スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】
スポンサー広告
探偵L・アメリカ編『マンハッタンの枢機卿』~第23章~
探偵L・アメリカ編『マンハッタンの枢機卿』

          第23章

 Lはタクシーでカルロ・ラウレンティス枢機卿が責任者を務める教会まで到着すると、いつものポケットに手をつっこんだ猫背な格好で、教会の大理石の表階段を上がっていった。礼拝堂は信者たちのために開け放されており、そこでは神に祈りを捧げる人々の姿が見られたが、Lはその礼拝堂の前を通り過ぎて、告解室と呼ばれる間仕切りのある個室へ入っていく。
「迷える子羊よ、汝の悩みごとを神に打ち明けなさい……」
 透かし彫りの美しい木の小窓の前に腰かけながら、Lは微笑した。透かし彫りを通して見える顔は、間違いなくカルロ・ラウレンティス枢機卿のものだったからである。
「ジョージ・サイラス大統領は、都合により、今日はこられません」
 そうLが告げるなり、枢機卿の顔色は微かに変化したようだった。実は枢機卿はすでに大分目が悪くなっており、普段必要のない時には目を閉じたままでいる時間が多くなっていた。それでLの声を直接耳にするまで、告解室に入ってきたのは大統領に間違いないと勘違いしていたのである。
「大統領はお忙しい身ですからね、今日はわたしが代理で、日頃の罪深い行いの数々を懺悔しにきたというわけです……時にラウレンティス枢機卿は本名をネロ・パウロとおっしゃる……そうではありませんか?」
「な、何故それを……っ!」
 大統領の代わりに何やらおかしな風貌の男が告解室へ入ってきた――ただそれだけなら、枢機卿も大して驚きはしなかっただろう。だがもう半世紀以上も昔に犯した自分の罪を暴くかのようなその名前、カルロ・ラウレンティスと呼ばれるようになってからはついぞ誰からも耳にすることのなかったその名前にだけは、流石に枢機卿も驚きを隠せなかった。
「何しろ、もう五十八年……ちょうど第二次世界大戦中のことですからね、わたしとしてもあまりに昔のことすぎるので、調べるのになかなか苦労しました。あなたはラッツィンガー枢機卿がローマ教皇庁で教理省長官の役職に就いていた時――彼の元でひとりの人間を殺めてしまった……それがカルロ・ラウレンティスという名の助司祭だったんです。違いますか?」
「う……うう……」
 カルロ・ラウレンティス枢機卿――否、ネロ・パウロは言葉に窮して唸り声を上げた。何故、どうして今になって……心の中ではそう叫んでいたが、何も言えなかった。いっそのこと発狂したふりでもして、今この場所からでていこうかとさえ思った。
「すみません、枢機卿。いまさらこのことで、あなたのことを苦しめるつもりはわたしには毛頭ありません。わたしはただ、本当のことが知りたいだけなんです……第一、世界中のどこの法廷に掛けあってみたところで、この事件はすでに時効が成立していると見なされるでしょう。もし仮にこのことが公にされたところで、カトリック教会を非難する新派の陰謀か何かとしか受けとめてもらえないに違いありません。第一、ラッツィンガー枢機卿はこれから自分が教皇になれるかどうかという大切な位置にいらっしゃるわけですし、この噂を消すためにはどんなことだってするでしょう……ネロ・パウロさん。ここは神さまのおわす教会という神聖な場所です。そしてここは告解室。わたしは今後決して二度とあなたにお会いしませんし、今日ここで話したことを外の誰かに洩らすつもりもありません。ただどうか、神の御前で話すのと同じく、わたしに真実のみを語っていただけませんか?」
「…………………」
 ネロ・パウロは黙した。これまで自分はこの部屋で、何千人という人間の懺悔に耳を傾けてきた。そして今、もはや思いだすこともできぬ遠い昔の若い頃、自分が初めて教会という場所を訪れて、神父に<罪を許された>日のことを思いだした。パウロは何故か突然胸が熱くなり、心臓のあたりを押さえて身を屈めた。感情をこらえきれなくなり、涙が頬をつたって流れ落ちていく。
「わたしは、探偵として随分細かくあなたのことを調べたのですが……あなたはデイヴィッド・ホープ元大統領と関わりを持つようになる以前まで、つまり例のネオコンとかいう思想にかぶれるようになる前までのあなたの説教は、どれもみな素晴らしいものばかりでした。カトリック系のキリスト教雑誌に掲載されたものや、あるいはテープに説教の内容が残っているものはすべて読むなり聞くなりしたのですが……そこでひとつ気づいたことがあるんです。あなたがカルロ・ラウレンティスという人間を何故殺したかという動機について、わたしはあえて訊ねるつもりはないのですが、とにかくあなたは――殺人を犯してのち、そのことを深く後悔し続けていた。そう思ってあなたの説教を聞いていると、それであればこそ、ここまで深い人間洞察にあふれた話をして人を感動させることができるのだろうと、そう思ったんです。当然わたしは神ではありませんから、地上で法的に裁かれなかった罪が死んでのち、どういう形で神に裁かれるのかなど、見当もつきません。ですが、少なくともあなたはそのことで十分傷つき悩み苦しんだ……そのことだけはわかるんです」
「……彼は正しい、神に仕える立派な人間だった」パウロは黒い僧服の袖で涙をぬぐいながら、ぽつりぽつりと話しはじめた。「それに引きかえわたしは、修道士とは名ばかりの、汚れた生活を送っていたんだ……何人もの女と寝たし、酒もあびるほど飲んだ……ラッツィンガーの下で異端に問われた神父がやってくるたびに、彼らに鞭打ちの刑を加えたのはこのわたしだ……そしてカルロ・ラウレンティスがわたしの元へ連れてこられた時も、容赦なくわたしは彼の背中を鞭打ってやった。だが彼はそんなわたしを『許す』と言った。わたしは逆上し、ますます彼にひどい拷問刑を加えていった……許すと言われたことが許せなかったんだ。自分よりも彼のほうが一点の曇りもなく正しく神に近いことが許せなくて……気がついた時には、彼はもう死んでいた」
「そうだったんですか……その後あなたは、ラッツィンガー枢機卿の勧めで名前を変え、アメリカへと渡った。当時は戦争中で、今ならばそう簡単ではありませんが、名前を変えて新大陸で別の人間として生きるというのは、そんなに難しいことではなかった。あなたはラウレンティスさんを殺したことを悔やみ、心を入れ換えてここアメリカで生きていく決心をした……ですが、一体いつなんです?そんなあなたがアメリカの政治に関わりを持って、少しずつコントロールを加えようと野心を抱くようになったのは?」
「わたしにも、わからない」と、ネロ・パウロは言った。彼はよく見なければわからないほど小さな目からこぼれる涙を必死に押しとどめようとしている。「ただ……それは最初は本当に善意だったのだ。わたしはここへ……この告解室へくる人ひとりびとりの話を熱心に聞き、その心をなんとか癒そうと努めていた。そしたらある時、何人もの人間が、わたしのお陰で腰痛が治っただの、偏頭痛が治っただのというようになった。わたしは特別何もしていない……ただ、彼らの話に熱心に耳を傾けていたという、それだけだ。だがその中にルーズベルト大統領がいたというそのことが、ある意味でわたしのその後の人生を狂わせたのかもしれない……」
「あなたは自分で自覚しないながらも、人を催眠に陥らせる才に長けていた、その解釈は当たってますか?」
 その時になって初めて、ネロ・パウロは顔を上げた。Lの顔を真正面からじっと見つめる……この目の下にどす黒い隈のある奇妙な男は、一体どこまで知っているのか?まるで神の使いのようではないかと、そう思った。
「そうなのかもしれない……いや、そのとおりだと断定した言い方をすべきなのだろう。最初のうち、わたしはその自分の力をどう扱っていいのかわからなかった。少年の頃にはまず金や物を盗むためにその力を使い、青年になると今度は女を口説くために力を行使するようになった……あなたにはわからないかもしれないが、そんな生活を送りながらもわたしは心の底ではいつだって惨めだったんだ。とうとう最後には殺人まで犯してしまい、ここアメリカへきてからは、自分の力を封印しようとした。だが、人々の体や心が癒される例が次から次へと現れるうちに、清いことのためにこそこの力は存在するのだと確信するようになった。そして歴代の大統領の話を聞いているうちに、彼らの悩みや苦しみの原因を取り除いてあげたいと思うようになったんだ……わたしが、一体いつどこで何を間違えたというんだ?すべては善意から、人に役立つことをしたいという思い、苦しみや悩みから人を救いたいという気持ちから、すべてのことは始まったというのに……」
 Lはあえてネロ・パウロの小さな落ち窪んだふたつの目を見つめながら話をした。催眠術という分野に関しては、以前にLも随分熱心に研究したことがある。だがその道の権威がどんなにLのことを催眠術にかけようとしても暗示にかからなかったという経緯がある。Lはネロ・パウロの眼差し、仕種、声の調子といったもののどこに催眠術のキィワードがあるのかを探っていたが、結局のところ彼は素人なのだという結論を下すに至った。
「あなたが一体どこで何を間違えたのか、それはわたしにもわかりませんが……」Lは白い長Tシャツのお腹のあたりをめくると、そこからジョージ・サイラス大統領の日記帳をコピーしたものを取りだした。「少なくともわたしがここであなたを追及したいと思うことがいくつかあります。まずひとつ目、これはサイラス大統領の日記帳の写しなのですが、このすべてに目を通してわかることは、彼が今回のイラク戦争のことで非常に苦しんでいるということです。あなたは先ほど<善意から、人の苦悩を救うために>といった主旨のことをおっしゃいましたが、そういう意味では彼はあなたに癒されているとは言い難いですね。ここからはわたしの推測なので、もし間違っていたら遠慮なく正していただきたいと思うのですが――あなたにとってイランとイラクという中東にあるこのふたつの国は、ずっと喉に刺さった小骨のようなものだった。まず、カーター政権時代にあなたは、イラン革命の指導者ホメイニー師を彼の顎髭を引き抜いてやりたいほど憎むようになる。直接会ったこともないであろう人間なのに不思議とは思いますが、あなたは長く歴代大統領の政治的な悩みごとを聞きすぎたんですよ。だからアメリカの国益を損なうような国の存在を許すことができない。カーター政権時代にアメリカは、イランに石油が目的で傀儡政権まで敷きました。それがイラン革命が起きることで、以後イランとアメリカは不倶戴天の敵同士となる。続くレーガン政権では敵の敵は味方という方式をとり、アメリカはイランと戦争をしているイラクに随分肩入れしました。もちろんこうしたことは、あなたがいくら大統領の話を熱心に聞いて催眠術で仮に彼らを操ったとしても――国の重要な国家戦略の中枢にまであなたが間接的に介入するということは不可能です。その結果としてあなたもきっと随分歯痒い思いをなさったことでしょうね。あなたが大統領にコントロールを加えられたのは、本当に歴史のほんの微々たる部分だったのだとわたしは思っています。ただし、デイヴィッド・ホープ元大統領と、ジョージ・サイラス現大統領のことは別ですよ……9.11テロが起きる前までは、あなたは歴史の裏側にいることに対して十分満足していた。ところがこの教会と目と鼻の先ともいえる場所に飛行機が突っこんでからというもの――あなたは感動的な説教によって人々から英雄にも等しい扱いを受けるようになった。わたしが思うにおそらく、あなたの心に野望が芽生えたのはこの時だったのだろうと想像しています。まずデイヴィッド・ホープ元大統領に汚れ役を着せて辞任させたあと、自分にとって傀儡としてより扱いやすいサイラス副大統領を次の大統領に据えた……違いますか?」
「何故だ……何故そんなことがわかる?」ネロ・パウロの体は小刻みに震えていた。まるで神の鉄槌を怖れる者でもあるかのように。「おまえは一体どこの誰なんだ?先ほど探偵といったが、たかだかそこらの一探偵に、ここまでのことがわかるはずがない……わたしが知っていることは、何もかも隠さず教える。だがそのかわり、あなたが何者なのか、そのことをわたしは先に知りたい」
「知るだけ無駄なこととは思いますが……わたしもあなたにはまだ聞きたいことが色々あるものですから、礼儀として名前くらいは名のっておくべきなのかもしれません。しかしわたしの名前を知ることは、あなたにとって危険なことでもある。何やら三流のSF小説じみていて、気に入らない呼び方ではありますが、あなたは『あの方』と呼ばれる者の存在をご存じですね?そうじゃありませんか?」
「そこまで……そこまで知っているのか……っ!」ネロ・パウロは、もはや目の前に存在する人間が、神もしくは神の使いであるようにさえ考えたくなるほどだった。「おまえは……い、いいえ、あなたは『あの方』のことをご存じなのですか?もしそうなら……一体次にはいつお迎えがくるのでありましょうか?そろそろわたしも歳ですし、薬のほうはいつもどおりいただいておりますが、約束してくださったことを果たしていただけないままだと、わたしはそのうち化物扱いされることに……」
「約束したことってなんですか?」と、Lは酷薄とさえ言えるような笑みを頬に刻んで、ネロ・パウロに聞き返す。「実をいうと、わたしが本当に聞きたいのはここからなんです……仮にあなたがもし歴代のアメリカ大統領を操っていうよとどうしようと、わたしにはどうでもいいとさえいえる。それよりも『あの方』についてあなたが知っていることこそ、わたしがもっとも聞きたいことなんです」
 ネロ・パウロはあからさまにしまった、という顔の表情をしていた。目の前の不気味な男が神の使いから一転して、悪魔の手先か死神のようにさえ思えてくる。
「お答えいただけないようなら、こちらから誘導訊問するとしましょうか……わたしはあなたの言うその<薬>がどんなものかも知っています。延命のための薬で、それを使用し続けると、細胞が若返って二百歳くらいまで生きられるそうですね。あなたのために、興味深いひとつの話をしてあげるとしましょう。『あの方』は神か悪魔のように気まぐれに、自分がこれと思った人間にその薬を与えてくださるんですよ……あなたもきっとあの方に謎の飛行物体の機内で「汝、選ばれし者」とかなんとか吹聴された口なんでしょう。ですけれどね、次にお迎えとやらがくるのはあなたが死ぬ時です」
「し……死ぬって、そんな……だって、あの方は……」
 ネロ・パウロの狼狽ぶりがあまりに激しいものだったので、Lは気の毒にさえなった。自分がいたいけな老人をいじめる、ただの残酷な論客であるように思えてきて気が咎めるものの、<真実>を知らせないでおくということもまた、できなかった。
「あなたのいう<お迎え>というのがいつやってくるのかはわかりません……ただ『あの方』はあなたの存在を忘れているというわけじゃないんですよ。むしろ日夜監視しているといってもいい。わたしがあなたに対して申し訳ないと思うのは、わたしが今日ここへきたことで、確実にあなたの寿命は縮まっただろうということです。あなたの年齢は実際のところははっきりしませんが、カルロ・ラウレンティスさんの名前を騙ることになったために、今は確か127歳ということになっているはずです。このままあまりに長く放っておかれると、人々は今はあなたのことを生きた奇跡として扱ってますが、そのうちあなたの危惧するとおり、化物扱いするようになるかもわからない……あなたの心配はもっともなことです。それなら薬の投与をやめればいいだけのことですが、人間っていうのは因果なものですね……おそらくあなたは自分の意志で薬をやめるということはできないでしょう。薬の成分や化学式のほうはわたしにもわかっていますが、べつにその中に麻薬のような常習性のある成分が含まれているわけでもないのに、死への打ち勝ちがたい恐怖から、あなたはつい薬を飲み続けてしまうはずです。けれどね、ネロ・パウロさん。わたしはあなたにその薬の服用をやめることを是非ともお勧めします。例のお迎えにくる人間はおそらく、あなたの首だけはねて回収にくるでしょうから――どちらの死に方がいいかは、あなた自身がお決めになってください」
 Lは、枢機卿が『あの方』について知っていることはほとんどないようだと判断するなり、木製の椅子から立ち上がった。できることならLとしても、この気の毒な老人のことを助けてあげたいとは思う。だが、<回収人>の邪魔をすることは誰にもできないということをLは以前にあった失敗から学んでいた。仮にこれから毎日枢機卿の周囲を、陸軍の精鋭部隊が囲んで守ろうとも、<K>は一度こうと決めたら何がなんでも首を回収しにくるのだ。相手が一枢機卿ではなく、ローマ教皇庁の最奥に住まう教皇その人であったとしても――彼はためらいもなく殺すことができるという、そういう人間だった。
「ま、待ってくれっ……!」ネロ・パウロは美しい透かし彫りの小窓に手を突っこみ、なんとかLのことを引きとめようとする。「薬の化学式までわかってるんなら、あんたにはわたしを助けることができるはずだっ!お願いだ、死なないためにはわたしはなんでもするっ!金なら、信者の献金があるぞっ!どうだ、それで手を打たないか!?」
「わたしとしてもとても残念ですが……」と、Lは憐れみに満ちた眼差しを枢機卿に向けた。「問題はそういうことじゃないんです。薬は化学式がわかってるだけじゃ駄目なんですよ。その成分というのは、ある薬剤を大量に与えられた人間の脳の一部から採取されるんです。それと、妊娠中の女性の体から赤ん坊を無理矢理引きずり下ろしてその細胞の一部も使用しなければなりません。そういう人体実験を行うことは、どこの国の戒律でも禁じられているはずです。先ほどあなたは善意で出発した自分がどこから間違えたのかとおっしゃいましたが……あなたはいつの頃からか、おそらく神への信仰そのものを見誤ってしまったんですよ。もちろん、わたしにはあなたの気持ちがわからないではありません。あの未確認飛行物体の光を見た時、これこそ神の光だと、あなたもそう思ったことでしょう……しかし、あれは幻の、偽の神です。今度こそはしっかりと本物の信仰の上に立ち、あなたの神であるキリストを信じてください」
「ま、待ってくれ……っ!」
 ネロ・パウロは告解室からでて、Lのことを追いかけようとしたが、僧服の裾につまずいて、廊下へでるなり転んでしまった。
「お、お願いだっ!助けてくれっ、死にたくないっ、死にたくないっ、死にたくないっ!」
 Lの背中にはもちろん、彼の言葉が届いていたが、どうすることもできなかった。彼を<回収人>の手から救おうとすれば、四年前の悪夢が甦るだろう。その時の『あの方』に選ばれし者はアメリカの元国防総相で、自分のまわりを陸軍の精鋭部隊で囲んで守っていたにも関わらず、彼は首をはねられて死亡した。その時の犠牲者は<回収人>ひとりに対して百二十四名。ディキンスン少将は部隊の隊長としてその隊を率いており、Lが現場にも登場せず、ただ非人間的な音声により指揮をとったことを今も恨みに思っているということをLは知っている。
(あの威嚇のミサイル攻撃はおそらく、わたしに対する「部下を失う悲しみを思い知れ」とのメッセージがこめられたものだったのだろう。確かにあの<回収人>に対抗するには、超能力者でもなければ不可能なのかもしれない……そこでいくら金をだしても人間兵器を使用することにしたというわけか。だが相手はまだほんの十七歳の少女。これから先、果たしてどんなことになるのか……)
 Lは礼拝堂の前を通りすぎた時、柄にもなく不意に祈りたいような気持ちにさえなって、少しの間そこで足を止めた。祭壇上の、十字架にかけられたイエスの像をじっと見つめる。
(あなたが、あの気の毒な枢機卿のことを守ってくださるといいのですが……)
 そしてLは礼拝堂に背を向け、外へでた。<回収人>の影はすでにその時カルロ・ラウレンティス枢機卿こと、ネロ・パウロのすぐ背後にまで迫っており、その日の夕刻、首のない枢機卿の遺体が告解室で見習い修道士のひとりに発見されるということになる。しかし、この枢機卿の極めて残忍で不審な死は、ローマ教皇庁の指示により隠密に処理され、結局のところ警察は動かなかった。そして枢機卿の死体を発見した見習い修道士は、翌月にはローマ教皇庁のお膝元で司祭の位を授けられることになったのである。



スポンサーサイト
【2008/03/04 17:23 】
探偵L・アメリカ編 | コメント(0) | トラックバック(0)
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。