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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(16)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(16)

 メロはその日、学校のカフェテリアでルーク・フォスターに「話がある」と言われていた。
「俺に話?」
 おまえがか、というように、メロはルークのことを睨み返してやる。
「おまえが見たいと思ってるものを、見せてやるよ」
 そう一言いい残し、ルークはメロに背中を向ける形で、別の席に座っていた。まるで「おまえのことなど視界の端に入れるのも汚らわしい」とでも言いたげな態度だった。そのあと、廊下で「今日の午後五時に体育館へ来い」とすれ違いざまに言われ、メロは彼に返事をしないことで、「行く」と答えていたわけだ。
 ここからはメロ自身の推測の域を出ないことではあるのだが、おそらく彼は、先週の土曜日にあった事件の犯人をメロだと思っているに違いなかった。そして週が明けた月曜日、メロがやたらとバーバラ・ウォルシュにつきまとわれているのを見れば――その疑いは嫌が上にも高くなって当然だといえただろう。メロにしても、バーバラにつきまとわれるのは、迷惑といえば迷惑だった。だが、彼女に例のペイント弾のことを黙ってもらっているせいもあって、流石に「俺に構うな」と邪険にするわけにもいかなかったのだ。
 とはいえ、バーバラはメロにとってそれほど鬱陶しい存在ではなかったことは確かである。バーバラ・ウォルシュは学校の成績のほうはさっぱりだったが、そのかわりの天分として神は彼女に<場の空気を読む>という才能を与えたのだろう。バーバラはメロがチョコレートを食べようと思ってポケットを探ると、ホステスがライターを客に差しだす要領で、すぐにさっと彼に板チョコレートを渡していた。他にも、メロが離れていて欲しい時には彼女は距離を取り、時々気まぐれな猫のように近寄ってきては話をするという、何かそんな感じだった。
 そういうバーバラのことを、メロはとりあえず存在として<邪魔>とも<目障り>だとも思わなかった。ただ、彼女がレイプされそうなところを自分が救ったことで――バーバラが何か勘違いしている可能性はあると、流石にメロも気づいてはいた。だが、結局自分は流れ者の転校生なので、アリス・リードとルーク・フォスター、それにジョシュア・サイズモアの超能力の実態さえ掴むことができれば、この学校とも早々におさらばするつもりでいるのだ……その間、バーバラからチョコレートを支給してもらうのは、メロにしてもそう悪くはない取引といったところだったろう。
 それとは別に、メロはアリス・リードのことは、正直どうしていいかわからなかった。前に彼女に「好きだ」と夕暮れの中で言われたことを、メロは忘れたというわけではない。だが、ラスと彼女は同じ超能力を持つ仲間なのだ……それも電話を盗聴した時の会話の内容を思いだすに、ラスは「ルーやエヴァはどうしてる?」といったようなことをマジードに聞いていたはずだった。前にジョシュア・サイズモアはアリス・リードのことを「ルー……」と言いかけていたことがある。ということは、ラスと彼女は強い仲間意識を持つ、家族も同然の親友同士だったといえるだろう。
(やれやれ、面倒くさいな)
 放課後になり、五時近くまで図書館で時間を潰したメロは、ラスやアリスのことは別にしても、ルークとはこれからはっきりカタをつけられそうだと思い喜んだ。向こうには蛇蠍の如く嫌われてはいるが、男同士の関係というのはこういう時、極めてシンプルなところがいい。
 ルークがもしPKであったとすれば、自分はこれから一体どんな目に遭わされるかわかったものではないが――銃など持っていても意味のない人間が相手である以上、メロは武器になるようなものを一切持たず、丸腰で体育館へ向かった。あばらや腕や足の骨は折られる可能性があるが、それでもこんな学校という場所で殺しを行うほど、奴も馬鹿ではないだろう……そう判断してのことだった。
 試験が近いこともあって、体育館付近には人気がまるでなかった。重い鉄製の両開きのドアを開け、メロは観客席となっている一番高い場所から、コートのほうへ下りていった。体育館には、バスケットボールが床にバウンドする音が反響している……メロがその音のするほうへ目をやると、そこではルークがスリーポイントシュートラインから何本ものシュートを決めているところだった。
 メロは最前列の観客席からルークが次々と見事にボールをゴールへ入れるのを、感心したように眺めやる。何故なら、彼はメロが見守る間、三十本ものスリーポイントシュートをミスなく決めていたからだ。メロは自閉症児のみが何故超能力者となりうるのかを調べる過程で、様々な研究論文に目を通していた――その中には、音楽や絵画などの芸術面で天才的な才能を持つサヴァンがいる一方、サヴァンと呼べるほどの天分ではないにしても、優れた能力を持つ子供たちのことが数多く紹介されていた。たとえば、体のコントロール能力が異常に優れており、フリースローラインから五十本ゴールを入れて、五十本とも外さないといったような能力を持つ自閉症者である。
 メロはルークとワンオンワンで試合をした後、彼の他校との練習試合のテープも見ていたが、最終的に彼は試合中に超能力など使っていないと結論を下していた。もともとルークにはそうした天分が備わっていたのだろうと、今彼が続けて五十本ほどもゴールを決める姿を見て、あらためてそう思う。
「お見事!!」
 メロは思わず、拍手しながらコートへ下りていった。あたりにはバスケットボールが何十個となく散らばっている。そのうちのひとつをメロもまた手にとり、スパッ!!とスリーポイントシュートを決めるが、残念ながら十本目で外してしまった。
「もっと膝と全身のバネを使うようにしなきゃ駄目だな。手先の感覚だけでゴールを決めようとするから外れるんだ……バスケは全身のコントロール能力が物を言うスポーツだからな」
「ありがたいご教示、どうも。それで、俺に話ってなんだ?」
 メロはレイアップシュートを一本決めるが、そのあとにルークが力の差を見せつけるように、ダンクシュートを決め、ギシギシと大きくゴールを揺らす……メロとしては、やれやれといったように肩を竦めるのみだった。奴は相当にご立腹らしいと、そう見てとった。
「言うまでもないが、話ってのはアリスのことだ」
 おそろしくスピードのある、重いボールをパスされて、メロは軽く顔をしかめながら、それを受けとる。
「なんだ?そのことならもう話がついているだろう。俺はあんたの言うとおり、あれ以来リードとは必要最低限接触していない……これ以上、何か文句でもあるっていうのか?」
「ああ、大アリだ」
 そう言ってルークはまた、スパッ!!とフリースローラインからシュートを決める。メロはそのゴールを通過したボールを拾うと、またルークに投げ返してやった。
「どうやらアリスは、おまえのことが本当に好きらしい……奇妙なことを言うようだが、実は彼女の寿命はあまり長くないんだ。せいぜい生きて二十歳といったところかな。もっと長生きして二十二、三歳、いや二十歳前に死ぬ可能性も高い。おまえ、もし他に好きな女がいないなら、高校にいる間だけでも、アリスとつきあう気はないか?」
「……随分勝手なことを言うな。この間はもう関わりあうなと言い、今度はつきあってやれって言うのか?あんたこそリードのことが好きなんだろう?それだったらルーク、あんたがアリスのそばにいれば、それでいいんじゃないのか。彼女の寿命が短かろうと長かろうと、そっちのことのほうが、俺には大事なことのように思えるがな」
 メロにしても、ルークやアリス、それにラスといった超能力者たちが、あまり長くは生きられないとすでに知っている。そして、どうせ長く生きられないのなら……せめても自分の好きな人間と出来るだけ長い時を過ごしたいと、そう思っているはずだ。その時間を彼は自分に譲ると言っているわけだが、メロにしてみればそれは到底飲めない要求だった。少なくとも今、自分はアリス・リードという少女に対して、恋心らしきものはまったく持っていないのだから……。
「俺じゃ駄目なんだ」
 そう言ってルークは、またもう一本、フリースローラインからシュートを決める。
「あまりにも小さい頃から俺たちは一緒にいすぎたからな……まあ、無理もない。それに、俺自身がアリスに持ってる感情というのも、恋愛感情なのかどうか、よくわからない部分がある。強いて言えば、自分と血の繋がらない妹が、どこか不良の匂いのするいけ好かない男に横から取られて腹を立てている、そんなところかもしれないな。だが、この際そんなことはどうでもいいんだ……俺がおまえに聞きたいのは、もっと別のことだ」
 シュッ、と自分のほうをまったく見ないままパスされて、メロは多少驚きながらそのボールを受けとった。ルークが頷いているのを見て、シュートを決めようとする……が、残念ながらボールはリングに当たり、大きく外れてしまった。
「何故今、肩に力が入った?」
「さあな。あんたがこれからどうも、俺にあまり良くない話をしようとしてる予感がしたからかもな」
 コロコロと床を転がるボールをルークは拾い上げ、またもスパッ!!とシュートを決めている。スリーポイントラインからリングの真下までの距離は6メートル25センチ……何故こうも彼のシュートは、面白いくらいに決まるのだろう。
「なあ、ルーク、あんた気づいてるか?俺がここへきてから一度もあんたはゴールを外してないぜ?ここまでくると、ちょっと異常なようにさえ思えるのは、俺の気のせいか?」
 何も答えず、無言のままでルークはまた、もう一本別のボールでシュートを決める。
「人間っていうのは、何かひとつ得意分野があると、そのことを繰り返し行って才能を伸ばそうとするものだ。俺には小さい頃からバスケしかなかった。アリスがいなければ今も、文字の読み書きさえ出来ないままだったろう……知識のはじめというのは、物に名前をつけてそれを覚えることだというが、その世界を開いてくれたのが、俺にとってはアリスだったということだ。そうだな。俺が彼女に感じている感情というのは、恋愛感情以上に純粋なものだと言っていいだろうな。だから、アリスが俺と一緒にいるよりおまえと一緒にいたほうが幸せだというのなら、俺も目を瞑って彼女の幸福を祝福してやろう。だが、おまえは先週の土曜日、俺をペイント弾で狙撃した。普通に考えたとすれば、バスケの試合で負けたことに対する腹いせか、あるいはアリスのことかのいずれかだ……だが、おまえは週明けから、やたらバーバラ・ウォルシュとひっついてばかりいる。そのことでどれほどアリスが胸を痛めているか、おまえにわかるか!?」
 また、鋭く重いパスが飛んできて、メロは思わず受け損なった。手が一瞬、じん、と痺れる。つき指をしたというほどではないにしても、ボールにかかった圧力が尋常でないようにメロは感じていた。
「どうもよくわからないな」と、メロはしらばっくれた振りをする。「俺があんたを狙撃しなきゃいけない理由がどこにある?それに、もし仮に俺があんたとの試合に負けて恥をかかされたっていうんで、そんな姑息な真似をしたにしても――それで得られる俺のメリットってのがよくわからない。もし俺がルーク、あんたを変に逆恨みしたとすれば、実弾をこめて銃を発砲するさ。何せあんたは学校では伝説の<マトリックス>って呼ばれてるくらいだからな……実弾を発砲したところで、弾のほうがあんたをよけてくれるだろうよ」
「問題はそこだ」と、ルークは言った。先ほどから数回、不自然な形にボールが曲がり、彼の元へは戻ってこないはずのボールが、ルークの手元へ戻ってきていることに、メロも気づいていた。
「おまえ、もしかして超能力を信じてるのか?俺の推察によれば、おまえは試合に負けたくらいで俺のことを陰湿に狙撃するような人間ではないだろう……むしろ本当に恥をかかされたと思っていたとすれば、それこそ実弾を使うタイプの人間だろうな。もし仮におまえが週明けからバーバラ・ウォルシュとイチャついていなかったとすれば、アリスのことが原因かもしれないと俺は思い、自分が身を引く話を、今ここでしていたかもしれない……だが」
 ヒュッ、とボールが風を切る音がしたかと思うと、メロの顔のすぐ脇をかすめた。そのボールが壁にぶつかり、異常なほど大きくバウンドする。
「安心しろ。今のはわざと外したんだ……それで、おまえは一体何が知りたいんだ?銃乱射事件の真相を知りたいとかいう、まさかそういうふざけた連中の仲間なのか!?」
 答えろ!!と、ルークが叫ぶのと同時に、空中でピタリと止まったボールが幾つも、百キロを越える速さでメロ目掛けて飛んでくる!!
「……………!!」
 庇いきれなかったボールのうちのひとつが、胴に当たり、メロはその場に蹲った。肋骨をやられる覚悟は出来ていたというものの……流石にその瞬間になってみると、いささか後悔したいような気にもなってくる。
「……がはっ!!」
 思わず咳こむと、唾液の中に血が混じっていることがわかり、(ヤバイな……)とメロは思った。
「どうだ、これで満足か!?おまえが見たかったのはこれなんだろう?そうとわかった以上は、始末させてもらう……いや、殺しはしないが、今目の前で見たことを、おまえが永久にしゃべりたくないくらいには、痛めつけさせてもらうぜ!!」
 またボールが幾つも飛んできて、メロの体を殴打し、打撲の痕を残したが、彼にはなす術もなかった。そして、メロがボロボロになった体を必死に丸めてなおも身を守ろうとしていると、ルークが身動き出来なくなったメロの体を、足で引っくり返してくる……そのあとルークは、情け容赦なくメロの折れたあばらのあたりを踏みにじって寄こした。
「……うっ……ツっ!!……ッ」
 メロが声にならない呻き声を上げたその時――メキメキとどこかで、何かがひしゃげる、不自然な物音がした。いや、メロの体内でそのような音がしたわけではない。
(――なんだ?)
 耳朶を打つその音を、メロは奇妙に思い、必死に顔を上げて何が起きているのかを見定めようとした。実をいうとこの体育館は今、ルークが超能力を使ってどの扉も封鎖していたのだが――その壁を破れる者がいたとすれば、ルークの知る限りただひとりの人間をおいて他にいなかった。
「邪魔をするんじゃない、ボー!!」
 ルーク――いや、ティグランは力をその扉ひとつに集中しようとしたが、相手のほうの能力が上だった。それで抗しきれずに、彼がボーと呼んだ人間の侵入を許してしまう。
「暴力に超能力を使うだなんて、絶対に駄目だ!!ティグラン!!」
 メロが必死に顔を上げて、ルークよりも力が上らしき人間の顔を確認しようとすると、そこには彼にとって意外な人物――ジョシュア・サイズモアの姿があった。
「それに、メロは僕の友達なんだっ!!彼は太ってる僕の隣で、いつもランチを一緒に食べてくれたし、いじめっ子からも守ってくれたっ!!その彼を超能力で攻撃しようとするなんて……そんなことは、たとえティグランが相手でも、この僕が決して許さない!!」
(はは……は……マジかよ)
 最後にそう思い、メロは気を失った。ボーと呼ばれた、ハンプティ・ダンプティ並みに太った青年が超能力でバスケット・ゴールを重力で歪めた上、それを全然別の鉄屑に変化させたからだ。さらには、ルークの立っている場所を中心点に、亀裂まで走っているのを見届けてから、メロは意識を手放していた。



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【2008/09/19 05:43 】
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