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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(1)
 探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(1)

          序章

 今から約四年前――チャールズ・ディキンスン少将(当時准将)は、JSOTF(統合特殊作戦タスク・フォース)の司令官だった。彼はアキレ・ラウロ号の人質救出、パナマ進攻、湾岸戦争などで特殊部隊の指揮をしたことのある、経験豊かな司令官で、当然国防省の制服組にも親しい人間がたくさんいた。たとえば、海軍の変革を成し遂げ、のちに四軍(陸・海・空軍・海兵隊)のトップである統合参謀本部議長となったジョージ・マクスウェルなどは彼の親友であったし、他にも軍内部にはディキンスンと極秘の情報――いわゆる政府内の「ここだけの話」――をやりとりする幕僚は多数いたといってよい。
 そんな中で、その年、ディキンスンが軍人生活の中でもっとも世話になったといえる元国防長官のサミュエル・J・スコットが、彼に対してこんな打ち明け話をした……いや、政府内と軍内部の制服組の足並みが揃わぬことへの愚痴であるとか、そうしたことではない。スコットは国防長官を辞任してからは、残りの人生を悠々自適に過ごすつもりであったのだが、米政府機関内でも秘中の秘とされる、ある極秘機関から命を狙われているというのだ。
「わたしがこれから話すことは、老いぼれの戯言と思って聞いてくれたまえ……だが、もしわたしが近いうちに死んだとしたら、わたしの言った言葉を君に忘れず覚えていてほしいのだ」
 ロードアイランドにある彼のペントハウスに招かれ、ふたりきりになった時にスコットはディキンスンにそう言った。そのあとスコットが打ち明けたことは、正直他の人間がもし彼に同じことを言ったとしたら、「職を辞して気が緩み、頭が呆けてしまったのではないか?」と疑いたくなるような事柄であった。
「1947年にあったロズウェル事件……わたしはその揉み消しに関与した人間のひとりなんだが、最近、その事件に関与した者が次々と不審な死を遂げている。まず、1994~5年にかけて調査した報告書――いわゆる『ロズウェル・リポート』だが、これは空軍にGAOから要請があって作成されたものだ。そしてそのリポートを作成するよう、GAOに働きかけたのが……」
「当時、下院議員だったあなただということですね?」
「そうだ」と、スコットは神妙に頷き、エアコンのよく効いた部屋であるにも関わらず、額の汗を拭っている。そして、まるで盗聴器がそこにあることを怖れてでもいるように、暖炉の上――マントルピースのあたりを爪先立って覗きこむ仕種をしたり、そこに置かれた家族写真の場所を若干移動させたりしている。
「将軍、一体何を怖れておいでなのですか?」
 チンツ張りのソファに深々と腰掛けたまま、ディキンスンはいつものとおり、冷静そのものの顔でスコットにそう問いかけた。ディキンスンが特殊部隊の大佐だった時、彼の位は将軍であった。ベトナム戦争で数々の勲功を立てたことで有名なスコットは、共和党陣営から次の大統領候補にと推されていたほどの男だというのに――今の彼の狼狽ぶりときたら、まったくいつもの勇壮活発な彼に似つかわしくない態度だったといえる。
 サミュエル・J・スコットは、陸軍大将退役後は、下院議員、そしてのちに上院議員となり、今では次の大統領候補として名前が挙がっているほどの人物だったが、先日、彼は選挙に出馬しない意向を正式に表明していた。理由は、家族との暖かで慎ましい関係をこれからも平穏に維持したいというものだったが――もしや、他に何か隠された動機があったのだろうか?
 スコットは、現在73歳だったが、見た目はとても若く見えるし(お世辞でもなんでもなく、彼の肉体・精神年齢ともに五十代後半といったようにディキンスンの目には映っていた)、今も最低週に二回はジムに通って鍛えているという彼は、老いてますます意気軒昂という以上の若さで満ち溢れているように感じられた。ただし、髪の毛のほうはすでに白く、その後退が露わなことだけが、彼も年相応に老いているらしいと伝えるのみであった。
「ディキンスン君、葉巻なんてどうかね?」
 スコットは、マントルピースの上からシガーケースを取りだすと、それをディキンスンに勧めた。ディキンスンもスコットも大の葉巻愛好家だったが、ディキンスンはハバナ産のプレミアムシガーを一本取りかけて、やめた――そして、ヒュミドールと呼ばれる木製の箱をゆっくりと閉める。
「将軍、わたしをここへ呼んだのは、何か理由があってのことなんでしょう?それとも、ただのゴルフのお誘いなのですか?」
 スコットが今度は、部屋の隅に置いてあるゴルフバックからクラブを取りだしてやにわに磨きはじめたのを見て、ディキンスンは溜息を着く。これが本当にベトナム戦争中、二年に渡って捕虜となり、厳しい拷問に耐えぬいた、ランボーさながらの英雄の姿なのだとは、ディキンスンには信じがたくなるほどだ。
「わたしは英雄なんかじゃない……英雄などではないのだよ、ディキンスン君」ドライバーのヘッドをしきりと磨きながら、スコットは言った。「ベトナム戦争で捕虜となった時、わたしは自分の力だけで脱出したわけじゃないんだ。いや、むしろ殺されると思って無我夢中だったといったほうが正しいだろう。誰に殺されるかって?ベトコンの連中にか?いいや、違う。気の狂ったような殺戮マシンにだよ。人間によく似た、美しくもおそろしい殺戮ロボットに、わたしは危うく殺されかけるところだったのだ」
「なんですって?」あまりの話の飛躍に、ディキンスンはついていけなくなり、思わず眉をひそめた。反射的にソファの後ろを振り返り、スコット夫人の姿を探してしまったほどだ――最近、夫君の健康状態におかしいところはないかと、そう聞きたくなったのである。
だが夫人は今、娘と一緒にプールサイドにいるということをディキンスンは思い出して、視線をゴルフ狂として知られるスコット議員に戻した。
「ははは。君はてっきり、わたしの頭がおかしくなったのだろうと思っていることだろうね。だが、これは真実だ――紛れもない真実なのだよ。いいかね?よく考えてもみたまえ。わたしは実際には陸軍でも落ちこぼれのみそっかすだったのだよ。その上出身も貧しくて、どう見たって軍で出世など望めない立場にいたにも関わらず……ベトナム戦争終結後はトントン拍子でどんどん出世していった。そして実際とは違う逸話によってその後英雄扱いされたというわけなのさ」
「どういうことです?」
 特殊部隊の司令官であると同時に、CIAとも太いパイプで繋がっているディキンスンにとっては、その手の経歴の粉飾といったことは数えきれないほど見てきたといっていいが――スコットの話は流石に、彼にとっても衝撃であった。
「つまり、わたしが殺戮マシンを見た数少ない目撃者であったために、アメリカ社会を影で動かす権力者たちは、わたしを出世させざるをえなかったというわけだ。もちろん、わたしを暗殺して口封じをするということも出来たに違いないが、どちらかと言えば生かしておいたほうが利用価値があると<上>は判断したんだな。実際、わたしも彼らの仲間入りを果たせて、富や権力といった、それまで考えてもみなかった地位を手に入れることが出来たのは確かだ……だが、不正というものはやはりいつかは正されるものらしい。わたしにもそのツケを支払わねばならぬ順番がまわってきたようだ」
「……何故、そんな話をわたしに?」
 スコットは、芝を模したマットを広げると、パットの練習をはじめている。確かに彼が下町の出身者で、叩き上げの軍人であることは、誰もが知っていることではある。だが、そんなスコットのことをアメリカン・ドリームの体現者として見、自分の夢を託す若者が多いのも事実なのだ。彼の経歴に多少不正なところがあったとて、その後軍人として、また政治家としてスコットが善人たろうと努力したことを思えば――誰にも彼を裁く権利などないのではないかと、ディキンスンにはそう思えてならない。
「いいかね、ディキンスン君。年寄りの戯言と思ってここからの話は聞いてほしいのだが……わたしはある時、本当にUFOにさらわれたことがあるのだよ。まわりをこう、パアッと蒼白い不思議な光に包まれて、その時はえもいわれぬ心地だった。そして美しい天使が――羽は生えてなかったが、彼女は天使としか呼びようがないほど美しかった――わたしに向かってこう言ったのだ。『汝は選ばれし者である』とね。以来、わたしは彼女に言われるがままの行動をとった……国防長官という立場を利用して、あれをせよと言われればあれをし、これをせよと言われれば、神の仰せのままにとばかりに、なんでも言うなりになった。だが、その結果として最後に大きな代償を支払わねばならんとは……いや、結局そうしなければ自分の命がなかったことを思えば、これまで順風満帆な人生を送れたことを、それこそ<神>に感謝せねばならんのかもしれないが」
 緑色のマットの上をゴルフボールが転がり、スコットのパッティングが決まる。カラン、とどこか乾いた音をさせてホールカップにボールが落ちる音が響いた。
「将軍、要点をまとめましょう」と、ディキンスンは仕事をしている時と同じく、きびきびとした口調で言った。「ようするにあなたは、こう言いたいのですね?その昔、あなたはベトナム戦争でおそろしい殺戮マシンを見た……そしてそれが国家の秘密事業で、その目撃者だったあなたは、戦争後、順調なステップを踏んで最後には国防長官にまでなることが出来た。しかしながら、その秘密事業とも繋がる極秘の組織に今は命を狙われている……そういうことで、よろしいですか?」
「そのとおりだよ、ディキンスン君」UFOだの天使だのという話を、鼻で馬鹿にすることもなく、あくまでも軍人としての真面目な顔つきで聞くディキンスンに、スコットはますます信頼の情がわいてきた。「わたしは天使に命じられたとおりに、『ロズウェル・リポート』を作成するようGAOに働きかけた。そしてGAOからの要請を受けた空軍は、それが<モーグル計画>の気球やその残骸を見誤ったものだろうと結論づけたのだ。君も、モーグル計画が何かということは知っているね」
 知っている、とディキンスンは首肯した。<モーグル計画>とは――アメリカ陸軍飛行隊による、高高度気球を使った極秘計画であり、その第一の目的はソビエトの核爆弾実験と弾道ミサイルからの上昇する熱い空気の乱気流によって生成される音波の長距離探知だった(ちなみに、この計画は1947年から1948年後期まで行われている)。つまり、空軍は1947年6月4日にニューメキシコ州アラモゴードから放球された、モーグルフライト♯4が、ニューメキシコ州ロズウェルの近くに墜落したものだったと『ロズウェル・リポート』で主張したのだ。何故1947年のこの事件について、四十七年も経過して初めて、千ページ近くもの公式の調査書が発表されることになったのかはいかにも謎であるが、このことについて空軍は、政府は当時モーグルについての情報を機密扱いのままにするよう望んでいたのだと言っている。
「ですが、今のわたしに一番わからないのは、UFOが実在するか否かといったようなことではなく――次のようなことです。あなたはその<極秘機関>のためにこれまで『ロズウェル・リポート』をはじめ、様々な協力を惜しまれなかったのでしょう?そしてアメリカ政府の影にいる権力者たちもそのことを知っている……それなのに何故今になってあなたの命を狙おうなどとするのですか?」
「万が一の保険のため、じゃないかね」スコットはディキンスンの斜め向かいの肘掛に腰掛けると、葉巻をケースから一本取りだし、端のキャップをカッターで切り落とした。「何しろ、ロズウェルの真実を知る人間が、今この時になって次々と不審な死を遂げているのだ……もちろん、中には病死など、少しもその死に疑わしいところのない人間もいるがね。だが、君も知っているだろう?我々には病死に見せかけてある特定の者をこの世から抹殺するなど、その気になればまったく造作もないことだということを。わたしもこれまで、そうした裏の世界の汚い側面を何度も見てきた……だからこそ、わかるのだよ。今度は自分にその番が回ってきたのだとね」
「して、将軍」と、ディキンスンもまた上物の葉巻を一本手にとり、専用のマッチで火を点けながら言った。スコットは、ディキンスンが特殊部隊の司令官であると同時にCIAのエージェントでもあることを知る、数少ない人間のうちのひとりだった。「そこまでわたしに話をされたからには、何かわたしにして欲しいことがあるのでしょう?もし、身辺の警護であるとか、そうしたことならわたしもいささかながら協力できるかと思いますが……」
「ありがとう、ディキンスン君」と、生涯の友でも見るような目で、スコットはディキンスンのことを見つめている。そして葉巻を一服したあと、それをクリスタルの灰皿の上に置きながら言った。「実は、わたしが今話したようなことは――誰にも何も語ることなく、墓場まで持っていこうと心に決めていたことなんだ。だが先日、ある人物から突然<リヴァイアサン>のことについて、話がしたいと連絡が入ってね」
「<リヴァイアサン>というのが、将軍の命を狙っている組織の名前なのですか?」一応はCIAの人間として、ディキンスンは軍内部のことについてだけでなく、政府の裏情報についても立場上様々なことを知っていたのだが――リヴァイアサンなどという組織の名前を耳にするのは、これが初めてだった。それだけ機密レベルの高い情報ということなのだろう。
「そうだ。申し訳ないが、この名前については、もう二度と口に出さないでくれ……」そう言ってスコットはまた、盗聴器の存在を気にするような、落ち着かなげな仕種をしたあとで、続けた。「その極秘機関の名前を知る者は、アメリカ政府の中でもほんの一握りだ。これまでの歴代アメリカ大統領や副大統領の中にも、実際にはその名前を知らない人間のほうが多いくらいだから、無理もないが……しかしながら、その超トップレベルの機密情報を、ある探偵が嗅ぎつけて、わたしにこう言ってきたのだよ。『近頃、<ロズウェル・リポート>に関わった人間が次々と殺されているようだが、次はあなたの番なのではありませんか?』とね」
「探偵ですって?」と、葉巻の紫煙をくゆらせながら、ディキンスンは笑いそうになった。「それは、一体どこのなんていう名前の蝿なんですか?」
「<L>だよ、ディキンスン君」スコットは、あくまで神妙な顔つきのままで言った。「彼が実質的に、ICPOの影のトップあるということは、当然君も知っているね?これまで世界中で三千件以上もの事件を解決に導き、アメリカのCIAもFBIも<L>には頭が上がらないと言われているその彼が――例の極秘機関についての情報まで、すでに入手していたというわけだ」
「なるほど……世界一の探偵と言われる<L>ですか」
 リヴァイアサンという組織については、ディキンスンも初耳だったが、<L>については知っていた。CIAの長官からも、彼についての愚痴をいくつか聞かされた覚えがある。
「そして、<L>が言うにはだ……ディキンスン君、君がもしUFOだの天使だのという馬鹿げた話を聞いても、思慮分別を保っていたとしたら、わたしの身辺警護を君に頼むべきだとLは言ったんだ。Lの話によれば、ディキンスン准将、君がこの話を引き受ける確率は90%とのことだったが……どう思うかね?」
「……………」
 再び葉巻を手にとり、マッチで再着火させているスコットのことを、ディキンスンは複雑な眼差しで眺めた。おそらくLは、自分の経歴のことも、CIAとの繋がりのことも、何もかも調べ尽くした上で――彼が90%の確率で今回のスコットの依頼を引き受けるものと計算したのだ。
(すべて、お見通しの上ということか……)
 先代のCIAの長官が、何故煮え湯を飲まされたような形相で<L>のことを語るのかを、ディキンスンはこの時になって初めて理解した。何しろ、CIAと言えばアメリカ一――いや、世界随一の情報機関である。その組織が『探偵』などという一個人に弱味を握られた上、相手の正体がいまもって皆目わからないとは……とんでもない失態であるとしか言いようがない。いや、<L>というのは数人、あるいは数十人規模の捜査集団との見方が一般的であるとはいえ、いつもは相手の情報を握って追い詰める側の人間がその逆の立場に立たされなければならないというのは――まったくもって面白くない話だとディキンスンは思った。
「では、作戦の指揮等について、わたしも噂の<L>と連絡を取り合わなければならないと思いますが……具体的に、どうすればいいんでしょうな?」
 ディキンスンが高級葉巻を灰皿の上に置くと、スコットは部屋の中央にあるカウンターの下から、一台のノートパソコンを取りだしてきた。モニターには、中央に<L>とイタリックの装飾文字が浮かんでいる。
「将軍も随分人が悪いですね。もしかして、今までの会話はすべて、最初からLに筒抜けだったということですか?」
「すまない。だが、これもわたし自身の命が懸かっていることなんだ……そう思ってどうか、許してくれたまえ」
 ――その後、ディキンスンは<L>とスコットの身辺警護をするにあたって、色々なことを話し合った。まず、ベトナム戦争でスコット自身が見たという、殺戮マシンがスコットを殺しにくる可能性を考慮した場合、最低でも五百人以上の特殊部隊の隊員が欲しいと、Lは無茶なことを言った。
「いくらわたしでも、その数の特殊部隊の人間を動かすのはまず無理だ」と、ディキンスンは呆れ返った。「スコット議員ひとりを守るために、わたしに動かせる手勢はせいぜい百名といったところだ。こう言ってはなんだが、<L>。あなたは軍のやり方を何もご存じないのではありませんか?」
『……わかりました』なんら人間味の感じられないコンピューターボイスであるにも関わらず、彼がやや不機嫌になったようにディキンスンは感じていた。
『それでは仕方がありません。ですが、出来得る限り優秀な人材を、ひとりでも多く集めてください。そして隊員のひとりひとりに相手が美しい女のような姿をしていても、人間ではないということをよくよく言い聞かせて欲しいんです。でなければ、即座に命を落とすということになると……』
「わかった」と、ディキンスンは請けあった。そして同時に、特殊部隊というものがどんなものか、<L>はまったくわかっていないのだと、彼は内心でせせら笑った。だが――その後、実際にスコットがベトナム戦争で見たという例の『殺戮マシン』がロードアイランドのペントハウスに姿を見せるなり、百戦錬磨の精鋭たちは実際、<彼女>――いや、<彼>と言うべきか――を前にしてたじろいだのだ。
 言うまでもなく、アメリカの特殊部隊といえば、軍部の精鋭中の精鋭である。「招ばれる者は少なく、選ばれる者はさらに少ない」と言われる特殊部隊には、厳しい資格過程があり、それに合格した本物のエリート中のエリートだけが、特殊部隊の栄誉ある徽章を身に着けることが許されるのだ。
 だが、その彼らをしても、殺戮マシンを止めることができなかった……結局、124名もの犠牲者を出した揚げ句、ディキンスンの隊は彼ひとりを残して全滅した。
「おまえのことは生かしておくよ」と、えも言われぬ美声で、そのアンドロイドは言った。銃撃を受けて片腕が取れた<彼>は、そこから特殊な金属で出来た体をのぞかせていたのである。そうでなければ、ディキンスンは<彼>が人造人間だなどとは到底信じられなかっただろう。「そして、<L>にこう伝えるがいい。我々のマスターである『K』が、いつか会えることを楽しみにしていると言っていた、とね」
「くそっ!この化け物め!!」
 ディキンスンは、最後に残った武器――9ミリの拳銃を数発<彼>に向けて撃ちこんだが、相手はただ哄笑するのみだった。
「馬鹿だねえ、本当に人間って奴は……今回は、あんたらがスコットの護衛についてるんで、わたしのこのボディはいつも以上の特殊装備が施されてるのさ。最悪の場合、わたしのこの体は超小型の核爆弾にもなるんだ……そうと知ってもまだ撃つつもりなのかい?」
 カチ、カチッ、と拳銃が虚しい音をさせても、ディキンスンは引き金を引き続けた。そして死んだ部下たちの装備から、なおも銃弾を取ろうとする彼を、<L>がルシフェルと呼んだアンドロイドが、蹴り飛ばしてくる。壁に叩きつけられ、気を失った彼が、目を覚まして最初に網膜に焼きつけたもの――それは、首をもぎとられたサミュエル・J・スコットの、変わり果てた亡骸だった。

 ディキンスンはその時のことを思い出すと、今も現在のCIA長官であるスタンスフィールドと同じく――<L>に対して殺意に近い憎しみを覚える。いや、スタンスフィールドは<L>のことを殺してやりたいとまではおそらく本気では思っていないだろう……彼の言う「もし目の前にいたらこの手で殺してやるところだ」というのは、半分は冗談のようなものだ。いくら腹の煮えくり返るような思いを<L>に何度もさせられていたにしても……。
 そして<L>から自分の部下の面倒を見てほしいと頼まれた時、ディキンスンはこの四年前の事件のことが忘れられず、その部下――名前をミハエル・ケールという――を、クウェートからイラク国境に続く砂漠でミサイル攻撃した。正確には威嚇射撃といったところではあったが、その後<L>本人からそのことについて厳しい追及がなかったところを見ると、そのことの真意を彼が汲みとったものとディキンスンは思っていた。
 正直いって今も、ディキンスンは<L>とは二度と一緒に仕事なぞしたくないと思っているし、アブグレイブの一件で彼が頼みごとをしてきた時にも、内心では(よくもいまさらしゃあしゃあとそんなことが言えたものだ)と感じていた。だが、己の信じる正義のためには手段を選ばないと評判の探偵<L>は――その後またもディキンスンに『実はあなたに頼みたいことがあるんです』などと、例のコンピューターボイスで連絡してきたというわけだ。



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【2008/09/19 07:14 】
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