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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(17)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(17)

 全身の打撲の痛みのせいもあり、もう何がどうでもなんでもいいような、メロはそんな気持ちだったわけだが――次に目を覚ました時、最初に視界に映ったのがニアの顔だったことには驚いた。この世で一番見たくない奴の顔を寝起きに見なければならないほど、普段自分は素行が悪いだろうかと、疑問にさえ感じる。
「メロ、大丈夫ですか!?」
(おまえに言われたくねえな)
 そう言おうとして、メロは言葉が喉から出てこない。だが、折られたはずのあばら骨のあたりを庇うように身を起こそうとして、あることに気づく――まるで痛みがないのだ。
「……ニア、俺はおまえまでこの家に招待した覚えはない」
 しかも、今メロがいるのはロスで自分が自宅にしているワタリ所有のコンドミニアムだった。(一体、何がどうなってる……)上体を起こした瞬間に、くらりと眩暈を覚えて、メロは右手で額のあたりを押さえた。
「まだ、もう少し休んでいたほうがいいわ」
 さらに、黒ずくめのメロの寝室には、見知らぬ少女までいる。すらりと背の高い美少女で、ニアと同じプラチナ・ブロンドの髪に赤い瞳をしていた……(この女、色素欠乏症(アルビノ)か)と、一目見てメロはそう思った。アルビノとは、先天的なメラニンの生合成に支障をきたす遺伝子疾患であり、メラニン色素の欠乏により肌が異常なほど白かったり、眼底の血液が透けて見えるために瞳孔や虹彩が赤く見える症状を持つのが特徴である。もちろん、その疾患には個体差があり、髪の色も銀髪の他に金髪、瞳の色は無色・淡青色・淡褐色などの場合もある。これらは生まれつきのものであって、非進行性ではあるが、皮膚で紫外線を遮断できないので、紫外線に対する耐性がアルビノの症状を持つ者は極めて低いのである……ようするに、普通の人間より皮膚ガンになる確率が高いといえば、わかりやすいかもしれない。
「この女、もしかして……」
 と、メロは彼女がフード付きの白い装束を着ているのを見て、あることに思い当たる。そうだ、この白い衣裳には見覚えがある、とメロは思った。例のルーヴル美術館でフェルメールの『レースを編む女』を本物そっくりの絵とかけ替えた人間……あの白い後ろ姿と今目の前にいる少女の姿とが、メロの脳裏では重ね合わさる。
(ということは、この事件は結局、ニアが俺より先に解決したってことか)
 それなのに、あばら骨まで折った上、こんな惨めな姿をニアの奴にさらすことになるとは……メロは、この時なんだか本当に何もかもを放りだしたいような気持ちになっていた。体育館で自分が気を失ったあと、どうやってここまで運ばれたのか、ニアの奴が何故ここにいるのかといったようなことも、もうどうでもいい。アルビノの少女が「もう少し休んだほうがいい」と言ったとおり、このまま死んだように眠りたいとさえメロは思った。
「メロ、あなたが彼女――エヴァのことを見て、何を真っ先に考えたのか、わたしにはわかります」
 ニアは髪の毛を指で巻き取りながら、ベッドの傍らの椅子に座ったままで言った。エヴァ、と呼ばれた少女は、軽く微笑むような表情で、ベッドサイドに腰掛けている。
「今回のわたしとあなたとの勝負は……まあ、引き分けといったところじゃないでしょうか。メロはビバリーヒルズ高校に潜入し、アリス・リード、ルーク・フォスター、ジョシュア・サイズモアといった超能力者たちの存在を明らかにし、さらには彼らの持つ能力を使わせることにも成功しました。そしてわたしは、カイ・ハザードと彼の死ぬ間際にした約束の見返りとして――セス・グランティスという青年から、彼らの仲間の情報となるものを得ました。もっとも、セスはもったいぶっていて、なかなかすべてのことを話してくれないんですけどね……まあそんなわけでわたしたちのこの勝負は<引き分け>っていうことでどうですか?ここからはお互い、協力しましょう」
(そうだな、なんて誰が言うか)
 メロはそう思いながら、ふて寝するようにベッドの中へもぐりこんだ。目の前にいる少女のことといい、確かに聞きたいことは山ほどある……だが、敗北の烙印を押されるように、そうしたことをニアの口から色々聞かされるのは、メロにとって屈辱以外の何ものでもなかった。
「ニア、本当にまだ、彼のことは休ませてあげたほうがいいわ。傷口や痣の痛みはないでしょうけど、オーラの力を使って癒しを行うと、その分体に負担がかかって、睡眠が必要になるの……大体一晩も眠れば、すっかり良くなるとは思うけれど」
「ちょうどいい時にあなたが来てくれて、本当に助かりました。メロ、次に目を覚ましたら、あなたも彼女に一言お礼を言ってください」
「……………」
 当然、メロは何も答えずに、黙ったままでいた。ニアとエヴァが寝室から出ていくと、メロは欠けた記憶のピースを補うように、推理を組み立てはじめる。
(オーラの力で俺の傷を治しただって?もしそれがあの女の特殊能力だっていうんなら、他に瞬間移動能力者がいるってことになる……いや、何しろ<超>能力者だからな。ひとりにひとつの能力のみが現れるとは限らないのかもしれない。なんにせよ、ルークとジョシュアの力についてはよくわかった。あんなものを見せられた以上、何が起きてももう驚くかっての)
 メロがだるい体で何度も寝返りを打ちながらそんなことを考えていると、二度ドアをノックする音が響いて、誰かが入ってくるのがわかった。(まさか、またニアの奴じゃないだろうな)そう警戒するあまり、メロは寝たふりを決めこもうかと思ったが、ギシリ、とびっくりするくらいベッドが片側に傾いだので――そこにいるのが誰なのか、すぐに見当がついた。
「ジョシュア……いや、本当はボーっていうんだっけ」
 メロは体を起こすと、ベッドの革の背もたれに上体を預けるようにして座った。ジョシュア……いや、ボー・グランティスは、突然起き上がったメロに驚いたようだったが、次の瞬間にはしゅんとした表情に戻って、自分の両方の指を交互にいじっている。
「僕……またいけないことしちゃった。学校では<力>を使っちゃいけないって、シュナイダー博士にも言われてるのに。でも、メロを助けるにはああするしかなかった……さっき、ニアから色々なことを聞いたんだ。メロが、僕たちの超能力について調べるために、僕やルーやティグランに近づいたんだって……それ、本当?」
「そうだな、確かに本当だ」と、メロは答えた。「だが、さっきは助けてくれて、本当にありがとな。もしジョシュア……いや、ボーが俺のことを今も友達だと思ってくれるなら、俺にとってもおまえは友達だ。なんだか調子がいいみたいだが、それじゃ駄目か?」
 メロがそう言うなり、ボーの顔がパッと明るく輝いた。彼にとっては、学校へ通って得た唯一の成果と呼べそうなものが……メロの存在だった。あのあと例のブタとイノシシの双子――オズワルド兄弟――は、ボーがひとりきりのところを狙って仕返しをしてきたが、その時にもメロは、彼らふたりの頭をゴミ箱の中に突っこんで、彼のことを守ってくれたのだ。その気持ちのすべてが嘘だとは、ボーにはとても思えなかった。
「良かった。僕にとってメロは、<外>の世界で出来た、初めての友達なんだ。僕、難しいことは何もわからないけど、セスが僕たちはもう仲間のようなものだって言ってたから、きっとそうなんだと思う。じゃあ、これからもよろしくね」
 ボーが丸まっこい手を差しだしてきたので、メロは彼と握手した――<仲間>……メロの頭の中でもようやく、すべてのことが一本の糸として繋がった感じだった。
「なあ、俺は一体どうやってここまで運ばれてきたんだ?あのあと何があった?ルーク……いや、本当はティグランか。あいつは今どうしてる?」
「ティグランは……研究所のほうに帰ったよ」
 ボーはどこか寂しそうな、暗い表情になりながら言った。
「メロと仲間になるのはどうしても嫌だって……それくらいならヴェルディーユ博士の下で働いてたほうがいいって言うんだ。でも、そのうちきっとルーがティグランのことを説得してくれると思う。ルーはね、小さい時に僕やティグランに辛抱強く読み書きを教えてくれた子なんだ。僕はルーのこと、とっても尊敬しているの。でも、ティグランはもっと親密な、恋人みたいな関係になりたいんじゃないかな。そしてルーはきっとメロ、君のことが好きなんだと思う」
「……………」
 ルー=アリス・リードというのは、もはや聞くまでもないことだった。ここに至ってメロは、あるひとつの可能性に気づく。アリス・リードがどういった種類の超能力を持っているのか、それは定かではないにしても……もし彼女がテレポーターだったとしたら、ここに自分を運んだのは、アリス・リードことルーという少女なのではないだろうか?
「ここへ、俺のことを運んだのは、もしかしてアリス……いや、ルーなのか?」
「うん、そうだよ」と、ケロリとしたように明るく、ボーは答える。超能力があるのが当たり前という環境で育ったとすれば――むしろ彼の反応は至極当然のものだったかもしれない。「僕、カフェテリアでティグランが「話がある」ってメロに言ってたのを聞いてたから……きっとルーのことでなんだろうなって思ってたの。それで放課後体育館へいったら、案の定ティグランが念動力でドアを閉めてたから、これは絶対に何かあると思って、ルーのことをジェシーに頼んで探してもらうことにしたの……そして彼女が見つかったら体育館へすぐ来るように言ってもらうことにしたんだ。で、そのあとすぐに僕は体育館まで戻ってきて、<力>で扉を破ったっていう、そんなわけ」
「……ボーのあの力は、一体なんなんだ?ルークの奴の力が念動力っていうのはわかるが、バスケットのリングやボードを支える鉄が全然別の塊みたいになってた。あれに比べたらユリ・ゲラーのスプーン曲げなんぞ、赤ん坊の曲芸みたいなもんだろうし」
「僕が気持ち悪い?」
 ボーは、自分の手元に目を落とすと、また指をいじっている。彼の両手の爪はすべてボロボロだった――<力>を使って物を壊すと、ボーはその後決まって自己嫌悪に陥り、自分の爪を噛んだり皮膚を引っかくといった自傷行為を繰り返してしまう。それでも、カイがいた頃はよかった。彼がその度にボーを催眠状態に陥らせて、自分の自己嫌悪の感情を取り除いてくれたから……でもこれからは、自分の行動についてはすべて自分で責任を持たなければならないと、セスにも言われている。
「気持ち悪くはないが、あの力で骨を折られでもしたら、笑ってもいられないのは確かだろうな。ルークにボールであばらを折られたのは、流石にキツかった」
 メロがティグランのしたことを根に持つでもなく笑っているのを見て、ボーはほっとする。やっぱりメロはいい奴だと、ボーはあらためてそう思った。
「安心して、メロ。僕はこの力を人を傷つけるために使ったことはないから……物を破壊するために使ったことは何度もあるけどね。僕は自閉症で、五歳になるまで一言もしゃべれなくて、とにかく目の前にあるものをすべて破壊してまわるっていう、そんな厄介な子供だったんだ。僕の弟のセスも自閉症だったけど、弟はどっちかっていうと大人しくて、自分の殻に閉じこもってる感じでね……でも僕が物を壊してまわったのは、<音>を感じたかったからなんだ。そのあとも言語を使っては人とコミュニケーションをとれなかったけど、唯一教会の聖歌隊で歌うことだけはできた。十歳の時に戦争で――というのも、僕がいたのはコソボだったから――セルビア人の民族浄化の犠牲になりそうだった時に、僕は初めて自分のこの<力>を使ったんだ。セルビア人兵士が持ってた銃をすべて、重力でひしゃげさせて、使えないようにしてやった。つまり、僕が持ってる力ってのはそういうことさ。感覚としては、重力でプレスするような感じっていうのが一番近いのかな……僕、言葉で説明するのが上手じゃないから、うまく言えないけど」
「いや、十分すぎるくらい、よくわかったよ」と、メロは感心したように言った。「だが、五歳まで話せなかったにも関わらず、そのあと歌は歌えたんだろ?歌が歌えるっていうことは、読み書きが出来るっていうことに繋がらないのか?」
「んー……そうだね。僕が持ってたのはようするに、反響言語ってやつなんだ。これは、僕がベッテルハイム孤児院でエッカート博士に教えてもらったことなんだけど。つまり、誰かが言った言葉をその意味はわからないけど繰り返すとか、歌についてもおんなじなんだ。僕は当時、賛美歌の歌の意味なんて全然わかっていなかった。ただ歌のリズムが気持ちいいから同じように繰り返すっていう、それだけでね……ただ、まわりの人が僕の歌がとてもうまいって褒めちぎってくれるのが嬉しくて、意味もわからず歌ってたっていうのが正しいんだけど。でもルーが本当に辛抱強く僕に<言語>を教えてくれたから、それで自分の歌ってる歌詞の意味がわかるようになったんだよ。ルーは今も僕にとって、尊敬するお姉さんみたいな人なんだ……だから彼女には心から幸せになってほしいって、そう思ってる。ルーがメロのことを好きなら、ティグランには悪いけど、メロにも彼女のことを好きになってほしいんだ」
「……………」
 メロはやはりここでも、またベッドの中へもぐりこみたいような気持ちになっていた。作戦的なことでいえば、やはりラスと寝たのは失敗だったのだ。何より一時的な感情の発作のようなもので、仕事に絡んだ人間と特別な関係を持つのはタブーだと、あらためて思い知らされる。
「あのな、俺もよくは知らないが、人間ってのは恋をすると脳からなんとかいうホルモンが分泌されるらしい。ようするに生理現象みたいなもんなんだろう……だから、アリス……いや、ルーもそのうちこれはただ脳内でホルモンがおかしくなってるだけだって気づくんじゃないか?そんなことよりも、俺はチョコレートのほうが……」
(よほど大事)、と言いかけて、不意にナイトテーブルの上にチョコレートが置いてあることに、メロは気づく。もしかしたらニアの奴が持ってきたのかもしれない――そうメロは思ったが、誰が冷蔵庫から持ってきたにせよ、チョコそれ自体に罪はない……自分の今の居心地の悪さをごまかすみたいに、メロはナイトテーブルに手を伸ばすと、銀紙をはがしはじめた。
「そうかなあ。僕は<恋>っていうのは、それ以上の何かっていう気がするけど……うちの施設ではラスって子とカイが恋人同士で、ラスはもうカイに首ったけだったの。でもカイは寿命がきて死んじゃって、それ以来僕、ラスには会ってないんだよね……きっとすごくショックを受けてると思うんだけど」
「じゃあ、ラスはまだロスに来てないのか?」パキリ、とチョコレートを齧りながらメロは言った。
「えっとね、近いうちにロスの研究所で僕たちの<力>を、アメリカ政府の偉い人たちに見せることになってるんだけど、その時までには来るんじゃないかな。何しろ、彼女はイラク戦争の影の功労者だもの」
「……………」
 正直いって、今の時点でラスが自分の側につくのか、それともヴェルディーユ博士の側につくのか、メロにはよくわからなかった。ニアの首を彼女に与えるという約束は確かにしたものの、状況が今のようになってしまえば、それも無効といったところだろう。何しろカイ・ハザードという男が遺言として、自分が死ねばかわりの者がニアの元へいくと言い、実際にその「時」がやってきたわけだから……。
(やれやれ。どうやら俺は文字通り骨折り損という奴をさせられたらしいな。状況がどうなってるのか、今の段階ではいまいちつかめないところもあるが……全体として、<L>にとっては悪くない流れだろう。あとのことは、ニアの奴がセスって奴とうまくやるってことだ。そうなれば俺にはもう関係ないともいえるな)
 メロはチョコレートを食べ終わると、銀紙をくしゃくしゃにして屑篭に捨てた。そして、ボーに眠くなってきたと言い、ベッドの中へもぐりこんだのだが――彼は子守歌がわりに、綺麗なボーイソプラノでウェルナーの『野ばら』をそっと歌いはじめたのだった。
 ボーの歌声はほとんどプロ級といってよく、単にメロが眠ろうとしているために声量を抑えているだけで、実際にはウィーン少年合唱団へ入れるほどの技量があるのではないかと、メロは思ったほどだった……そして、ドイツ語の歌詞が、野に咲く小さな薔薇を少年が手折ったところで――メロは安らかな眠りの世界へと、誘われるように落ちていったのだった。



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【2008/09/19 05:51 】
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