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探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(27)
探偵L・アイスランド編~秘密結社リヴァイアサン~(27)

「へえ……意外と、シンプルイズベストな設計だな」
 メロは、広い空間の中央――白い円柱に囲まれた中空に、巨大な三枚の黒い板が浮かんでいるのを見て、すぐにそれが<リリス>本体の情報集積回路なのだろうと見当をつける。その三枚の長方形の板に囲まれる形で、真ん中に女性の顔が浮かんでいるが、それは首から上の像でしかない。
 だが、彼もラスもラファも、それを薄気味悪いとはまったく思わなかったし、むしろそれはゲームなどに出てくる3D画像と同じく、ファンタジックなものとして、彼らの目には映っていた。
『お褒めにあずかり、光栄です。ところで、Lがラファエルと一緒にマスターの元へ向かった以上、わたしも急がねばなりません……早い話が、わたしをあなたたちと一緒に地上の世界へ連れていってほしいのです』
「なんだって?あんたみたいな正体の知れないどでかい女を、俺たちにどうやって連れてけっていうんだ?もちろん、今目の前に見えてる首から上の女の像は、ただの幻影だってことはわかる……けど、あんたの後ろの情報集積回路をここから持ちだすなんてのは不可能だな。第一、入口のところでつかえちまうだろ」
 メロには、すでにこの<リリス>というコンピューターの思惑がはっきりとわかっていた。彼自身の推測によれば――おそらく彼女がマスターと呼ぶカイン・ローライトは、自分が作りだしたこのエデンという環境が嫌になり、何か特殊な睡眠装置に入って眠りについているのだろう。よくよく考えてみれば、あれから二十七年もの歳月が流れているのだ……普通に考えたとすれば、どんな怨みも少しは薄らいでいるのが人間というものだろう。だが、メロにとってのニアが、顔を思いだしただけでムカッ腹の立つ存在であるのと同じく、カインにとってもLがそうした存在であったとすれば、彼の気持ちがメロにも理解できなくはない。それでも、カインの母親の死に対して、L自身に責任のようなものはまったくないことを思えば――彼がその後、Lに怒りを燃やすのを虚しく感じ、さらに自分が<神>にも等しい存在としてエデンを統率していくことに重荷を感じたとすれば……自分のクローン人間を頂点に立たせ、また世界を統べ治める事柄に関しては<リリス>や他のアンドロイドたちに任せるという方法をとったとしてもおかしくはない。そしてLがやってきたら、<神>は疲れてその座を実は引退していた、ゆえに復讐心のようなものも枯れたが、そんな自分の最後の我が儘を聞いてほしいというように仕向ける――メロはその中に、エデンのメインコンピューターである<リリス>のことは、マスターであるカインの中で存在として大きくはないだろうという気がしていた。そして彼女自身にも、そのことがよくわかっているのである。
『この情報集積回路は、エデンのアンドロイド全体を統治するためのものです……ゆえに、その必要性がなくなった時には軽量化が可能なんですよ。わたしが言っているのは、自分の生命ともいえる頭脳を司るICチップをあなたたちに地上へ持って帰ってほしいということなんです。わたしはそのためならば、あなたたちのためになんでもします』
「どういうことなの?っていうより、あなたがもしそうしたら、ここに常時1500体はいるっていう、アンドロイドたちは一体どうなるの?さっき会ったガブリエルとかいうアンドロイドは、プログラム通りに動いているに過ぎないにしても、姿や形はわたしたちと変わらない人間だった……彼女たちにも、体や心を傷つけられれば痛いと思う、感情があるっていうことでしょう?その全員をあなたがどうにかできる権限があるっていうことなの?」
『答えはイエスでもあり、ノーでもあります』と、立体的な美しい氷像のようなリリスの顔が、一瞬曇る。『言ってみれば、彼女たちはわたしの娘や息子のようなもの……そのすべてを捨てなければならないことは、わたしにとってもつらいことです。ですが、何よりわたし自身が生きのびるためには、それしか方法がないのです。あなたたちがわたしを地上へ連れ帰ってくれれば、またアンドロイドたちを統率するということも可能になるでしょう。そうすれば、わたしがまた彼女や彼らの人格のようなものを甦らせることが可能になるのです』
「ラス、こいつは所詮コンピューターに過ぎないんだから、本気で相手にするな。ようするにこのビッチはな、俺たちを言葉巧みに口車に乗せたいだけなんだ」
 ビッチ、と呼ばれたことに対して、心底心外だ、という顔を<リリス>はしてみせたが、その表情自体がすでに、プログラムされたものに過ぎないと、メロはそう思う。リリスというのは、本来はメソポタミアにおける女の妖怪で、「夜の魔女」とも呼ばれる存在である。中世以降の伝説として、この地上に生まれた最初の人間、アダムの最初の妻ともされるが、彼女は性交体位でアダムより下になりたくなかったために、アダムと別れたとされている。
 おそらく、この巨大なメインコンピューターを作りだした最初の人間は、彼女に支配されることを自戒するために、<リリス>という名前をつけたに違いないと、メロはそう思っていた。
「まあ、さっきの言葉は冗談だ。あんたのことは確かに俺たちが連れ帰ってやるよ。ティグランのことは別にしても、一応はあんたに助けられたという恩もある……だがひとつ言っておきたいが、あんたの頭脳を司るICチップとやらを俺たちが地上へ持って帰ったとしても、あんたはそこですぐに生き返るということは出来ないと思うぜ?確かにワタリには、あんたというプログラムを蘇生するための本体を、一から創造するだけの技術はあるだろう。だが、あんたが今やってるようなことを誰かに仕向けて、今度はあんたが地上の世界の人間を徐々に支配していくっていうことにもなりかねないんでな……最悪、あんたは<L>の名のもとにこれから地上で永遠に金庫で眠りにつくことになるかもしれない。少なくとも、ここエデンの科学技術に、地上の人間が追いつくまではな」
『わたしはそれで構いません。今わたしがもっとも怖れているのは、Lが<マスター>の本体と会い、ラファエルが彼のプラグを抜くということですから……そうすれば、ヴァトナ氷河の下に眠る溶岩流がこのエデンへ流れこみ、わたしたちは全員死滅しなくてはなりません。それが今、わたしがもっとも避けたいことなんです』
「……………!!」
 カイン・ローライトの本体と、Lが考えていたことの<最悪の結末>がまったく同じであるということに、メロは多少驚くものを感じていた。おそらく、Lがこの世に生を受けた時には、Lさえ誕生しなければ、自分はこんなことにはならなかったはずなのにと、Kは呪詛の念を抱えて生きていたはずである……だが、それから十年経った頃なのか二十年経った頃なのかはわからないが、Kはおそらく罪のないLを怨むことにも疲れ、自分のクローンにエデンの統治を任せたのだろう。この推測は、リリスの今の言葉により、メロの中でより確信的なものになった。
「おい、俺のことは様づけで呼べとは言ったが、Lと一緒にいるのが俺と同じ名前の奴だなんて聞いてないぞ!もっと詳しく説明しやがれ、このポンコツロボットめ!!」
 ラファは自分の電磁波を操ることのできる能力を、<リリス>に向けて最大限に発してみたが、まるで歯が立たなかった――というより、強いシールドのようなものに遮断されるのを感じて、苛立ちを覚えながらそう大声を上げる。
『ここエデンには、常時稼動しているアンドロイドが約1500体、他に交代で動くアンドロイドが約1500体、他に呼びだしを受けるまではカプセルで休息しているアンドロイドが約2000体います。そのうちのガブリエル・ナンバーとルシフェル・ナンバーの割合は7:3ですが、この他ミカエル・ナンバーも入れた全アンドロイドの頂点に立っているのがラファエルです。<彼>はこのエデンにたったの一体しか存在しません』
「どういうことだ?ガブリエル・ナンバーとルシフェル・ナンバーについては一応、俺たちも知っているが……ミカエル・ナンバーなんていうのは初耳だな。そしてLが今一緒にいるのが、ラファエルっていうアンドロイドっていうことなんだろ?そいつには、もしLがKの認めるような人間でなかった場合、殺してもいいような権威が与えられていたりするのか?」
『順に説明しましょう。おそらくは今、ラファエルもLに対して同じようなことを話しているに違いありませんが……ガブリエル・ナンバーのアンドロイドは、より人間に近いタイプであり、ルシフェル・ナンバーとは違って心臓や眉間を銃で撃たれたとすれば死ぬしかない、脆弱な存在です。ですが彼女たちは、食事をすることもなければ当然排泄することもなく、睡眠をとるのさえ、そうプログラムされているから行うというだけの生き物なのです。ですが、ミカエル・ナンバーは全員子供でガブリエル・ナンバーと同じく歳をとることはありませんが、食事を摂取することが可能だという意味で、より人間に近い……彼女たちは言ってみればまあ、<マスター>のちょっとした遊び心によって造られた存在にすぎませんが、それはいいとしても、問題はラファエルです。彼のことは、実際のところわたしにもよくわからない……わたしは、ミカエル・ナンバーの子供たちには全員、来たるべき瞬間に備えて、全員神経ガスによって安楽死させました。そして休眠中のアンドロイドには、カプセル内のコードを通して化学薬品を注入し、生命活動を停止することにしようと思っています。そしていまだにプログラムに従って地上を監視し続けているガブリエル・ナンバーについても、同じ措置をとることになるでしょう。あなたたちがどこまでわたしたちのことを知っているのかはわかりませんが、わたしは自分こそが<正義>であると、今も信じています。何故なら地球全体を見渡して、その助けとなることをわたしたちは数多く行ってきた……その中で犠牲となる人間がでたことも事実ではありますが、それは<わたし>というコンピューターが弾きだした確率的計算能力によって選択・選別された上での必要最小限の犠牲なのです。わたしは今も信じています。あなたがたがたった今わたしを必要としなくても、いつか必ず人間の側でわたしを必要とし、甦らせる日がくるであろうことを……』
「それで、<リリス>、おまえの演説は終わりか?」
 メロはリリス本体から引きだせる情報のうち、必要なものはこんなところだろうと判断し、そろそろ話を切り上げることにしようと思った。唯一、懸念事項として残るのは、リリスにさえも「よくわからない」というラファエルというアンドロイドについてだが、彼もおそらくはLを殺すことはないだろうというのが、メロの推測だった。<マスター>のプラグを抜くというのは、彼の生命維持装置のようなものを外すことを意味し、そしてそれと同時にエデンは文字どおり溶岩流の力によって崩壊する……普段はその力を抑え、またエネルギーとして活用している自然の力を一気に解き放つ、その鍵のようなものをラファエルというアンドロイドが握っていると考えて、おそらく間違いはない。
「なんにせよ、俺たちのミッションはこれで終わりだ。あとは生きて地上へ戻ればそれも完了したことになる……ところで、あんたの頭脳を司るICチップが本体から抜かれたら、ここエデンはどうなるんだ?俺たちやLが脱出するまでの時間はどのくらいある?」
『ご心配なく。<わたし>という頭脳が抜きとられても、数日の間はわたしがいるのと同じようにコンピューターは作動し続けます。ですがおそらくはラファエルがLを無事ここから脱出させたのちに、エデンを壊滅へと導くでしょう。それはわたしの計算では、本日中に行われる可能性が極めて高い……ゆえに、わたしはあなた方にわたしのICチップを抜きとり、なるべく速くここから離れて欲しいと思っています』
「わかった。じゃあ、具体的に俺たちは何をすればいい?」
 ピッ、と小さな電子音が部屋のどこかから響き、それまでは大理石のようになめらかだった白い壁の一部に、扉が現れる。そしてそこから50階にあったサブシステムコンピューターに似た、銀行のATM機のようなものが出現したのだった。
『パスワードは、必要ありません。これはわたし自身の意思であなたたちに開きたいと思っていることですから……』
「やれやれ。たかだかこんなちっぽけなものが、これだけ大きな地下施設を動かしているとはな……畏れ入るというよりは、なんだか滑稽ですらあると思うのは、俺だけか?」
 縦5cm、横7cm程度のICチップを、機械の引出し口からメロが受け取ると、またATM機械のようなものは壁の中へ溶け去るように消えてなくなる――その様子をラスもラファも隣で見てはいたが、メロに対しては何も返事をしなかった。彼らもまた、思った以上に自分たちのミッションが早期に解決したため、まだ何かあるのではないかと、内心疑っていたのである。
『またの御利用を、お待ちしております』
 リリスのこの言葉を、コンピューターなりのユーモアと介すべきなのかどうか――メロは内心では複雑だった。だがなんにせよ、これで一応は自分のすべき任務は終了したと信じる以外にはないと思った。リリスが「ラファエルがおそらくはLを脱出させる」と言った以上、その言葉を信じるに足るものと受けとめる以外にはない。少なくとも、<リリス>自身が生きのびるたびに、すべてのことを作為的に仕組んだとまでは考えられない……いや、考えられるにしても、彼女がたった今自分たちにしてみせたのは、人間でいうところの<命乞い>と同じ行為なのだ。それは嘘ではないと見ていいだろう――メロはそう判断し、革のベストの内側にICチップを忍びこませると、美しい氷像のようなビッチの顔を尻目に、ラファとラスに合図を送った。
「もうこんなところに用はない。熱帯植物園でルーとエヴァを拾ったら、とっととずらかることしよう……Lならたぶん、大丈夫だ。カイン本人にLを殺す気がないのなら、そのしもべであるアンドロイドのラファエルも、Lに直接手をだすことはないだろうからな」



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【2008/10/03 15:39 】
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コメント
はじめまして^^
通りすがりにお邪魔させて頂きました^^ 応援ポチッ!!
宜しければ私のところにも遊びに来てくださいね♪
【2008/10/05 22:17】
| URL | @音三昧 #-[ 編集] |
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