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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(10)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(10)

 セスはその日、パソコンのモニター越しに<殺し屋ギルド>の幹部会議に出席し――当然、そこに彼の姿は現れず、ただ砂嵐のような画面の上に<X>と表示されているだけだった――夕方には、朝にラケルと約束したとおり、モミの木のツリーを片付けた。兄のボーは快く手伝うことに応じてくれたが、炉辺のラグに寝転がっておもちゃ遊びをしているニアは、一向手伝おうとする様子がない。それでセスは彼にこう言った。
「おい、そこのお子様。このトナカイの人形だの、ロボットだのゲーム機だの、飾りつけしたのほとんど君じゃなかったか?少しは一緒に外すの手伝え」
「……わかりました」
 こんなことなら、自分の部屋にいるべきだったとニアは思ったが、確かにクリスマス気分の盛り上がる(?)その飾りつけをしたのは自分だったために――仕方なしに体を起こすと、部屋の隅に置いてあるスツールを持ってきて、順番にツリーの飾りを外しはじめた。
「それじゃあ、モミの樹のほうは僕と兄さんで一旦別の部屋に運ぶから、そのガラクタは君のほうで処分してくれたまえ」
「……………」
 とりあえずこの場合、言ってることとやっていることはセスのほうが正しいため、ニアは文句を言うことが出来ないのだが――彼は普段話をしている時にも、若干上から目線で人にものを言うようなところがある。
 メロもまた自分と同じように感じており、「虫の好かない野郎だ」とセスのことを評していたが、ニアも珍しくメロとまったく同意見なのだった。
 星やモールや電球などをニアが袋の中にしまいこんでいると、そこにエヴァが現れて、ベルやヒイラギの輪飾りなどを片付けるのを手伝ってくれる。彼女がまるで<目が見えている>ように手際よく箱の中に色々片付けているのを見ると、ニアはいつも感じるのと同じ不思議な気持ちになった。
 エヴァの場合、治癒能力の他にもっとも優れているのが<空間把握>能力なのだと、セスに教えてもらったことがあるが――ようするに、10メートル先にコンクリートの壁があった場合、その距離や硬さ、手触りや色などを彼女は「予感」するのだという。そして自分のそうした一種の「予知」が正しいかどうかを確認するために、そこまで近づいていき、その壁に触れ、「やっぱり思ったとおりだった」と感じるというわけらしい……彼女に自分のオーラには白銀に紫が混じっていると言われた時にも、目が見えないのに何故色を感じることが出来るのか、ニアには不思議だったわけだが――驚いたことに彼女には、120色ある色鉛筆の色すべてを当てるということまで出来たのである。
「セスとあなたは、何か特別な関係なんですか?」
 ニアは、<殺し屋ギルド>の裏情報を流してもらっている手前、セスに大きく出れないところがあるのだが、何かひとつ彼の弱味でも握れはしまいかと思い、エヴァにそう聞いていみた。
「そんなに、彼のことが嫌い?」
クリスマスカラーの、赤と緑の箱に飾りつけの道具すべてをしまい終わると、その蓋を閉めながら彼女は笑っている。こういう時にも、すべてお見通しなのだとニアは感じたが、不思議と居心地の悪い感じのしないところが、エヴァのいいところでもあった。
「……嫌い、ではありませんが、好きとも言えないでしょうね。まあ、せいぜいいって対等な話をすることの出来る好敵手といったところでしょうか」
「ふうん。そう……でもひとつ、いいこと教えてあげましょうか?セスってああ見えて、意外にあなたのこと気に入ってるっていうか、友達として結構好きみたいよ?」
「それは、初耳ですね……」
 その時、ボーがリビングへ戻ってきたため、ニアとエヴァの会話はそこで終わりになる。ニアはまた、炉辺のラグに寝そべっておもちゃ遊びをはじめ、昼間Lとメロの三人で話しあったことについて、再び思案を巡らせた。
「実は、招待状がきたんですよ」と、Lはいつものどこか飄々とした態度で言った。
 ニアのバロック様式の部屋には、大理石の支柱が三本立った後ろに本棚があり、そこには数百冊もの蔵書が壁を埋めるような形で並んでいたが、彼自身はそこから本をとって読み返したということは一度もない――何故なら、ニアの頭の中にはそれらがほとんどコピーしたようにすべて記憶されていたため、『風とともに去りぬ』の第二部、第三章をすべて暗誦せよと言われれば、それを一語のあやまりもなく繰り返せるだけでなく、ページ数や何ページ目の何行目から読めと指定された場合にも、ペラペラとまるでコンピューターのように滑らかに話すことが出来たのである(彼のこの朗誦の唯一の欠点は、感情がまったくこもっておらず、ほとんど棒読みしか出来ないということではあったけれど)。
 その部屋の中央、シャンデリアの下のソファや肘掛椅子に腰かけながら、Lとメロとニアは話をしていたのだが――上手の肘掛椅子にLが座し、その右手のソファにニアが、左手にメロが座っているというような具合だった。
「招待状って……ようするに、先ほどLが話してくれたリヴァイアサンというアイスランドに本拠地のある組織から、ということですか?」
「ええ……先日ヴェルディーユ親子が亡くなって数日したあと、正確にはまあ、大晦日から新年に日付の変わる0:00に、ということなんですけどね。『決着をつけよう。三か月以内に貴公が我が城へ来るのを待つ――<K>』っていう短いメールが届きまして……まあ、わたしにとってもKにとってもこれが臨界点だというのは、互いにわかっていることでした。今この城館にいる超能力者たちのおもなデータはすべて、すでに彼の手に渡っている。ようするに、これ以上の最良の手札はわたしに揃えられるはずがないと、そう思ったということでしょう……そしてKにはおそらくわかっているはずだと思うんです。わたしが超能力の開発に年月を費やして彼を倒そうとはしないということが。そもそもこれまでにも、Kがその気にさえなれば、彼がわたしの首を取ることなど実に容易いことでした。ただ、Kはわたしを試したかったんですよ……自分の父親が作りだした遺伝子工学の最高傑作が、果たしてどこまでやれるかをね」
「それで、勝算はあるのか?」
 メロがパキリ、とチョコレートを齧りながら言うと、Lがどこか物欲しそうな目つきで、彼の手元をじっと見やる。
「チョコ、欲しいです……」
「……わかったよ。最近ラケルの奴が他のガキの面倒ばっか見てるから、糖分が不足がちなんだろ?ったく、仕様がねえなあ。メシくらいそれぞれセルフサービスで、全員好き勝手に食えばいいだけだろうに」
「まあ、彼女の性格上、そうもいかないといったところでしょうね。正直、わたしは昔から、<エデン>に乗りこむ時には自分ひとり、あるいはいたとしてもワタリだけだろうと考えていましたが――それでも一応、彼らにも一緒に来てもらえるかどうか、聞いてはみるつもりです。もちろん強制はしませんし、その際のメリット・デメリットの説明もきちんとします。メリットはまあ、彼ら超能力者たちの延命を可能にするような技術が、おそらくKの元にはすでにあること、デメリットは――<エデン>に乗りこんでいった結果、その全員が死ぬ可能性は極めて高いということでしょうか」
「……………!!」
 ニアは、ガンダムのプラモデルをニッパーで切り離し、その切り離した部分にヤスリをかけているところだったが、手元が狂ってパーツが絨毯の上に飛んだ。べつにLの言葉に動揺したというわけではまったくなく、本当にたまたまだった。
「心配しなくてもいいですよ、ニア。あなたには別の場所に残ってもらって、他にしてもらいたいことがありますから……それに、万が一の保険のために、あなたたちふたりのうちのどちらかには、安全なところにいてもらわなければなりません」
「……ようするに、もしLが亡くなった場合、わたしかメロのどちらかが<L>の後を継がなければならない、つまりはそういうことですか?」
「まあ、そういうことなら、俺はLと一緒にKとかいう奴の牙城に乗りこむわけだし、残ったニアがLの後を継ぐってことになるわけだよな」
 板チョコレートの半分をLに手渡しながら、なんでもないことのようにケロリとした顔でメロが言う。「ありがとうございます」と、Lは愛弟子からチョコを受けとるなり、よほど糖分に飢えていたのか、バリボリと早速齧りついている。
「いいんですか、メロ。この話の流れでいくとあなたは、アイスランドのKとかいう男のいる地下組織で犬死にする可能性が極めて高そうですが……」
「犬死にとかゆーな。第一Lがこれからも普通に生きてさえいたら、その補欠候補みたいな俺たちに、<Lを継ぐ>機会なんてそもそも回ってこないんだぜ?だったら、Lが死ぬかもしれないって場所に俺もついていくさ。俺はおまえみたいに、「これでLが死ねば自分がその後を継げる」なんて考えるほど、腹黒くないんでな」
「わたしは、自分がその後を継ぐために、Lに死んでほしいなどと思ったことは一度もありません」
 メロとニアがバチッ!と火花を散らしているのを見て、「まあまあ」と、Lが間に割って入る。
「なんにしても、今の段階でわたしの考えてるプランはいくつかあります。ただ問題なのは、こうした作戦を立てる時にわたしはいつも、最悪の事態というものを想定して、そうならないための対応をとることにしているわけですが……今回ばかりは少々、自分でも楽観的にすぎる計画案を取らざるを得ないというのが頭の痛いところです。なんにせよ、まあ与えられた時間はフルに活用すべきですから、近いうちに子供たち全員を集めてこのことの説明を行いたいと思います。そうですね……出来ればラケルのいない時間帯がいいですから、彼女とボーくんが買い物に行っている時にでも、話し合いの場を持つことにしましょう。そしてリヴァイアサンの本拠地である<エデン>に乗りこむのは、今の段階で三月の下旬、ということにします。それまでみんなには、おのおの悔いのないように好きなことをして欲しいと思うんですよ……なんといってもこれは、わたしにとっても<負けを覚悟の勝負>なわけですから」
 ニアはガリガリとガンプラのパーツにヤスリをかけ、メロはパキリ、とチョコレートを齧る。<負けを覚悟の勝負>――Lにそこまで言わせるとは、これは本気で命を懸けるしかないということだと、ふたりは心の中で互いに同じことを思っていた。
「ところで、ラケルにはなんて言うんだ?まさかとは思うが、これからラケルだけを置いて子供たちとピクニックに行ってきますというわけにもいかないだろう?未亡人になったら、遺産は使い放題で、他の誰かと幸せになるための資金にしてくれってLは説明するつもりなのか?」
「……嫌なことをいいますね」と、Lにしては珍しく、彼は一瞬本気で不機嫌になっている。「まあ、折りを見て、彼女にも本当のことをすべて話さなければなりません。何より、子供たち全員にこの作戦のことを話した段階で、みんなの雰囲気がいつもとは違うことに、ラケル自身も気づいてしまうでしょうから……いつまでも隠し立てするというわけにもいきませんしね。そのへんのことはわたしがなんとかしますが、今はそれよりもエリスから送られてきた報告書のほうが重要です。セスの許可を得て、エリスがカイ・ハザードの冷凍保存した遺体を解剖したところ、新薬を開発できる見通しが大体のところついたそうですから……それと彼女がこれまでしてきた免疫学の研究も合わせると同時に、まだ表に公表していない薬の開発ノウハウを応用すれば、早くて二~三年でその薬剤は創れるだろうということでした」
「早くて二~三年か。エヴァやルーにとっては時間としてなんとかギリギリっていうところだろうな。なんとか間に合ってくれるといいが……」
「そうですね。ところでL、ひとつ聞きたいのですが」と、ニアはガンダムのパーツを順番に組み立てながら言った。1/100スケールのフォースインパルスガンダムである。「その話の流れでいくと、彼らに命の危険まで犯せというのは、少し難しくありませんか?黙って待っていても、早ければ二年、遅くて三年で新薬が完成する見通しが立っているというのであれば……エリスがこれから創ろうしている薬よりも完成度の高いものが出来る可能性があるからといって、彼らの全員が協力してくれるとは限らないと思いますが」
「そのとおりです。そして正直なところ、わたしはメロも含めて、誰のことも命の危険にさらしたくないと考えていますから……個人的にわたしの考える最良のシナリオというのは、わたしがひとりでリヴァイアサンに乗りこみ、良くてKと相打ち、悪ければ――ちなみに、こちらの可能性のほうが高いわけですが――彼に負けてわたしひとりが死ぬというものです。どう考えても、これがもっとも犠牲の少ない、最良のやり方だと思いますから」
「……………」
 ――このあとLは「とりあえずこのことは、超能力を持った他の子供たちにも意見を聞いてみなければ、最終的な決定は下せません。現在わたしが頭の中で立てている計画も、それいかんによって左右されますから、詳しいことはまたその後に作戦会議を開くということにしましょう」と言って、ニアのバロック様式の部屋を出ていった。
 確かに、Lにはすでに死ぬ覚悟があるのだと、ニアはそう思う。おそらく得体の知れないその組織と否も応もなく戦いはじめたその時から、最終的には自分が<死ぬ>ことで幕が下りることになるだろうと、Lはそう予感しながら、世界一の探偵であり続けたのだ……この時点ですでに、Lの言った<頼みたいこと>というのがなんなのか、ニアには聞かなくてもわかっていたし、超能力者たちもその大体がLに協力すると答えるだろうと予想してもいた。
 何故なら――カイ・ハザードが死んだのは、より崇高な目的の達成と超能力という特殊な能力を持つ子供たちの未来のためであるからだ。彼が自分の命を犠牲にしてまで成し遂げたかったこと、それは単にエヴァやルーやラファが長生きするためというだけでなく……その次世代の子供たちのことも考えた上で、彼は命を投げだしたのだ。そのカイにこれまで彼らが護られてきた以上、彼らもまたおそらくカイの見ていた目的の達成に向けて、行動をともにしようとするに違いない。
 ニアが炉辺で寝そべりながらプラモ遊びをしているうちに、キッチンからは美味しそうな夕餉の香りが漂ってきており――どうやら今夜のメニューはローストチキンらしい――ラケルとラスが時々笑い声を上げながらその支度をしていることがわかる。そしてピアノの前にはエヴァが座ってオペラの楽曲を弾き、そのかたわらでボーが美しいテノールを聴かせている。
(カイ・ハザード……あなたが命を捨てても守りたかったものはきっと、こうした他愛もない普通の光景だったんでしょうね)
 ラファがLの物真似をしながらラケルに「スイーツ……」とねだっても、彼女は「晩ごはん前だから」という理由によって却下している。すると、彼は元の悪戯小僧に戻って、「クソババア!」と舌をだしながら大股にリビングを出ていった。ラケルにしても何かと気苦労の多い生活に見えるが、それでも――彼女がLの出生について<真実>をまだ知らない今、この何気ない生活がやはりラケルにとっても<幸福>ということになるだろうかと、ニアは考える。
 あのあと、ニアはLから、エリスがこれから創ろうとしている<新薬>の資料を貸してもらっていたが、「もしかしたらこの薬の作用で超能力は持続できなくなり、消える可能性がある」と彼女が記しているのを読んでいた……<超能力>か、それとも<延命>かという問題になるが、この選択はおそらく、彼らひとりひとりにしてもらう以外はおそらくないだろう。
(そうすると、今後の<殺し屋ギルド>の動向にも変化が出ざるをえないということになるが……まあ、仕方ない。裏のコードはほとんど牛耳ったも同然の今、<L>がこれからもそれを利用して世界のバランスを保っていけばいいだけのことともいえる……)
 そしてニアが、リヴァイアサンを壊滅させることが本当に人類にとって有益なのかどうかと思案していた時――「ごはんよ~!」という、ラケルの暢気な声が響いた。今この場所にいない子供たちひとりひとりに彼女は、携帯電話をかけたり、メールを入れたりして、夕ごはんの準備が出来たことを知らせている。
(わたしがもしLなら……)と、一瞬考えたことに、ニアは自分自身で驚いてしまった。そう、今のような生活を彼女と続けることが出来るなら、特に欲しいものが彼には見当たらなかった。失うことの痛みを感じるためには、まず愛されるという経験を持つ必要があるが、彼女はニアにとってもそこに繋がる何かを持つ女性らしかったのである。



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【2008/09/24 07:03 】
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