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探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(2)
   探偵N・ヴェネチア編(前編)~ユーロスター連続殺人事件~(2)

          Side:M

 ラクロス・ラスティスが、ニューヨークのLが宿泊しているホテルまでやってきたのは、深夜0時過ぎのことだった。軍内部での書類上の手続き等で少し時間をとらされたらしい。
 本当は彼女が泊まろうとしていたのは、ウォルドーフ・ホテルだったのだが、メアリ・トゥールーズに頼んで、そこのところはうまく変更してもらった。トゥールーズが衣服に盗聴マイクをつけているため、メロとLには彼女たちの会話がすべて丸聞こえとなっている。だが、ラスティス本人が盗聴器の存在に気づいているはずもないのに、彼女は言葉の少ない反応しか返すことはなく、肝心なところは何もわからないままだった。
(Lはまず、彼女がどんな女性なのかを知りたいと言っていた……つまり、たまたま不幸にも超能力を得てしまったという以外、他は普通の17歳と何も変わらない少女なのかどうかとか、そうしたことを知りたいのだと。バグダッドの土産物屋で会った時、ラスティスはスカーフを何枚かとネックレスを買っていた……おそらくあれは自分のためというより、他の<仲間>にイラク土産を買っていたのではないだろうか……)
 ラクロス・ラスティスがホテルの前でタクシーを降り、メアリ・トゥールーズが部屋まで送ろうとすると、彼女はそれを丁重に断っていた。
『いえ、ここまでで本当に結構ですから。次の任務の指令は、またマジードを通して、わたしには絶対に直接連絡をとろうとしないでください。そこのところだけ、よろしくお願いします』
『……任務、ご苦労さまでした』
 メアリ・トゥールーズこと、ルイス・ヒューイット――それが彼女の本名だった――CIA諜報員は、ホテルのロビーから出ていくふりをして、女性トイレへ向かった。そこからフロントの様子を窺いつつ、ラスティスが鍵を受けとり、エレベーターへ向かうのを見届ける。
「こちら、RH12523919。今そちらへ目標人物が向かいました。おそらく部屋番号を変更することなく、そのまま2011号室へ向かうものと思われます……彼女の能力からいって、今この場で捕獲するのは不可能と思われますが、Lは一体どうするおつもりなんですか?」
『今、この場で彼女をどうこうしようとはまったく考えていません。敵を知るためには、まずわたしは相手の性格などをプロファイリングにかけます。今度のイラクの任務では、彼女の本意ではないにせよ、怪我人や火傷をした人も多く出た……そのことを彼女がどう感じているのか、そこをまずは知りたいです。あとのことはまあ、それからですね』
 非人間的な音声を耳にしたルイスは、軽く肩を竦めた。これが世界のL……それにしては随分悠長なことを言っているな、というのがルイスの感想だった。
『あと、この会話はメロのほうにも聞こえていますが、彼に何か伝えたいことがあれば、どうぞ』
「……べつに、特にないわね。ただ、彼女の能力を甘くみないこと、ただそれだけかしら。それとL、もし<盾>が必要になったら――またわたしのことを思いだしてくれると嬉しいわ。結婚しても、パートでならあなたの下で働くのも悪くないってそう思ってるから」
『そうですか……ありがとうございます。マクブライド大佐のお許しがあれば、いつか仕事のほうをお願いするかもしれません』
「ええ。それじゃあ……」
 ルイスは携帯電話を切ると、表に待たせておいたタクシーへ乗りこみ、ブルックリンへ向かった。そこに親戚のひとりが住んでいるので、今日はウィリアムズバーグにいるその親戚の家へ泊まる予定だった。
ディキンスン少将は、まるで彼女の<裏切り>を予期していたとでもいうように何も言わなかったが――それでも正直いって、長年世話になっただけに気が咎めるものがないわけではない。
(もしマギーと結婚しないなら)と、深夜料金の加算されたタクシーのメーターを見ながら彼女は思う。(Lと軍部の二重スパイになることを考えないわけじゃないけど……あの坊やがいる以上、それは無理だわね。まあ、言ってみれば今が潮時ということ……)
 ルイスは、ブルックリン橋から、ニューヨークの美しい夜景を眺めながら、あの坊やが将来好きになる女の子は、どんな雰囲気の女性なのだろうと想像し、くすりと笑った。
 メロは後にも先にも、彼女の誘いを断った、ただひとりの男だったから……。

「L、ラスティスが隣の部屋に入ったのを確認した。電話はもちろんのこと、寝室やバスルームにも盗聴器を仕掛けてある……おそらくこれから、なんらかの形で<仲間>の誰かと連絡をとりあうはずだ。俺はこのままここで、彼女の動きを見張る。もしかしたら、念には念を入れた形で、向こうが突然ホテルから姿を隠すかもわからない……何か動きがあり次第、また連絡する」
『わかりました』
 Lとの通信を終えると、メロはいくつもの盗聴器から聞こえる音のみに神経を集中させた。このホテルは、ワタリが会長を務める、ワイミー財団の子会社の持ち物だ。ゆえに、特定のホテルの部屋を押さえた上、そこに盗聴器を仕掛けることなど造作もないことだった。
 Lは最上階のスイートにおり、メロはその三つ下の部屋――20階の2010号室で、すぐ隣の部屋の様子を窺っていたというわけだ。
 ジィー、と何かファスナーを下ろすような音が聞こえ、どさりとソファの上にそれが落ちる音が聞こえる。おそらく着衣を脱いで、無造作に放ったのだろう……次に、バスルームから蛇口をひねる音やシャワーのお湯が流れる音が聞こえる。もちろんあまりいい趣味とは正直いえないが、このホテルのバスルームは広いので、そこで彼女が仲間と電話をしないとも限らなかった。
 そして次に、彼女がシャワーを終えて、冷蔵庫を開く音……栓を抜く音がしたということは、ワインかシャンパンでも開けたのだろうか?その後5分間ほど、TVからの音声が流れていたが、すぐにそれも消える。おそらく彼女の興味を引くような映像や情報がひとつもなかったためだろう。
 監視カメラは設置されていないが、それでもメロには、彼女が今どこでどんなふうにしているか、目に浮かぶようにはっきりとわかった。イラクからアメリカまで、飛行機で七時間半ほど……さらにまたすぐニューヨークへ移動してきたことを思えば、相当疲れているはずだ。普通に考えれば、あとはもうベッドに潜りこんでぐっすり休む、そんなところだろう。
 だが、彼女はその後もじっと何かを<待つ>ように、寝室へは向かわなかった。そのままソファで眠ってしまったのかとも思われたが、そのわりには時々、物音がする。
『こういう時に限って、マジードは連絡が遅いんだから……』
 その独り言からは、彼女が内心イライラしていることが読みとれた。さっさと仕事上の連絡を終えて眠りたいが、相手から電話がかかってこないことには、それもままならないということなのだろうか?
 そして、彼女のその独り言から、当然メロとLは(しめた)と思っていたわけだが――その後、二十分ほどして、電話が鳴った。携帯ではなく、ホテルの室内用の電話である。このこともまた、Lとメロには当然重要なことだった。電話に盗聴器を仕掛けてあるので、向こうのマジードとかいう男の話す声も、はっきり聞きとれるからだ。
『……連絡が遅れてすまなかった。で、どうだった?イラクは?』
『べつに……どうもこうもないわよ。暑さと血と、それから砂――他には何もないわ。それより、カイやみんなはどうしてるの?ヴェルディーユ博士は、これからわたしたちの能力を各国に大金で売るつもりなんでしょうけど――そんな無茶なことってないわ。わたしはいつ死んでもいいにしても、みんなのことだけは絶対に守ってみせる。マジードだって本当はわかってるんでしょ?お父さまが亡くなってからのヴェルディーユ博士は、なんだか人が変わったみたいで……ねえ、アンドレ。聞いてるの?』
『ああ、もちろん聞いてるさ』と、どこかザラつくような耳障りの声で、マジードは言った。『これからおまえはフランスのパリへ行け。ヴェルディーユ博士からは、そこで暫く待機してるようにと言われてる。カイは<例の件>の後始末が終わるまで、おまえとは会えない……残念だが、そういうことだ』
『彼がどこに行ったのかについては、教えてもらえないってわけ?まあ、いいわ……ロジェ・ドヌーヴなんて探偵、カイの相手になるとも思えない。なんだったら、わたしが代わりに殺したっていいのよ。イラクでの任務も無事終わったことだし……』
『あまり力を使いすぎるな。それと、薬のほうはきちんと飲んでいるんだろうな?先ほどおまえは「いつ死んでもいい」と言ったが――そんなことを口にするのもやめろ。少なくとも俺の前でだけは言うな。わかったな?』
『……わかったわ』
 ふたりが話している会話は、ドイツ語だった。その後ラスティスとマジードは、フランスのパリで落ち合う約束をし――電話は切れた。これでかなり多くの判断材料を得たLは、メロに今夜はもう眠ってもいいと指示を出した。明日、午後の便でラスティスはアメリカからフランスへ飛ぶ……メロにはその彼女の後を尾行するという重要な任務があった。
 ホテルの警備室のモニターが映しているのと同じ映像がLの元にもあるため、彼女が突然外出したとしても、Lにはチェックが十分可能なのである。
(非常に興味深い情報をふたりの会話から頂きました……何より、ラスティスの英語には強いドイツ訛りがある。かねてより、<殺し屋ギルド>の本拠地はドイツにあるのではないかとわたしは思っていましたが、これから色々、面白いことになりそうです……)
『その、L……ニアから連絡はあったか?』
メロが通信を切る前に、ポツリとそんなことをためらいがちに聞いた。
「気になりますか?ニアは今、ローマにいます……明日の夜には、ESスターに乗ってヴェネチアへ向かうそうですよ。正直、わたしは反対したんですが、今のラスティスとマジードの会話で、少なくとも想定されうる<最悪のパターン>ではないとも考えました。カイ・ハザードはおそらく、単身で動いている可能性が高い……部下がいるにしても、そう多くはないでしょう。<例の件>の後始末というのは、ユーロ紙幣原版盗難のこと――その事件を追っている探偵のドヌーヴを始末するという意味なんでしょうが……ラスティスとマジードの話す言葉のニュアンスから、奇妙な印象をメロは受けませんでしたか?」
『奇妙って……まあ、ふたりとも流暢なドイツ語を話すなっていうことくらいしか……』
「そうですね。その点も非常に重要ですが、それだけではなく――彼らは他でもないユーロ紙幣の原版を盗みだしたほどの大悪党なんですよ?確かに、事が露見しても彼らの能力を持ってすれば口封じなどはいくらでも可能でしょう。ですが、彼らはロジェ・ドヌーヴの抹殺を<例の件の後始末>と言いました……ユーロ紙幣の原版を盗んで偽札を量産することなどは、大変な重犯罪であるにも関わらず――彼らはそれを『非常に重要な任務』といったようなニュアンスでは語らなかった……大したこともない<後始末>だと。このことはとても重要です。まるで、そんな簡単なことはカイ・ハザードという催眠術師ひとりで十分事足りる……そう言っているようにわたしには思えました。それと、ヴェルディーユ博士には、父親がいる、そして父親を亡くしてからの彼(あるいは彼女)は様子がおかしい、この点も興味深いですね。もしかしたら、彼らが犯罪の闇の世界ではなく、表の舞台へ今出てこようとしているのは――そのことに大きな鍵があるのかもしれません……」
『そうだな。それからもうひとつ気にかかることがある――あのマジードという男が言っ
ていた<薬>という言葉……どうやら、奴らの超能力は万能じゃないらしいっていうことだ。俺が昔読んだことのあるその手の小説じゃあ、超能力には<代償>がつきものだった。たとえば、念動力などの特殊な力が使えるかわりに、早く老いて死ぬとか、そういった類のことだ。奴らもおそらく<薬>で超能力を開発するか、それとも超能力を操ることに伴う副作用を薬で抑えるとか、何かそういうことをしてるんだろう。いわば、その点はあいつらのウィークポイントとも言えるな……』
「メロはいつも、話が早くて助かります」
 感心したようなLの物言いに、メロは一瞬肩を竦めて、通信を切った。明日の午後にフランスへ発つために、今日はもう自分も少し眠っておかなければならない。そして、ラスティスとマジードという男の会話を反芻していて、メロはまた心に引っ掛かるものがあった。
『わたしはいつ死んでもいい――でも、みんなのことはわたしが必ず守ってみせる』
<みんな>というのはもちろん、超能力開発研究所にいる他のみんな、といったような意味だろうと推察される。だが、彼女の言葉の中にはどこか、刹那的かつ絶望的な響きがあるように、メロは感じとっていた。
 それが何故なのかは――これからメロが彼女を追う過程で、明らかになることだったけれど。

(あと、五年だな……)
 Lは、メロが考えていたのと同じことを思いながら、あるひとつの計画を立てていた。
 ジョージ・サイラス大統領には、これから自分が八方手を尽くして、一年後にある選挙で再選してもらう予定でいた。また、もしも彼が自分を頼るなら、正しい政策決定を出せるようにアドヴァイスしてもいいと考えてもいる。それこそ、ファースト・レディのナンシー夫人が言っていたように、<L>の考えをサイラス大統領に自分の考えのように錯覚させるのは、Lにとって造作もないことだった。
ただそれは、カルロ・ラウレンティス枢機卿が行っていたような催眠術とはまったく違う――その結果としてアメリカという大国を民主主義の正しい道筋に戻すことができるのも重要だが、何よりも<L>は自分の命が惜しかった。つまり、脆弱な<正義>などというもののために、これからアメリカに手を貸そうというのではなく、命根性の汚さから、やむなくアメリカの大統領に国を建て直すため、手を貸そうというのだった。
(このままいけばわたしも、いつかはカルロ・ラウレンティス枢機卿のようにならなければならないだろう――もっとも、わたしの場合は首をはねられるのではなく、脳をいじくりまわされたあとで、クローン人間として再生されるといったところだろうが……)
 果たして<K>が『殺し屋ギルド』と呼ばれる超能力者集団をこれからどうするつもりなのか、Lには皆目見当がつかなかった。ワタリの言ったとおり、「自然淘汰」と称して抹殺しようとするのが、可能性として一番近いにしても……。
(Kはあくまでも気まぐれだからな。むしろ逆に超能力者の<超能力>というものを面白がらないとも限らない……その場合はKが『殺し屋ギルド』と組むことになり、わたしに勝ち目は一切ないということになる)
 出来ることなら、この謎の超能力者軍団と手を組みたいとLは思うが、何しろ向こうはすでにニアことロジェ・ドヌーヴを抹殺すべく動いているのだ。果たして、どうしたものか……。
 Lは、すっかり冷えたコーヒーに角砂糖をぎっしり詰め込むと、思案に耽った。アメリカの大統領と懇意にして、その権限を最大に活用できそうなのが、あと約5年――Lは、ジョージ・サイラスがもう一期大統領を務められるように、歴史を動かすつもりでいた――その期間にKと必ず決着つける……もちろん、優秀な助手のメロとニアがいるとはいえ、これからは今まで以上に忙しくなるだろう。それこそ寝る間を惜しんで働かなくてはならない。
 Lは、隣のリヴィングから、コトリ、と何か物音がしたのを聞きつけて、ビロード張りの椅子から立ち上がると、そちらへ向かった。朝の午前四時過ぎ――ラケルがトイレにでも起きたのだろうかと彼は思った。
 だが、そうではなく、コトリ、と物音がしたのは、棚に飾ってあったテディベアが床に落ちた音だったらしい。Lはその真っ白な熊のぬいぐるみを見て、微かに笑った。それはラケルがどことなくニアに似ていると言って、某デパートで買った代物だったからである。
 そしてLは、そのぬいぐるみを手に持ったまま、ラケルの寝ているベッドの縁に腰掛けた。彼女は今日もまた、よだれを垂らしてぐっすり眠っている。
 Lが5年でKとの決着を、と思うのは、自分の命が大切であるのと同時に、<生命倫理>というものを守りたいためでもあるのだが――他にもうひとつ、と今彼は思う。
(守りたいものが増えたんですよね……なんとも厄介なことではありますが。でも、これから死ぬほど忙しくなるのが目に見えているだけに――仮に5年でKを追い詰めることが出来たにせよ、その時彼女がわたしに愛想をつかして、どこかに去ってないといいのですが……)
「ロクローさんの牧場で、イーアイイーアイオー……♪」
「!!!」
 人は、寝言でも歌を歌うことが出来るのか……そのことに軽い衝撃を覚えたLは、さらにじっと、ラケルの顔に見入った。
(六郎というのは、一体どこの誰なんでしょうか。多少気になりますね……歌のほうの英詞は確か、マクドナルドじいさんの牧場にはたくさん家畜がいるといった内容のものだったと思いますが……)
「ラケルは、六郎さんの牧場で何をしているのですか?まさかとは思いますが、イヤイヤながら働かされているのでしょうか……」
 それにしても意味不明の寝言の多い人だ、そう思いながらLはラケルの眠る隣にテディベアを置いて、また仕事に戻っていった。




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【2008/04/07 15:14 】
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