しであるとはいえ、わたしもあなたと同じように命懸けであったこと……イラクであなたがメロのことをミサイル攻撃した時、むしろわたしはあなたのことを信頼できる人間だとさえ感じました。それがただの威嚇射撃であったろうこともよくわかっています。124名もの優秀な特殊部隊の隊員を一度に亡くしたことは、あなたの魂に消えない傷を負わせた……その失われたかけがえのない生命のことを、わたしは忘れたことはありませんし、もし仮に<K>をわたしが倒せたとしたら――それは彼らの尊い犠牲あってこその勝利だと、そのように認識してもいます』
「L……ひとつお聞きしたいが、リヴァイアサンという組織は、自分たちにとって都合の悪い人間をこれまで何百人となくクローン人間と入れ替えたりしてきているわけだろう?であれば、わたしもまたそうである可能性がゼロではないということになる。さらに、わたしがクローンでなかったにせよ、あの事件をきっかけにして、そちら側と繋がりを持っている可能性が高いとは、考えなかったのか?」
『ディキンスン少将、もしあなたに協力を同意していただけるなら、これからアメリカ国防省の軍人リストをお送りして、その中で<K>側の人間をクローン人間含め、疑いのある者にはすべて情報を洩らさぬようお願いしようと思っていました……つまり、あなたはわたしの中では最初からその可能性が極めて低いために、今こうしてお話をしているというわけです。これでもしあなたが――リヴァイアサンに与する側の人間であるとすれば、あなたを選んだこと自体がわたしの失策ということになるでしょうね』
「なるほど……」かねてより、軍の上層部だけでなく政財界やCIAにまで顔の利くディキンスンは、イラク戦争の尻拭いをするという極めて損なポジションからこの時解放されることが出来ていた。今は休暇中でワシントンにある自宅へ戻ってきていたのだが、彼の家の地下には情報漏洩を防ぐための特殊なシステムを施した部屋があり、ディキンスンはそこで今、Lとパソコン越しに話をしていたというわけだ。
 結局この時、ディキンスンは他にもいくつかLに質問をしてから、「少し考えさせてくれ」と解答していた。だが実際には考えるまでもなく、彼の中で答えはほとんど決まっていたと言っていい。そしておそらくは――Lにもそのことがわかっているはずだった。ディキンスンの心を動かしたもの、それは<L>の部下であるメロに向けて威嚇のミサイル攻撃をせずにいられなかったのと同じ、ある感情的な激しい衝動だった。四年前、自分を信頼して極めて特殊な任務を引き受けてくれた彼の部下たちは、世間にその正体を知られていない組織と戦って死んだのだ。その仇を討つためならば自分はなんでもする……そう。自分が真に憎むべきは、そのリヴァイアサンという名の謎の秘密結社なのだ。そもそも、あの時に自分が生き残ったのは、ただの幸運でしかない――あの美しくもおそろしい殺人マシンが、<L>への伝言を託すために選んだ者が、もし別の人間であったとすれば、間違いなく自分は即死していただろうと、ディキンスンはそう思う。そしてあの場にいた唯一の生き残りとして、自分にとってこれは果たすべき責務であるとディキンスンは決断したのだ。
(L……随分長い間、わたしはあなたを誤解していたようだ)
 今も時々、あの時のことを、ディキンスンは夢に見ることがある。もし仮に夜の街で会ったとすれば、見とれるほどの容貌をした殺人鬼が――悪魔のように残忍な微笑みを浮かべて、たった一体のみで彼の部下たちを血祭りに上げていった瞬間のことを……さらに、あのアンドロイドには腕にプラズマ砲が内蔵されており、それに撃たれた者はその部分の血液が沸騰して、次から次へと卒倒していった。
 ディキンスンは鋼の意志と鉄のように強固な実行力を持ち合わせた男だったが、この時は普段自分の行動方針を定める基準となる、理性の力が弱くなっていると自分でも自覚せざるをえなかった。そうなのだ――Lが説明した言葉の中で、ディキンスンがもっとも共感し、心を動かされたのは、彼が自分がこれからしようとしていることを<私怨>と呼んだことである。ディキンスン自身、もし自分の信頼するもっとも優秀な選りすぐりの部下を失うという痛恨の悲劇を経験していなかったとすれば、おそらくはLの話に完全に同意することは出来なかっただろう。第一、アンドロイドだのUFOだの、あまりに現実離れしすぎていて、到底それを事実として認めることすら出来なかったに違いない。だが、ディキンスンには今手にとるように想像することが出来る……秘密結社リヴァイアサンの影にいるグロテスクな<神>に似た化物の正体を。その化物は母を殺し父を殺し、さらに血の繋がりは別としても――いってみれば自分よりも優秀な遺伝子を持つであろう弟をエデン(天国)から地上(地獄)へ追放したのだ。さらに、その研究所では旧式であったというアンドロイドたちが数百人もの科学者たちを一度に処刑した光景がどんなものかも、ディキンスンには想像できる。それは自分が見たのと同じ、阿鼻叫喚といっていい地獄絵図だったろうことが……。
(こんな化物がこの地上に存在することが、果たして人類にとって<正義>でなどありえるのか?)
 そうディキンスンは考えざるをえない。だがそれは結局のところ、自分の部下の無念をなんとしてでも晴らしたいという、彼個人の『私怨』に裏打ちされた思考が導きだす答えでもあるのだ。そう――L自身に「リヴァイアサンという組織が<悪>であると思うか?」ということを聞いた時、彼は必ずしもそうとは言えないと答えていた。
『言ってみればこれは、わたし個人の単なる私怨にすぎません。いかなる理由があるにせよ、わたしにも守りたいと思うものがある以上……彼に負けるわけにはいかないんです。リヴァイアサンという組織に、存在意義があることは間違いありませんし、彼らのしていることが正しいことであれ、必要悪であれ、その理由については禅問答のようなものであり、誰もが納得する明快な答えなどないだろうとわたしは思っています。ただわたしにわかっているのは、このまま彼らを放っておいたとすれば、おそらく自分がまともでない異常な死に方をするだろうということだけです。いうなれば、その運命からなんとかして逃れるために、ディキンスン少将、わたしはあなたの力をお借りしたいんです』
 ――最初、ディキンスンは世界一の探偵と目される<L>が、なんの感情もないコンピューターボイスで指令を下すのを聞いて、強い不信感を持った。だが今、彼の生の声を聞いて感じるのはむしろ……淡々としたどこか平板な声でありながら、傷つきやすいような繊細な印象さえ、そこからは受けるということだった。もちろん、彼のこの声が本当に本物の<L>という確証はないし、さらに言えば合成ボイスであるという可能性もある。だが、ディキンスンは彼のその声がおそらくは本物であろうと信じたように、L個人の信念を信じることにしようと心を決めていた。
 そう……彼の話を聞いていて、何よりもディキンスンが一番衝撃を受けたのは、人間の原罪にも似たその出生の秘密であり、おそらく<L>は自分と同年代くらいの人間であろうと思っていた自分の想像を裏切って――彼がディキンスンの息子と大して年齢が違わないということであった。
 もし仮に、自分の息子のマイクが、そのような過酷な運命を背負わされていたとしたら、自分は親として一体何が出来たろうか?エデンという科学研究所をでた時、Lの命は唯一生かされたふたりの科学者の手に託されたというが――彼らの心中はいかばかりのものであったろうと、ディキンスンは思う。そして<L>という名前からディキンスンが連想するのは、聖書のアベルとカインの話だった。カインとアベルは神に捧げものをし、神がアベルの捧げもののほうに目を留めたのに嫉妬したカインは、弟を殺してしまう……これは人類史上初の殺人と言われているが、アベルは正しい人間として今も神とともにいると信じられている。だが、人はつい愚かにこう考えてしまうものだ。もしアベルが清い心でよい捧げものをしたなら、何故神はカインの殺意からアベルを守ろうとしなかったのか?神が全能ならば、そうすることは十分可能であったにも関わらず……そしてディキンスンは、人間の<自由意志>といったような神学論は別として、この場合自分はカインの側でなくアベルの側につくべきだと思うのだ。何より、心がすでに決まっていながらも、Lに「少し考えさせてほしい」とディキンスンが答えたのは――彼の背負うあまりに過酷な運命に同情するあまり、あやうく声が震えそうになったためだった。
 実際、彼との通信をきったあと、ディキンスンはしばしの間目頭を押さえていた。イラク戦争でも、自分の息子と同年代の兵士たちが数多く亡くなっていることもあって――結局のところ上官として「何もできない」自分のことを、ディキンスンは不甲斐なく感じてもいた。もちろん、四年前に124名もの優秀な部下たちを一度に失ったという悔恨の思いもある……だがそれ以上に、自分のキャリアと命を棒に振る結果になるにせよ、彼が<L>に協力しようと決意したのは、孤独な心を抱えて生きるよう運命づけられた、自分の息子とも年齢の近い青年を助けてやりたいという、人としての善意だったろうか。
 もしその自分の人間としての選択が間違っており、この世に人智では計り知れぬ<神>がいて、リヴァイアサンという組織の存続を許すというのなら――自分はその同じ神に裁かれて死ぬことになるだろうと、最終的にそう、ディキンスンは覚悟を決めたのだ。



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【2008/09/25 07:22 】
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