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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(22)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(22)

 ルシフェル♯3021は、♯5017よりも、もっと手際がよかった。ミドルトンもまたシュナイダーと同じく、暗い部屋でパソコンに向かい、自身の研究に没頭していたのだが――彼は自分が何故殺されなければならないのか、そう訊ねる時間さえ与えられずに死んだ。
ルシフェルは、足音ひとつさせない暗殺者の足どりでミドルトンに近づくと――部屋に入室するためのパスコードは、<彼>は当然事前に知っていたし、もし知らなくても警報システムを切った今、どうにでも出来たことだろう――オスカー・ミドルトンのことを三十秒とかからず扼殺した。いや、彼の首がどうにか皮一枚で繋がっていることを考えると、それは扼殺というよりも虐殺と呼んだほうが近かったかもしれないが。
 さらにルシフェルは足の踵に自分の全体重をかけてミドルトンの頭を踏み潰すと、脳の内容物の付着した足を、彼の白衣で拭った。そしてフロリアン・シュナイダーを殺した仲間の♯5017とまったく同じ行動をとる――すなわち、オスカー・ミドルトンの所有する超能力者の資料すべてをスキャンし、タイタロンにいるガブリエル♯2026にそのデータをすべて送信したのだ。
「さてと、これでいっちょあがり!」
 ルシフェルは高性能爆弾をセットすると、ミドルトンの死体のある部屋を出た。とりあえず、これでマスターから命じられた<彼>の任務は終了だった。その時、ある不測の事態さえ起こらなければ……。
 ルシフェルが廊下へ出ると、そこにはパジャマ姿の、手にうさぎのぬいぐるみを持った少女の姿があった。彼女はすぐにパッと身を翻し、ルシフェルから逃げるように走り去っていく。
(――マズい!)
 ルシフェルは今見た少女の顔をタイタロンにいるガブリエル♯2026にデータとして送信し、さらにスコープから小型のマイクを伸ばすと、<彼女>と連絡を取りあった。
「こちら、ルシフェル♯3021。ガブリエル♯2026、応答せよ」
『こちら、ガブリエル♯2026。ルシフェル♯3021、どうかしましたか?』
「今送信したデータ……一番新しい01:13のものだけど、その少女に顔を見られた。対処法は?」
 パジャマ姿の少女の後ろ姿を追いかけながら、ルシフェルは早口にそう聞く。
『直接殺害するのは、オスカー・ミドルトンとフロリアン・シュナイダーの2名のみ……他の人間は全員、建物全体に仕掛けた爆薬が元で爆死する予定でした。しかしながら、顔を見られるか何かした場合には――その者を殺してもいい許可がすでに出ています。記憶処理班をわざわざ向かわせるまでもないでしょう』
「オッケー、その言葉を聞きたかった!」
 ルシフェル♯3021は、廊下の窓から差しこむ月光を浴びながら、ブロンドの長い髪の少女――カミーユ・ヴェルディーユの後を追った。<彼>の頭の中にはすでに、建物の全見取り図がデータとしてインプットされている……そこで<彼>はにやりとほくそ笑んだ。
「そっちは行き止まりよ、可愛い子ウサギちゃん!」
 実際、<彼>の言ったとおりだった。カミーユは時々夜中に目が覚めては、研究所の建物の中を歩きまわるのが好きで、今夜も美しい月のシルエットを見るために、散歩しているところだったのだが――ルシフェルとは違い、彼女は広いセンター内のどの廊下がどこの棟に通じているかなど、さっぱりわかっていなかった。ただいつもふらふらとさまよい歩き、なんとなく漠然と方角を見て、元の自分の部屋まで戻ってきていたに過ぎない。
「あなた、一体誰なの?」
 カミーユは綺麗な声でそう言った。普段彼女は言葉数が少なかったが、それでもカミーユが時々話すその声には、透きとおったクリスタルを思わせる響きがある。
「お嬢ちゃん、わたしはね、ルシフェルっていうの」
 スコープに一瞬、01:17と時刻が浮きでるのを見て、爆薬が爆発するまで時間があまりないと<彼>は思う。早くこの娘も始末して、屋上に待機しているタイタロンまで戻らなくては。
「ルシフェルって知ってるわ。堕天使の名前でしょ?神さまに成りかわろうとして罰を受けて、今は地獄の底にいるんだって、ママが言ってたわ」
「物知りな賢いお嬢さんだこと。だけど、神が人間を創造して被造物のすべてを支配させたのは失敗だったと思わない?」
「そんなことないわ。人間は善い生き物だもの」
 そう言いながら、カミーユはいつもとは違い、焦る心を隠しきれなかった。先ほどから彼女は、ルシフェルと名のる人間にいつもの超能力で<死>を暗示させていた。いつもなら、相手はすでに死の行動を取るはずなのに……。
(――何かがおかしい)、カミーユはそう思った。時々何か青いデジタル記号の浮きでている、透明なスコープのせいだろうか?もしかして、それが暗示の邪魔を……?
「あら、サーモグラフィの温度がすごく高いみたいね、お嬢さん?えーと、名前をカミーユちゃんって言うのね。フランス人形みたいに可愛らしい子だこと。ああ、あなたさっき資料をスキャンした時にデータで見たわ……なんでも、人の目を見ただけで相手を殺せるんですって?」
 ルシフェルはまるで狩りを楽しむように、一歩一歩カミーユに近づいていった。そして<彼>の顔は人殺しをする興奮で歪み、少女のほっそりとした喉元へと伸びていく……。
「ママーっ!!お願いママっ!!わたしを助けてっ!!これからはきっといい子になるから……っ!!ママーーッ!!」
 カミーユの体が、一メートルほども宙に上がった時、ルシフェルのスコープはまた人体の温度を感知した。それで<彼>は一旦少女のことを物でも放りだすように壁に叩きつける。
「うちの子に何するのっ!!あなた、一体何者!?」
 もう一体獲物がノコノコ現れたことに、ルシフェルは興奮を隠しきれない。<彼>はぺろりと上唇をなめると、しきりに咳きこんでいる娘のことは放っておいて、先に彼女――ソ二ア・ヴェルディーユを始末することに決める。
「おい、♯3021、何をグズグズしてる!もう時間があまりないんだぞ!」
 T字路になっている廊下の向こう側から、また新しく別の人間が現れたのを見て、ソ二アは驚愕に顔を歪めた。
「同じ顔……!?あなたたち、本当に一体なんなのっ!!」
 ソ二アは護身用に持っていた拳銃を、太腿のホルスターから取りだすと、即座に彼らに向けて発砲した。彼女の頭にあったのは、彼らが超能力研究所のデータを盗みにきたスパイだろうということだけだった。
 まず、ソ二アは後から来た人間に数発、続けざまに発砲した。何故といって、彼女は射撃がそれほど得意というわけではなかったので――行き止まりの壁にいる♯3021と呼ばれた人間に発砲した場合、弾が大事な娘、彼女にとって命よりも大切な存在に当たってしまう可能性があるからだ。
「……死、しなないっ!?どうしてなの、なんなのあなたたちっ!!」
 ルシフェル♯5017は、心臓部分に数発弾を食らうと、衝撃で顔を歪めはしたが、<彼>はそこから人間と同じ赤い血を流しはしなかった。特殊な強化金属で出来たルシフェル・ナンバーのボディは、まったく同じ場所に八発以上弾丸が当たりでもしなければ、壊れることはないのだ。
「ママーッ!!ママ、ママーッ!!」
 カチ、カチと、弾の切れた拳銃の引き金を、それでもなおソ二アは何度も引き続けた。そして、叫ぶ。
「ば、化け物……!!」
 それがカミーユの母、ソ二アが口にした、最後の言葉だった。次の瞬間には彼女は、後ろから肩を掴まれ、ルシフェル♯3021に首を引きちぎられて殺害される。
 ドサリ、と首から下の胴体が、月光を反射するリノリウムの床に倒れ、首から流れた血液で赤く染まった。
「ママっ、ママーーッ!!」
 もはやカミーユは、ただの無力な子供として、頭を抱えてうずくまることしか出来なかった。そして錯乱した頭の中で、(神さま助けてっ!ママとわたしをお願いだから救ってっ!)と、唱え続けることしか出来なかった。
「まったく、おまえの殺し方はいつもながら趣味が悪いな」と、ルシフェル♯5017。
「そんなこと言ったって、結局死ぬんだから同じことじゃん」と、ルシフェル♯3021。
「まあ、なんでもいいが、その子にはまだ手出しするなよ。ガブリエル♯2026と一度連絡を取りあって、指示を仰ぐ」
「あ、このおばさんはともかく、あの子は殺していいってさっき言われたんだけど?だから殺っちゃっていいんじゃないの?」
「いいから、とにかく待て。おまえはいつも血に急ぎすぎる」
 ルシフェル♯3021は、つまらなそうな顔をすると、廊下に転がったうさぎのぬいぐるみを見て、その五体をバラバラにした。そしてその腕や足を、震えて身動きできない少女に投げつけてやる。カミーユがそのたびに痙攣したようにビクッ!とするので、その仕種が楽しいと<彼>は思った。
『こちらガブリエル♯2026。ルシフェル♯5017、どうかしましたか?計画に遅れが出ているようですが……』
「こちらルシフェル♯5017。たった今、♯3021がソニア・ヴェルディーユを殺害。その娘も殺していいと、ガブリエル♯2026、あなたから指示が出ていると聞きましたが……」
『ええ、その通りよ。ヴェルディーユ親子には結局爆死してもらう予定だったわけですから、どんな形であれ先に死んでもらっても構わないでしょう』
「ですが、相手はまだ十四歳の可愛い子供なんですよ?せめて彼女だけでも、記憶を消去するなどして、生き延びさせてあげることはできませんか?」
『……随分人間らしいことを言うのね、ルシフェル♯5017。いいでしょう、あなたのその仏心に免じて、マスターに一度聞いてみます。ちょっとの間お待ちなさい』
「……………」
 ――その後、三分とかからず、ガブリエル♯2026は創造主(マスター)からの伝言をルシフェル♯5017に伝えた。
『やっぱり、その娘は邪魔だから殺してしまっていいそうよ。それも残虐に、いたぶって殺したほうがいいだろうってマスターはおっしゃってたわ。彼女は可愛らしい顔をしているけれど、これまでに何十人もの人間を超能力で殺しているから、それが当然の報いなんですって。それと、爆薬の爆発時間を少し遅らせて、追加で少しやってほしいことがあるっておっしゃってたわ。まず、その区画にセットした爆薬のみを解除して、あなたたちが今いる棟のみ、無傷で残すようにします。その場所にはセンターの機密情報など何もないから、いいところを選んだってマスターはルシフェル♯3021のことをお褒めになっていらしたわ』
「やった!マスターに褒められた!」
 ルシフェル♯5017と同じく、ガブリエルの言葉を聞いていた♯3021は喜びに顔をほころばせている。
「……………」
 最後に、マスターからの実行命令を耳にすると、♯5017は軽く溜息を着いた。そのことに一体なんの意味があるのか、ルシフェル♯5017は理解できなかったが、なんにせよマスター直々の命令である。従うより他に、<彼>に道は――というより選択肢は残されていない。
「♯3021、話は聞いたな?わたしはこの区画にセットされた爆薬を解除してくるから、おまえがマスターの命令を実行しろ。それで文句ないだろう?」
「アイアイサー」
 ルシフェル♯3021は、悪戯っぽく笑うと、♯5017に向かって冗談っぽく敬礼してよこす。彼らの間に基本的に上下関係はないが、それでもルシフェル・ナンバーのアンドロイドはガブリエル・ナンバーのアンドロイドの言うことには必ず聞き従わなければならないという絶対の掟がある。
「きゃあああああっッ!!」
 ルシフェル♯5017は、断末魔の叫びを背中で聞きながら、振り返らず、この棟を跡形もなく爆破するための高性能爆弾を解除しに向かった。そしてそれら二つをそれぞれ五分程度で解除・回収し、<彼>が元の場所へ戻ってきた時――カミーユ・ヴェルディーユという少女は、彼女が持っていた白いウサギと同じ運命を辿っていた。そして元は白かったウサギにカミーユとその母親の血液を染みこませると、行き止まりの壁に、ルシフェル♯3021は次のような血文字を書きこんでいた。

 <You are a “L”oser.>
  (“L”、おまえは負け犬だ)

「どお?なかなかの芸術作品だと思わない?」
 ウサギのぬいぐるみに染みこませた血だけでは、文字の端のほうがぼやけてしまう。それで♯3021はソ二ア・ヴェルディーユの手や足を引きちぎってくると、そこから流れた新鮮な血液で、文字のはっきりしない部分を書き足していた。
「……悪趣味だな。なんにせよ、そんなにぐいぐい血をつけなくても、人間どもはルミノール反応とやらで、おまえの残した血文字をきちんと読めるだろうし、もうそろそろいいんじゃないのか?」
 ルシフェル♯5017は、無残に引き裂かれた親子の死体を跨ぎ、♯3021のことは無視して、屋上へ急ぐことにした。爆薬の爆発する時刻は最初よりも二十分伸びて2:00ちょうどのはずだった。これ以上こんなところにいれば、自分もその爆発に巻きこまれて木っ端微塵の運命を辿ることになってしまう。
「あ、待ちなさいよ。♯5017」
 ルシフェル♯3021は、ポイ、とまるでゴミでも捨てるみたいに、ソ二ア・ヴェルディーユの折られた足を捨てると、♯5017の後を追った。一緒にガラス張りのエレべーターに乗り、最上階――屋上で下りると、そこに静止していたタイタロンに乗りこむ。
 黒い丸型をした機影は、ふわりと空高く浮かび上がると、彼らアンドロイドにとっての生まれ故郷、アイスランドへとガブリエル♯2026の操縦で向かった。そしてその約十分後に、憐れな母娘の遺体と壁の誰かに宛てたメッセージのみを残して、<サンタモニカ超能力研究センター>は、空を焦がす爆煙とともに土台から破壊され尽くしたのだった。



  『探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~』終わり



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【2008/09/19 06:39 】
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