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探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(13)
   探偵L・ロサンジェルス編~墜ちた天使たち~(13)

 先週の土曜の夜にあったウォルシュ家のパーティは、結果として大成功だったといえる――何故なら、パーティに招待された客たちはみな、すでに<普通の>パーティには飽き飽きしているような生徒が多かったからだ。みんな、会食している最中に誰と誰がくっついただの別れただの、あるいはハリウッド・スターの自分しか知らない素顔についてとか、そんな話ばかりをしている……あとはアルコールとドラッグと主催者の用意したちょっとしたショーくらいしか、楽しみなことはない。それか自分の恋人と見せつけるようにプールサイドで公然とイチャつくか……。
 そんな中で、パーティ嫌いで知られるルーク・フォスターが遅れてやってきたということは、招待客たちにとってはちょっとした<事件>だったといえる。校内新聞のネタ探しのために、ウォルシュ家へ忍びこんでいたアニス・ベーカーも、月曜日に早速とばかり校内新聞の号外をまたも生徒たちに配っていた。
『衝撃!!ウォルシュ家のパーティでルーク・フォスター狙撃される!!』というのがその見出しで、特にパーティに招待されなかった校内セレブに憧れる生徒たちはみな、こぞってその記事を読みたがった。

<ルーク・フォスターはこれまで、パーティ嫌いとしてみんなに知られてきたが、なんとこのたびその彼が、先週あったバーバラ・ウォルシュ主催のパーティへ出席したのである!!彼のパートナーは、チアリーダー部のキャサリン・エステヴァンで、彼女はその日、ラメ入りのとても素敵なイブニングドレスを着ており、エスコートするフォスターはオーソドックなタキシード姿だった。だが、彼らが友達のレイフ・ウィンクラーやリンダ・ハリスとプールサイドで楽しく談笑している最中に、どこかから銃弾が発射されたのだ!!
 一瞬、誰もが先日あった本校の忌まわしい事件のことが脳裏をよぎったことであろう……だがそれは、ただのブルーのペイント弾だった。フォスターは撃たれた際の衝撃で、プールへ落ちはしたものの、怪我はない模様。犯人はいまだ謎のままではあるが、おそらくフォスターのことを嫉んだ者の犯行か、<ダーク・スカルズ>の残党、あるいは超常現象に興味のある人間が彼に引き金を引いたものと思われる……>

 ティグランは、バスケ部のロッカールームでスポーツドリンクを飲みながら、くだらないのことの書かれた校内新聞をぐしゃりと握りしめた。
(やはりパーティへなど、行くのではなかったな)
 彼は後悔とともに、強くそう思う。もともと、パーティ特有のあの、ガヤガヤした雰囲気が彼は嫌いだったし、脳味噌のない連中が話すゴシップ話にも辟易していた。あとは顔も知らない奴が「最近、調子どう?」なんて気安く話しかけてくるのも我慢がならない。
ティグランは薬によってほぼ完治したとはいえ、やはり元は自閉症だったために、生来の性向までは変えられないものだと、最近特に強く感じる。もっとも、バスケットや他のスポーツをしている時は別だ――ルーク・フォスターことティグラン・デミルは、スポーツに没頭している時だけ、この世のすべての煩いから解放されるような気持ちになれる。何故といって、どのスポーツにもやはり明確なルールというものがあり、その秩序の中でプレイしている時だけ、彼の魂は解放されることが出来るからだ。それ以外のこの世における法則については、ティグランはいまもよく理解できないことが多い。
 今の時点ですでに、UCLAにスポーツ推薦枠で入学が決まっているルーク・フォスターではあるが、体育以外の成績についてはさっぱりだった。小さな時にもし、同い年のルースが彼に根気よく読み書きを教えてくれなかったとしたら――果たして今も、人並に文字を読んだり書いたり出来たか、あやしいものだと彼は思う。
 そういう意味で、ティグランにとってルースリア・リーデイルという少女は、昔も今も女神だった。彼女は彼に生きるべき意味を文字の理解を通して教えてくれた、かけがえのない存在だった。もっともルースは、数学の分野においては天才的な才能を持っているとはいえ――ティグランとは逆に運動神経のほうはさっぱりだった。だが、そのことを補うように、ルースには瞬間移動できる超能力が備わっているというわけだ。
(そもそも、こんなふうに俺たちが普通に学校生活を送ろうとしていること自体、不自然なことなんだ……)
 ミハイル・エッカート博士とトマシュ・ヴェルディーユ博士の死後、<ホーム>の秩序は事実上崩壊したも同然だと、ティグランはそう思っていた。ヴェルディーユ博士の娘のソニアは、カミーユの延命のためなら、手段を選ばない……そのことがわかりきっているだけに、カイはみんなの今後のために、ひとつの計画を打ちだしていた。まず、ユーロ紙幣の原版を盗むこと、それから世界中の美術館から有名な絵をかけ替えること……カイはそれをソニア・ヴェルディーユに対するレジスタンスの手はじめだと言った。
 正直いって、スポーツ以外のことではあまり先を読めないティグランには、カイの打ちだした計画が、将来的に何故みんなを救うことになるのかまでは、まるでわからなかった。だが、カイのすることに間違いはない……そのことだけはわかっているために、なんでも彼の言うとおりに動いた。けれど、結果としてカイが死んだ今となっては、ティグランには今まで自分が行ったことが正しかったことなのかどうかさえ、わからなくなっている。
 仲間の中で唯一セスだけ、カイが立てた計画の全貌について知っていると聞いていた。だが、彼はいくら問いつめても、「今はまだ話すべき時じゃない」と言って、重い口を開こうとはしない。ただ今は、とにかく組織内では大人しくしていること、上から<指令>があれば動き、米超能力研究所のシュナイダー博士の言うとおりにすることだと言われている……そして「時」が来たらカイが何をしようとしていたのかをすべて話すと、セスはそう約束してくれた。
 けれど今、ティグランは『自分の考え』でこれからは動くべきなのではないかと、そんな気がしていた。シュナイダー博士に言われたとおり、ティグランも他の仲間たちもみな、知能テストやその他よくわからない複雑な検査を受けさせられた後で――彼からこう言われていた。
「ようするに君たちは、良くも悪くも<世間知らず>なんだ。これからはもっと多くの同年代の子供たちと触れあい、コミュニケーション能力を深めるべきだと思う。もちろん強制はしないが、もし学校へ通うことに興味があれば、編入手続きを取ろう……誰か、興味のある人はいるかね?」
 フロリアン・シュナイダー博士は、縮れ毛の、頭のてっぺんが禿げたいかにも変人といった雰囲気の初老の男だった。会った瞬間から、こんな奴に自分たちの未来を託すなんて……と、ティグランは強い怒りと屈辱感を覚えていたものだ。だが、セスに「今は我慢しろ」と言われ、出来るだけ<上>の指示どおりに動いてはいる。けれどもう……。
(限界だな)
 そう、ティグランは思った。近いうちに大統領をはじめとした政府高官を集めて、超能力者のデモンストレーションを行うという。その時の出来いかんで、ロスにある超能力研究所に莫大な資金が拠出されかどうかが決まるという話だったが、まるでサーカス小屋で見世物にされるようだとティグランは思っていた。
 シュナイダー博士の<学校へ通う>という提案は、ティグランにはまったく興味の持てないもので、他の仲間たちも同じように感じたようだった。だがその中でひとりだけ――ルースが是非一度他の同年代の子供たちに混ざって勉強してみたいと言ったのだ。ルースが高校へ通うというのなら、当然自分も彼女を守るために学校へ行かなくてはならない、ティグランはそう思った。同じように彼女から根気強く読み書きを教えてもらったボーも、自分と似たような気持ちだったろう。
「じゃあ、学校へ通いたいのはルースとティグランとボーの三人でいいのかな?」
 ティグランはその時のことを思いだし、内心、チッと舌打ちする。あの禿げ男が高校へ通ってみないか、などと言いだしさえしなければ……自分たちは平和だったのにと、強くそう思う。
 先週の土曜日、心ならずもバーバラ・ウォルシュのパーティへ出席することにしたティグランではあったが、それは副キャプテンのレイフに「おまえが来てくれなければ、俺はリンダと破局する」と説得されてのことだった。彼がつきあっているリンダと、チアリーダー部の部長であるキャサリンが親友であることは、ティグランももちろん知っている。
「いつまでも自分に振り向いてくれない娘のことを追いかけるより、キャサリンで手を打っておけよ。キャスの一体どこが不満だ?ブロンドで胸もでかいし、おまけに性格までいいときてる。みんなが言ってる声におまえも少しは耳を傾けろよ……スポーツ馬鹿のおまえと天才金メダリストじゃあ、釣りあいがとれないって、本当はおまえだって心の中じゃあわかってるんだろ?」
 レイフの話によれば、リンダは毎日のようにキャスから自分のことで悩んでいると電話され、リンダといざセックスしようとする度に携帯が鳴るのだという。内心(知ったことか!)と思いはするものの、最後にはアリスにやきもちを焼かせるいい機会だとそそのかされ、思わず同意してしまったというわけだ。
 けれど今、ティグランはぐしゃりと丸めた校内新聞を屑籠へ投げ捨てながら、自分の選択は間違っていたとあらためてそう感じる。ペイント弾を肩とわき腹のあたりにそれぞれ受けた瞬間――彼は反射的に念動力でそれを一瞬止めていた。そして、自分からわざとプールへ飛びこんだというわけだ。
 その瞬間に、確かにティグランはウォルシュ邸の屋根の上に誰かがいたのを見た。黒い影がちらっと動いたという程度だったので、もちろん誰なのかまではわからない。だが、みんなが騒ぐ中をなんとかかき分けて、人影が消えた方角にあった部屋を片っ端からすべて探してまわった。
 すると、ヤクでハイになっている連中や、ベッドで抱きあっている恋人たちの他に、ペイント弾の入ったライフル銃を手にしたままのびている、ひとりの男がいた。ティグランはケビン・クロムウェルの胸ぐらを引っつかむと、悪魔のようなおそろしい形相で、「おまえがやったのか!?」と怒鳴りつけた。
 だが彼は、バーバラ・ウォルシュをレイプしようとしたことは本当だが、ペイント弾については何も知らないと、そう繰り返し同じことを言うばかりだった。ティグランはベランダに出、屋根の上を見上げたあとで、ケビンの言葉をすべて信じることにした。
 第一、 彼にはこんなことをするメリットがないように思われたし、もしやったのならバーバラをレイプしようとしたと、自白する必要性がなくなってしまう。それよりも、狙撃した人間がたまたまベランダから下りてきたら、ケビンがバーバラを犯そうとしている現場に行きあってしまった……そして彼女を窮地から救った、状況証拠を見ると、そんなところではないかと、ティグランには推察された。
(ミハエル・ケール……あいつは危険だ)
 メロと最初に会った第一印象からして、ティグランは彼のことが気に入らなかった。もちろん、ルースのこともある。だが今日、A組の教室で、バーバラ・ウォルシュとイチャついているメロのことを見て、ティグランは確信した――間違いなく、ペイント弾はこいつが撃ったのだと……。
 もっとも、動機のほうはティグランにもよくわからない。他の人間であればおそらく、バスケの試合で恥をかかされたからとか、そんなことを想像するだろう。だがティグランにはそうは思えなかった。もしルースのことでした約束が不満であれば、彼女の前でバーバラとイチャついたりもしないだろう。そして何よりティグランが許せないと思うのは、ルースのことだった。
 キャサリンのことを思えば、自分も人のことは言えないが、メロは少なくともルースの気持ちに気づいているはずだとティグランは思っていた……それなのに、そのルースの気持ちを無視して他の女とイチャつこうとするその無神経さ。(今日こそ、目にもの見せてくれる)と、ティグランはとうとう放課後に、ミハエル・ケールのことを体育館へ呼びだしていた。
 幸い、今日から試験前ということで、どの部も体育館を使用できないことになっている。あとは、奴がやってきたら、人がいないことを確かめた後で、念動力ですべてのドアをロックすればいいだけの話だった。
 約束した時刻は午後五時――ティグランは腕時計にちらと目をやると、バスケ部のロッカー室から出て、体育館へ向かっていった。まるで、プロのスポーツ選手が競技のために、ゆっくり舞台へ上がっていくように……。



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【2008/09/18 04:55 】
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