スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】
スポンサー広告
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(13)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(13)

 ジョアン公妃のヨット転覆事故――それは、1997年のダイアナ王妃の交通事故と並ぶ悲劇として、世界に衝撃を与えた事件であり、Lにとっても極めて興味深い事件だった。ジョアン公妃はハリウッド女優からモナコ公国の公妃となった女性で、地中海をヨットでクルーズ中に事故死している。
 一説として自殺説も囁かれてはいるものの、座礁が原因の転覆事故として公式には片付けられている……だが、このヨットがいわくつきのアンナ・マグダレーナ号だったことから、噂に尾鰭がつき、ジョアン公妃は幽霊に取り憑かれて死亡したのだと言われたりもした。このアンナ・マグダレーナ号という名のヨットは、製造が1953年、フランス貴族のある富豪が自分の妻のためにと豪華な意匠をこらして造船業者に作らせたものだと言われている。ところがこのヨットの処女航海中に嵐にあって船は難破……夫妻は救助されるも、ド・ロエル侯爵の最愛の妻は間もなく他界した。ちなみに、ロエル侯爵は東洋の神秘的な<易>や<気功>、さらには中国武術にも精通しているという一風変わった人物だったが、対して彼女の細君は西洋占星術や交霊術といったものに相当はまりこんでいたらしい。以来、この船は彼女が呼びだした霊が一緒に乗りこんでいたのではないかとされ、呪われたヨットとして有名になる。ところが、物好きというのはどこの世界にもいるもので、この豪華な意匠のこらされたヨットを是非購入したいというイタリアのヨット狂いの海運王が現れる……彼は、ヨットの世界選手権で優勝したこともある人物で、当時の値段で10億という大金を積んでロエル侯爵から買い取ったらしい(ロエル侯爵が売値を高く設定したのは、妻との思い出を他人に渡したくなかったからのようだが、最後には彼の熱意に動かされる形となったらしい)。
 ところが、不幸というのは続くもので、彼もまた処女航海中に偶発的な事故により死亡している……そしてアンナ・マグダレーナ号は遺産としてこのイタリア人の富豪の姪に与えられたわけだが――それがのちにモナコ公妃となる、ジョアン・ゼーリだったというわけである。
 暗礁に乗り上げたという転覆事故そのものに特別不審な点はないとはいえ――ジョアン公妃には唯一、Lにとって強く関心を引かれる事柄があった。それはモナコ大公が後継ぎ欲しさから、彼女の不妊の胎を開くために、世界最高の科学技術をリヴァイアサンから受けた疑いがあるということだ。
 これはモナコ公国だけでなく、日本その他、あらゆる国の王室にとって、時に悩みの種となることなのだが――後継ぎに男子が必要であったり、あるいは女子の後継者を認めている場合にしろ、妻が不妊、あるいは夫が不妊症である場合に起きる問題というものが確かにある。リヴァイアサンというKの率いる組織は、かねてよりこうした問題に対して救いの手を各国に差し伸べており、その際にクローン人間としてのデータを、王室や公室に属する人間から得ているに違いなかった。ゆえに、ジョアン公妃のクローンも<エデン>に保存されているはずなのだが――モナコ大公はおそらく、生命倫理の観点から、事件を揉み消してまでジョアン公妃のクローンを迎え入れようとは思わなかったのだろう。
 だが、第35代アメリカ大統領、ジョン・F・ケネディの場合のように、その死がごまかしようのない場合以外、リヴァイアサンの所有しているこの科学の力を各国が借りていることは実は意外に多い。というより、そちらの超トップシークレットといっていい一般庶民が知りえない世界の上層部では、このクローンという<保険>については公然の秘密として扱われてさえいる。何故マスコミなどに露見しないかといえば、理由は至極簡単なことだった。もし誰かがそのような秘密を洩らしたところで、大半の人間は信憑性が薄いとして信じないであろうし、秘密の禁を破った国の人間は、その後彼らにとって神の組織にも等しいリヴァイアサンの恩恵を失うことにもなりかねないからである(もっと言うとすれば、彼らがその気にさえなれば、歴史を影で操り、一国の名をこの地上から永久に滅ぼすことさえ可能なのである)。
(ロエル侯爵……今回もまたヨットの転覆事故そのものには人為的に細工のされた可能性はありませんが、あなたが奥さんのために造ったあの船は、ワタリがオークションで競り落として、永遠に誰も乗らないようにしたいと言ってましたよ。処女航海のたびに、何故か事故に遭う船……その謎はわたしにも解けないままでしたが、今向こうの世界にいるあなたには、その謎がすでに解けているのかもしれませんね……)
 リュシアン・ド・ロエル侯爵は、以前ニアが南仏にある彼の城館を訪ねてから、約三か月後に死亡している。使用人たちの話では、彼が夜中にひとりで誰かと話していたらしいとのことで、その翌朝に侯爵が亡くなったことから――「おそらく奥さまが迎えにきたのではないでしょうか」とみなが口を揃えて言っていたという。
 アンナ・マグダレーナ号の転覆事件は、これからも時にTVや雑誌で取り上げられることもあるだろうが、こうした不思議な種類の謎については、流石のLにもお手上げだった。こうした神秘的な事柄に見せかけたトリックならば数え切れないほど解いてきたLも、これまでいくつか似たような<本物の>オカルト事件に遭遇したことは確かにある……いうなればそれは既存の科学を超えた現象であり、L自身はそこに救いにも似た何かを見出していた。
 何故ならばそれは、LにだけでなくKにもおそらくは説明できない事象であるからだ。この世界に本当に<神>がいるとするならば、そうした謎についても必ず説明できるはずである。ゆえに、いくらKがこの世の神を気取ったところで、それはただ偽の神にすぎないのだ。
(そしてあなたもおそらくは、この世界に存在するかもしれない真の神を求める心を持っている……このわたしのプロファイルが外れているとすれば、わたしにあるのは<死>以上の死のみということになるんでしょうね。さて、これからわたしは会議を開いて、あなたに会いにいくためのメンバーを探そうとしていますが、実際のところわたしは最初の予定通り、ひとりであなたに会いにいきたいと思っています……ただその前にラケルにすべてを打ち明けなければならないこと、それが今のわたしにとってもっともつらいことですが、それでもあなたには感謝しています。何より、彼女に手出しする前にわたしを<エデン>に招いてくださったんですから。もしあなたがラケルのことをどうにかしてからエデンにわたしを招待していたら――わたしはおそらく今頃、とても冷静な判断など下せなかったに違いありません)
 この点からみても、Kがどの程度今も自分を憎んでいるのかというのは、Lにも想像のつかないことではあった。ほとんど万能といっていいほどの科学力を所有し、その気になればあらゆる手段をもってこの世界からLを抹殺する力すら持つ彼にとって――Lはおそらくお釈迦さまいうところの、手のひらに乗った猿といったところだろう。
(でも、良かったです。あなたの手のひらの上で、永遠に遊ばされるようなことにならなくて……もっとも、あなたがわたしを殺害した上で、そのクローンを<L>として地上に戻した場合、やはりわたしは滑稽な猿として、あなたに踊らされ続けることになるのかもしれませんが……)
 この場合、Lにとってもっとも重要なのは、自分の<読みの誤差>とも呼ぶべきものだった。もし仮にKが、最終的にLのことをもっとも残酷な形で殺すべく、今待ち構えているのだとすれば……L自身にはまず勝ち目はない。しかしながら、彼がこれまで自分のことを野放しに泳がせておいた経緯から考えても――時が過ぎるとともに、母親を殺されたという逆恨みと憎しみの感情は弱まったと考えるのはやはり、楽観的に過ぎるだろうか?
(You are a “L”oser……このメッセージを残すことで、『おまえは最初からわたしに負けている』と、あなたはそう言いたかったんでしょうね。事実、わたしはあなたに負けっぱなしだとも言えますが、おそらくこの地上で唯一、あなたが<神>らしくない無用の偏執的感情を持つ存在があるとすれば、このわたしひとりのはず……少なくともそれはわたしひとりの自惚れでないことが、これで証明されたとも言えるわけです)
 それとも、<L>を殺害することがKにとって一番の御馳走としてもっとも最後に残された唯一の楽しみとも呼ぶべきものなのだろうか?この世界に善と悪、そして光と闇が存在するように、Kには二面性があるというのが、L自身の結論であり、K個人に対するプロファイルだった。彼が地上に住まう人間のことを塵芥と見なし、自分がその生殺与奪の権限を所有していることを、Kが当たり前のように感じているのも事実なら、時に彼がそれこそお釈迦さまのように、一本の救いの糸をこの世に垂らしてよこすというのも本当のことだった。
 そして、Kが自分に対して一本のか細い希望の糸を垂らそうとするのか、それともそうした上で、あと一歩というところで、無惨にもその糸を悪魔のような微笑みとともに断ち切ろうとするのか――それがLにとっての運命の分かれ道だといえた。



 
スポンサーサイト
【2008/09/24 07:23 】
探偵L・アイスランド編 | コメント(0) | トラックバック(0)
<<探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(14) | ホーム | 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(12)>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://paralleldeathnote.blog119.fc2.com/tb.php/122-ba8a1bd2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。