スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】
スポンサー広告
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(2)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(2)

 ステファン・ジェバンニはその時、ロンドンのオックスフォード・ストリートにある喫茶店で、恋人のハル・リドナーと待ち合わせをしていた。恋人……そう。「僕たちって恋人同士だよね?」などと、言葉で明確に確認し合ったわけではないにしても、ジェバンニはそう呼んで差しつかえない関係を彼女と持っていると信じていた。
『あなたがあの時止めてくれて――とても嬉しかった』
 ヴィクトリア朝時代の家具類や小物類が並ぶ、アンティークな雰囲気の喫茶店内で、ジェバンニは回想に耽っていた。ロサンジェルスで、アリス・リード(ルースリア・リーデイル)の家を監視していた時、彼女の義理の母親役をしていた女性が偶然、かつてリドナーを裏切った元同僚だったのだ。そして、ヒュー・ブレットという自分の恋人を殺されたリドナーは、彼女にいつか必ず復讐することを胸に誓いながらこれまで生きてきたのだという。
『寂しい人生よね』ロスの夜景をバルコニーから見下ろしながら、リドナーはそう言った。ワタリ所有のコンドミニアムに移ってきてからのことだった。『わたし、これまでずっと信じてたの。自分がブリジットに復讐するのは、正当な理由のある正しいことなんだって……でも間違ってたんだわ。あなたが撃たれた時と、その後は、まだ頭に血がのぼっててわからなかったけど……彼女が逮捕されてロス警察のパトカーに乗せられるところを見た瞬間に――こう思ったの。わたし、こんなことのために随分時間を無駄にしてきたんだなって。ねえ、あなたは誰かを殺したいほど憎んだことって、これまでに一度でもある?』
 いや、ないよと、ジェバンニは答えた。ただ職業柄、自分の家族や恋人など、大切な人を亡くした経験のある人のことは、数多く見てきたけれど、と。
『そうよね……あなたはそういう人だと思った。でもわたしはね、あなたとは違うの。一度裏切った人間のことは絶対許さないし、いつまでも執念深く覚えていて忘れないの。だから、ヒューがブリジットと寝たって聞いた時も怒り狂ったわ。ヒューはほんの一時的な出来心だった、許してほしいって言ったけど――わたしは彼に婚約指輪を投げつけてやったのよ。「何故よりにもよってブリジットなの!」って、怒鳴りつけながらね……以来、わたしの人生はあの瞬間から狂ってしまったんだって、ずっとそう思ってた。寝る前には、毎日ブリジットの首をかっさばいてやったり、彼女のことを銃弾で蜂の巣にしてやったところを想像するの。そうすると、とても心が安らかになってぐっすり眠れるのよ……ねえ、こんな醜い女の、あなたはどこが好きだっていうの?』
<クリスタル>という銘柄のシャンパンを飲みながら、軽く酔ったような口調で、リドナーはそう言った。もうグラスに七杯は注いで飲んでいる。
『誰か人を殺したいと思ったことは、僕には一度もないけれど』と、ジェバンニもまた黄金色の芳醇なシャンパンを手にして、バルコニーにもたれながら言った。『でも、捜査で不本意ながらも人を撃ったことは何度もあるし、その家族から恨まれたこともあるよ。どんな犯罪者にだって家族がいたり、親しい友人がいたりするのが普通だからね。自分では正義の捜査をしているつもりでも、割を食うことなんてしょっちゅうだし、そういう時には「なんて惨めで可哀想な人生を送る自分だろう」って、自己憐憫に浸ったり……でも、そんな時にはいつも妹のことを思うんだ。妹のレスリーは、二十歳の時に結婚したんだけど、新婚旅行でいった先のアイルランドでUFOにさらわれてね……みんな、この話をすると僕のことを馬鹿にするけど、妹は今もきっとどこかで生きてるって、僕はそう信じてるんだ。だから、妹が戻ってきた時のためにも、彼女をがっかりさせるような生き方だけはしちゃいけないって、今もそう思ってる』
『妹さんの旦那さんになった人は、全身の血を抜かれた遺体で、アイルランドの古城で発見されたのよね?』
 リドナーはにわかに、仕事をしている時の顔つきになると、ジェバンニの言った言葉を真面目に考えはじめた。これまでは、本当の意味では彼の話すUFO話を真剣に検討したことが、リドナーは一度もない。それに、以前仕事で自分が<吸血鬼>の末裔であると信じる男を取り調べたことがあったので――この犯人は、処女の生き血を集めており、生娘かそうでないかは、血を一口飲めばわかると信じている変質者だった――そういう種類の連続殺人犯に、不幸にもジェバンニの妹は狙われ、その夫となった男性は血だけを抜かれて捨てられたのだろうと思っていた。だが、もう一度最初から、あらゆる見地からこの事件を調べ直してみる必要性があるのではないだろうか?
『一般的な俗説として、宇宙人が地球人の血を抜くっていう話は結構あるんだよ。だから僕は、ブラジルで宇宙人の存在を信じる宗教団体が動物や人間の血を抜いて捧げる儀式を行っていると聞いた時――もしかしたら妹のレスリーも、この宗教団体にさらわれたんじゃないかと思ったんだ。僕はなんとしてでもその捜査にあたりたかったけど、馬鹿正直に話をしたのが悪かったのか、上司はそんな話、最初から取りあってくれなかった。でも、その直後に<L>がその仕事をするのに僕がもっとも適任だって、上司の奴を説得してくれたんだよ……Lは最初から最後まで、誰もが鼻で笑う僕の自説をじっくり聞いてくれてね。そんなこと、本当に初めてのことだった。大抵の人は話の途中で聞くに堪えないって顔をするのに、Lはあくまで真面目に僕の論説の可能性を検証してくれたんだよ。ところでリドナーは、キャトル・ミューティレーションって知ってるかな?』
 リドナーはふう、と溜息を着きながら、首を振った。ここからジェバンニのいつもの長いオカルト話がはじまると思ったからだ。
『キャトル・ミューティレーションって、ようするに動物虐殺ってこと?』
『1970年代にね、家畜の目や性器などが切り取られて死亡しているという報告が相次いだんだよ。事件が起きる前後に未確認飛行物体の目撃報告が多数あることや、死体にレーザーを使ったような鋭利な切断面や、血液がすべて抜きとられているといった異常性があることから――宇宙人の仕業なんじゃないかって騒がれたんだ。そしてブラジルの例のカルト教団のある建物の近くでも、まったく似たようなことが起こっていて、僕もLもまずその点に着目したんだよ。僕は、Lの<盾>として行動し、そのカルト集団――リゲリアン・ムーブメントの信者になり、早速内部調査に取りかかった。そしてわかったのは……血も凍るような真実だった。彼らは生き血をすすることで長生きできると信じてたんだよ。また、人間や動物の体を生贄として捧げることで――UFOが迎えにくるという教義を信奉していたというわけだ。確かに、こんな話を聞いて即座にその教えを受け入れ、信者になろうとする人は少ないだろう。だが、リゲリアン・ムーブメントの信者の数は、当時で世界84カ国に約5万5千人もいた。この謎がどうしてか、リドナーにはわかるかい?』
『わからないわね』
 余計な言葉を差し挟めると、論議が長引いて肝心な話のほうがちっとも進まない――これまでジェバンニとこの手の話をした経験から、リドナーはそのことがよくわかっていた。それで、言葉少なに返事を返したのだった。
『まず、リゲリアン・ムーブメントには、教祖が宇宙人(リゲリアン)から授かったという聖典があった。君は笑うだろうけど、彼らは本気でイエス・キリストが宇宙人だと信じてたんだよ。確かに、旧約聖書のエゼキエル書には、UFOについての記述として読めないこともない箇所があるにしても――僕に言わせればというか、およそまともな脳を持つ人間には、受け入れがたい教えであることには間違いない。なんともおそろしくこじつけられているにせよ、彼らは聖書と、その聖書を正しく解釈したリゲリアンから授かったという<真実の書>のふたつを聖典として信じてたんだ。そして、僕も実際に見たんだよ。妊婦が三十人ほど、UFOに吸いこまれて消える姿をね』
『ねえ、幻覚剤か何かを打たれていたっていう可能性はないの?』
『百%ないとは言い切れないにしても、可能性として低いとみていいだろう……この点については、Lも同意してる。その後僕は、君も知ってのとおり、このカルト教団を撲滅するために――生贄として殺された人間の証拠写真などをアメリカの裁判所に提出した。アメリカには約5千5百人もの信者がいたわけだけど、彼らのうちの何人もの人間がブラジルへ行ったあと行方不明になっていたからね……そしてLが全世界のマスコミに向けて、カルト教団リゲリアン・ムーブメントのおそるべき実態を暴いてみせたというわけさ。もっとも、この事件にLが関与していたと知るマスコミの人間はひとりもいないだろうけどね』
『それで、妹さんのことはどうなったの?教団の過去の記録から、彼女がさらわれたという事実は発見できたの?』
『いや、それは発見できなかったけど……ただひとつ、Lは僕にとても重要な真実を教えてくれた。彼は長年、そのUFOを操っている組織を追っていて、もしかしたらレスリーがどうなったかをいつか知ることができるかもしれないと言ったんだ。その組織――一般にリヴァイアサンと呼ばれているらしい――を壊滅に追いこむことが、自分の使命なのだとも言ってた。だから僕は、その時からFBIの任務を投げだして、Lにどこまでもついていく覚悟を決めたんだよ』
 そのあと、ジェバンニはリドナーと見つめあい、そしてキスを交わした。シャンパンの泡の音が聞こえそうなほどの静寂が、あたりを包みこんでいる。
『君は、ちっとも醜い女なんかじゃないよ。とても聡明で優しくて、僕にとっては可愛い人だ』
『……わたし、いくらあなたでも、あんな修羅場を見せられたあとじゃ、内心どん引きしてると思ってたわ。ねえ、本当にあたしでいいの?いつも仕事をしている時のあたしと、プライヴェートの時では、実際全然違うのよ――冷静な振りをするのも、本心を隠すのも職業上得意だけど、本当のあたしはとても嫉妬深くて、あなたをうんざりさせるかもしれないわ』
『リドナーこそ、こんな気がついたら無意識のうちにもオカルト話ばかりするような奴で本当にいいのかい?きっと友達に紹介したら、ハルは男の趣味が悪くなったって、そう言われることになるんじゃないかな』
 ジェバンニとリドナーは、お互いの瞳の中に互いの真実の姿を見出すと――もう一度キスしあった。微かにシャンパンの味がするのは、自分のせいなのか、相手のせいなのかわからないくらい、深く。そして、それから……。
 ジェバンニの白昼夢は、残念ながらそこで覚めた。赤毛のウェイトレスの女性が、彼の頼んだコーヒーを持ってきたからだった。
 イギリスでは、コーヒーよりも紅茶が美味しいとされているが、彼はついいつもの癖でコーヒーを頼んでしまっていた。味のほうはイマイチではあったが、値段も安いことだし、文句は言えない。
(そろそろ十一時か。待ち合わせは十一時半だけど、まあいいや。僕はもうすでに、人生で一番手に入れたかったもののひとつを、この手の中に抱きしめたんだから……)
 そして窓際の席から、コート姿の道ゆくロンドンっ子を眺めつつ、ジェバンニは最愛の恋人がやってくるのを待っていた。クリスマスの終わった十二月二十七日――メロとニア、そして今では彼らの協力者となった超能力を持つ子供たちは、エリス博士のいる研究所で健康状態などの基礎データを取るために、ロンドンへ移動してきていた。それが終わると今度は、全員ウィンチェスターにあるLの住む城館に移ってきたわけだが、ここでリドナーとジェバンニはニアから休暇をとるよう言い渡される。Lと合流できた以上、仕事の量も減るし、何より今は年末年始だというのがその理由だった。
『最初は交代でと考えていましたが――あなたたちの今の状況を考えると、ふたり一緒に休暇を取らせてあげたほうが、より気の利いた上司ということになるんでしょうね』
 自分よりも一回りも年下の上司にそう言われると、流石にジェバンニも照れるものを隠せなかった。もっともニアは、いつもどおりの無表情で、紙ヒコーキを飛ばしているだけだったけれど……。
 なんにしても、リドナーもジェバンニも、この一か月もの冬期休暇を無駄にするつもりはなかった。その時間を一秒も無駄にすることなく、愛を育もうといったようなことではなく――いや、それもあるにはあるが――せっかくイギリスにいることだし、レスリーの事件をもう一度最初から洗い直してみようということになったのだ。
 まず、新婚旅行中だったレスリーと彼女の夫のマイケルが行方不明となり、またマイケルのみが後日遺体として発見された古城を訪ねる予定だった。今日はこれから、リドナーとふたりでその計画について細かなことをジェバンニは打ち合わせる予定でいたのだ。
 ところが、人もまばらな喫茶店に、常連らしい女性が入ってきた瞬間に――そのジェバンニの予定は大幅に狂うことになる。何故といって、カウンターに腰かけて紅茶を頼んだその若い女性が、彼がずっと探し続けている、妹のレスリー・ジェバンニに瓜二つだったからだ。

 カランカラン、と客の来店を告げるベルが鳴った時、ジェバンニはなんとはなし、そちらへ視線を向けた。そして、手に持っていたコーヒーカップから、黒い液体をこぼしてしまう。
(レスリー!?)
 ガタリ、と彼が立ち上がった瞬間、彼女のほうでもジェバンニのことを見た。けれど、彼のことを<兄>として認識することはまったくなく、首のマフラーをほどいて、カウンターのスツールのひとつに腰かけると、他の常連たちに仕事のことなどを訊ねている。
「……レスリー。どうして………」
(こんなところに)、というジェバンニの心の呟きは声にならなかった。ふらりと、自分の妹のいるほうへ吸い寄せられるように近づき、そして彼女のことを後ろから抱きしめる。
「会いたかったよ、レスリー……」
 この時、またカランカランとベルが鳴って、今度はリドナーが現れた。彼女にしてみれば、つい最近恋人になったばかりの、心から信頼できると思った男が――自分よりも明らかに若いブルネットの美人に抱きついているのを見て、心中穏やかではとてもいられない。
(一体どういうことなのよ!?)
 そう怒鳴りつけてやりたい衝動を、すんでのところでリドナーはぐっとこらえた。何故といって、ジェバンニがスツールに座る女性を抱きしめながら、涙を流していたからだ。
「リドナー……旅行はとりやめだ。何故って、この子が僕の妹だからだよ。彼女を探すための旅をしようと思ったその矢先に、こんなことが起きるなんて……リドナー、これはまさに奇跡だよ。十億分の一くらいの確率の、信じられないような奇跡だ!!」
 この時、リドナー自身はジェバンニよりも冷静に、今のこの状況を飲みこんでいた。まず第一に、当の女性が困惑しきっている表情からして、他人の空似である可能性が一番高いように思われた。それでリドナーは「すみません、お名前をお聞かせ願いますか?」と、ジェバンニが自分の妹であると主張する女性に対して聞いたのだった。
「レスリー・マクティアナンと言います」
「……………!!」
 姓はともかくとしても、名前は一緒……ここまでくると、これがただの偶然だとは、リドナーにもとても思えなかった。
「だって、リドナー」と、店のマスターをはじめ、他の客に変人のような目で見られることも構わず、ジェバンニは震える指でレスリーの首筋を指差している。「僕の妹には、首の、ちょうどここのところに――僕と対になるような感じで、ほくろがあるんだよ。いいかい、見てくれ」
 ジェバンニは突然その場で藍色のセーターを脱ぐと、レスリーの首筋、脊椎よりやや右よりにあるほくろと逆側、ちょうど左よりにあるほくろを、一生懸命首をよじりながら指さした。
「鏡に映さないと、僕の目には見ることが出来ないけど――僕は小さい時、ビニールプールで妹と遊んでいる時に、このほくろを見てね、自分たちは間違いなく血の繋がった唯一の兄妹なんだって、そう思ったんだよ」
「わたしには兄はいませんが、弟ならいます」と、レスリーは戸惑いながらも、そう言った。彼女自身、どう考えても目の前で涙ぐむ男が兄などではありえないと思うのに――奇妙な既視感に襲われているせいだった。「弟は今エディンバラ大学に通ってるんですが、わたしの両親はスコットランドでウィスキーの蒸留所を経営していますし……ですから、あなたがわたしの兄であるはずがないんです」
「そんな、馬鹿な……」
 ランニングシャツを一枚着たままの格好で、その場にへなへなと屑折れるジェバンニを見て、レスリーは何故だかとても気の毒に感じた。最初は、何かの悪徳商法的なヤラセではないかと疑った彼女も、今では生き別れた妹を探す、目の前のeggy guy(イケメン男)に、何か無償で優しくしてあげたいようにさえ思ったのだ。
「その、失礼かもしれませんが、血液型は?」
「B型です」
 レスリーがそう答えるなり、またも力を得たというように、ジェバンニは即座に立ち上がっている。
「僕の妹もB型なんだ!!やっぱり間違いないよ、リドナー。この子はレスリーなんだ。きっと、例のUFOにさらわれてから、記憶を操作されるか何かしたんだ……ああ、でもそうなると赤ん坊はどうしたんだろう?レスリーとマイケルは出来ちゃった婚だったから、新婚旅行してる時にはもう三か月目だったんだ。それでお腹が目立たないうちに急いで式を挙げることになって……」
「すみません、この人ちょっと取り乱してるんですよ」
 リドナーは引きつり笑いを浮かべると、床の上のセーターを取りあげて、「早くこれを着て!」と、ジェバンニに小声で言った。
「わたしたちは、決してあやしい者ではないんです。ふたりとも、警察関係の職員ですし……」リドナーは、いつも携帯しているICPOの身分証をレスリーに見せながら言った。「その、もし差しつかえなければ、ご自宅の住所や電話番号などをお聞かせ願えないでしょうか?この人、きっとあなたが自分の妹じゃないってわかるまで、こんなふうに頭おかしいままでしょうから……出来れば、DNA鑑定をさせていただきたいと思うんです。この場で、毛球つきの髪の毛を一本いただくだけで結構なんですけど……」
「そんなことくらいでいいなら」と、レスリーは快く応じてくれた。そして気を利かせた喫茶店のマスターが、チャック付きの小さなビニール袋をリドナーに渡してくれる。
「ありがとう。この結果については、またあらためてご連絡します」
 リドナーは、レスリーから名刺を一枚受けとると、軽く会釈して、ほとんどジェバンニを引きずるような形で喫茶店から出た。
「レスリー……」
(一体どこまでシスコンなのよ!?)と、そう言いたくないわけではないけれど、やはり事情が事情である。リドナーは彼に革のコートを着せ、さらに首にマフラーを巻いてあげながら、まだ涙目のままのジェバンニに、優しくこう言った。
「とりあえず、レスリーさんのこの毛髪は、すぐにワイミーズ製薬のラボで、エリスさんに鑑定してもらいましょう。これはわたしの推測だけど、おそらく彼女はかなりの高い確率で、あなたの妹さんなんだと思うわ……でも、それなら何故彼女の記憶がないのか、また別の家族のことを自分の家族と思いこまされていることに何かトリックがあるのか、その点をなんとか究明しないと」
「ああ、そうだな」泣いたことで、鼻水の出てきたジェバンニは、ティッシュで鼻をかみながら言った。「それに、このことをLに報告する必要もあると思うんだ。こう言ってはなんだけど、彼は僕以上の変態オカルトマニアだからね……きっと何かいい助言を与えてくれると思う」
「そうと決まったら、早速急ぎましょう」
 リドナーは片手を上げてタクシーを拾うと、ジェバンニとふたりで後部席に乗りこみ、ハーレーストリートのワイミーズ・ホスピタルまで行ってくれるよう頼んだ。ロンドンのブラックキャブと呼ばれるタクシーは、プライバシーを保護するために、運転席側と後部席とはガラス窓で仕切られている……つまり、UFOだの宇宙人だのという話をもししたとしても、運転手が眉をひそめてバックミラーを見たりする心配はまるでないということだった。
「まずは、レスリー・マクティアナンの経歴を調べることからはじめましょう。学校の卒業アルバムに彼女の写真が載っているかどうかとか、細かいところまで調べてみるわ……ちょうど、CIAのロンドン支局に、昔の友人がひとりいるから、彼女に頼めばすぐにわかると思うのよ」
「ありがとう、リドナー。なんだか、君に出会ってから僕の人生は、すべて変わってしまったみたいだ。もちろん、いい方向にっていう意味だけど……でも、申し訳ないね。本当はふたりで旅行がてら、アイルランドの古城を見てまわるっていう予定だったのに」
「何言ってるのよ」と、リドナーはジェバンニの太腿の上に手を置きながら言った。「もしわたしにUFOにさらわれた弟がいて、あなたがそんなことはどうでもいいから、ふたりで楽しく旅行しようなんて言ったら――即刻別れてるわよ。最初はあなたのオカルト好きについてはわたし、欠点だとしか思ってなかったけど……今はもう、そういうところも含めて、あなたを愛してるんだわ」
「本当に?」信じられない、というようにジェバンニは隣のリドナーを振り返る。今までつきあった女性の中で、そんな言葉を言ってくれたのは、彼女が初めてだった。
「ええ、神にかけて本当よ」
 ブラックキャブの運転手は、真っ昼間から後部席のふたりがキスしあっていても、首を振ったりはしなかった。夜の客には、もっとすごいことをはじめる乗客もいるので――それに比べたら、全然大したことはないとしか思っていなかったのである。



スポンサーサイト
【2008/09/20 02:38 】
探偵L・アイスランド編 | コメント(0) | トラックバック(0)
<<探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(3) | ホーム | 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(1)>>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://paralleldeathnote.blog119.fc2.com/tb.php/111-65a029ae
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。