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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(14)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(14)

 パームツリーが整然と美しく並ぶ通りに住むニアは、その日も斜め向かいのリード家を張っていた。<殺し屋ギルド>のアメリカ・ロサンジェルス支部幹部――ミッシェル・ゴードンとブリジット・ロベルスキーは、近所でも評判のおしどり夫婦らしい。ニアの目には、美男美女のふたりがハリウッド・デビューするために整形したモデルのように、薄気味悪く映るのみだったが……彼らの本性を見抜けない人間にとっては、見目麗しい似合いのカップルといったように見えるのだろうと、そう思っていた。
 本当に整形しているかどうかは別にしても、確かにふたりはそのまま下着のカタログにでも出ていそうな雰囲気の、均整のとれたカップルだった。そしてとても頭のいい、可愛い娘がいる幸せな家族を演じているというわけだ――ニアには最初、そのことの必要性がまるでわからなかったが、メロから少し話を聞くうちに、なんとなくピンとくるものがあった。つまり、アリス・リードだけ何故こんなにも学校から家が近いのかということだ。他の転校生のふたりは、それぞれ学区内ギリギリの離れたところに住んでいるにも関わらず、リードだけは高校からすぐそばのところに住んでいる……ニアにしてみれば考えられうる可能性はひとつだけだった。おそらくは彼女こそが世界中の美術館で名画をかけ替えている張本人だからではないのだろうか?
(もちろん、仲間の中には他にも、テレポーターのいる可能性はある……だが、超能力を持った子供をわざわざ学校に通わせてどうするのだろうとは思っていた。たがそのことも、いかにも開かれていて平等なアメリカ式の考え方によるところが大きいのだろう。つまり、エッカート博士とヴェルディーユ博士が死に、別の新しい考え方をした人間に組織を移行させようとしているわけだから、ロスにある超能力研究所の博士がおそらくは、出来れば学校へ通ったほうが良いと勧めたのではないだろうか?そしてどうしても学校へ通いたくない子供には無理強いはさせなかったと考えれば、超能力者全員が編入してきていないことの説明はつく……あるいは、情緒的に障害があるなりなんなりして、中には普通に学校へ通えない状態の子供もいるのかもしれないが……まあ、なんにしてもアリス・リードの学業が優秀であることを思えば、彼女が同年代の少年や少女と学び舎をともにしたいというのは理解できる話だ。それと、例の<マトリックス>ことルーク・フォスターは、スポーツが万能らしいから、自分のその力を外で試したかったとも考えられる……)
 そこまで推理してニアは、残りのひとり、ジョシュア・サイズモアのことについては、具体的に何も思い浮かばなかった。メロの話では、彼は確かにピカソやマティスもかくや、という種類の絵を描きはしたが、どうも本物そっくりの贋作を描くほどの才能があるとは思えない、ということだった。そこでニアは、彼は超能力者でもなんでもない、ただ転校してきた時期の重なった生徒なのではないかとメロに聞いてみたが、「俺はそうは思わないな」と彼は言った。
「うまく言えないが、とにかく、リードとフォスターとサイズモアの間には何かあるっていう感じだ。特殊な結びつきとでも言ったらいいか……とにかく、三人の間にはそういう空気を俺は感じる。おまえがどう推理するかは勝手だがな」
 ニアの質問に答えるメロの態度は、いかにもしぶしぶといった感じのするものだった。パソコンのスクリーンには、イタリックの装飾文字でMと映っているだけだったが、声のトーンだけでもニアにはそのことがよくわかる。彼が退屈極まりない授業を毎日受けて得た成果を、そのまま引き渡すようなものなのだから、当然といえばあまりに当然ではある。
 そこでニアは、そのことの交換条件として、自分がアリス・リードに関して推理していることを、メロに話すことにした。つまり、彼女だけが何故、こんなにも高校から近いところに住んでいるのかということだ。
「おそらく彼女が例のテレポーターなのではないかと、わたしはそう思っています。つまり、あんまり高校から遠いところに住まわせてしまうと――超能力を使ってリードは学校へ通学するかもしれないでしょう?それはやはり、<普通>の生活を営む分には都合の悪いことだと思うんです。もしかしたら移動する瞬間を人に見られる危険性もある……第一、すでに例の『マトリックス』の件がありますからね。わたしが思うに、ロスにある超能力研究所の博士は、いかにもアメリカらしいものの考え方をする人物で、超能力者を出来れば普通の人間たちと共存させたいように思ってるんじゃないですか?それで、<学校>という社会環境になんとか適応できそうな子たちをまずは通わせてみようと思った……そんなところだと思いますが」
『じゃあ、あの<殺し屋ギルド>の高級幹部ふたりのことはどう説明する?』
「簡単なことですよ……まず、ルーク・フォスターは高級住宅地にある一軒家で一人暮らしをしています。そこからキャデラックを運転して通学しているわけですが、それはアメリカではなんら不自然なことではありません。そしてジョシュア・サイズモアは学校に提出した書類に書かれている住所には、実際には住んでいないものと思われます……これはリドナーに確認してもらったことですが、彼はサンタモニカにある研究所から直接送り迎えしてもらっているようですね。つまり、アリス・リードに<殺し屋ギルド>のふたりがついているのは、高校から近いだけに両親がいなければおかしいことがすぐバレてしまうから、というのが、現段階でのもっとも高い可能性ではないかとわたしは思います」
『なるほどな』画面の向こうから、パキリ、とチョコレートを齧る音が微かに響く。『それでリドナーは、偶然ロベルスキーと因縁の再会を果たしたってわけだ』
「メロにひとつ聞いておきたいんですが」と、ニアは一歩踏み込んだ話を彼にしようと思った。「あなたはアリス・リードに告白されていましたよね?べつに聞くつもりはなかったんですが、偶然リード家に仕掛けた盗聴器を通して聞こえてきたものですから……メロは彼女に対して今後、どういう態度で接していくつもりなんですか?」
『どういうって言われてもな。俺はフォスターの奴とアリスとは必要最低限接触しないって約束しちまったから、男同士の約束ってやつを守って彼女に近づくつもりは一切ない。まあ、今のところは遠まきに監視してるってところだな』
「……………」
 ニアが黙りこむと、今度はメロのほうがニアに対して少し突っこんだ話をしてくる。
『ところで、例のロベルスキーとゴードンのことはおまえ、どうするつもりなんだ?何しろ家から百メートルと離れてないご近所に、超のつく極悪人がふたりも揃ってるんだからな……この機会に逮捕しない手はあるまい?』
「そうですね。今のところはアリス・リードのこともあって、泳がせておいてますが……逮捕する時には、リドナーがロベルスキーの手に手錠をかけることになるでしょうね」
『わかってないな、おまえ』と、やや馬鹿にしたように、メロが言う。『聞いた話では、リドナーはあの女に恋人を殺されたも同然らしいじゃないか……つまり、リドナーはあの女を逮捕して法の手に委ねるよりも、自分のその手で殺したいほど憎んでるってことだ。その点をどうするのかと、俺は聞いてるんだ』
「そういうことですか。わたしはこれでも一応、彼女の上司ですからね、そうした復讐行為にリドナーが及ぶならば、当然彼女のことも処罰の対象にしなければならないでしょう……つまりはそういうことです」
『ふん』
 メロは面白くもない答えを聞いた、というようにプツリ、とニアとの通信を切ってしまった。それがきのう――日曜の夜ことで、ニアはその前日にあったバーバラ・ウォルシュのパーティのことを聞くために、メロと話をしていたのだった。
(さて、どうするか)と、ニアはタイタニックの1/125スケールの模型を作りながら考える。今、ジェバンニはスーパーへ買いだしに行っており、ここにはいなかった。おそらく今日も帰りにリドナーの様子を見るために、彼女のいるコンドミニアムへ寄ってから戻るだろう……リドナーはその度に「ニアをひとりにするなんて!」と怒るらしいが、ニアにとっては時々ひとりになれるくらいのほうがむしろ環境として好ましかった。
 リドナーが怒るのは当然、自分たちがニアの護衛も兼ねていると自負しているためだったが、彼女はロベルスキーに顔を知られているために、今は本来の自分の職務をまっとうできていないと感じているのだろう。なんとも真面目な彼女らしいことではあるが、ニアとしてはこの場合、自分がサンタモニカにある超能力研究施設に拉致されるのもアリだろうと考えていた。
 もちろん危険は大きいが、すぐに殺されるという可能性は低いとみていい……むしろそのくらい相手の懐深くに入りこむことさえ出来れば、かなり多くの情報が得られるはずだった。引っ越してきた翌日に、ジェバンニはひとりでリード家に挨拶しにいっていたが、「是非今度夕食をご一緒しましょう」という言葉は、ただの社交辞令では終わらなかったのである。
 その週末――ようするに、先週の土曜、メロがウォルシュ家のパーティへ行った日――ジェバンニとニアはリード家の夕食に招待され、ニアは食事のあと、アリス・リードという少女と少しの間遊ぶことになった。よくある大人同士の会話の間、子供は二階へ行ってなさいという、アレである。
(ジェバンニ、くれぐれもヘマだけはしないでくださいね)
 ニアは心の中でそう念じていた。自閉症児を演じているニアは、ほとんど「地」でもそれをやり抜けられたが、その分ジェバンニのほうにリード夫妻の質問は集中していたからだ。ニアは一度など、夕食の皿をわざと床に落とさなければならなかったし、さらには「パパ、パパ」と、彼の服の裾をつかんで、挙動不審な息子を演じなければいけないくらいだった。
 マイケル・リードとメアリ・リードという偽名の夫婦は、ジェバンニ親子の出身地や別れた妻が今どうしているかなど、随分細かいことを知りたがっていた……<殺し屋ギルド>という組織の情報ネットワークを使えば、簡単に彼らのことは洗いだしが可能である。そこでニアは前もって<囮>としての情報をコンピューターを通してインプット済みだった。
 自分とジェバンニはイタリア系の移民で、家系図も三代目まで遡れるようにしてある……ニアの幼い頃からの自閉症の病歴なども、カルテの日付に至るまで、すべてが完璧だった。あとはこれで、彼らが自分を誘拐するかどうかが鍵といったところだろうか。
 下でパパ・ジェバンニとリード夫妻が話に花を咲かせている間、ニアはいかにも十代の女の子らしい、可愛い感じのする部屋で、アリスと遊ぶことになったわけだが――ピンクの花模様の壁紙に白いアンティークの家具が揃ったその室内には、特にニアの気を引くようなものは何もなかった。当然、ラジコンもなければおもちゃのロボットもなく、代わりにあるものといえば、可愛い動物のぬいぐるみくらいのものだったろうか。
「ニアちゃんはモノポリーなんて好きかしら?」
(……ちゃんづけですか)と、ニアは内心やれやれと思いつつ、アリスに対して軽く頷いてみせる。可哀想な自閉症児の相手をする優しいお姉さんに、意地の悪い態度をとってみたところで仕方がない。
(モノポリーはふたりでやるより、四人でやったほうが面白いゲームですが、この際仕方ないですね)
 同年代の女の子の部屋に入るなんて初めてだとか、そういう感慨はニアには一切ない。ただ、アリス・リードという少女の性格分析をするのに、時々必要最低限言葉を話しながら、一時間ほどゲームをして遊んだというそれだけである……やがて階下から、「そろそろ帰るぞ~!」というパパ・ジェバンニの声が聞こえ、ニアはアリスに特別挨拶するでもなく、黙って階段を下りていった。
 リード家から目と鼻の先にある自宅へ戻ったニアは、ジェバンニからリード夫妻に聞かれたことを聞き、(なるほどな)と思った。実は自分の娘のアリスも自閉症だったが、藁にも縋る思いである<新薬>の被験者になったところ、彼女は今国際数学オリンピックで金メダルを取るほどまでに回復したというのだ。
「それは、きっととてもお金がかかることなんでしょうねってワインを注いでもらいながら聞いたら……まだ合法として認可されていない薬だから、危険が伴うことを承知さえしてもらえれば、お金は一切かからないということでした。ただ、そのかわり、薬の被験者は三か月あるいは半年の間、特別な研究所の施設で過ごしてもらうことが条件だって言うんです。一応、考えさせてもらう、と答えてはおきましたが……」
「決まりですね」と、その時ニアはジェバンニに言った。「もしあなたが、息子と離れるのはつらいが、それも病気の治療のためだから仕方ないと答えたとすれば、ジェバンニは彼らに殺されることになるでしょう。ここは答えを引き伸ばして、最終的には“ノー”と言ってください。時間を稼いでおいて、彼らの出方を見たい」
 わかりました、とジェバンニは答えていたが、その翌日にはメアリ・リードことブリジット・ロベルスキーはあからさまな色じかけ作戦に出ていたといっていい。何しろジェバンニはやもめになって三年にもなるという設定だったので――息子がいなければあなたももっと人生を楽しめるでしょうに、といったようなことを露骨にではなく遠まわしに言ったりした。そしてどこか悩殺的なポーズで、パイを焼いたとかなんとか口実を作っては、家の中まで上がりこんでくるのである。
 ロベルスキーはニアが自閉症児だと思いこんでいるので、そのへんのことについてはまるで遠慮がなかった。おそらくジェバンニにその気さえあれば、ニアの目の前でもかなりの際どいことをやってのけたに違いない。
ニアは困ったように照れ笑いしているジェバンニのことを見やりながら、(おそらくこれがロベルスキーの常套手段なのだろう)と思っていた。そしてリドナーのCIAの同僚にして元恋人であった男も、まんまと彼女のその策略にはまってしまったというわけだ……その時、リドナーは<殺し屋ギルド>というアメリカ国内における闇の組織を葬るべく、情報分析官としてヴァージニア州ラングレーにあるCIA本部で働いていたという。そしてシエラレオネで<殺し屋ギルド>の幹部が武器やダイヤの取引をするという情報を得――彼女の恋人であるヒュー・ブレットとともに、アフリカへ飛んだというわけだ。だがそれは結局、内通者であるブリジット・ロベルスキーがわざと洩らした偽の情報であり、ブレットは激しい拷問を受けた後、むごい死を迎えたというわけある。
 このことにより、ブレットと行動をともにしていたリドナーに組織内で疑いの目が向けられるようになったが、逆にリドナー自身には消去法として、ロベルスキーが内通者であるということがわかっていた。だが、ブレットとリドナーはその時、彼が一時の迷いからロベルスキーと関係を持ったことにより、婚約を解消していたので――リドナーがいくら上司にロベルスキーこそが裏切り者なのだと言っても、まるで取りあってもらえなかったのだという。
「ただの嫉妬による女の戯言だと、そう解釈されたんです」
 その上、ロベルスキーはとても立ち回りがうまく、それ以前から他の同僚たちに「ブレットに言い寄られて困っている、リドナーとは親友同士なのに」と何度も洩らしていたのだ……こうした悪条件が重なったことにより、リドナーは結局、内通者としてもっとも可能性の高い人物として組織の人間にマークされることになる。何故なら、彼女がもし<殺し屋ギルド>の幹部に情報を洩らしているとすれば、その逆を辿るのが犯人逮捕にもっとも近い、確実な方法だったからだ。
 ニアはリドナーから、上司として一通りその話を聞いて、CIAという組織に失望させられていた。だが、やはりLは見る目がある。<殺し屋ギルド>という悪の組織に関しては、Lは世界中のあらゆる場所から情報を収集していたので、当然ハル・リドナーという優秀な情報分析官がいることも知っていた。このままでは彼女は、自分の能力を組織内で活かしきるということが出来ないまま終わるだろう……そう思い、リドナーのことを引き抜いて、ニアの片腕につけたのである。
「さて、どうしたものやら」
 ニアは完成したブリッジに、マストを取りつけ、アンテナ線を接着しながら考える。すでにもう、船底部分は完成し、色も赤と黒の二色に塗装済みだった。あとは細部――浮輪や警告板や『TITANIC 1912』と書かれたプレートなどを付ければ、ほぼ完成といったところだ。
 もっとも、ニアが「どうするか」と呟いたのは、タイタニックの模型についてではない。こちらがリード家を張っているように、向こうもこちらの家の様子を探っている今、次にどう自分が動くべきかという、そのことを思っていたのである。
 そしてそんな時、不意に家のチャイムが鳴った。



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【2008/09/18 05:01 】
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